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Ranula
執筆者: 島原 政司
外観がガマカエルの喉頭嚢に類似していることから、1664年De-Marchettisは、ラテン語で“Rana”(カエルを意味)から、ガマ腫(Ranula)と命名、その特徴的な名称で呼ばれている。その本態は舌下腺由来の粘液貯留嚢胞で、口腔底の片側にできる比較的大きな粘液嚢胞で、柔軟弾力性に富み、波動性を呈し、内容液は透明ゼリー状の粘稠な液体である。臨床的に病変の存在部位によって舌下型、舌下・顎下型、顎下型の3型に分類される1),2),3),4),7),8)。病理学的にはその多くは嚢胞壁が存在しない偽嚢胞(pseudocyst)である。
ガマ腫(粘液嚢胞)の成因として,① 破れた導管からの漏出, ② 導管の部分的貯留,③導管周囲の炎症,④導管の閉塞,⑤導管の部分的閉塞後の脈瘤形成などが報告されている9)。
ガマ腫が存在していても舌下小丘からの唾液の流出は良好であり、ワルトン管(Wharton管)本体の損傷ではない。すなわち下顎骨内側の舌下腺窩にある舌下腺体から排出された唾液がバルトリン管(Bartholin’s duct)を通過し顎下腺管に流入するまでの過程や、舌下腺体の上面に位置している小舌下腺の導管 リヴィヌス管 (Rivinus duct)が舌下ヒダに開口するまでの間にductが損傷し粘液が溢出し貯留することがその発生機序と考えられている。導管損傷の原因は外傷による切断とする説が最も有力であるが、舌下腺管炎や唾石とする説もある。しかしほとんどの場合は先行する疾患や自覚症状もなく原因は不明である。ごく稀に生下時にガマ腫をみることがあるが、これらは導管の先天性奇形による閉塞が原因と考えられている 10), 11), 12)。
口底に存在する舌下腺由来のガマ腫が顎下隙へ進展する理由として、①舌下型のガマ腫が成長し顎舌骨筋の後方より顎下部に進展する。②顎舌骨筋は先天性の裂隙をともなっていることがあり6)、裂隙を通って顎下部にガマ腫が進展する。③舌下腺が顎舌骨筋の後方まで発達しており、その部でガマ腫が発生し顎舌骨筋後方から顎下部に進展した。④顎舌骨筋の先天性の裂隙から舌下腺が突出していることがあり5)、その舌下腺に嚢胞を生じたことなどが考えられる1)。
ガマ腫は、その病態から、組織間隙へ進展するため、その伸展様式、すなわち、広がり方を確認しておく事は重要な事である。CT、MRIなどの画像ほか、造影法が有用である13)。篠原らは,ガマ腫をI~V型に分類し報告している1)。
2) 病理学的所見
病理学的にその多くの嚢胞壁は上皮で被覆されておらず肉芽組織や線維性結合組織で構成されている偽嚢胞である9)。
発生部位、進展方向により舌下型、舌下―顎下型、顎下型の3型に分類され各々で症状は異なる1)。 舌下型では、顎舌骨筋の上方に限局した形で出現し、舌下部に片側性にドーム状の無痛性の腫瘤を呈する。表面の粘膜は薄く、色調はやや青紫色を帯び透明感をともない波動を触知する。大きなものでは、正中を超える事もあり、舌が挙上されることにより嚥下、咀嚼、構音に機能障害を生ずる(写真1)。 顎下型では、顎舌骨筋を超えて顎下部に膨隆を生じたもので、口底部には腫脹はみられず片側の顎下部にびまん性の腫脹を呈する。弾性軟で、無痛性であり、大きいものでは波動を触知する(写真2)。 舌下―顎下型は、舌下部および顎下部の両方に症状を呈する。これらは粘膜下の深いところに生じるので舌下部粘膜色に変化が認められない場合が多い。 性別では女性に多く、年齢別では若年者に多いとされる1),2),7)。

写真1

写真2
画像診断
嚢胞の進展を診断するにはMR画像が有用である。T2強調画像で強い境界明瞭な高信号の嚢胞性腫瘤として描出される(写真3)。嚢胞性腫瘤との鑑別診断のために有用なガマ腫のMRI所見について,従来より報告されてきた tail signに加えて、周囲への mass effectをともなわない傍咽頭隙への進展が、漏出型嚢胞であるガマ腫に特有の画像所見であるとの報告もある15)。超音波画像では、約半数に辺縁境界に不整を認め、内部エコーでは,嚢胞様所見が多く,充実性である14)。

写真3
診断と注意点および鑑別診断
1) 嚢胞の広がりについて顎舌骨筋の上方にのみ位置するか,あるいは,筋を超えて広がっているか,その診断には,双合触診と造影が有効である16)。
2) 単胞性か多胞性か診断しにくい場合には,一方の嚢胞を吸引し,嚢胞間で,緊張度に差がでるか否かで判断するとよい.ガマ腫の鑑別診断として、以下の疾患などがあげられる。
1)甲状舌管嚢胞、鰓原嚢胞 : とくに幼小児の場合に困難であり,ガマ腫(plunging type)を,甲状舌管嚢胞と誤診した症例報告もある17)。
2)表皮様嚢胞,類表皮様嚢胞 : これらは口腔底の中央に位置するため,診断は,容易であるが,ガマ腫でも,中央に位置する場合があるので注意を要する.穿針液にて診断可能である
3)側頸嚢胞性水腫 : 先天性側頸部の嚢胞性リンパ管腫瘍で,顎下部に腫脹が波及すると,口腔底の膨隆を生じ,鑑別診断が必要になる.穿刺液の分析が必要になる.
4)嚢胞状リンパ管腫:口腔底部に限局して発症した場合や小児の場合,鑑別が非常に困難である.内容液の精査にて鑑別する18)。
治療法
従来は外科療法が唯一の治療であったが、より侵襲の低い治療を行う理由で、最近では、OK-432による硬化療法が、数多く報告されている。
(1) 外科療法おもに、開窓術、嚢胞摘出術、舌下腺摘出術に分けられ、嚢胞の位置や大きさなど臨床所見により選択されている。
a) 嚢胞の天蓋を切除し、切除端を縫合し排液路を確保する開窓療法は従来から行われてきた方法である。しかし最近では開窓療法単独では、再発しやすく確実性を得るためには発症臓器である舌下腺の摘出が必要とされている。しかし、開窓療法は術式が比較的容易で侵襲も軽度であり、術後の瘢痕形成も軽度である。万一再発しても、再手術も容易で初発の特に舌下型の若年者では、選択しても良いと考えられる(写真4)。
b)舌下―顎下型、顎下型では開窓療法単独で行うと、再発率は高い。またガマ腫は裏装上皮を持たないきわめて菲薄な結合織からできており、嚢胞摘出術も困難であり、原因となった舌下腺を残すことで再発の危険性は高い。従って、開窓療法もしくは嚢胞摘出術に舌下腺摘出を併用することが最も根治を得られる治療法である28)。通常は原因となった個々の舌下腺を特定することは不可能であり、口内法により、舌下腺を全摘出する。
(2)OK-432注入療法
近年、ガマ腫に対しOK-432(ピシバニール)を嚢胞腔内に注入する方法が多数報告されている。OK-432はストレプトコックスピオゲネスSU株をペニシリン処理し不活性化した凍結乾燥製剤で、嚢胞内溶液を吸引した後、同量の0.1KE/mlに調整した本剤を嚢胞腔内に注入する。本剤により産生された各種サイトカインにより内皮細胞に炎症性変化が惹起された結果透過性が亢進し、内溶液が吸収されるとされている。副作用として、発熱や局所の疼痛があるが、手術に比較して侵襲が軽度であることから近年増加している治療法である19),20),21),22),23)。
(3)吸引・圧迫療法
持続的圧迫療法ガマ腫の内用液を完全に吸引後,しっかり圧迫することにより,再度の漏出を抑え,その間に漏出部の瘢痕形成・閉鎖を期待する治療法で,侵襲が少なく簡便な方法である24)。また、開窓術後に,顎下部より持続的圧迫を加えることにより、再発を防ぐことができる25)。 顎下型ガマ腫では、顎下部の皮膚切開による嚢胞摘出の報告がある一方で26)、開窓術と持続的圧迫療法の併用により治癒が可能であるとの報告もある、治癒機転として、排出路の確立よりも腺房の萎縮が治癒であり、皮膚切開までは必要ないとしている27)。
(4)パラフィン、フィブリン糊などによる置換法パラフィンを溶解して,嚢胞内に注入,嚢胞内容液と置換する.パラフィンと嚢胞外壁の吸着により,摘出が容易となる.あるいは、フィブリン糊の注入により、嚢胞の摘出を行う28)。
(5)その他、硝酸銀注入療法、冷凍手術硝酸銀の嚢胞内注入により、嚢胞壁を腐食させる方法である29),30)。舌下型に応用される。顎下型などにおいては、薬液の漏れなどが心配されるため、適応外のようです。その他、冷凍手術により嚢胞粘膜を破壊させる方法がある。

写真4
外科処置時の注意点および合併症
1)炎症を繰り返している場合や再発例の場合は,舌下腺の摘出が望ましい。
2)ワルトン氏管の損傷に注意を要する。
3)舌動静脈や舌下神経の枝の損傷を限りなく少なくする。摘出に際し、外頸動脈結紮を要した術中出血の報告もある31)。顎下型の場合、深在性に傍咽頭隙を経て、頭蓋底まで伸展している症例も報告されている32),33)。
予想に反し深く進展している場合があるので、CT、MRIなどの画像検査を参考に慎重な外科処置が必要である。
再発し易い疾患のひとつであり、術後の注意深い経過観察が必要である。統計的に平均再発期間は4ヶ月で、処置法別に、舌下腺摘出術では5-6%の再発率であり、開窓術や嚢胞摘出術では40-46%の再発率であったと報告されている4)。
ガマ腫について、その概要、臨床所見、診断、治療法、合併症、予後などについて、文献報告を加えまとめた。
1) 篠原正徳、左座春喜、友寄喜樹:顎下型ガマ腫(Plunging ranula)の臨床的、組織学的検索:口外誌30、222-230,1984
2) 里村一人、力丸浩一、林 英司:過去10年間のガマ腫39症例の臨床的検討:口科誌44、261-264,1995
3) 松田拓己、浜本宜興、長峰岳司:ガマ腫38例の臨床統計的検討、口外誌41、145-147,1995
4) 斉藤輝海、神野洋輔、藤原成祥:ガマ腫45例の臨床的検討、愛院大歯誌40,259-262,2002
5) Mair,I.W.S.,Schewitsch,I.,et.al.:Cervical ranula.J Lalyngol Otol 93:623-628 1979
6) E.Lloyd DuBrul Sicher:口腔解剖学,医歯薬出版、東京,1990
7) 図解 口腔病理学 久田太郎、須賀昭一、学建書院、1987、P243、東京
8) 口腔外科学 第2版 宮崎正 医歯薬出版、2000,P345-347、東京)
9) 畑毅、自然治癒したと考えられる稀な顎下型ガマ腫の2例 22(1) 43~47 1996
10) 森川 暁、 先天性ガマ腫の1例 日口外誌 51巻 12号 618~621 2005
11) 勝見祐二、先天性ガマ腫の1例 52巻 8号 日口外雑誌,2006
12) 佐藤美樹、小児にみられたガマ腫の臨床的検討 日口外誌 47 12 803~806 2001
13) 秋葉正一、嚢胞内造影X線撮影検査が診断に有効であった顎下型ガマ腫の1症例 日大口腔科学 17 635~640 1991
14) 小林明男、顎口腔領域の超音波診断 ―顎下型ガマ腫についてー 日口外誌 37(11)1819~1825 1991
15) Kurabayashi T et al. Neuroradiology 42: 917-922. 2000
16) 湊川徹、ガマ腫、耳喉 55(10)807-811,1983
17) 迫田隅男、甲状舌管嚢胞と誤診したオトガイ下部ガマ腫の1例 小児口腔外科 7巻、2号、1997
18) 中津留 誠、嚢胞状リンパ管腫の1例 形成外科 38(3) 315-319 1995
19) 市村恵一:特集 嚢胞性疾患 5 ラヌーラ、耳喉頭頸77、381-384、2005
20) 池内忍、加藤 伸、佐藤 豊:OK-432硬化療法が著効した小児ラヌーラの1例、小児口腔外科17、47-50、2007
21) 宇佐見一公、林 康司、服部浩朋:OK-432局所注入療法による顎下型ガマ腫治療の経験、口科誌52、139-142,2003
22) 須賀則幸,鈴木 円,江田 哲ら 顎下型ガマ腫に対するOK-432局注療法 日口診誌 18 2 295-298貢 2005
23) 深瀬 滋,高濃度OK-432注入法によるガマ腫の治療 口咽科 19 2 167~170 2007
24) 横林康男, 吸引・圧迫療法を施行した顎下型ガマ腫の1例 富山県立中央病院医学雑誌 29 3.466-68 2006
25) 高木 慎 持続的開窓圧迫療法を行った小児の舌下―顎下型ガマ腫の2例 小児歯科学雑誌 43(4) 518-521 2005
26) 富岡徳也 粘膜・貯留性嚢胞における切開と縫合 粘液腫、ガマ腫を対象として 歯科ジャーナル22(5)583-589、1985
27) 田代英雄 ガマ腫はなぜ開窓療法で治るのか 歯界展望86(1)220-222 1995
28) 杉本真人,フィブリン糊を用いたガマ腫摘出術の一例 陶生医報,6号 89-92
29) 中島 徹、牧本一男、高橋宏明:硝酸銀注入によるガマ腫の治療法
30) 花沢康雄、早川弥和、岩沢雄幸ら:ガマ腫の硝酸銀注入療法について検討。千葉医学 67 311-317 1991
31) 大長さおり,末野康平,野村泰之,ガマ腫摘出術の合併症 ―外頸動脈結紮を要した出血症例― 埼玉県医学会雑誌35巻3号
32) 中條智恵、傍咽頭隙から頭蓋底に進展した顎下型ガマ腫の2例、新潟歯学会誌 28(2) 1998
33) 梅田裕生 副咽頭間隙まで進展した顎下型ガマ腫例 耳鼻臨床 93 7 565-568 2000
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