腎移植 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2011.10.26

腎移植(じんいしょく)

kidney transplantation

執筆者: 西 慎一

概要

 腎移植は大別すると、生体腎移植と献腎移植に分かれる (表1)。生体腎移植は、文字通り生体ドナーから摘出した腎臓をレシピエントに移植するものである。一方、献腎移植は、脳死あるいは心臓死したドナーから摘出した腎臓を移植することになる。脳死移植の場合は、心停止状態を経ずに臓器摘出が行なわれるので、生体腎移植に近い形となる。
生体腎移植のレシピエントは、透析導入後に移植を受けることが多い。この形が一般的であるが、透析導入前の末期腎不全状態で腎移植を受ける場合があり、早期腎移植(preemptive kidney transplantation)と呼ばれる。 通常、献腎移植は血液型一致のドナー・レシピンエント間で行なわれる。これに対して、生体腎移植の場合は、血液型一致以外に、輸血の法則に従う不一致、不適合の関係にあるドナー・レシピンエント間でも行なわれる。血液型不適合者間腎移植は、世界の中でも日本の実施件数は多く、年間の総腎移植数の20%に上ぼる。
近年では、複数の臓器移植が同時に行なわれることもある。腎臓の場合は、糖尿病性腎不全患者において膵腎同時移植が、オキザローシスなどの先天性代謝疾患などにおいて肝腎同時移植が行なわれることがある。

表1表1

腎移植数

 近年少しずつではあるが、日本の腎移植件数は増加している。図1に示すように、1990年代の半ばでは年間600件程度であったが、2006年度の統計では1100例を超えるところに到達した。ただ、その増加の殆どは生体腎移植数の増加であり、献腎移植数の伸びは認められない。日本移植学会の報告をみると、現在80%以上が生体腎移植の状況である 1)。
この傾向は国際的にみると稀な傾向である。米国の臓器移植ネットワークUNOSのデータをみると、逆に50%以上が献腎移植である 2)。臓器移植の基本は生体ドナー傷つける生体移植ではない。脳死法案が通過した1997年以降、腎臓以外の移植事例を含めても、脳死移植そのものが70例程度しか行なわれていない。この点は、今後の日本の腎移植に課せられた重要な問題である。

図1図1

腎移植ドナー

 本邦では生体腎移植が多いため、腎移植ドナーの内訳をみると親あるいは同胞が圧倒的に多く半数以上を占める。近年の特徴として、非血縁者間腎移植、特に夫婦間での生体腎移植数が増加する傾向が目に付く。その割合は今や約28%になる (図2) 1)。ドナーの平均年齢は、生体腎移植では54歳であり、最高齢では80歳代のドナーも存在する。献腎移植のドナー平均年齢は45歳である1)。
生体腎移植ドナーの高齢化は、欧米においても問題となっている。高齢ドナーは、少なからず何らかの医学的問題を有していることが多い。従って、ドナーとして医学的に的確であるのか、その判断に苦慮する症例が増えている。何らかの医学的問題を抱えるドナーのことをexpanded criteria donor (ECD)あるいはmarginal donorと呼ぶ。
ECDに対して、世界的にドナー適応基準の設定が必要と言われてきた。2004年にアムステルダでECDに関するム国際フォーラムが開催され、翌2005年には、生体腎ドナーに関するアムステルダムフォーラムリポートが報告された3)。そこに記載された認容基準と除外基準は、表2のごとくである。ドナーの移植後の腎機能はCcr 60 ml/min程度であり、半数は慢性腎臓病(CKD)ステージ3に相当する。CKD症例の心血管系合併症の発症比率は高まることが知られている 4)。このような観点から、厳格なドナーの移植後管理が必要であることが以前より指摘されていた。しかし、腎移植においては、全国的なドナー管理体制が充実している状態とは言えない。この点が、ドナーに関する腎移植の問題点である。

図2図2

腎移植レシピエント

 腎移植レシピエントの平均年齢は生体腎移植では40歳、献腎移植では47歳である。比較的若い透析患者が腎移植を受けている傾向が見て取れる。レシピエントの透析方法は、血液透析が77.5%で、腹膜透析(血液透析併用も含む)が21.4%である。腹膜透析から腎移植を受ける症例の比率が高いことがわかる 1)。
心停止後あるいは脳死下献腎移植を希望して臓器移植ネットワークに登録している待機患者数、つまり献腎移植のレシピエント候補は約11,000名である(2007年7月2日現在)。1995年度には約15,000名の登録者がいたので、この十年間に徐々に減少していることが分かる。少なくとも、ネットワーク登録開始1995年から2007年7月までに、腎移植を待ちながら死亡した患者数は約2,100名であることが分かっている 5)。
腎移植レシピエントの原疾患を見ると、約半数が慢性糸球体腎炎であり、糖尿病性腎症は10%と僅かでしかない。透析患者の原疾患をみると40%が糸球体腎炎であり、30%が糖尿病性腎症である。若くして透析に導入される糖尿病症例が少ないという理由もあるかもしれないが、2型糖尿病患者が容易に腎移植を受けることができる環境が整っているとは言えない。今後も増加する糖尿病透析患者に対する腎移植が今後の問題点である。

腎移植成績

 腎移植の成績は、近年は飛躍的に向上している。日本移植学会の公式広報情報である臓器移植ファクトブック2007 によると、生体腎移植の1982年までの10年腎生着率は40%程度であったが、1983~1991年までになると55%程度に上昇し、1992~2001年代に入ってからは、更に免疫抑制の進歩により腎生着率は向上し、70%にまで到達している(表3) 6)。2000年度に入ってから成績を集めれば、10年腎生着率は80%以上ではないかと思われる。献腎移植の生着率も時代とともに向上している。

表3表3

腎移植の免疫抑制療法

1) 免疫抑制薬の変遷図3は、免疫抑制薬が登場した時期を時間軸に沿って図解したものである。

1980年代までは、ステロイド薬と代謝拮抗薬アザチオプリンあるいはシクロフォスファミドの2剤併用が基本的な免疫抑制薬のレジメであった。1990年代からカルシニューリン阻害薬であるシクロスポリンが登場し、シクロスポリン+ステロイド薬+代謝拮抗薬による3剤併用療法が主流となった。シクロスポリンの登場で急性拒絶反応の出現率は著しく低下した。その後、第二のカルシニューリン阻害薬であるタクロリムスが使用可能となり、治療薬選択の幅が拡がった。
2000年以降、代謝拮抗薬であるミコフェノール酸が登場し、急性拒絶反応の出現率は更に低下することとなった。生物学的製剤として、抗リンパ球性グロブリン(ALG)、ムロマナブCD3(OK3)などが1990年代には使用されていたが、抗ヒトマウス抗体であるため副作用も強く、その使用には慎重を要した。急性拒絶反応の抑制に関しては、2000年代に入り、CD25に対するキメラ型抗体であるバジリキシマムが使用されてからは、細胞性免疫による拒絶反応抑制に対して、副作用の少ない一段と安定した臨床効果が確認されている。
CD20に対する抗体であるリツキシマムも、保険適応ではないが、施設の倫理委員会の承認を経てABO不適合腎移植 8)、抗体関連型拒絶反応 9)において使用されている。これらの抗体製剤の臨床効果は大変優れている。
現在治験が全国的に実施されている免疫抑制薬として、mTOR阻害であるラパマイシン(別名シロリムス)の誘導体であるエベロリムスがある。ミコフェノール酸に替わり使用されるが、カルシニューリン阻害薬の減量が計れる薬剤であり、カルシニューリン阻害薬による副作用抑制である腎毒性の抑制が期待できる薬剤である10)。ただし、高脂血症、蛋白尿出現などが副作用として知られている。

2) 免疫抑制薬のモニタリング
カルシニューリン阻害薬のモニタリングは、トラフレベルを用いることが基本されてきた。しかし、より薬剤AUCと相関するC2(2時間値)レベルを用いることが薬剤管理上は優れているとする指摘もあり、C2レベルを用いてモニタリング管理を実施している施設も少なくない。また、手術直後の厳格な薬剤管理が必要な時期には両者を併用している施設もある。
近年指摘されているモニタリングの問題点として、シクロスポリンの測定方法によるデータの差異が挙げられる。本邦で採用されているシクロスポリンの測定方法は複数あり、施設により採用している測定法が異なる。同一施設内で経過観察している場合は、問題はないが、移植患者が通院病院を移動した場合は、僅かではあるがデータ管理の差異が発生する。この点に関しては、全国的に情報が十分浸透している状況ではないと思われる。
その他、ミコフェノール酸 (MMF)に関しても血中レベル測定による管理が望ましいとされているが、保険適応となっていない。MMFには、腸肝循環があり、薬剤代謝酵素の遺伝子多型による影響が血中レベルに出現すると言われている。薬剤の有効性を高め、副作用を防止するためには、正確なモニタリングが欠かせない。

腎移植の拒絶反応とその診断

 移植後の拒絶反応には、時期的な観点から、超急性拒絶反応、急性拒絶反応、慢性拒絶反応に分類される。また、機序の観点から抗体関連拒絶反応、T細胞性拒絶反応と分類される。
超急性拒絶はドナーに対する既存の抗HLA抗体、抗血液型抗体、マイナー抗原に対する抗体などの種特異的自然抗体による液性免疫が関与する抗体関連拒絶反応と考えられている。通常は、移植後24時間以内に発症し、血栓形成、梗塞などがおこり臓器血流が遮断される。この過程は既存抗体による液性免疫反応であり、免疫抑制薬での治療は難しい。超急性拒絶が起こった場合は速やかに移植臓器を摘出することになる。
急性拒絶は、移植後1週間から3か月位でおきる拒絶反応である。抗体関連拒絶反応、T細胞性拒絶反応の両方が存在するが、主に問題となるのは細胞性拒絶反応である。主に尿細管上皮細胞に発現されているMHC classII抗原に対する細胞性免疫が活性化され、腎間質への細胞浸潤、尿細管炎が出現する。液性免疫が働く場合は、動脈内膜炎や傍尿細管毛細血管炎が認められる。
慢性拒絶は、移植後3ヶ月後以降に出現する。主に抗体関連拒絶反応が働くと考えられているがその病態は完全に解明されていない。一般的な免疫抑制薬は無効である。尿細管萎縮、腎間質線維化、動脈硝子化、傍尿細管毛細血管基底膜の多層化などが起こる。また、糸球体では基底膜二重化とメサンギウム基質増加が特徴的変化であり、膜性増殖性糸球体腎炎様の組織変化が観察される。
抗体関連拒絶反応の診断に関しては、従来からリンパ球クロスマッチ法がその手段として用いられてきたが、感度に問題があるとされていた。近年では、フローサイトメトリー法(FCM)を用いたドナー・レシピエントリンパ球クロスマッチ(フローサイトメトリークロスマッチ)解析法も用いられ、診断感度が上がっている。この方法は、ドナーの末梢血から比重遠心法によって作成した単核球浮遊液に、レシピエント血清を反応させた後、FITC標識抗ヒトIgG (Fcγ) 抗体で蛍光染色してフローサイトメーターで測定する方法である。ドナー血清中に抗HLA 抗体などの抗リンパ球抗体が存在すると、陽性反応(蛍光強度の右側へのシフト)として検出される。
また、Flow-PRA法と呼ばれる検査法も用いられる。Flow PRA法は,精製HLA 抗原をコーティングしたマイクロビーズに結合する血清中の抗HLA抗体をフローサイトメーターで測定する方法である.Class I,Class IIそれぞれの抗原に対する抗体をスクリーニング検査することが可能で,その存在を%PRAとして算出する。感度と特異度の双方が高い方法である。

腎移植合併症

 腎移植後の患者管理としては、拒絶反応、感染症、悪性腫瘍、薬剤副作用などが問題とされてきた。最近では、新たな視点として、リシピエントの慢性腎臓病(CKD)管理、生活習慣病管理が注目されている。これらの管理は、移植患者の長期成績に影響する。
腎移植後のレシピエントの腎機能はCcr 60 ml/min前後であり、約半数の人はCKDステージ3以上の腎機能低下状態である。CKD症例は心血管系合併症の頻度が高いと言われる。腎移植後の患者死因の第一位は心血管系疾患であり(図4) 11)、レシピエントをCKD症例として管理することは重要なポイントである。
また、腎移植後には肥満、メタボリックシンドローム(MS)の発症が多くなると言われている。MSは内臓肥満に加え、耐糖能障害、高脂血症、高血圧などの要因を有している病態である。これらの病態は、いずれも移植後に発症しやすく、ステロイド薬や免疫抑制薬の影響で悪化する。そこで、ステロイド減量あるいはステロイド離脱を目指した治療プロトコールが検討されるようになってきた。Rikeらは12)、腎移植患者を2年間経過観察し、早期ステロイド離脱群の心血管イベントとMS新規出現率が、ステロイド継続群のそれの1/2程度であることを報告している。

図4図4

腎移植倫理

1) 臓器移植法の改正

昨今、臓器移植法の改正が問題となっており、新聞紙面にもしばしば話題が登場する。臓器移植法で議論されている改正ポイントは、脳死からの臓器提供者を増加、小児移植を推進のためのドナー年齢制限引き下げの2点である。本邦では脳死下での臓器提供数は極端に少ない。1997年に脳死移植法が施行されてから本年までに、いまだ70件程度の脳死下移植が施行されているにすぎない。臓器移植法改正により、本人意思表示がなくとも家族の承諾のみで臓器提供が可能となる。ドナーの年齢制限を撤廃する。これらの改正案により、ドナー不足の解消が計られることが期待されている。
 
2) 渡航移植と病腎移植

脳死下、心停止下の臓器提供者が少ない状況は、世界的にみても多くの地域で認められることである。このために、海外渡航移植、病腎移植が問題が生まれていると考えられる。中国、フィリピンなどでの海外渡航移植には、倫理的な問題と医学的な問題がある。経済的な問題から自国の腎不全患者が受けられない腎移植を、経済的に豊かな他国の外国人が受けることへの批判。発展途上国の臓器売買を促進することへの批判などが倫理的問題である。また、肝炎ウイルスの伝染、免疫抑制療法の過剰あるいは過少などによる副作用や拒絶反応、医療情報の連絡不備などが医学的問題として挙げられる。渡航移植の生存率、あるいは腎生存率は低いとみられている。
病腎移植という言葉が適当であるかどうかは問題であるが、腫瘍、血管系異常、糸球体腎炎などの疾患が認められる腎臓が移植された病腎移植に関しては、日本移植学会を始め日本の関連学会は、倫理的問題と医学的危険性とをもって反対の意思を表明している。国際的にも、世界的な移植臓器の不足からくる社会的、倫理的、国際的問題が派生していることが注目されている。国際移植学会が中心となり、2008年にイスタンブールサミット報告が発表された。日本移植学会のホームページにその和訳が掲載されている 13)。

参考文献と参考サイト

1)      http://www.asas.or.jp/jst/pdf/reports/42-5_p414-422.pdf
2)      http://www.unos.org/
3)      Delmonico F; Council of the Transplantation Society : A Report of the   Amsterdam Forum On the Care of the Live Kidney Donor: Data and Medical Guidelines. Transplantation 79(6 Suppl); S53-66, 2005
4)      日本腎臓学会編: CKDの重要性. CKD診療ガイド, 東京医学社, 東京, pp8-11, 2007
5)      http://www.asas.or.jp/jst/
6)      http://www.asas.or.jp/jst/report_top.html
7)      http://www.asas.or.jp/jst/factbook/2007/fact06_03.html
8)      Saito K, Nakagawa Y, Suwa M, Kumagai N, Tanikawa T, Nishiyama T, Ueno M, Gejyo F, Nishi S, Takahashi K : Pinpoint targeted immunosuppression: anti-CD20/MMF desensitization with anti-CD25 in successful ABO-incompatible kidney transplantation without splenectomy. Xenotransplantation 13(2); 111-117, 2006 9)      Dragun D, Rudolph B: Novelties in diagnostics and therapy of antibody mediated rejection. Nephrol Dial Transplant 22 (Suppl 8), viii50-viii53, 2007 10) Fiocchi R, Iacovoni A, Sebastiani R, Fontana A, Gandolfi L, Gamba A: Possible role of everolimus in improving renal function in long-term heart transplantation. Transplant Proc 39(6); 1967-1969
11) 日本腎移植臨床研究会, 日本移植学会: 腎移植臨登録集計報告(2005)-3, 2003年追跡調査. 移植 40(4); 358-368
12) Rike AH, Mogilishetty G, Alloway RR, Succop P, Roy-Chaudhury P, Cardi M, Kaiser TE, Thomas M, Woodle ES : Cardiovascular risk, cardiovascular events, and metabolic syndrome in renal transplantation: comparison of early steroid withdrawal and chronic steroids. Clin Transplant 22(2); 229-235, 2008
13) http://www.asas.or.jp/jst/pdf/istanblu_summit200806.pdf

(MyMedより)推薦図書

1) 日本臨床腎移植学会 監修、高橋公太・相川厚 編集:腎移植症例集 2009,日本医学館 2009

2) 高橋公太 編さん:腎移植のすべて,メジカルビュー社 2009

3) 相川厚 著:日本の臓器移植----現役腎移植医のジハード,河出書房新社 2009

4) 西慎一 著:初めて学ぶ血液透析の手技と看護,新興医学出版社 2010

5) 西慎一 編さん:ナースのための透析合併症50―ぱっとみてわかるイラストつき (らくらく入門),メディカ出版 2007
 

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