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periodontal disease
執筆者: 小方頼昌
歯周病は、炎症が歯肉に限局する「歯肉炎」、歯根膜や歯槽骨にまで炎症が波及した「歯周炎」、さらに辺縁歯肉の位置がセメントエナメル境から根尖方向へ移動して、歯根が露出した状態の「歯肉退縮」、過度な咬合力や側方力によって引き起こされる歯根膜、セメント質ならびに歯槽骨の外傷性病変である「咬合性外傷」に分類される。歯肉炎では、歯肉にのみ炎症性病変が生じ、歯肉に発赤・腫脹が認められる。歯肉炎を放置すると、歯周炎に進行する。歯周炎では炎症が歯周組織深部にまで波及し、歯根膜の破壊、歯槽骨吸収が生じ、付着の喪失(アタッチメントロス)が認められる。歯周病は多因子性疾患であり、細菌因子、宿主因子および環境因子の3者が複雑に影響して発症、進行すると考えられる。そのため検査(診査)、診断および治療に際しては、上記3因子と現在の歯周病の症状との関係を常に考慮に入れて実施する必要がある。歯肉退縮は、歯周炎、機械的刺激により生じると考えられる。咬合性外傷を引き起こす咬合力を外傷性咬合と呼び、早期接触、側方圧、咬合干渉、ブラキシズム、悪習癖、食片圧入、歯列不整等が原因となる。1次性と2次性咬合性外傷に分類され、1次性咬合性外傷は、正常歯周組織に外傷性咬合が加わることで、歯周組織に外傷が生じたものを言う。2次性咬合性外傷は、歯周炎による歯槽骨吸収によって咬合負担能力が低下した歯に生じる外傷のことを言い、生理的咬合力によっても引き起こされる。
写真は、左が正常歯周組織、右が重度慢性歯周炎(重度の歯周病)の正面観を示す。


1)細菌因子 歯周病は、歯周組織周囲に形成されるプラーク(主には歯肉縁下プラーク)中の歯周病原細菌(Prophyromonas gingivalis、Tannerella forsythia、Treponema denticola 、Prevotella intermedia、Actinobacillus (Aggregatibacter) actinomycetemcomitans等のグラム陰性嫌気性菌)の感染により引き起こされる感染症である。歯肉縁下プラークは、歯周ポケット内で細菌凝集塊がキョウ膜様糖衣で被われてバイオフィルムを形成する。バイオフィルムは、好中球やマクロファージ、免疫グロブリン、補体の作用から防御され、抗菌薬もバイオフィルム中には到達しにくいことから、歯周病が慢性炎症巣となる原因となる。また、歯周ポケット内で成熟したバイオフィルムから、細菌が菌塊となって全身へ拡散し、全身疾患の原因となると考えられる。 2)宿主因子 歯周病の発症および進行には細菌因子が関与するが、それに加えて宿主側の感染防御機構、免疫応答能、1塩基多型(SNPs)等が歯周病の発症、進行に大きく関与すると考えられている。また、過度な炎症反応や免疫応答が、自己免疫疾患と同様に歯周組織を破壊する結果になると考えられる。 3)環境因子 歯周病は生活習慣病の1つであり、喫煙、ストレス、食事などの環境因子およびリスクファクターの関与が疾患の進行に大きく影響する。従って、上記3因子が影響し合って歯周病が発症・進行するものと考えられる。 以下に、歯周病の病因とその進行を図1に示す。
図1(左)

1)歯肉炎 歯肉の発赤・腫脹、歯肉からの出血を認める。歯と歯肉の境界の溝(ポケット)が歯肉の腫脹により深くなるが、歯と歯肉との結合(付着)の破壊は無い(仮性ポケット)。エックス線写真で歯槽骨の吸収が無い。
2)歯周炎 歯肉の発赤・腫脹、歯肉からの出血を認める。歯と歯肉の境界の溝(ポケット)が深くなり、歯と歯肉との結合(付着)が破壊される(付着の喪失;アタッチメントロス)。歯の動揺、歯の移動、エックス線写真で歯槽骨の吸収像を認める。
3)咬合性外傷 歯の動揺、エックス線写真で歯根膜腔の拡大、歯槽硬線の喪失、歯槽骨の吸収像を認める。
歯周病の進行状態の検査のためには歯周組織検査(歯周基本検査、歯周精密検査)、エックス線検査および口腔内カラー写真による検査が行われる。歯周組織検査では、歯周ポケットの深さ、歯肉の炎症(ポケット測定時の出血や歯肉炎指数)、歯の動揺度、咬合関係、根分岐部病変および歯垢の付着状態(プラークコントロールレコード;PCR%)に関する検査を行う。歯周ポケットの深さは、ポケット探針という測定器具を使用し、歯肉辺縁からポケット探針が入る部位までの距離を1歯に対し6点測定する。歯肉辺縁の位置は炎症の程度により変化するため、不動点(例えばセメントエナメル境、クラウンの辺縁)からポケット探針が入る部位までの距離(アタッチメントレベル)を歯周組織検査の項目に加えると、治療方針や歯周外科治療における術式の決定および治癒の判定に役立つ。ポケット測定時の出血は、ポケット内の炎症と現在の歯周病の活動度を示しており、炎症の程度の指標となる。根分岐部病変は、上顎では小臼歯と大臼歯、下顎では大臼歯の根間中隔に歯周炎が発症した病変で、ポケット探針を根間中隔部に挿入することにより検査を実施する。また、エックス線検査が根分岐部病変の診断には有効である。エックス線検査には、デンタルエックス線写真とパノラマエックス線写真による検査がある。デンタルエックス線写真では全顎撮影に10〜14枚が必要になり(図1)、パノラマエックス線写真は1枚で全顎を総覧できる(図2)。エックス線検査により、歯槽骨の吸収の程度や形態、歯根の形、歯槽硬線、歯根膜腔の拡大等の情報が得られる。口腔内カラー写真による検査では、口腔内の観察で見落としやすい情報の再確認、初診から経過を追って口腔内カラー写真を撮影し、比較することにより、治療効果の判定や、患者教育に有効に使用できる。一般的には行われていないが、先進的検査としてはプラークの細菌検査、歯周病原菌に対する血清抗体価の検査、歯周ポケット浸出液の検査、唾液検査等が実施されている。細菌検査としては、チェアサイドで簡便に行える酵素判定法、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)法等の遺伝子増幅技術を応用した細菌検査が行われている。唾液中の歯周病原菌、遊離ヘモグロビン、潜血、乳酸脱水素酵素等を測定し、歯周病の活動度の指標にしようとする試みも行われている。臨床検査の項目としては、歯周病が炎症性病変であることから、炎症性マーカーと歯周病の関連性が検討されている。特に血液中のC反応性タンパク質(CRP)は歯周病と関連するという報告がある。また、遺伝子多型(single nucleotide polymorphism; SNPs)と歯周病との関連についての報告も多数あり、従来から行われてきた口腔内での歯周組織検査と先進的検査を組み合わせることで、より正確な診断、治療、予後判定に役立つものと考えられる。
図1(左)、図2(右)


歯周病の治療は、歯周基本治療、歯周外科治療およびSPT(メインテナンス)の3つに大別される。歯周病は多因子性疾患であるが、おもな原因は歯周病原菌(プラーク)である。そのため歯周組織周囲(歯肉縁上および縁下)のプラークを除去すること(プラークコントロール)が、歯周病の予防と治療において最も重要である。また、以前と比較して軟性食品等のプラークの付着しやすい食物を摂る機会が多いことから、食生活の改善に関する指導も治療を進める上で必要である。プラークコントロールの中でもっとも重要なのは患者自身による歯ブラシ(セルフケア)であり、歯ブラシや補助清掃器具の選択法、使用法に関する技術的な指導が必要になるが、歯ブラシの技術以上に重要なことは、患者自身が、自宅で自分から進んで歯ブラシを行うようにモチベーション(動機づけ)を向上させることである。そのためには、患者との信頼関係を確立し、現在の口腔内の状態を患者に知らせ、プラークと歯周病の関係を説明し、歯周病に関する知識を豊富にするとともに、セルフケアの重要性を理解してもらうことが重要である。さらに、セルフケアだけでは不十分な部位(特に歯肉縁下プラーク)に対しては、歯科医師や歯科衛生士がプラークの除去(プロフェッショナルケア)を行う必要がある。また、必要に応じてスケーリング・ルートプレーニング(SRP)およびプロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング(PMTC)を実施する。歯周基本治療とは、歯周病の原因を可及的に除去し、炎症を改善して、その後の歯周治療の効果を高めるための基本的な原因除去治療のことを言い、以前はイニシャルプレパレーションまたは歯周初期治療と呼ばれていた。歯周治療の流れを(図1)に示す。初診の患者が来院した場合、来院した理由および主訴を尋ね、十分問診を行った後、歯周病の進行程度を診断するために、前述の歯周組織検査(歯周基本・精密検査①)およびエックス線検査を実施する。治療計画を策定後、歯周基本治療を開始するが、歯周病の原因因子を除去し、歯周組織の再生を図るために、徹底したプラークコントロールを行うとともに、プラークを増加または除去しにくくする環境を改善する。咬合状態を診査し、外傷性咬合を取り除き、必要があれば残存歯の安静を図るために暫間固定を行う。全顎の歯石除去(スケーリング)が終了後、再度歯周組織検査(歯周基本。精密検査②)を実施し、初診時の検査結果と比較することで、今まで行った歯周基本治療の効果を判定できる。その後、必要な部位に対し、プラークコントロールと並行してスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行い、その治療効果の判定のために、SRP終了後に歯周組織検査(歯周精密検査③)を実施する。この初診から歯周精密検査③の間に行った治療を総称して歯周基本治療と呼ぶ。3回めの歯周組織検査(歯周外科の直前の検査は歯周精密検査)の結果、歯周基本治療だけでは改善が認められない部位に対して歯周外科治療(を行うが、その場合以下のことに注意して術式を選択する。歯周外科治療終了後、治癒状態を評価するために再度歯周組織検査を実施する。
1)歯周ポケット掻爬術(キュレッタージ)と新付着術(ENAP)比較的軽度な歯周炎(骨縁上ポケット)が適応である。2)歯肉切除術は、角化歯肉を切除・除去する術式のため、術後に歯肉退縮や付着歯肉の喪失が生じる。そのため付着の喪失がなく、歯槽骨吸収のない歯肉増殖症に対して行われる。3)付着歯肉の狭小、小帯付着位置異常、歯肉退縮等の症例では、小帯切除術、歯肉弁移動術、遊離歯肉移植術または結合組織移植術を選択する。4)歯槽骨吸収を伴う深い歯周ポケットが存在し、歯槽骨に対する処置が必要な症例には、歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術)や組織再生誘導法を選択する。
図1

メインテナンスとサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT) 歯周病は感染症であり、歯周治療後に病状が安定しても再発の危険性が高い。そのため、再発が生じないように、また再発した場合にも早期に適切な処置が行えるように、定期的に歯周組織の維持および管理を行うことを一般にメインテナンスと呼ぶ。しかし、最近では積極的な歯周治療の効果を維持する治療という意味合いからサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)と呼ぶことが多い。日本歯周病学会編「歯周病の診断と治療の指針2007」には、歯周炎の病状が安定している場合にはSPTを行い、歯肉炎が治癒したと考えられる場合にはメインテナンスを行うことが望ましいと記されている。
歯周病と全身疾患の関係 歯周病は、口腔局所の感染症としてだけでなく、細菌の供給源、全身の臓器に影響をおよぼす慢性炎症としてとらえられており、糖尿病、冠状動脈心疾患、肥満、骨粗鬆症、早期低体重児出産、誤嚥性肺炎、免疫疾患のとの関連性が注目されている。特に、糖尿病に関しては、糖尿病が歯周病のリスクファクターであるとともに、歯周病も糖尿病のリスクファクターであると考えられている。
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