冠動脈疾患 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.15

冠動脈疾患(かんどうみゃくしっかん)

coronary artery disease

別名: CAD | 冠疾患 | 狭心症 | IHD | 虚血性心疾患

執筆者: 松居 喜郎 久保田 卓

概要

 心筋(心臓の筋肉)への血液(および酸素)供給は冠動脈を通して行われています。この冠動脈が様々な原因により通過障害を起こし、血液供給が減少もしくは途絶することにより心筋が虚血(酸素が足りない状態)または壊死(細胞が死滅した状態)に陥ります。



狭心症


労作性狭心症




 動脈硬化により狭窄した冠動脈は労作時(運動した時など)に必要量の血液を冠動脈から心筋へ供給できず、胸痛が出現します。



異型狭心症




安静時に冠動脈のれん縮(冠動脈がけいれんを起こし収縮した状態)により血液供給が減少し、胸痛が出現します。



不安定狭心症




労作時狭心症が進行し、安静にしていても心筋への血液供給が不足し、胸痛が出現します。



心筋梗塞




動脈硬化の悪化などにより冠動脈が閉塞すると、その先の心筋が壊死します。

病因

 冠動脈内壁にコレステロールが沈着し徐々に蓄積していきます(これをアテロームプラークと呼びます)。徐々に肥大するアテロームプラークが動脈内腔に突出していき、これにより冠動脈内腔が狭窄します(狭心症)。また、プラークが血管内腔に裂ける(プラークの破綻)とそこに血栓(血のかたまり)ができて動脈内腔を塞ぎ冠動脈閉塞となります(急性心筋梗塞)。

病態生理

 心臓表面を走り、心臓の筋肉(心筋)へ血液と酸素を供給している動脈を冠動脈といいます。心筋は特に労作時(運動した時など)に酸素などの必要量が著名に増加しますが、内腔が狭窄した冠動脈では十分な血液を心筋に送ることが出来ず、心筋虚血(心筋に酸素が足りない状態)となります(労作性狭心症)。冠動脈内腔の狭窄がさらに進むと、労作時だけではなく安静時(必要な酸素量が少ないとき)でも十分な血液供給が出来ず、ちょっとした動作で心筋虚血となり胸痛が起こります(不安定狭心症)。 冠動脈が高度に狭窄していると心臓の酸素必要量が少なくても胸痛は起こるし、冠動脈がさほど高度に狭窄していなくても心臓の酸素必要量が多い(マラソン等して心臓が過激に動いている時)時も同様に胸痛は起こります。つまり、冠動脈による血液供給と心臓の酸素必要量のバランスが崩れると狭心症状が出現するのです。 また、アテロームプラークによる動脈硬化がなくても冠動脈のれん縮(冠動脈がけいれんを起こし収縮する状態)により血液供給が著名に減少し心筋虚血となることもあります(異型狭心症)。冠動脈が閉塞し、心筋への酸素供給が途絶すると心筋は壊死します(心筋梗塞)。

臨床症状

狭心症




 胸の痛み(特に締め付けられるような痛み)、胸の圧迫感、胸(もしくは左肩、喉、みぞおち)の不快感。これらの症状は、寒い日、労作時(運動した時)、また温かいところから急に寒い屋外などへ出た時などに多く出現し、安静により数分から十数分以内に消失します。



心筋梗塞




 狭心症にみられる胸痛を繰り返し、ある時持続する、より強い胸の痛みを自覚します。また、前触れもなく突然強い胸痛が持続する人もいます。狭心症と違うのはニトログリセリン舌下や、安静にても症状の改善が見られないところです。狭心症と同じように胸の痛みではなく肩やみぞおちの痛みを自覚する人もいれば、重度な糖尿病がある人などは全く痛みを感じない場合もあります。強い胸痛に加え冷や汗や吐き気を伴うこともあります。

検査成績

運動負荷心電図




 運動(歩行;トレッドミルもしくは自転車こぎ;エルゴメーター)により心臓に負荷をかけ(心臓をがんばらせる)、労作時の心電図変化や自覚症状を観察します。労作性狭心症および一部の異型狭心症の診断に有用です。



心筋シンチグラム




 安静時や運動(もしくは薬物)負荷時の心筋虚血部位および範囲を観察します。治療方法の選択などに有用です。



冠動脈造影




 手首、肘もしくは足の付け根の動脈よりカテーテル(細い管)を挿入し心臓の冠動脈に直接、造影剤(レントゲンに写る薬)を注入し冠動脈の狭窄、閉塞部位を観察します。診断、治療方法の選択に有用です。



MRI、CT




 冠動脈狭窄の有無(MRI、CT)、心筋虚血および傷害部位(MRI)を観察する。



心臓エコー




 心筋の動き(収縮具合)などを観察します。心筋梗塞などの診断に有用です。

診断・鑑別診断

診断




 発作時の心電図変化、もしくは冠動脈造影による冠動脈の狭窄や閉塞の確認によりなされます。冠動脈の狭窄が軽度であれば通常は血流不足や症状は出現せず、狭窄が内腔のおよそ75%以上である場合に労作時症状が出現し、本格的な治療の対象となります。また、異型狭心症の場合は器質的な狭窄(動脈硬化による狭窄)はなく、発作的に冠動脈れん縮(冠動脈がけいれんして細くなる状態)が起こることによるものであり、通常の冠動脈造影では狭窄を認めず、誘発試験(冠動脈内にアセチルコリン注入などを行いれん縮を誘発する)により診断されます。



鑑別診断




 同じような胸痛もしくは胸部不快感などを起こす疾患が鑑別疾患となります。みぞおちの不快感を自覚する人が胃潰瘍や胃炎と診断されたり、肩の痛みから関節炎と診断されることがあります。同じ心臓疾患で大動脈弁狭窄症や肥大型心筋症でも胸痛が起こることがあります。これらは、心筋が著名に肥大しており、冠動脈が正常であるにも関わらず相対的に酸素供給が不足するのが原因です。また、胸痛を起こすことのある疾患として急性大動脈解離、肺梗塞、胸膜炎などが鑑別疾患としてあげられます。

治療

内科治療


薬物治療


冠動脈疾患危険因子に対して




 危険因子として高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満などがあげられています。これらに対してそれぞれ、スタチン(高脂血症)、Ca拮抗薬やβ遮断薬(高血圧)、インスリンやスルホニル尿素薬(糖尿病)、ニコチン(禁煙補助薬)などが処方されています。また薬による治療だけでなく、日常生活改善も非常に大切です。禁煙により冠動脈疾患にかかる可能性は減少し、魚に含まれるオメガ3脂肪(不飽和脂肪酸)には、肉類に含まれる飽和脂肪にみられる冠動脈疾患促進作用がなく、生活習慣病や心臓病の予防に有用といわれています。



狭心症発作に対して




 胸痛発作にはニトログリセリン錠(硝酸薬)舌下もしくはスプレー舌下噴霧が著効します。安静とし、追加投与にても胸痛が改善しない場合は不安定狭心症もしくは急性心筋梗塞の治療を考慮しなければいけません。



狭心症発作予防等




 冠動脈を拡張させ、酸素供給を増加させる薬として硝酸薬およびCa(カルシウム)拮抗薬などがあります。それに対して心筋が必要とする酸素量を減らす(心臓を落ち着かせる)β(ベータ)遮断薬があります。Ca拮抗薬は冠動脈れん縮(異型狭心症)の予防に有用です。また、β遮断薬には心臓発作や突然死の危険性を減らす作用があります。 アスピリンやチクロピジン(抗血小板薬)はアテロームが血管内へ裂けたときに血栓ができるのを防ぎ、冠動脈疾患による死亡の危険性を減少させます。



心筋梗塞に対して




 急性心筋梗塞は:PCI(経皮的冠動脈インターベンション)などによる血流再開が優先されますが、血流再開後や陳旧性(古い)心筋梗塞に対してはACE阻害薬(降圧薬)が死亡率を減少させます。



PCI(経皮的冠動脈インターベンション)




 手首、肘もしくはそけい部(足の付け根)からカテーテル(細い管)を冠動脈まで進め、動脈内腔より行う治療法です。冠動脈形成術、冠動脈ステント留置術、冠動脈アテローム切除術があります。アテロームにより狭窄した部位をballoon(風船)で拡張(冠動脈形成術)もしくは閉塞部位を削って広げ (冠動脈アテローム切除術)、そこに円筒の金網(ステント)を留置(冠動脈ステント留置術)する事により、減少もしくは途絶した血流を増やしたり再開通させます。 局所麻酔のみで行うことができ、体への負担が非常に少ないのが特徴です。しかしながら、ステント内再狭窄が時折起こります。この場合も再度PCIにより治療を行うことも可能です。 急性心筋梗塞の場合は、アテロームの破綻によりできた血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)の投与や緊急の冠動脈形成術などを行い、閉塞した冠動脈を開通させ、壊死する心筋が極力少なくなるようにします。



外科治療法(CABG:冠動脈バイパス術))




 血液の流れにくくなった冠動脈の狭窄部位を迂回し、狭窄部のさらに先に十分な血流を送るバイパス(迂回路)を作る手術です。バイパスに使う血管をバイパスグラフトと呼びます。近年、足の静脈よりは、手術後の詰まりにくさからグラフトには動脈(内胸動脈:胸の骨の裏についている動脈、橈骨動脈:腕の動脈、右胃大網動脈:胃の辺縁についている動脈)を好んで使う傾向があります。



CABG((人工心肺下)冠動脈バイパス術)




 心臓を一時的に止めて手術するために人工心肺という装置を使用します。この装置のおかげでバイパスグラフト(バイパスに使う血管)を冠動脈に吻合するとき縫いやすく、比較的容易に吻合が可能となります。しかし、この人工心肺を使用すると、脳梗塞、出血や腎機能などの合併症の可能性が高くなります。



OPCAB(心拍動下冠動脈バイパス術)




 人工心肺装置を使わず、心臓は拍動したままバイパスグラフトを冠動脈に吻合する方法です。人工心肺を使わないので合併症(脳梗塞、出血、腎機能や肝機能障害など)の可能性は少なくなります。しかし、心臓の拍動とともに動いている冠動脈に吻合するため(ある程度は器械で固定されていますが)、執刀医の熟練が必要です。

予後

 労作性狭心症や異型狭心症は、時折心筋が一時的に虚血になるだけで心筋自体の傷害はないことがほとんどです。この場合は各種治療により症状は改善し、今後の見通し(予後)は良好です。一方、不安定狭心症や心筋梗塞の場合は、程度や範囲が異なりますが心筋自体が傷害されています。この心筋障害により心臓のポンプ機能(血液を全身に送る機能)が低下し、時間とともに徐々に心臓が拡大(remodering)し虚血性心筋症となることがあります。こうなるとポンプ機能低下が著名となり予後は悪くなります。

最近の動向

DES(drug eluting stent薬剤溶出性ステント)による再狭窄率の改善




 PCI(経皮的冠動脈インターベンション)により低侵襲で冠動脈狭窄を治療できるようになり、ステント(金網の筒)の登場により再狭窄率(数ヶ月後に再度内腔が狭くなる)が20~30%と改善しました。さらに、2004年より日本でも使用可能となった薬剤溶出性ステントによりこの再狭窄率が 5~10%前後にまで低下してきています1,2)。薬剤溶出ステントは免疫抑制剤などの薬剤が徐々にステントから溶出し内膜の増生を抑制する新しいステントです。しかし、この新しいステントは長期的な死亡率と心筋梗塞にかかる率は改善しておらず、また、抗血小板剤の長期服用が必要であり、それによる副作用や合併症が論じられています。



OPCAB(心拍動下冠動脈バイパス術)の利点




 外科治療法(バイパス手術)の中には人工心肺を使わずに心臓を動かしたまま手術をする方法があります。人工心肺を使わない分、その合併症(脳梗塞、腎機能低下、出血など)の起こる可能性が減ります。そして、手術後体力などの回復が早くなります。手術機器の著しい発達により可能となったこの手術は特に日本で普及していますが、心臓を止めて確実に吻合ができる人工心肺を使う従来のバイパス手術より幾分難易度が上がります。従って、9割以上のバイパス手術をこのOPCABで行うところもあれば、数割のみのところもあり、施設により様々です。また、冠動脈の重症度によっても可能かどうかは違ってきます。



虚血性心筋症に対する治療




 心筋梗塞の後や重度の冠動脈狭窄の状態が長期間続くと徐々に心臓肥大(心臓の内腔が拡大)が起こり心臓の機能が低下、果ては心不全となってしまいます。このように、拡大し機能が低下してしまった心臓に対してさまざまな内科的治療(内服治療や心室再同期療法など)が試みられてきています。多くの治療成功例もありますが内科治療では改善しない場合は手術治療が行われるようになりました。 心臓の動かなくなった部位にパッチをあてる方法(Dor手術、SAVE手術)や、大きく拡大してしまった心臓を一部の心筋を切除して再度縫い合わせて心臓自体を小さくする手術(バチスタ手術)などがありますが、最近、心筋は切除せず、中にたたみ込んで心臓を小さくする方法overlapping法も開発され良好な成績を上げています3)。

参考文献

1) M. Babapulle, L. Joseph, P. Bélisle, J. Brophy, M. Eisenberg: A hierarchical Bayesian meta-analysis of randomised clinical trials of drug-eluting stents. Lancet. 2004 Aug 14-20;364(9434):583-91



2) Holmes DR Jr, Leon MB, Moses JW, Popma JJ, Cutlip D, Fitzgerald PJ, Brown C, Fischell T, Wong SC, Midei M, Snead D, Kuntz RE: Analysis of 1-year clinical outcomes in the SIRIUS trial. a randomized trial of a sirolimus-eluting stent versus a standard stent in patients at high risk for coronary restenosis. Circulation. 2004 Feb 10;109(5):634-40



3) Matsui Y, Fukada Y, Naito Y, Sasaki S, Yasuda K: A surgical approach to severe congestive heart failure-overlapping ventriculoplasty. J Card Surg. 2005 Nov-Dec;20(6):S29-34

(MyMedより)推薦図書

1) 平山篤志 編さん:心臓CTを活かす新しい冠動脈疾患診断戦略―こういう症例に活用する,メジカルビュー社 2010

2) 平山篤志 監修:Q&Aからはじめよう!冠動脈疾患マスターブック,メディカ出版 2006

3) 上野勝則 著:内科医のための心臓病診療アップデイト (CBRアップデイト・シリーズ 1),シービーアール 2008

4) 小船井良夫 著:名医のわかりやすい狭心症・心筋梗塞 (同文名医シリーズ),同文書院 2006
 

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