偽膜性大腸炎 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.09.13

偽膜性大腸炎(ぎまくせいだいちょうえん)

pseudomembranous colitis

執筆者: 板橋 道朗

概要

 偽膜性腸炎は、急性出血性腸炎、MRSA腸炎とともに抗菌薬関連腸炎の一つである。抗生物質の投与がClostridium difficileの増殖を加速し、放出された毒素が傷害性を発揮し偽膜性大腸炎を発症する1)。Clostridium difficileは大型の嫌気性グラム陽性桿菌で芽胞を形成し、破傷風菌、ボツリヌス菌などの仲間である。

 起因薬剤としては、第II世代セフェムや第III世代注射剤が目立つが、カルバペネム系薬剤やニューキノロン系にまで及んでいる。どの抗生物質でも、どの投与ルートでも偽膜性腸炎が発症しうる可能性がある。

病因

病因・病態生理


 偽膜性腸炎はClostridium difficileが産生するtoxinが原因であり、A, Bの2種類が存在する。

 toxin Aは強力なenterotoxinであり、構造は異なるもののcholeratoxinと同様の働きを示し、腸液の増加と腸管血管・粘膜の透過性の亢進を来たし腸液と蛋白の漏出から下痢を引き起こす2)。

 toxin Bは単独での細胞障害性は弱いが、toxin Aにより細胞透過性が亢進した状態ではtoxin Bが細胞内に容易に入り込み、強い細胞障害性を発揮し病状を悪化させる。Toxin Bはtoxin Aの1,000~10,000倍の毒性を持つとされ、同様に後者の経路が想定されている。また、toxin Aと協同的に作用し、より強い組織傷害を示すことが確認されている。

臨床症状

 高齢者や悪性腫瘍、血液疾患など、基礎疾患を有する患者に広域スペクトラムを有する抗生物質を投与した際に多く認められる。特に多剤併用使用の場合には注意が必要である。症状は抗生物質投与後5~10日に発生する下痢、発熱、腹痛、血便である。症状の程度は、投与された薬剤の抗菌力や抗菌スペクトラム、体内動態や患者側の年齢、免疫力、全身状態によって左右される。重篤な場合にはイレウスや中毒性巨大結腸症に発展する場合がある。罹患部位は、直腸、S状結腸を中心とした左側結腸がほとんどで、口側大腸はまれである。

検査成績

 便中のCD毒素の検出は、簡略な検査で有用性が高い。便培養は,健常人でもClostridium difficileを持つ人が5~50%あるため診断的な価値はない。

 大腸内視鏡検査では、直径2~5mmの半球状の偽膜が白黄色の隆起として多発する。直腸を中心に多発し鉗子で剥がそうとしても固く粘膜に付着している。内視鏡像ではこのような典型的な厚い偽膜を呈するもの(隆起型)(図1)とごく淡い混濁した粘膜を呈するもの(薄膜型)(図2)とが存在している。


図1.降起型偽膜性腸炎


図2.薄膜型偽膜性腸炎

 欧米では偽膜のないClostridium difficileによる下痢、さらにはClostridium difficile腸炎が報告されており、最も重篤な状態として偽膜が形成されると考えられている。したがって、CD毒素のみをもって偽膜性腸炎と診断することは不適切であり、内視鏡を用いた確認は不可欠である。
 
 病理組織学的には、早期には粘膜固有層に多核白血球、好酸球、また変性した白血球の核の集族とフィブリンの析出を認め、“volcano; 火山”や“summit; 山頂”病変と呼ばれている。病変に隣接する粘膜は正常である。偽膜は偽膜性腸炎に特徴的な所見と言ってもよく、融解した上皮細胞とフィブリン、粘液から構成され、細菌自体は観察されない。

 診断のポイントは、抗生物質投与後の患者で下痢を呈した場合には本症を疑うことである。便中のCD毒素の検出、内視鏡での偽膜の観察が診断に重要である。Cytotoxin asseyはtoxinBを検出する優れた検査法であり、偽膜性腸炎患者の95%で陽性となる。

 偽膜は内視鏡診断で重要な所見であるが、Clostridium difficile以外の細菌でも観察されることがあるので注意が必要である。また、偽膜が融合したり、膜状やびまん性に認める場合には、潰瘍性大腸炎、虚血性大腸炎、感染性腸炎との鑑別が必要となる。さらに、偽膜が薄い膜状の場合(薄膜型)には慎重に観察しないと見過ごされることがある。小さな偽膜が多発し、直腸に限局してみられる場合にはクラミジア直腸炎に類似する。

 便のCDトキシンの検査には、トキシンA(腸管毒素)とB(細胞毒素)を検出する方法があり、前者のみを行う場合が多い。この場合、特異性には問題ないものの感度が少し低く(10~20%は陰性)、またBのみ産生する菌には無効であることを考慮する必要がある。培養もCl.difficileが嫌気性菌ですので、正しく行わないと検出率が低下します。症状のない人でも3%程度検出されるため、検査結果も下痢などの症状に合わせて評価する必要がある。

 Clostridium difficileないし毒素が証明された場合でも偽膜を形成しない例もあり、本症の診断には内視鏡的に偽膜を証明する必要がある。全身状態の不良な症例では直腸鏡による観察だけでも行うべきである。

治療

 まず、原因として疑われる抗生物質の投与を中止する。軽症例では腸内細菌叢の回復をねらって乳酸菌製剤の大量投与(10~20g/day)を行う。中等症および重症症例ではvancomycin(0.5~2.0g/day)やmetronidazole(1.2~1.5g/day)を経口投与する。多くの場合、重症基礎疾患があるため、下痢に伴う輸液・電解質管理は厳重に行う必要がある。止痢剤は、症状を悪化させて麻痺性イレウスに発展する恐れがあるため原則として禁忌である。これらの投与により通常48時間以内に下痢や発熱などの全身状態の改善をみ、一般に7日程度で下痢は消失する。便中のCD毒素が陽性であっても、下痢が治まればこれらの薬物は中止すべきである。

 予後は、患者の全身状態と基礎疾患の状態に左右されるが、治療が適切に行われたとしても死亡率は高率である。麻痺性イレウスや中毒性巨大結腸症を呈した場合には死亡率はさらに高くなる。

参考文献

1) Bartlett JG, Onderdonk AB, Cisneros RL, et al. Clindamycin-associated colitis due to a toxin-producing species of Clostridium in hamsters. J Infect Dis 136: 701-705, 1977

2) Pothoulakis, C. and Lamont, J. T.: Microbes and microbial toxins: paradigms for microbial mucosal interactions Ⅱ. The integrated response of the intestine to Clostridium difficile toxins. Am. J. Physiol. 280; G178-G183, 2001

(MyMedより)推薦図書

1) 岩田健太郎・宮入烈 著:抗菌薬の考え方、使い方〈ver.2〉,中外医学社 2版2006

2) 大曲貴夫 編さん:抗菌薬について内心疑問に思っていることQ&A,羊土社 2009

3) 日本医科大学千葉北総病院薬剤科 浜田康次・東北薬科大学医薬情報科学教授 佐藤憲一 編集, 東京女子医科大学感染対策部感染症科 教授 戸塚恭一 監修:抗菌薬サークル図データブック,じほう 2008

4) 宮崎修一・三鴨廣繁・森田邦彦 著, 戸塚恭一 監修:日常診療に役立つ抗菌薬のPK/PD,ユニオンエース 2006

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