不育症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.12

不育症(ふいくしょう)

執筆者: 杉 俊隆

概念

 “不育症”とは、厳密な定義をもつ医学用語ではない。強いて定義付ければ、成立した妊娠を完遂できず、健康な生児に恵まれない症例を指すものといえる。一般的には習慣流産を指すことが多いが、同義ではない。習慣流産とは3回以上流産を繰り返すことであり、流産の定義上時期は妊娠22週未満に限定される。しかしながら、不育症と言った場合は妊娠中期以降の子宮内胎児死亡や反復流産(流産回数2回)も含まれ得る。妊娠10週未満の初期流産を3回以上繰り返したり、一度でも妊娠10週以降の子宮内胎児死亡を経験した場合、不育症を疑って検査を行うべきである。
 1回や2回の流産既往があっても、それが直ちに病的であり、不育症であるということにはならない。ちなみに、35歳の女性を想定し、流産の頻度を20%と仮定すると、反復流産率は0.2×0.2=0.04で4%、3回流産率は0.04×0.2=0.008で0.8%となる。したがって、全く異常がなくても4%の女性は反復流産を経験することになり、2回流産したからといって直ちに不育症であるとは言えない。これに対して3回以上自然流産を繰り返した習慣流産の場合は、運悪く自然淘汰を繰り返したと決めつける前に、不育症の原因を検索するべきである。
 しかしながら、最近の妊娠する女性の年齢の高齢化を考慮すると、女性100人に1人は異常がなくても3回の流産を経験すると試算でき、習慣流産の既往が有りながら不育症ではない女性が多く存在する。  

不育症スクリーニング検査

 不育症の原因は多岐に渡っているため、系統だてたスクリーニング検査が必要である。不育症の検査は、施設によって大きくばらついているのが現状である。その理由は、いまだ未知の原因が多く存在し、不育症の分野自体、発展途上にあるからである。
 原因不明の不育症の場合、研究段階の検査、治療をせざるを得ず、各施設の得意分野が異なるため、施設間の検査にばらつきがでる。しかしながら、最近10年間で、不育症の分野は大きく発展した事も事実である。この10年間で、以前は不育症の原因と思われていたものが否定され、その検査が行われなくなったり、新たな原因が発見され、検査が追加されたものなどがある。
 そこで、現状の一つの基準として日本産科婦人科学会生殖内分泌小委員会において、現時点で最適と思われる不育症のスクリーニング検査を作成し、提示した(表1)。一次スクリーニングは、原則として全員に行う検査である。二次スクリーニングは、必ずしも全員に行わないが、必要と思われる患者に行う検査である。  

不育症の検査異常とその治療

・子宮奇形  

 子宮奇形の中で、臨床でよく見かけるのは、中隔子宮、双角子宮、重複子宮、単角子宮などである。特に、不育症患者では中隔子宮の頻度が最も多い。子宮の外観がハート型をしている双角子宮は珍しく、前医で双角子宮と診断されている症例も、実は子宮の外観は正常で子宮内腔に中隔をもつ中隔子宮である事が多いので注意が必要である。
 子宮奇形が不育症の原因になり得るかに関しては、慎重に考える必要がある。流産歴の無い経産婦の子宮形態検査はしないので、正常経産婦における子宮奇形の頻度に関する報告は少なく、不育症群での頻度を比較することは困難である。特に、弓状子宮、単角子宮、重複子宮などが本当に流産の原因になり得るかは、evidenceに乏しい。弓状子宮を子宮奇形と考えるか否かで統計は全く変わってしまうが、参考までに海外の報告によると、一般女性、不妊症患者での子宮奇形の頻度は約3〜5%と報告されている。これに対して、日本産科婦人科学会生殖内分泌委員会の報告では、不育症群の子宮奇形の頻度は9.0%と報告されている(生殖内分泌委員会報告、2005)。ただし、この中には弓状子宮が多く含まれているので頻度が高くなっている。
 治療に関しては、単角子宮、重複子宮は特殊な例を除いて子宮形成術の適応は無い。中隔子宮の場合は子宮鏡を用いて内視鏡下に中隔を削る方法(TCR)と、開腹して子宮形成術を行う方法がある。TCRは開腹しないで済むため侵襲が少ない。海外ではTCRの治療成績は良好であり、開腹子宮形成術に取って代わられているのが現状である。しかしながら、TCRは全ての症例に適応になるわけではない。双角子宮は、治療をするなら開腹子宮形成術と言う事になるが、無治療でも約40~60%の生児獲得率が報告されているので、手術を選択するか否かは個々の症例で慎重に検討する必要がある。  

・黄体機能不全

 非妊娠時の高温期の中間で血中プロゲステロン値が10ng/ml未満ならば黄体機能不全と診断し、治療の対象となると考えている不育症外来は多い。その場合、黄体ホルモン投与やhCG投与にて補充する事になる。しかしながら、黄体機能不全が不妊の原因ではなく、一度成立した妊娠に対して本当に流産を反復して惹き起こすかに関しては、否定的な報告もある。もちろん、体外受精や外科的に黄体を摘出した場合などは、妊娠維持のために黄体ホルモンの補充が必須であるが、生理的条件下での黄体機能不全が本当に流産の原因になり得るかに関しては、良く検討されていないのが現状である。
 確かに黄体機能不全はプロゲステロン欠乏を来し、その結果流産の原因となり得るが、多くの場合は妊娠中のプロゲステロンの欠乏は他の原因に起因する流産の必然的、二次的結果と考えられる。不育症患者における黄体機能不全の頻度は20〜60%と報告されているが、これらは非妊娠時の高温期の話であって、妊娠周期の黄体機能をあらかじめ評価し得る信頼できる方法は存在しない。妊娠時の黄体は非妊娠時の黄体とは異なるので、非妊娠サイクルでの黄体機能の評価は妊娠時を反映しないといわれている。
 初期流産に終わった妊娠周期の着床前期の黄体ホルモン値は、妊娠成功時と比べて差が認められなかったと報告されている。また、不育症患者の非妊娠周期の高温期中間での血清プロゲステロン値を評価し、黄体機能不全のある群とない群に分けて次回妊娠の流産率を比較したところ、無治療にも関わらず両群に差を認めなかったという報告もある。
 以上の様に黄体機能不全が流産の原因になり得るのか疑わしいにもかかわらず、ホルモン療法は広く行われている。その効果については多くの報告があるが、黄体ホルモンの補充療法については、流産の危険を減らすと言うに充分な根拠は見出されていない。確かに、いくらかは効果がある事を示唆するデーターはあるが、証明するにはより多くの検討が必要である。
 結論として、不育症患者で黄体機能不全と診断した場合に、黄体ホルモン補充を行う事が決して不適当であるとは言わないが、黄体機能不全が流産の原因であると決めつける前に、他にも流産の原因が存在する可能性は考慮した方が良いと思われる。  

・高プロラクチン血症  

 高プロラクチン血症が反復流産の原因となり得るという説は今のところ証明されていない。多くの論文は、未治療の高プロラクチン血症の患者の流産率は高く無いと報告している。正常妊娠においてもプロラクチンレベルは妊娠初期より上昇し、非妊時の10倍に達すると報告されており、プロラクチンの存在が直接妊娠を妨害するとは考えにくい。しかしながら、言うまでも無く高プロラクチン血症は不妊症の原因となり得るので、高プロラクチン血症と診断された場合は治療する事に反論は無い。しかしながら、原因不明不育症患者に対して潜在性高プロラクチン血症も考慮して、TRH testを行い、陽性であった場合に、潜在性高プロラクチン血症が不育症の原因であると断定する事には疑問をおぼえる。  

・甲状腺機能異常  

 甲状腺機能異常は流産の原因としてしばしば挙げられているが、甲状腺ホルモン値の異常が流産の原因になり得るかに関しては、その直接的な証拠は未だ無いのが現状であり、逆に最近否定的な論文が相次いで報告され注目を浴びている。しかしながら、バセドー氏病や橋本病にみられる甲状腺に対する自己抗体が反復流産の率の上昇と関係するという報告はいくつかある。その理由は不明であるが、自己免疫疾患はいくつかの自己抗体を合わせ持つ事が良くあるので、抗リン脂質抗体など妊娠に対して病原性のある他の自己抗体を介して流産が起きている可能性は否定できない。従って、甲状腺機能異常を見つけた場合は、内科に甲状腺疾患の診断と治療を依頼し、甲状腺機能を整えてもらい、それをもって不育症の治療とするのでは無く、自己免疫疾患患者であるととらえて、甲状腺以外の不育症の原因を、特に自己抗体を重点的に検索する必要がある。  

糖尿病  

 妊娠初期の血糖値が高値の糖尿病患者の流産のリスクは高い。また糖尿病患者であってもコントロール良好症例では流産率は高くない。既に糖尿病と分かっている患者の場合、妊娠前からの血糖値の管理が重要であり、妊娠してから血糖値をコントロールするのでは無く、計画的に妊娠する事が望ましい。一方で、サブクリニカルな糖尿病の頻度に関しては不育症群と正常群の間に差はないと報告されている。糖尿病を疑わせる症状のない不育症患者に対して糖尿病の検査を全員に対して行う必要は無い。  

・染色体異常  

 夫婦いずれかに染色体の異常があると、不育症の原因になり得るという仮説は、意外と未だ証明されていない。確かに転座があれば流産率は上昇するが、それだけで過去の何回もの流産を説明出来るかは不明である。習慣流産夫婦において、染色体の異常が流産の原因になり得るかについては、否定的な結果が最近相次いで報告されている。
 最近報告された日本での多施設研究の結果では、夫婦のどちらかに染色体転座をもつ不育症カップルの診断後次回妊娠成功率は63%と報告されており、染色体異常をもたない不育症カップルの次回妊娠成功率78.7%よりは低いものの、比較的良好であると言える。 不育症患者に染色体異常が見出された場合、本当にそれが流産の原因なのか、慎重に検討するべきである。染色体以外の他の不育症の原因検索も必要であろう。また、以上の論文を総合すると、着床前診断が今後の治療の選択肢に挙げられるかに関しては、慎重に検討する必要がある。  

血栓症素因(thrombophilia)  

 血栓症を引き起こし得る血液凝固系の危険因子の事を、thrombophiliaという。Thrombophiliaを持っている人は、心筋梗塞、狭心症、脳血栓、脳梗塞、深部静脈血栓症などの血栓症になりやすいだけでなく、子宮の血流が悪いため、妊娠にも悪影響を与える事が知られている。
 Thrombophiliaに関係する妊娠の異常として多く見られるものは、反復流産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、子宮内胎児死亡(IUFD)などが挙げられる。その原因として、抗リン脂質抗体、第V因子Leiden変異 (G1691A)、プロトロンビン遺伝子の多型 (G20210A)、5,10-methylenetetrahydrofolate reductase (MTHFR)の変異 (C677T)、高ホモシステイン血症、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、AT-III欠乏症、フィブリノーゲン異常症(dysfibrinogenemia)などが報告されている。最近では、第XII因子欠乏症(抗第XII因子抗体)と流産の関係が注目され、thrombophiliaの一つである可能性が示唆されている。第V因子Leiden変異 (G1691A)、プロトロンビン遺伝子の多型 (G20210A)などは日本人に報告は無く、人種差があるので注意が必要である。日本人では、抗リン脂質抗体、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第XII因子欠乏症の頻度が高い。
 抗リン脂質抗体症候群、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などに代表されるthrombophiliaの患者が、妊娠中に流産、子宮内胎児死亡、妊娠中毒症などの胎盤血管障害を起こさない様、予防的治療が勧められている。一般に抗凝固療法として広く用いられているワルファリンは催奇形性があり、原則として妊娠中は使用できないため、妊娠中に使用される薬剤は、アスピリンとヘパリンが中心である。  

・抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体 

 良く知られている抗リン脂質抗体である抗カルジオリピン(CL)抗体やlupus anticoagulant (LA)に特徴的なのは、妊娠中期以降の子宮内胎児死亡である。しかしながら、臨床で一番多く見られるのは妊娠初期流産を繰り返す不育症であり、そのような患者に対して抗CL抗体やLAを検査しても陽性にでることは期待するほどは多くない。最近、反復初期流産患者にもっとも多く見られる抗リン脂質抗体は抗PE抗体であるという報告が相次いでいる。さらに、不育症患者の持つ抗PE抗体の多くはPEに結合したキニノーゲンを認識する事が明らかになった。また、抗PE抗体と流産だけでなく、抗PE抗体と血栓症との関係も報告されている。
 抗PE抗体は、血小板を介して血栓、流産の原因となり得る事が報告されており、抗血小板療法である低用量アスピリン療法の有用性が示唆されている。  

・第XII因子に対する自己抗体  

 最近の報告によると、妊娠初期流産を繰り返すタイプの不育症では第XII因子欠乏症が流産の危険因子として最も高頻度に報告されており、抗PE抗体がそれに続いている。抗PE抗体、すなわちキニノーゲンを認識する抗体とならんで、第XII因子欠乏症が高頻度に見られた事は非常に興味深い。なぜならば、キニノーゲンも第XII因子も同じカリクレイン-キニン系の蛋白であるからである。 我々の不育症外来においては、191人の不育症患者をスクリーニングしたところ、34人(17.8%)が第XII因子活性60%未満であった。一方、正常対照群60人中第Ⅻ因子活性60%未満であったのは1人であった。
 最近になって、抗リン脂質抗体陽性患者に第XII因子欠乏症が高頻度に存在すると言う報告がされた。また、第XII因子に対する自己抗体が存在する事により、免疫複合体が形成され、第XII因子欠乏症が起こるのではないかという仮説が提唱された。その後、抗リン脂質抗体陽性患者において、第XII因子に対する自己抗体の存在が報告された。次いで第XII因子欠乏不育症患者において第XII因子に対する自己抗体の存在が報告された。第XII因子に対する自己抗体は、不育症のリスクファクターのリストに加えるべきかもしれない。 治療は未だ不明であるが、アスピリンやヘパリンが有効という報告もある。  

・同種免疫異常  

 胎児は半分は父親の血を引いているため、臓器移植になぞらえて考えると、母体にとって半分同種移植片であると考えることができるが、妊娠中は拒絶反応がおきて流産に至らないような、なんらかの免疫学的防御機構が働いていると考えられる。しかしながら、胎盤という解剖学的障壁の存在や特殊な内分泌環境、サイトカインの関与など、妊娠には臓器移植とは異なるファクターも多く、臓器移植と同様にあつかうことはできない。
 近年、免疫学的妊娠維持機構としてTh1/Th2バランスが注目されている。それによると、母体が胎児を異物として拒絶することなく、妊娠が維持されるのは細胞性免疫を司るCD4+ T helper (Th) 1 細胞機能が低下し、抗体産生を司るTh2細胞機能が亢進するためと考えられている。
 習慣流産の免疫学的原因としては、抗リン脂質抗体など自己抗体によるものと、臓器移植の拒絶反応に準じた機序が考えられ、どちらもTh1/Th2バランスの破綻が示唆されている。すなわち、Th1/Th2バランスがTh1の方へ傾けば、母体は胎児を免疫学的異物として認識し、拒絶反応がおき、流産する可能性がある。また、過剰にTh2の方へ傾くと、今度は抗体産生が盛んになり、抗リン脂質抗体などの自己抗体が産生され、流産を引き起こす可能性がある。SLEなどの自己免疫疾患が、妊娠・分娩をきっかけに発症したり増悪するのも、妊娠によりTh1/Th2バランスがTh2の方へ傾く事がきっかけとも考えらえる。
 同種免疫異常の治療として、夫リンパ球をもちいた免疫療法が挙げられる。 免疫療法というのは、臓器移植の時に拒絶反応を軽減し、臓器の生着率を上げるために行われたdonor-specific-transfusions (DST)を応用したものである。DSTとは、例えば腎臓移植を行う時に、移植前にあらかじめ腎臓提供者の血液を臓器をもらう患者に輸血するというものである。この事により拒絶反応は抑えられ、腎臓の生着率はDST非施行群が約50%であったのに対し、DST施行群で約70%に向上すると報告されている。
 妊娠の場合、臓器提供者に当たるのは夫であるため、夫の血液を妻に輸血する訳であるが、全血輸血する必要は無いため、夫の血液からリンパ球のみを取り出し、妻に輸血(注射)する訳である。この夫リンパ球を用いた免疫療法が、胎児に対する拒絶反応により流産を繰り返す不育症に有効であると考えられた訳である。
 今では免疫療法は、諸検査施行しても異常の見い出されない原因不明習慣流産(生産歴の無い3回以上流産を繰り返した人が対象、流産既往が2回だけでは適応とならない)で、抗核抗体や抗リン脂質抗体などの自己抗体を持たず、かつ抗夫リンパ球抗体あるいは遮断抗体を持たない症例を対象に、適応を慎重に検討したうえで施行されている。また、当然輸血の一種なので、輸血と同様インフォームドコンセントが必要であり、移植片対宿主病(GVHD)予防のため、リンパ球の放射線照射は忘れてはならない。
 作用機序としては、Th1優位のTh1/Th2バランスをTh2の方へ是正するとか、遮断抗体が産生され母体が胎児を異物として認識しない様守るなどと考えられている。自己抗体産生などの副作用も報告されているので、安易に免疫療法を乱用することは慎むべきである。 そもそも、免疫療法が本当に不育症に有効であるかは、非常に疑問である。元々、不育症の原因精査しても原因不明の患者に施行していたので、逆に言えば異常の無い、無治療でも予後の良い患者に施行していた可能性も多い。従って、約70−80%の良好な妊娠成功率が報告されても、それが直ちに免疫療法が有用であるとは結論できない。無治療対照群の妊娠成功率のデータが存在しなかったからである。その後、幾つかの二重盲検法によるデータが報告された。
 2001年にScottが世界中で施行された18のrandomized control studyのメタアナリシスを行ったところ、夫リンパ球免疫療法における流産防止率は、非施行群に比べオッズ比1.05 (95%CI 0.75-1.47)であり、免疫療法の有用性は確認されなかった(Scott JR, 2003)。これを受けて、米国FDAは夫リンパ球免疫療法を行うべきでないという勧告を出し、それ以降米国では夫リンパ球免疫療法は禁止された。
 末梢血ナチュラルキラー(NK)細胞活性は不妊症、不育症患者において高値であると報告されており、妊娠前のNK細胞活性値はその後の流産を予知すると報告されている。Th1/Th2比が高値(Th1優位)であれば、NK活性も高値となり、母体免疫系は胎児を攻撃する可能性がある。しかしながら、NK活性は精神的影響により変動するとも報告され、流産の結果としてストレスにより活性が上昇している可能性も否定できない。実際、カウンセリングにより、NK活性は低下し、不妊症患者において妊娠率が向上したとの報告もある。
 以上の様に末梢血NK細胞活性と流産との因果関係は不明であり、まして治療に関しては報告がない。NK活性が高値であったため、同種免疫異常と診断され、夫リンパ球免疫療法を受けたところ、抗リン脂質抗体陽性となってしまった症例も報告されている。このように、NK活性が高ければ必ず同種免疫異常と言える訳でもなく、実際の臨床にNK細胞に関する検査、治療を導入するのは現時点では時期尚早である。

表1 不育症スクリーニング検査

【一次スクリーニング】
1.   子宮形態検査
経腟超音波
子宮卵管造影検査 (HSG)(嘴管法による検査が望ましい)
 
2. 内分泌検査
下垂体機能    プロラクチン
          LH(卵胞期初期)
          FSH(卵胞期初期)       
甲状腺機能検査              free T4, TSH       
糖尿病検査           空腹時血糖       
卵巣機能検査         基礎体温測定プロゲステロン値(黄体期中期)
 
3. 染色体検査(Gバンド核型分析)患者および夫

4. 自己抗体および抗リン脂質抗体
抗核抗体
抗リン脂質抗体  
   抗カルジオリピン・β2GPI複合体抗体  
   ループスアンチコアグラント  
   抗カルジオリピン抗体(CL) IgG, IgM   
   抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体IgG, IgM        
   抗フォスファチジルセリン(PS)抗体IgG, IgM

5. 凝固因子活性
aPTT, PT (87点), 第XII因子活性 


    【二次スクリーニング】

1.   子宮形態検査
 子宮鏡
 経腟超音波sonohysterogram
 MRI

2.   内分泌学的検査
 75gOGTT(異常があった場合)
 HbA1C

3.   凝固線溶系検査
 プロテインC(活性,抗原)
 プロテインS(活性,抗原)
 AT-III

4.   自己免疫疾患
 抗DNA抗体
 抗SS-A/Ro抗体

5.   同種免疫検査
NK活性
Th1/Th2比
遮断抗体活性
抗HLA抗体

(MyMedより)推薦図書

1) 苛原稔 編集:不妊症・不育症 (インフォームドコンセントのための図説シリーズ),医薬ジャーナル社 2009

2) ジョン・コーエン 著、藤井知行 監修、谷垣暁美 翻訳:流産の医学 ― 仕組み、治療法、最善のケア,みすず書房 2007

3) 流産死産新生児死で子をなくした親の会 著:誕生死,三省堂 2002
 

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