Hirschsprung病 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.11.15

Hirschsprung病(ひるしゅすぷるんぐびょう)

執筆者: 吉澤 穣治

概要

 Hirschsprung(ヒルシュスプルング)病は先天性巨大結腸症とも呼ばれ、その名の通り、結腸(大腸)が生まれつき巨大になっている病気です。症状としては、出生直後からおなかがはっていたり、嘔吐や便秘をしたりします。時に腸炎をきたすこともあります。Hirschsprungは人名であり、この病気の原因を報告したデンマークの小児科医Harold Hirschsprung(1830~1916)(図1)から、その名が付けられました。この病気は、約5,000人に1人の割合で発症すると報告されており、日本では一年間に約100万人の赤ちゃんが生まれているので、一年間に約200人、この病気の子供が生まれている計算になります。また、男女比は3:1と男児に多い病気です。

病因

 この病気では結腸が拡張肥大していることが特徴ですが、この病気の本質は拡張した腸管に原因があるのではなく、拡張した腸管よりも肛門側の結腸に原因があります。腸管はホースの様な管で、主に平滑筋とよばれる筋肉でできていて、神経・リンパ管・血管などが筋肉に入り込んでいます。お母さんが妊娠3~7週位に、赤ちゃんの腸は作られます。はじめに胸の付近に短い腸ができ、次第に肛門の方へ伸びていきます。この時、筋肉の管が先に伸びて行き、その後から神経が筋肉の管に沿って伸びて行きます。そして、筋肉は肛門まで到達したにもかかわらず、神経が肛門までに到達せずに、途中までで伸びか止まってしまうと、神経の無い筋肉だけの異常な腸管が肛門の付近にできてしまいます。

 小腸・大腸は蠕動(ぜんどう)運動によって腸管内容を口側から肛門側へと運搬し、その途中で栄養分や水分が体内に吸収されています。この蠕動運動は腸管の筋肉や神経によって制御されていて、ヒルシュスプルング病では、腸管の壁(腸管壁)のなかにある神経、特に神経節細胞がないために腸管の蠕動運動がおこらずに、腸管内の便は移動しません。したがって、これより口側の腸管まで到達した便が、異常な腸管の手前で貯留して、腸管壁を拡張することになります。症状としては、便秘・腹部膨満・嘔吐などがおこります。
また、なぜ、神経の伸びが途中で止まってしまうかという原因の究明が遺伝子のレベルで研究されています。RET・GDNF・EDNRB・SOX10・ZFHZ1B,2Bなどの遺伝子の異常が報告されていて、病気の本質が次第に解明されてきています。

臨床症状

 症状は生まれた後に、胎便(胎児期の便)がなかなか排泄されないこと(胎便排出遅延)、おなかがはっていること(腹部膨満)、そして嘔吐などがみられます。便が排出されないために、多量の便が腸の中にたまって、泣いたときに飲み込む空気も腸管内にたまり、腹部は膨満し、あふれ出したものが嘔吐としてみられます。このために、ミルクを飲むことができずに体重増加不良となります。この状態に、細菌感染が併発すると腸炎を起こし、腸内の圧力上昇が限界を超えると腸管穿孔などの重篤な状態になります。

 また、同時に合併している先天的な異常としては、心臓の異常などが報告されています。

診断・鑑別診断

 診断のためには3つの検査を行い、総合的に判断します。
3つの方法とは注腸(ちゅうちょう)検査・直腸肛門内圧検査・直腸粘膜生検です。さらに、直腸全層生検や遺伝子診断も行われています。

注腸検査


 注腸検査とは、肛門からレントゲンに写る造影剤を注入して、腸の形を見るものです。正常な腸管では大腸の太さはほぼ同じ様に写りますが、ヒルシュスプルング病では、肛門付近の神経のない異常な腸管は細く写り、しだいに口側の拡張した腸管が写ります(図2)。
 


直腸肛門内圧検査


 直腸肛門内圧検査とは、肛門内に圧力を測定する細いセンサーを留置して、肛門内の圧力の変化を測定するものです。この検査は、赤ちゃんが動いてしまうとできない検査なので、うとうとと眠らせるための飲み薬を飲ませて検査しなければなりません。正常では直腸に便が到達すると肛門を引き締める筋肉がゆるみ(内肛門括約筋が弛緩する)、便が排泄されるので、これを圧力の変化でみると、肛門内圧が下がる反射が見られます。しかし、ヒルシュスプルング病では、神経が無いために、この反射が欠如するため、肛門内の圧力の変化がありません(図3)。この検査の信頼性は比較的高いと考えられています。



直腸粘膜生検


 直腸粘膜生検とは、肛門から細い特殊な器具を挿入して、直腸の粘膜の一部を採取し、顕微鏡で観察する検査です。摘出した粘膜はアセチルコリンエステラーゼ染色という方法で染めます。正常では粘膜内には、この染色法で染まる神経線維は見られませんが、ヒルシュスプルング病では、この染色法で染まる太い神経線維が診られます(図4)。ただし、ここで言う神経線維とは、ヒルシュスプルング病の本質である神経節細胞とは異なります。



直腸全層生検


 上記の検査で診断がつかないときには、全身麻酔をして、肛門から直腸の一部分を切除して、直腸壁の筋肉内の神経節細胞の有無を顕微鏡で直接観察する方法です。

分類


 ヒルシュスプルング病は神経節細胞の無い部分の長さによって分類されています。肛門の端から直腸まで神経節細胞が無いものから、神経節細胞の無い部分の長さが長くなると、S状結腸まで無いもの、下行結腸・全結腸・小腸まで神経節細胞が無いものなどと分類されています。広範囲に神経節細胞が無いタイプのものは、女児に多い傾向があります。
 

治療

 嘔吐や腹部膨満が著明であり、ミルクを摂取することができずに、体重の増加が期待できない場合や、拡張した腸管に穴が開いたり(消化管穿孔)、腸炎をきたしたりする時には一時的に人工肛門の造設を正常な腸管に行ないます。人工肛門は、正常な腸を腹部に出して、そこから排便をさせるものです。これにより、ミルクの摂取が可能となり、体重を増加させて、全身状態の回復をさせることが可能です。根本的には異常な腸管を切除して、神経節細胞のある正常な腸管を肛門につなげる手術(根治手術)をおこなう必要があります。 さまざまな方法で根治手術が行われてきました。それぞれの術式には、考案者の名前が付けられ、Swenson法、Duhamel法、Soave法、Martin法などがあります。
 
 しかし、最近では肛門から、異常な腸管を引き出して、これに続く正常な腸管を肛門に縫合する(transanal endorectal pullthrough法)経肛門的方法が主に行われるようになりました。この術式をおこなう時に、腹腔鏡を併用することもあります。傷跡も残らず、手術後の経過も他の術式と比較するとよいとする報告が多く見られます。

予後

 術前・術後を合わせての死亡率は3%であり、病変部が全結腸であるものや小腸にまで及ぶものでは、腸炎や栄養摂取が困難なために15,8%の死亡率であると報告されています。根治手術後の問題(術後合併症)としては、腸炎・排便障害(便失禁・便秘)そして縫合不全などが報告されており、全体として術後約30%の症例でこれらの症状が診られると報告されています。病変部分の長い場合ほど、合併症が多くなります。しかし、transanal endorectal pullthrough法で行なわれた場合や、病変部分の短い場合では、術後、特段の制限なく、学校生活や社会生活が可能となるくらいに、正常な発達が期待できます。

最近の動向

 腹腔鏡を併用した経肛門的方法による術式が多く行なわれるようになり、人工肛門の造設なく、早期に根治手術が行われるようになってきました。これにより、術後の合併症も減少傾向にあると考えられています。 新しい診断法としての遺伝子診断が報告され、さらにこれを治療に結びつける研究が行われています。遺伝子治療は神経節細胞の欠如している部位に、遺伝子を導入して神経節細胞を創り出そうとするもので、今後期待される治療法です。  

(MyMedより)推薦図書

1) 岡田正 著:系統小児外科学,永井書店 2005

2) 甲田英一 ・伊川廣道・山下直哉・他 著、中島康雄・前川和彦 監修:臨床研修医のための画像医学教室―小児科領域,医療科学社 2009

3) 河原 克雅・佐々木 克典 著、坂井 建雄・河原 克雅 編集:カラー図解人体の正常構造と機能 (3) 消化管,日本医事新報社 2000

4) 伊藤美智子:ストーマケア (Nursing mook―Advanced nursing practice (15)),学研 2003
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: