小児のヘリコバクター・ピロリ感染症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.02

小児のヘリコバクター・ピロリ感染症(しょうにのへりこばくたー・ぴろりかんせんしょう)

執筆者: 奥田 真珠美

概要

はじめに

 ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori,以下H. pylori)はエジプトのミイラからも検出されているように古来よりヒトの胃内に存在していたが、世に出て研究されるようになったのは1983年にWarrenとMarshallによる研究論文がLancetに掲載された後である。その後多くの研究により、胃炎や消化性潰瘍、さらには胃がんとの関連が明らかとなってきた。また、H. pylori除菌治療により、鉄欠乏性貧血や慢性血小板減少性紫斑病などが治癒する事もあり、試みられるようになった。本稿では小児のH. pylori感染症の疫学、診断治療について述べる。

1. H. pylori発見の歴史:

 胃内にらせん菌が存在する事は1906年にKrienitzらによって発見され、1919年 には日本のKasai, Kobayashiらがウサギ胃にらせん菌による病変を作成した事を報告した。しかし、1954年にPalmerが1,140例の胃吸引生検組織の検討を行い胃における細菌の存在を否定した。
 1979年 オーストラリアの病理学者であるWarren が胃炎患者の胃粘膜にらせん菌を発見、1982年 Warrenと学位の仕事のために教室で研究していたMarshallが胃生検組織よりらせん菌を分離培養した。この報告後初めて胃に棲息する細菌の存在が世界に認められるようになり、慢性胃炎、消化性潰瘍、胃癌の原因菌であること、さらには慢性血小板減少性紫斑病や鉄欠乏性貧血の原因のひとつとなっている事まで明らかとなってきた。
 後に、WarrenとMarshallの「ヘリコバクター・ピロリ菌の発見と胃炎、胃・十二指腸かいようにおける役割の解明」という功績にノーベル医学生理学賞が授与された。

2.細菌の生物学的特徴:

 H. pylori はグラム陰性のらせん菌で一端または両端に1〜20本の鞭毛を持つ微好気性菌(CO2 5〜10%、O2 5%で増殖)である。胃内の強力な酸から逃れるためによく発達した鞭毛を回転させ、酸度が中性になっている胃粘膜の下層に侵入し、胃粘膜上皮細胞や細胞間隙あるいは粘液内に棲息する。強いウレアーゼ活性を有し、尿素から二酸化炭素とアンモニアを産生し、産生されたアンモニアが酸を中和し周囲の環境を中性に保つことができる。

3.疫学・感染状況,感染経路(図1,2):

 日本人の感染率は二相性で、50歳代以降は70〜80%と非常に高率であるが50歳未満では30〜40%と低い感染率である。国内・外からの報告より感染の多くは小児期に成立し、成人での新たな感染のリスクは低いと考えられている。高い感染層は第二次世界大戦による衛生環境が悪かった時代を過ごした幼少時に感染したものと推測されている。現在の小児の感染率は5〜15%程度であり、感染率は減少してきている。 小児では5歳頃までが感染のリスクが最も高い時期である。急性感染の経過をとることは極めて稀で無症状のうちに感染が成立する。感染経路は家族内が主であり特に母から子への感染が重要であるという報告が多い1,2)
 また、保育施設や障害児施設などでの子供同士の感染も示唆されている。
 感染様式は生活環境や時代により異なる。胃以外で培養やPCR法でH. pyloriが検出されたものは、歯垢、唾液、糞便、嘔吐物、井戸水などで、これらは感染源となりうる。発展途上国では飲料水を介した感染が報告されており、日本も戦後の衛生環境の悪い状況では飲料水を介した感染が多かったと推測される。現在の日本では水道水など飲料水からの感染の可能性はきわめて低いが井戸水からの感染を示唆する報告がある3)



診断・鑑別診断

4.感染診断法(表1)

 現行のH. pylori感染診断の保険適用は以下に限られることに留意が必要である。
『内視鏡検査または造影検査において胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者のうち、ヘリコバクター・ピロリ感染が疑われる患者に対し、次の6項目の検査法のうちいずれかの方法を実施した場合に1項目のみ算定できる。ただし、検査の結果ヘリコバクター・ピロリ陰性となった患者に対して、異なる検査法により再度検査を実施した場合に限り、さらに1回に限り算定できる。 



①迅速ウレアーゼ試験
②鏡検法
③培養法
④抗体測定
⑤尿素呼気試験
⑥抗原測定

1)侵襲的検査法

①培養法:

 唯一の直接的証明法であり、特異性にすぐれている。菌株の保存も可能であり、抗菌薬感受性テストもできる。専用培地が必要で、胃組織を検査機関に送付する際にもH. pylori 用の保存輸送用培地が必須である。

②迅速ウレアーゼ試験:

 胃生検組織中に含まれる菌のウレアーゼ活性(尿素→二酸化炭素+アンモニア)を検出することにより間接的にH. pylori の存在を確認するものである。試薬は尿素とpH指示薬を利用したものでアンモニアが生じることによってpHが上昇し、pHの変化に伴う指示薬の変化で診断する。陰性を確認するための時間は30分から3時間である。迅速かつ簡便で精度は高い。

③検鏡法:

 胃生検組織標本上で菌による組織変化と併せて形態学的にらせん状菌を検出し、同時に組織診断も可能であるが熟練が必要である。検査結果の保存性は高く、組織診断もできる。Warthin-Starry染色が最も有用である。

2)非侵襲的検査法 

 内視鏡を用いずに診断する方法である。 侵襲的検査が検査対象となった組織中のH. pylori 存在の有無を調べる “点診断”に対して、非侵襲的検査は胃の中全体のH. pylori を反映するため“面診断”とされる。

①尿素呼気試験(UBT)(表2):

 非侵襲的診断法のゴールドスタンダードとされ、間接的にH. pylori が持つ強いウレアーゼ活性を測定する方法である。経口的に13C尿素製剤を服用し、胃内にH. pylori が存在すれば尿素は直ちに胃内でアンモニアと13CO2に分解され、13CO2は呼気に排出される。その呼気をバッグ内に採取し、尿素服用前に採取した呼気中の13CO2と比較し増加率から存在を診断する。成人では左側臥位5分、座位15分と体位変換するが、小児では体位変換なしの方法で正確に診断できると報告されている。

 検査対象は呼気を採取でき、“うがい”が可能なものに限られ、乳児(0歳児)では困難である。錠剤が飲めない場合はユービット散100mgを水100mlで溶解し服用するが “うがい”が必要である。表面がフィルムコーティングされた錠剤であればうがいは必要ない。
 うがいを十分に行う理由は、服用した13C尿素がウレアーゼを有する口腔内細菌叢と接触し、口腔内で13CO2を発生し、偽陽性の原因となるため、13C尿素を除去するという目的である。投与量は12歳未満75mg、12歳以上は100mgを目安としている。

 侵襲的診断(培養、ウレアーゼ、組織)をスタンダードとした日本人小児の多施設研究結果4からカットオフ値を3.5‰としており、感度97.8%、特異度98.5%であった。しかし、成人では2.5‰が推奨されており、我々は2.5〜3.5‰はgray zoneとして他の検査法を追加している。抗菌薬や酸分泌抑制薬、特にプロトンポンプ阻害剤(PPI)の内服で偽陰性になる。PPIを2週間以上服用している場合には約50%が偽陰性となる5)
 休薬期間は4週間以上とされているが、これまでの報告では1週間で十分である5)。抗菌薬については明確なものはないが、4週間以上の休薬後に検査をしている報告が多い。



②便中抗原測定法:

 便を採取するだけというきわめて非侵襲的、簡便な方法は乳幼児、重度の障害児も同様に検査ができ、正診率も高いため繁用されるようになっている。小児においても成人と同じカットオフ値が用いられるが、抗菌薬の投与の影響が明らかでないため考慮する必要がある。ELISA法とイムノクロマト法があり、用いられている抗体としてポリクロナールとモノクロナール抗体がある。いずれの検査法も小児において90%以上の感度、特異度が報告されている。

(1) ELISA法:

 HpSA plus Meridian(メリディアン/TFB)はモノクロナール抗体を用いたELISA法で、H. pyloriの複数の鞭毛抗原を認識する抗体を使用したものである。ポリクロナール抗体を用いたメリディアンHpSA ELISA(メリディアン/TFB)に代わって登場した。HpSA plusの検討は少なく、小児ではメリディアンHpSA ELISAを用いた検討が主である。
 Katoら6)は日本の多施設研究で、2〜17歳の小児で尿素呼気試験をスタンダードとして検討し、感度96%、特異度96.8%であり、年齢による差はなかったと報告している。テストメイトピロリ抗原EIA(わかもと製薬/協和メデックス)はH. pylori に特異的な未変性カタラーゼを検出するモノクロナール抗体である。我々の検討であるが、2〜15歳の小児94名についてUBTと尿中抗体(ウリネリザHピロリ)の結果が一致した90名(陽性26名、陰性64名)では感度100%、特異度93.8%と良好の結果であった。

(2) イムノクロマト法:

 日本で使用できるのは2種類で、テストメイトラピッドピロリ抗原(わかもと製薬/日本ベクトンディッキンソン)とイムノカードST HpSA(メリディアン/TFB)である。いずれも希釈した糞便を滴下後5〜10分で判定できる。Kato Sら7)はイムノカードST HpSAを用いた日本の多施設研究で3〜17歳の182名でUBTをスタンダードとすると感度90.6%、特異度95.8%で、年齢による差はなかったと報告している。いずれの報告でも年齢による有用性の差はなかった。

③抗H. pylori抗体測定法:

 小児では抗原として用いられている菌株によってキット間で感度と特異度に差違がみられ、年少児(10歳未満)では特に感度が低い8。さらに現在の感染を必ずしも反映しないため、判断には注意が必要である。乳児では母親からの移行抗体の影響による偽陽性、乳幼児では免疫応答の未熟性による偽陰性などが問題となる。また、γグロブリン投与後数ヶ月は抗体が残るため偽陽性となる。一方、小児に頻回に投与される抗菌薬の影響は受けず、特異度はまず良好でこれらの特性を知っていれば感染の目安となる。

5.関連する疾患:
 小児期ヘリコバクター・ピロリ感染症の診断,治療,および管理指針9)に記載された疾患について除菌治療法が考慮される。

(1)胃・十二指腸潰瘍

 本邦小児においては十二指腸潰瘍の約80%、胃潰瘍の約40%にH. pylori感染が証明される10)。初発・再発を問わず、除菌療法が治療の第一選択である。除菌治療により維持療法なしに潰瘍再発が抑制されることは世界的にコンセンサスが得られている。活動性潰瘍では、除菌治療後プロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬の投与を行うことが望ましい。潰瘍の治癒確認は内視鏡検査で行い、検査時期は除菌判定も考慮し治療開始後8週前後が目安となる。

(2)慢性胃炎

 内視鏡検査と組織検査により診断する必要があり、
a)症状改善を期待し本人および両親が希望する,
b)胃粘膜の萎縮が証明される,
c)胃癌の家族歴を有する場合,特に除菌療法が考慮される。
 しかし、H. pylori慢性胃炎と腹部症状との関連について確立した見解はない。したがって、除菌により症状の消失ないし改善が得られる保証はない。

(3)胃MALTリンパ腫 

 MALT (mucosa-associated lymphoid tissue:粘膜関連リンパ組織)を発生母地とする低悪性度の悪性リンパ腫である。成人領域では除菌による胃MALTリンパ腫の改善は60〜80%程度であり、現在では限局期の低悪性度リンパ腫の治療法の第一選択はH. pylori除菌療法とされている9)。指針ではH. pylori感染が証明されれば、除菌療法を考慮する。菌治療無効例には速やかに他の治療法を選択するとしている。

(4)蛋白漏出性胃症

 除菌治療により血清蛋白値や内視鏡・病理所見の正常化がみられることがある。H. pylori感染以外に原因が見出されない場合に実施する。

(5)鉄欠乏性貧血(表3)

 小児期では消化性潰瘍に次いでH. pylori関連の疾患として重要である。特に10歳以降の年長児の原因不明の鉄欠乏性貧血児の約60〜70%がH. pylori感染があり、除菌成功した症例では貧血が治癒し再発を認めない。H. pylori関連鉄欠乏性貧血は男児に多く、スポーツ貧血との合併でさらに強い貧血を来したと思われる症例もある。年少児の鉄欠乏性貧血における感染率は高くない。



(6)慢性血小板減少性紫斑病(慢性ITP)

 成人のH. pylori陽性慢性ITP患者の約半数が除菌後に血小板増加を認められることが明らかとなってきた。成人では慢性ITPの確定診断後早期にH. pylori診断検査を施行し、H. pylori陽性例に対してのfront-line治療として除菌治療をすることは、EBMとして確立されてきている。小児の報告は少なくコンセンサスが十分とは言えないが、治療抵抗性の症例あるいは無治療で経過観察中の症例(血小板数が正常化しない)における治療選択の一つと考えられる。
 

治療

6.除菌療法(表4)

 まず選択される除菌薬剤はプロトンポンプ阻害剤とアモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用療法である。
 プロトンポンプ阻害剤はランソプラゾール、オメプラゾールにラベプラゾールが追加承認(H19.1.26)された。診断,治療,および管理指針ではランソプラゾール、オメプラゾールに関しては目安となる投与量を設定しているがラベプラゾールは小児で投与の報告が少なく投与量の設定は今後検討の必要がある。薬剤アレルギーに注意し、ペニシリンアレルギーがある場合はメトロニダゾールに変更する。投与期間は7日間が原則であるが小児では14日間投与を推奨する意見もある。
 クラリスロマイシンは成人では1日量400mg、800mgのいずれかを選択できる。副作用として下痢、味覚異常、悪心、発疹などがみられる。除菌成功率は70%前後であり、除菌失敗の主な原因はクラリスロマイシン耐性である。特に小児ではクラリスロマイシン耐性株が増加しておりH. pylori培養による抗菌薬感受性試験を行って治療薬剤を選択する試みもされている。


おわりに

 日本では小児の除菌治療はまだ十分に普及していないように思える。日本の小児の感染率が極めて低く、H. pylori感染のある消化性潰瘍に出会う機会がほとんどないことも理由のひとつであろう。しかしH. pylori除菌で繰り返す胃・十二指腸潰瘍や原因不明の鉄欠乏性貧血が治癒する。小児の診療にこの教科書がお役に立てば幸いである。

参考文献

1) Konno M, Nobuhiro Fujii, Shinichi Yokota, et al: Five-year follow-up study of mother-to-child transmission of Helicobacter pylori infection detected by a random ampligied polymorphic DNA fingerprinting method. J Clin Microbiol 43: 2246-2250, 2005.

2) Konno M, Yokota S, Suga T et al. Predominance of Mother-to-child transmission of Helicobacter pylori infection detected by random amplified polymorphic DNA fingerprinting analysis in Japanese families. Pediatr Infect Dis J. 27: 999-1003, 2008

3) 苅田幹夫、ほか:小児のHelicobacter pylori感染経路−環境因子 井戸水飲水歴の重要性.Helicobacter Research 8: 221-229, 2004

4) Kato S, et al: Diagnostic accuracy of 13C-urea breath test for childhood Helicobacter pylori infection. Am J Gastroenterol 97: 1668-1673, 2002

5) 加藤元嗣,清水勇一,小路えり子,武田宏司,浅香正博:除菌判定におけるUBTの問題点と対策—口腔内細菌による偽陽性—、日本臨床63 suppl 11 : 221-225, 2005

6) Kato S, Ozawa K, Okuda M, Fujisawa T, Kagimoto S, Konno M, Maisawa S, Iinuma K: Accuracy of the stool antigen test for the diagnosis of childhood Helicobacter pylori infection: A multicenter Japanese study. Am J Gastroenterol 98 : 296-300, 2003

7) Kato S, Ozawa K, Okuda M, Nakayama Y, Yoshimura N, Konno M, Minoura T, Iinuma K; Japan Pediatric Helicobacter Study Group: Multicenter comparison of rapid lateral flow stool antigen immunoassay and stool antigen enzyme immunoassay for the diagnosis of Helicobacter pylori infection in children. Helicobacter 9: 669-673, 2004

8) Okuda M, Miyashiro E, Koike M, Tanaka T, Bouoka M, Okuda S, Yoshikawa N.  Serodiagnosis of Helicobacter pylori infection is not accurate for children aged below 10. Pediatr. Int 44: 387-90, 2002

9) 加藤晴一,他:小児期ヘリコバクター・ピロリ感染症の診断,治療,および管理指針.日本小児科学会雑誌109:1297-1300,2005

10) Kato S, et al. The prevalence of Helicobacter pylori infection in Japanese children with gastritis or peptic ulcer disease. J Gastroenterol 39: 734-738, 2004

11) 今野武津子,他:Helicobacter pylori胃炎によると考えられる鉄欠乏性貧血.日本小児血液学会雑誌17:352-357,2003  

(MyMedより)推薦図書

1) 『Helicobacter Research』編集委員会 監修、高橋信一 編集、浅香正博 編集:Helicobacter pylori診断・治療の保険診療―地域による実際と問題点を探る,先端医学社 2006

2) 伊藤慎芳 著:ピロリ菌―日本人6千万人の体に棲む胃癌の元凶,祥伝社 2006
 

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