急性腎炎症候群 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

急性腎炎症候群(きゅうせいじんえんしょうこうぐん)

acute nephritic syndrome

執筆者: 岡田 浩一

概要

 WHOの定義による臨床症候群分類のひとつである急性腎炎症候群は、腎実質(本来は糸球体)の急性炎症を基に血尿/蛋白尿や円柱尿を呈し、浮腫や高血圧を合併する疾患群に対する総称である。
 従来は急性溶連菌感染後性糸球体腎炎(acute poststreptococcal glomerulonephritis; APSGN)がその代表疾患であったが、我が国を含めた先進国ではAPSGNの発症が減少したため、現在は表1に示す多様な疾患に対して急性腎炎症候群という病名が用いられる。そこには典型的な急性腎炎症候群に加えて、無症候性血尿・蛋白尿に近い軽症例から、乏尿や急性腎不全を伴う重症例までの多彩な臨床像が含まれる。
 急性腎炎症候群と診断される患者については、治療適応となるような急性炎症があるのか、あるとすれば糸球体か間質か、その炎症を惹起している原疾患は何かなどの質的診断を進める一方で、腎機能の低下はあるか、あるならば進行性か、腎外症状はあるかなどの量的診断を迅速に進める必要がある。多くの場合、後者の状況に応じて専門医や高次機能病院への紹介や透析導入の必要性、腎生検診断の緊急性などが判断される。 

表1 急性腎炎症候群を呈する、もしくは鑑別を要する主要疾患/病態

1. 急性感染後性糸球体腎炎(急性溶連菌感染後性糸球体腎炎を含む)
2. IgA腎症*
3. Henoch-Schonlein紫斑病性腎炎
4. ループス腎炎*
5. 半月体形成性糸球体腎炎(ANCA関連血管炎、Goodpasture症候群など)*
6. クリオグロブリン血症
7. 特発性膜性増殖性糸球体腎炎(I型、II型など)
8. 巣状糸球体硬化症
9. 急性間質性腎炎
10. 血栓性微小血管症(HUS、TTP、加速型高血圧(悪性高血圧)など)*
11. 慢性糸球体腎炎/遺伝性腎炎/良性腎硬化症の初診時/急性増悪など

*当該章も参照(その他、腎実質障害を伴わない良性血尿/蛋白尿や尿路系疾患(尿路結石、尿路感染など)による血尿も、初診時には鑑別すべき疾患として留意する必要がある。)

病因

 APSGNはもはや急性腎炎症候群を代表する疾患ではないが、その他の疾患は他章で扱われるため、本章ではAPSGNを中心に他疾患との相違点を示しつつ説明を加える。
 APSGNは猩紅熱罹患後に潜伏期間をおいて発症する腎疾患として、1672年に初めて報告された。かつては感染を契機に急性発症する糸球体腎炎の80~90%がA群β溶連菌による扁桃炎もしくは皮膚感染症を原因とするAPSGNであり、好発年齢は溶連菌の初感染を受ける4~12歳で、2:1で男性に多かった。
 しかし近年は、先進国を中心に衛生環境の改善と抗生物質治療の徹底から溶連菌感染症が減少し、代わってぶどう球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSAを含む)や肺炎球菌、クレブジエラなどのグラム陰性桿菌、ヘルペス、サイトメガロ、EBなどのウイルス、リケッチア、真菌、原虫の感染による急性糸球体腎炎の発症頻度が相対的に増加している。
 また好発年齢も高齢化し、糖尿病などの基礎疾患に合併することが多くなっている。そのため、近年はAPSGNに代えて急性感染後性糸球体腎炎(acute postinfectious glomerulonephritis; APIGN)という病名が用いられるようになった4,5)
 細菌性心内膜炎や脳室シャント感染に関連する急性糸球体腎炎は、従来より独立した腎疾患として扱われてきたが、APIGNの範疇に組み込まれつつある。
 現在、APIGNの二大病巣は上気道炎(24%)と皮膚感染症(16%)であり、特に後者の約70%は糖尿病患者に認められる。最終的にAPIGNと診断される患者の約10%には、先行感染が証明されない。起因菌としては、連鎖球菌(28%)、ブドウ球菌(17%)、グラム陰性桿菌(10%)の順となっているが、半数近い症例で起因菌が同定されない。溶連菌感染後にはリウマチ熱とAPSGNの発症が認められるが、両者の合併例がないことから腎炎惹起性の溶連菌株の存在が推定されたが、現在まで同定には至っていない。

病態生理

 急性腎炎症候群の中心となる APIGNの内で、糸球体炎発症の病態生理が詳細に検討されているのはAPSGNである3, 6)。APSGNの原因となる腎炎惹起性分子の代表は、菌体外成分のstreptococcal pyrogenic exotoxin B (SpeB)とわが国の吉澤らが同定した菌体内成分のnephritis-associated plasmin receptor (NAPlr)である。
 APSGN患者血清中には抗SpeB抗体が高率に存在し、流血中で形成され糸球体基底膜(GBM)で捕獲される、もしくは陽性荷電のためにGBMに吸着されるSpeBに抗体が結合する形で形成されたSpeB-抗SpeB抗体免疫複合体(immune-complex;IC)が糸球体に証明される。前者は内皮細胞下に沈着し、後者は上皮細胞下で特徴的なhumpを形成する。
 SpeBがやはり菌体成分であるストレプトキナーゼにより活性化されたプラスミンに結合すると、プラスミン活性の不活化が阻害されて糸球体障害作用が持続する。またNAPlrもメサンギウム基質やGBMと親和性が高く、APSGN発症早期の患者糸球体に高率に検出され、局所においてプラスミンを捕獲/活性化し、やはり持続的に糸球体を障害する。

 APSGNではSpeBやNAPlr を抗原とするICが糸球体に観察され、また約70%のAPSGN患者の血中にICが検出されるため、一般的にはIC病と認識されている。しかし非腎炎発症患者の血中にもICが検出されるため、ICの存在もしくはその血中レベルと腎炎惹起性との関連性は否定的である。またSpeBとNAPlrは直接的に補体のalternative経路を活性化する性質を有しており、APSGNの実質的な組織障害はこの経路を介していると考えられ、APSGN患者の血中補体値の変動もC3の低下が主体である。
 プラスミンや補体活性化により糸球体においてケモカインや細胞接着因子の発現が誘導され、好中球や単球の局所浸潤が惹起され、典型的なAPSGNの糸球体病変が形成されると考えられている。

臨床症状

  急性腎炎症候群はAPSGNを代表疾患として定義されており、当然、その三主徴(血尿、浮腫、高血圧)もAPSGNのものである。ただしこれらの症状に疾患特異性はなく、表1に示されたほとんどの疾患がこれらの症状すべて、もしくは一部を呈する。さらにループス腎炎や血管炎症候群、全身状態不良な患者に発症するAPIGNなどは、この他に多彩な腎外症状を呈する。
 典型的な急性腎炎症候群の患者は、肉眼的血尿や浮腫を主訴に医療機関を受診するが、多くの非典型例ではチャンス血尿・蛋白尿として、または腎外症状の原因検索の過程で検尿異常や腎機能障害を指摘されて、専門医に紹介受診となる。また近年は、重症糖尿病や外科手術後などの全身状態不良な患者の急性腎炎症候群に対し、専門医のコンサルテーションが求められる場合が多くなっている。いずれの場合にも大切な鑑別診断上のポイントを以下に述べる1-3)

1)腎疾患の既往


 学校検尿やそれ以降の検診における検尿異常や高血圧の有無、肉眼的血尿や浮腫の既往を確認する。糖尿病患者では、経過や治療歴を聴取し、糖尿病性腎症の可能性を評価する。
 経産婦では妊娠中の経過も重要であり、高度な妊娠高血圧症候群の合併は、妊娠前からの慢性腎炎症候群の存在、もしくは現在まで遷延する妊娠高血圧症候群の後遺症の可能性を示唆する。
 遺伝性腎炎の鑑別のためには、家族歴を確認する。ここでほとんどの慢性腎炎症候群とその急性増悪を急性腎炎症候群から除外することが可能となる。ただしAPIGNは糖尿病性腎症に合併し、その急性増悪の臨床像を呈することがあるので注意が必要である4,5)

2)先行感染・薬剤使用歴


 急性腎炎症候群を疑われた時点から遡って、数ヶ月間の感染や体調変化のエピソードを聴取する。APSGNの場合には、上気道感染後1~2週間、皮膚感染後では3~6週間後に発症することが多く、潜伏期間が1~4日と短い場合には、慢性腎炎症候群の急性増悪である可能性が高くなる。
 糖尿病患者の壊疽や骨髄炎、外科手術後の創部感染などはブドウ球菌やグラム陰性桿菌によるAPIGNを示唆する4,5)。ただしこれらの先行感染とAPIGN発症との時間関係は不定で、感染症の診断時に検尿異常が同時に見つかる場合もある。
 薬剤性急性間質性腎炎における原因薬剤の摂取から発症までの期間は、2週間から数ヶ月間にまで渡るため、その期間に服用した薬剤に関して詳しく聴取する必要がある。

3)初発症状・身体所見


 血尿、浮腫、高血圧を三主徴として発症する典型的なAPSGNはごく限られており、有意な身体所見を欠く症例も多い。全身状態不良で免疫力の低下した患者に合併するAPIGNでは、腎炎症状よりも感染症の症状が主体となる。
 急性間質性腎炎では、急性腎不全による全身倦怠感や食思不振などの非特異的な尿毒症症状を初発症状とする場合がある。高血圧や腎不全が高度な場合にうっ血性心不全を合併することもあり、もともとの心予備能に応じて修飾されるため原疾患の鑑別診断に寄与することは稀だが、発熱や心雑音の出現を伴った場合には感染性心内膜炎を疑う。
 またHenoch-Schonlein紫斑病性腎炎やループス腎炎、クリオグロブリン血症、半月体形成性糸球体腎炎や血栓性微小血管症などの全身性疾患では、発熱、皮膚や関節、呼吸器や中枢神経などの腎外症状が顕著となる場合がある。これらの腎外症状は各疾患に比較的特異性があり、鑑別診断に有用である。

①血尿
 顕微鏡的血尿は必須の尿所見であるが、肉眼的血尿を伴う場合には、APSGNを含めたAPIGN、IgA腎症や急性間質性腎炎が疑われる。血栓性微小血管症の際の溶血によるヘモグロビン尿は、肉眼的血尿や濃縮尿として表現される場合があるので注意が必要である。

②浮腫
 APSGNに特徴的な浮腫は、顔面、特に眼瞼周囲に初発し、早朝起床時に顕著となるが(“腎炎顔貌”)、高度の全身性浮腫は稀である。これは浮腫の原因が低アルブミン血症ではなく、軽度の乏尿(ナトリウム排泄障害)と血管透過性亢進によるためと考えられる。
 血管透過性亢進が高度になると、軽度の溢水状態で肺水腫を呈する場合もある。乏尿の遷延や無尿が認められる場合には、半月体形成性糸球体腎炎や(急性腎炎症候群ではないが)尿路系疾患を考慮する必要がある。
 一方、ネフローゼ症候群を呈するループス腎炎や膜性増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症の場合には、夕方に顕著となる下腿浮腫で初発し、全身性浮腫へと進行することが多い。稀に重症APSGN(garland型)でもネフローゼ症候群を呈することがあり7)、またAPIGNでは40%の症例でネフローゼレベルの蛋白尿を認める4,5)

③高血圧
 APSGNの50%以上、APIGNの30%以上の患者に新たな血圧上昇を認めるが、重篤なものは少なく加速型高血圧は呈さない。その他の急性腎炎症候群でも、多くの症例で何らかの高血圧を合併する。
 その原因として本態性高血圧が並存するのか、または本態性高血圧が原因の腎障害(良性腎硬化症)なのか、もしくは急性腎炎症候群による血圧上昇(腎性高血圧)なのか、通常正確な判断は困難であり、高血圧と腎疾患の既往の有無(発症の前後関係)が明らかな場合にのみ、推定することが可能となる。
 頭痛や視力障害を伴う加速型高血圧を呈する場合にも、それが急性腎炎症候群の原因なのか結果なのか、それとも慢性腎炎症候群の急性増悪による血圧上昇(わが国の加速型高血圧の最多の原因)なのか、やはり既往が明らかではない場合に的確な判断は困難である。

検査成績

1)検尿


 上述のように顕微鏡的血尿は必須の所見であり、変形赤血球および赤血球円柱の存在は糸球体性血尿を示唆するが、表1に挙げた急性腎炎症候群のうち、急性間質性腎炎を否定する以上の鑑別診断には役立たない。血尿の程度と急性腎炎症候群の重症度や予後とは相関せず、逆に肉眼的血尿を呈するIgA腎症は予後良好とする報告も認められる。
 糸球体性血尿の特徴を欠いた血尿については、急性間質性腎炎の可能性は残るが尿路系疾患の存在を念頭に精査を進める必要がある。血尿と同時に蛋白尿を認める場合にはより強く腎実質障害の存在が示唆されるが、良性蛋白尿を否定するために早朝第一尿を評価することが重要である。特に1g/日以上、または早朝尿での1g/gクレアチン以上の蛋白尿は、糸球体病変由来と考えられる。
 蛋白尿がネフローゼ症候群レベルの3.5g/日に達している場合には、尿中沈渣に脂肪円柱や卵円脂肪体などが出現し、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎や巣状糸球体硬化症を考慮するが、上述のようにAPIGNやgarland型APSGN、Henoch-Schonlein紫斑病性腎炎、NSAIDによるアレルギー性急性間質性腎炎でもネフローゼ症候群を呈することがある。
 1g/日未満の蛋白尿で、尿中のβ2ミクログロブリン排泄量やNAG逸脱量の有意な増加を伴う場合には、尿細管障害の存在を示唆しており、急性間質性腎炎を考慮する。顆粒円柱の出現は非特異的な尿細管障害の存在を示しており、鑑別診断上は良性血尿/蛋白尿を否定する所見である。APIGN、半月体形成性糸球体腎炎や急性間質性腎炎では無菌性膿尿や白血球円柱を呈する場合があり、鑑別診断上の重要な所見であるが、思春期以降の女性は慢性尿路感染を伴う頻度が高く、注意が必要である。

2)末梢血


 左方移動を伴う白血球増多は感染の合併を示唆しており、感染性心内膜炎を含めたAPIGNを考慮する。また好酸球増多はアレルギー反応の亢進を示唆しており、アレルギー性急性間質性腎炎やANCA関連血管炎による半月体形成性糸球体腎炎を考慮する。腎機能障害とともに正球性正色素性貧血を認める場合には、急性腎不全ではなく、慢性腎不全による腎性貧血の可能性を示唆する。
 尿路系疾患による大量出血を除けば、肉眼的血尿であっても貧血の原因になることは稀であるが、ANCA関連血管炎やGoodpasture症候群の肺胞出血では急激な貧血の進行を認める場合がある。
 白血球減少や血小板減少を単独、もしくは貧血と組み合わせて認める場合には、ループス腎炎の可能性が示唆され、また血小板減少に破砕赤血球を認める場合には、血栓性微小血管症を考慮する。

3)生化学


 腎機能の指標として、血清クレアチニン、BUN、シスタチンCなどが測定されるが、腎実質障害の重症度の指標とはなっても原疾患の鑑別診断にはあまり役立たない。ただし急性腎不全におけるBUN/クレアチニン値上昇やFENa低下は腎前性の要因を示唆する所見であるが、APSGNや半月体形成性糸球体腎炎による腎性急性腎不全の初期にはこのパターンをとることがあり、注意を要する。
 CRPの上昇は炎症の存在を示唆しており、感染によるAPIGNや血管炎症候群による半月体形成性糸球体腎炎を疑う。薬剤アレルギーによる急性間質性腎炎の際には、同様のアレルギー機序による薬剤性肝障害を合併することがある。また血栓性微小血管症では血管内溶血に対応してLDH上昇、ビリルビン上昇とハプトグロビン低下を認める。

4)免疫・細菌学的検査


 血清補体値の低下の有無およびそのパターンは、急性腎炎症候群の鑑別診断には特に重要である(後述)。その他の重要な検査としては、ASO/ASK/抗DNaseB(APSGN)、抗核抗体/Sm抗体(ループス腎炎)、MPO-およびPR3-ANCA(ANCA関連血管炎)、抗GBM抗体(Goodpasture症候群)、HB抗原(血管炎症候群)、抗HCV抗体(膜性増殖性糸球体腎炎、混合型クリオグロブリン血症)、クリオグロブリン(クリオグロブリン血症、APIGNの一部)、免疫グロブリン上昇(IgG/IgM上昇(APSGN)、IgG/IgA上昇(MRSA腎症)など)、咽頭/血液培養(APIGN)などは、原疾患の鑑別診断の上で有用である。ただしこれらすべてをルーティンに測定する必要はなく、原疾患の絞込みをある程度行なった後の確定診断のための検査と考えるべきである。
 APSGNではASOの陽性化率が最も高く、溶連菌感染後数日で上昇しはじめ、3~5週で最高値となる。その後半数は6ヶ月で、約3/4は1~2年で正常化する。皮膚感染症では、ASOよりも抗DNaseBが高率に上昇する。また先行感染局所からの溶連菌の検出率は40%に満たず、一方、健常者の咽頭培養から約20%検出されることから、APSGNの診断における局所検体による培養結果の解釈は、参考程度と考えるべきである。

5) 腎生検


 急性腎炎症候群の鑑別診断上、もっとも診断能力の高い検査であり、同時に治療方針を計画するための重要な情報も得られる。しかしリスクを伴う高侵襲性の検査であり、適応は慎重に判断する必要がある。たとえば明らかな良性血尿/蛋白尿の場合には、腎生検の必要はない。
 一方、変形赤血球や赤血球円柱を伴う明らかな糸球体性血尿の場合、特に0.5g/日以上の蛋白尿を伴う場合には腎生検の適応と考えられるが、各疾患の典型例に対してはその必要性を充分に考慮して判断する。診断困難な症例、およびネフローゼ症候群や急性腎不全などを呈する症例に対しては、積極的に腎生検を施行する。APSGNに関する典型的な組織所見は後述する。

6)画像診断


 ほとんどの画像検査は、急性腎炎症候群の鑑別診断における補助検査である。胸部X線ではうっ血性心不全や胸水貯留、浸潤/結節影などの異常陰影の有無を検索する。
 心不全の有無は高血圧や腎機能障害の評価や心内/外膜炎の診断に重要である。
 心内/外膜炎が疑われる症例は、心エコーの適応となる。両側性の胸水貯留では心不全やネフローゼ症候群の際の体液量過剰を、また片側性の場合には感染やSLEによる胸膜炎を考える。
 浸潤/結節影の場合、呼吸器感染症や血管炎(MPO-ANCA関連血管炎)、肉芽腫(Wegener肉芽腫症)、肺胞出血(Goodpasture症候群)を考え、必要に応じて胸部CTや気管支鏡検査を追加する。
 腹部エコーやCTによる腎形態の観察では、腎サイズの評価が重要である。腎萎縮は慢性に経過している基礎疾患の存在を示している。
 一方、腎腫大は特殊な病態(糖尿病、アミロイドーシス、腎静脈閉塞など)を除けば腎実質の浮腫性変化であり、半月体形成性糸球体腎炎や急性間質性腎炎などのびまん性の高度な炎症の存在、もしくはネフローゼ症候群による浮腫を示唆する。
 ガリウムシンチグラフィも腎実質のびまん性炎症により集積像を示すが、ネフローゼ症候群や腎癌などでも陽性像を呈するため特異性に欠ける。APIGNの原因となる感染巣は、胸腹部CTやガリウムシンチグラフィ、心エコーや椎骨MRIなどで捉えられることがある。

診断・鑑別診断

 急性腎炎症候群の腎生検前診断としては、上述の病歴、身体所見、非侵襲性検査所見によりかなりの絞込みが可能である。その内でも、特徴的な臨床経過や腎外症状、血清補体値の変動および疾患特異的な自己抗体の出現は特に重要である。表2に補体値の変動パターンと自己抗体その他による鑑別診断を示す1-5)

表2. 補体値パターンによる鑑別診断 
表2  
 非侵襲性検査所見によって診断が困難な場合、腎生検による組織診断が行なわれる。以下に、APSGNに特徴的な組織所見を示す。その他の疾患の組織所見に関しては、他章または成書をご参照頂きたい。  

光学顕微鏡所見(図1)


 典型的な糸球体病変はびまん性の全節性管内増殖であり、毛細血管内腔を充満するように内皮細胞およびメサンギウム細胞の増殖と多数の好中球浸潤を認める。高度に障害された糸球体には、細胞性半月体の形成を伴う。尿細管周囲間質への細胞浸潤や、尿細管腔に赤血球円柱や白血球円柱の形成を認める場合がある。
 回復期(6週以降)になると好中球が消退し、続いて内皮細胞やメサンギウム細胞による管内増殖像も軽減し、メサンギウム領域に限局する軽度のメサンギウム細胞増殖像のみが残存する。この軽微な病理所見は長期に存在することが知られており、小児例では4~5年後にも半数に残存する。
 GBM二重化の目立たない膜性増殖性糸球体腎炎(1型)や好中球浸潤の目立つHenoch-Schonlein紫斑病性腎症は、APSGN類似の光学顕微鏡的所見を示すことがあり、鑑別に注意を要する。APSGNを除いたAPIGNの組織像は多彩で、86症例の検討では、85%がびまん性〜巣状管内増殖性糸球体腎炎、8%がメサンギウム増殖性糸球体腎炎、5%が半月体形成性糸球体腎炎、2%が膜性増殖性糸球体腎炎であった3,4)

図1
図1. APSGN光学顕微鏡所見 (Hematoxylin-Eosin染色) (X100) (慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 小西孝之助博士より提供)

蛍光抗体所見(図2) 7)


 光学顕微鏡で高度の管内増殖を認める急性期には、糸球体毛細血管壁とメサンギウム領域に粗大顆粒状のC3とIgGの沈着(starry sky型)が観察されるが、C1qやC4などの補体early componentの沈着は認められない。回復期になるとIgGの沈着は減弱し、またC3の分布もメサンギウム領域中心(mesangial型)となる。特に大型の顆粒が糸球体毛細血管壁に沿って連続性に認められるものはgarland型と呼ばれ、重症型で高頻度にネフローゼ症候群を合併し、また慢性の経過をたどり易い。  

図2
図2. APSGN蛍光抗体所見 (補体C3; garland型) (X100) (慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 小西孝之助博士より提供) 

電子顕微鏡所見(図3)


 APSGNに特徴的な超微細病変としては、散在性に認められる大型の上皮下沈着物”hump”が挙げられる。免疫電子顕微鏡の検討により、このhump内にはIgG、C3とSpeBが証明されており、膜性腎症の際の上皮下沈着物の場合と同様にin situ IC形成機序によって形成されると考えられる。
 重症例ではhumpの数が多い傾向があり、平行して好中球浸潤も高度となる。また大型で密に連続性に存在するものはatypical humpと呼ばれ(garland型)、予後不良所見とされる。
 その他のAPIGNではhumpは稀であるが、コアグラーゼ産生ブドウ球菌によるAPIGNや膜性増殖性糸球体腎炎(1型)でもhumpが観察されるため、著明な内皮下沈着物とメサンギウム細胞の内皮下間入~GBM二重化の所見が、APSGNとの鑑別診断の上で重要となる。

図3
図3. APSGN電子顕微鏡所見 (←; hump) (X5,000) (埼玉医科大学国際医療センター小児救急センター科長 森野正明教授より提供)

治療

 ここでは、APIGNに対する基本的治療を扱う2-5)。その他の疾患の治療については、他章および成書をご参照頂きたい。

 安静・生活制限:典型的な急性腎炎症候群では、自覚症状に関わらず基本的には出来る限りの安静が必要である。特に病初期の1~2ヶ月は自宅安静が望ましく、その後も約1年間は過激な運動や妊娠を避けるよう指導する。また浮腫や腎機能障害の認められる期間は、水分(前日尿量と不感蒸泄分を目安)と食塩(3~8g/日)、また蛋白質やKの摂取制限が必要となる。カロリーに関しては、従来は充分な摂取が推奨されていたが、現在は体格と安静度に応じて必要なカロリーを摂取すればよいとされている。

浮腫・乏尿

 軽度の浮腫は食事療法と安静で改善するが、著明な場合にはループ利尿薬を用いる。

高血圧・心血管系合併症

 水、Na貯留の結果、循環血漿量が増加して高血圧~うっ血性心不全の原因となり、腎機能障害の合併により増悪する。従って軽度の場合には食事療法、中等度以上の場合はループ利尿薬を基本とした降圧療法を行なう。降圧目標のエビデンスはないが、拡張期血圧90mmHg以下が経験的な目安となる。併用薬としては、ACE阻害薬/アンジオテンシン受容体拮抗薬、Ca拮抗薬、α遮断薬、中枢性交感神経抑制薬を使用する。

腎機能障害

 急性腎不全の透析導入基準で確立されたものはなく、保存的治療で管理不能な溢水(肺うっ血、心不全など)や尿毒症症状に対して血液透析を導入する。

先行感染

 APSGNに関しては、発症機序からしても腎炎自体に抗生物質治療は無効である。しかし病初期には、病巣感染の持続および再燃の予防を目的に、ペニシリン系ないしセファロスポリン系の抗生物質投与が経験的になされることが多い。一方、その他のAPIGNで現行感染が関与する場合(感染性心内膜炎やMRSA腎症など)、積極的な抗生物質投与が中心的治療となる。

免疫抑制療法

 APSGNを含むAPIGNには、原則として免疫抑制療法は不要と考えられ、特に現行感染があるAPIGNでは相対的禁忌とされる。ただしgarland型APSGNや進行性の急性腎不全を呈するAPIGNでは、感染コントロールが得られた後にステロイド療法が行なわれた症例報告も散見されるが、有効性は証明されておらず、確立された治療プロトコールもない。

予後

 ほとんどのAPSGN(starry sky型およびmesaigial型)では自然に腎炎症状が終焉し、臨床的な改善傾向が発症後4日から14日に認められる。通常は上昇した血清クレアチニンレベルも4週で正常化し、蛋白尿は2~3ヶ月、血尿は6ヶ月程度で消失する。小児では10%、成人では30%の症例(特にgarland型)で血尿/蛋白尿が慢性化し、慢性腎炎症候群に移行して腎性高血圧や慢性腎不全を合併する症例がある。先進国においてはこのような典型的APSGNの新規発症例は減少している一方、基礎疾患を有する高齢者に好発するAPIGNは増加しており、約20%の患者が末期腎不全に至り、また25%以上の患者が慢性腎不全状態となる。
 若年、腎生検時の血清クレアチニン低値、基礎疾患の欠如は、APIGNの完全緩解と有意に相関している。一方、高齢、男性、免疫力低下、経過中の血清クレアチニン高値は慢性腎不全のリスクとなるが、尿所見や腎組織所見と予後とは相関しない。特に糖尿病性腎症にAPIGNが合併した患者の予後は不良で、80%以上の患者が末期腎不全に至る。その他の疾患の予後に関しては、他章や成書を参照して頂きたい。

最近の動向

 上述のように、近年は非APSGNのAPIGNが増加しているが、これらは原因菌の相違だけではなく、異なる病態を有する多様な疾患群である。その内では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染症の増加に伴い、わが国を中心にMRSA感染に関連した糸球体腎炎の報告が増えており、MRSA腎症としてその病態が明らかにされつつある8,9)
 その特徴としては、MRSA感染(深部膿瘍、創部感染、下肢壊疽など)の発症から5~10週後に高度の血尿/蛋白尿で発症し、高頻度に肉眼的血尿やネフローゼ症候群を呈し、急性腎不全を合併する。患者はMRSA感染の存在からも分るように、糖尿病や外科手術後などの基礎疾患を有する症例が多い。
 血清IgAとIgGの増加を伴なうが、補体値の低下は認めず、通常ANCAやクリオグロブリンは陰性である。糸球体病変はメサンギウム領域から毛細血管内の細胞増殖で、蛍光抗体法によりIgAを含むICの沈着がメサンギウム領域に観察され、IgA腎症との鑑別が問題となる。また紫斑をともなう場合には、Henoch-Schonlein紫斑病性腎症との鑑別が問題となる。
 電子顕微鏡でもhumpは認められず、IgA腎症と同様に内皮下からパラメサンジウム領域にかけて沈着物を認める。急性腎不全を呈する症例では、半月体形成に加えて高度な尿細管間質性腎炎(尿細管壊死、間質細胞浸潤など)を伴う場合が多い。通常、IgA沈着の目立つAPIGNの場合でも、血清補体値(C3、C4)の低下、びまん性の管内増殖像、電子顕微鏡によるhumpの証明から、IgA腎症との鑑別は比較的容易であるが10)、MRSA腎症では鑑別困難な症例が少なくない。 
 
 病因としてはMRSAのenterotoxinがスーパー抗原として抗原提示細胞上のMHCクラスII分子に結合し、T細胞受容体Vβ鎖を介して非特異的にT細胞を活性化する結果、IL-2、TNFαやIFNγなどの高サイトカイン血症とランダムなB細胞活性化によるIgA/IgG産生亢進を介して、重症型のIC型糸球体腎炎・尿細管間質性腎炎を発症させると推定されている。さらにMRSAの細胞壁成分が、抗原としてIC形成に関与する可能性も指摘されている。
 実証された有効な治療法はないが、全身状態不良で免疫力の低下した患者におけるMRSA感染が原因となっているため、全身状態/基礎疾患の改善とMRSA感染症に対するバンコマイシンなどによる抗生物質治療が優先され、糸球体病変を標的としたステロイドや免疫抑制薬の使用は相対的禁忌であり、感染制御の後に考慮されるべきである。

参考文献

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2)Vinen CS, Oliveira DBG. Acute glomerulonephritis. Postgrad Med J 79:206-213, 2003  

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執筆者による主な図書

1) 日本腎臓学会 編集:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009,東京医学社

2) 富野康日己 監修:EBM腎臓病の治療2008-2009,中外医学社

3) 松本邦夫、田畑秦彦 監修:細胞増殖因子と再生医療,メディカルレビュー社

執筆者による推薦図書

1) 柴垣有吾 著:体液電解質異常と輸液 3版,中外医学社

2) 前崎繁文 編集:感染症内科クリニカルスタンダード,文光堂

(MyMedより)その他推薦図書

1) 片渕律子 著:腎生検診断Navi,メジカルビュー社 2007

2) 岩田健太郎 編・著:感染症999の謎,メディカルサイエンスインターナショナル 2010

3) 大井洋之 著:最新 腎臓病がわかる本,春秋社 2004
 

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