変形性膝関節症 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.11.15

変形性膝関節症(へんけいせいひざ(しつ)かんせつしょう)

執筆者: 中川 匠

概要

 変形性関節症は進行性で非可逆的な関節軟骨の変性、磨耗により関節痛、関節の変形、可動域制限が生じる疾患と定義される。最も頻度の高い関節炎であり、関節痛、圧痛、関節の可動域制限などの臨床症状があり、さらには関節の中に水が溜まったり(関節水症)様々な程度の炎症が生じる疾患であるが、関節リウマチと異なり症状は局所に限局している状態である。X線検査では65歳以上の高齢者の80%が変形性関節症による変化があるという推定されており、非常に頻度の高い疾患である。世界で類を見ないペースで高齢化社会が進行しているわが国において、変形性関節症による社会的および経済的損失は今後増大することが予想され、治療のみならず予防を含めた取り組みが必要である。
 膝関節は大腿骨、脛骨および膝蓋骨から構成される関節であり、変形性関節症の発生頻度の高い関節である。膝関節は内側コンパートメント、外側コンパートメント、膝蓋大腿関節の3つの関節から構成されるが、内側コンパートメントが障害される頻度が高く、進行した症例では関節軟骨が磨耗することにより内反膝(O脚)を呈することが多い。

病因

 変形性関節症は大きく分けて特に明らかな原因がなく発症する一次性関節症と、外傷などの既往がありそれに続発して発症する二次性関節症に分類される。一次性変形性関節症の原因としては単一の要因ではなく様々な要因が関与していると認識されている。変形性関節症が多発している家族や双子を調査した研究から遺伝的要因の関与も示唆されており、現在盛んにに研究が行われており今後の解明が待たれることである。変形性膝関節症の危険因子としは加齢、女性、肥満、人種、外傷の既往などが知られており、特に肥満は変形性膝関節症のリスクファクターとして重要であり、減量により変形性関節症の発症を減らすことができたという報告もある。

病態生理

 関節にかかる応力のクッションの役割をしている関節軟骨が、加齢とともに徐々に変性することにより関節症が発生するとされている。関節軟骨は水分を多く含んだ組織であり、陰性に荷電しているプロテオクリカンというタンパク質が水分の保持に重要な働きをしている。加齢にともないこのプロテオグリカンの変性や減少がおこり、水分含有量が減少して軟骨のショックアブソーバーとしての役割が破綻することがきっかけとなって軟骨の変性が進行すると考えられている。関節軟骨が変性するともう一つの重要な軟骨成分であるコラーゲン(type 2)線維の変性もおこり、関節内に炎症を惹起し関節が腫脹したり、熱を持ったりするようなる。関節軟骨を支持している軟骨下骨にも多くのストレスがかかり、軟骨下骨の骨硬化像(X線画像上白っぽくなること)や関節の辺縁では骨棘(osteophyte)という骨の出っ張りが出現するなどの骨増殖性変化も出現する。関節内に二次的炎症が発生すると滑膜と呼ばれる関節を裏打ちしている薄い膜に炎症が発生して、関節水症(黄色透明関節液)が生じたり、関節を覆っている関節包が肥厚したり靱帯付着部炎が発生して関節可動域制限が生じる。

臨床症状

 初期の関節症では疼痛特に荷重時の痛みや、長距離歩いた後の痛みが出現し休息により軽快する。朝起床時や休憩後に歩き始めた時の疼痛も特徴的であり、歩行するにつれ疼痛が軽減することが多い。関節症の進行に伴い歩行時痛が増悪し長距離歩行や階段昇降が困難になり、安静時痛や夜間痛も出現することもある。また関節可動域制限により正座ができなくなったり、膝が完全に伸展できなくなり日常生活上支障が生じる。膝関節に炎症が発生すると関節内に水が溜まったり(関節水症)、滑膜の腫脹することもあるが関節リウマチに比較するとその程度は軽度である。関節の辺縁に骨棘が形成されると、筋萎縮を伴い関節が腫大しているような外見を呈する。関節軟骨の磨耗が進行すると内反変形(O 脚)や外反変形(X脚)が明らかになるようになる。
 診察室では膝関節の腫脹および熱感、関節水症、関節裂隙に一致する圧痛、他動運動痛、関節可動域の減少などの所見を診察する。実際に歩行してもらい歩容を確認することも重要であり、歩行時痛の程度も評価する。進行した内反型の変形性膝関節症では、荷重時に膝関節が外側にシフトする(lateral thrust)のが特徴的である。

検査成績

 単純X線は立位荷重正面、側面、スカイライン像のほかに膝関節45度屈曲位で荷重した正面像(Rosenberg view)を撮影する。関節裂隙の狭小化、骨棘の形成、軟骨下骨の骨硬化像が特徴的であり、進行すると関節裂隙の消失、軟骨下骨の圧壊が生じることもある。単純X線での進行度の分類は治療方針を決定する要因の一つであり、国際的にはKellgren-Lawrence分類が用いられており、国内では関節裂隙の狭小化を指標にした北大分類がよく使用されている。近年、MRIも診断に使用されるようになっており、初期の変形性膝関節症では関節軟骨の磨耗、欠損などの所見や内側半月後節の変性断裂の合併の有無を確認する。軟骨下骨の変化も単純X線に比較して鋭敏に捕らえることが可能であり、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号のbone marrow lesionが観察されることもある。
 関節リウマチにおけるリウマチ因子のような変形性膝関節症に特異的な血液、尿検査所見はないが、軟骨代謝産物を血液中や尿中で測定し病勢を評価する軟骨代謝マーカーの研究が進んでいる。変形性膝関節症の画像所見と患者さんの症状、ADL障害は必ずしも一致するとは限らない。治療介入の効果の詳細な検討のためWOMAC、JKOM、SF-36といった評価インスツルメントが開発されており、治療効果の科学的な評価を目指して使用されている。

治療

 変形性膝関節症の治療は大きく手術による外科的治療と保存的治療に分類されるが、頻度の高い疾患でもあり原則として保存的治療が第一選択となる。患者への疾患の教育や肥満の改善などの生活指導は重要であるとともに、大腿四頭筋訓練を中心とした運動療法を指導する。運動療法の変形性膝関節症の疼痛緩和効果に関しては多くのエビデンスが報告されており、副作用もなく治療費用も安価であるためまず第一に選択されるべきである。関節の屈曲拘縮などの可動域制限を改善するため、入浴後の自動、他動可動域訓練も合わせて指導する。内反変形などの下肢アライメント異常がある場合には、足底板や膝装具が効果的なこともある。疼痛緩和のためには消炎鎮痛剤(NSAIDs)が有効であるが、消化管や腎機能障害への副作用に注意する必要がある。ヒアルロン酸製剤の関節内への注射や靱帯や腱の付着部炎にステロイド剤が注射が行われることもある。
 進行した変形性膝関節症で様々な保存的治療に抵抗性の症例には外科的治療が選択される。内側半月の変性断裂や骨棘形成で引っかかり感などのメカニカルな症状が明らかな症例に対して、関節鏡視下にデブリドマンが行われることがある。内側コンパートメントの進行性の関節症で、若くて活動性の高い症例に対しては高位脛骨骨切り術が行われる。内側コンパートメントに限局した変形性膝関節症で、前十字靱帯機能が温存されている症例に対して人工膝関節単顆置換術(UKA: unicompartmental knee arthroplasty)が行われることがある。高齢で進行した変形性膝関節症に対しては人工膝関節全置換術(TKA: total knee arthroplasty)が行われ、安定した治療成績が得られている。人工膝関節術後は下肢の荷重時軸が矯正され疼痛が著明に改善し、歩行能力も回復する。術後合併症としては感染、深部静脈血栓症などがあり、深部静脈血栓の高リスク群にあり周術期に間欠的空気圧迫法や抗凝固療法などで予防することが推奨されている。人工股関節と比較して耐用年数は長く、高齢の症例にインプラントを適切に設置して、良好な軟部組織のバランスが得られると再置換にいたる可能性は低い。

予後

 変形性膝関節症が原因で生命予後が脅かされる危険性はないが、病期が進行すると疼痛や移動能力の低下により生活の質が大きく損なわれる。肥満や女性などのリスクファクターが知られているが、初期の変形性膝関節症の症例のうちのどの症例が将来重症化するかどうかに関しては明らかになっていない。現在使用されている人工膝関節の耐用性は良好であり、術後15年で98%以上の症例が再置換術(revision TKA)せずに良好な膝関節機能を保っているという報告もある。

最近の動向

 変形性膝関節症の進行を遅らせるDMOARs(disease modifying osteoarthritis drugs)の開発が行われており、グルコサミンやマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤などが候補に挙がっており、精力的に比較研究が行われている。退行変性した関節軟骨を再生させる一般的な治療法は現在存在しないが、再生医学的手法を用いて関節軟骨を再生する試みが行われている。

(MyMedより)推薦図書

1) 星川 吉光 著:専門医が治す!ひざの痛み―「変形性ひざ関節症」は運動療法で必ずよくなる! (「専門医が治す!」シリーズ),高橋書店 2000

2) 杉岡洋一・「運動器の10年」日本委員会 監修、黒澤尚・伊藤晴夫・武藤芳照 編集:変形性膝関節症の運動・生活ガイド―運動療法と日常生活動作の手引き,日本医事新報社 2005

3) 井上和彦・福島茂 著:新・ひざの痛い人が読む本 「変形性膝関節症」痛み解消Q&A (ブルーバックス),講談社 2006
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: