MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2008.06.30

腸アニサキス症(ちょうあにさきすしょう)

執筆者: 板橋道朗

概要

アニサキス症はAnisakis亜科の線虫が人体に侵入して引き起こす病態で、1960年にヒトへの感染例が報告された1)

最近になり、Anisakis simplex、A. physeteris, Pseudoterranova decipiensなどの幼虫の寄生によって起こることが証明された。原因である虫体は魚介類に寄生するため、食習慣として生魚摂取が多い本邦では、消化管アニサキスの発生頻度は諸外国に比べきわめて高く、1年間に2,000例から3,000例に上ると見られる。本州では、A. simplex III期幼虫、北海道ではP. decipiens III期幼虫による症例が多く認められる。

消化管アニサキス症の罹患部位としては胃の頻度が圧倒的に高く、次いで小腸、十二指腸の順に多いが、全消化管に発生しうる2)

病因

本症の原因となる線虫は、ヒトを最終宿主とはしない。成虫は、クジラ、イルカ、アザラシなどの海産哺乳類の消化管に寄生している。アニサキス症は、感染した魚類やイカ類をヒトが経口摂取することで、第III期幼虫が体内に侵入する(図1)3)。侵入した第III期幼虫は消化管壁に刺入して消化管アニサキス症を発症する。



図1

病態生理

臨床的には劇症型(蜂窩織炎)および緩和型(肉芽腫形成)に分類されるが、臨床で経験する消化管アニサキス症の大部分は劇症型である。一方、アニサキスは全身性アナフィラキシーの原因となることも知られており、虫体刺入によるI型あるいはIII型アレルギー反応が考えられている。

臨床症状

臨床症状は、明らかな生魚摂取の病歴と、その後の急激な腹痛の出現である。胃アニサキス症の場合には幼虫が寄生している魚を食べてから4~8時間後に症状が出現するが、腸アニサキスでは数時間から数日後に症状が現れる。嘔吐が伴う場合も多く、特に、小腸アニサキス症では閉塞症状や腸重責を伴うこともある。時に、腹膜刺激症状や腹水貯留を伴う場合も認められる。

検査成績

末梢血の一般検査成績では、白血球やCRPの増加を認めるが、必ずしも好酸球増多やIgEの上昇を伴うわけではない。血清学的診断法として抗アニサキス抗体の測定が可能となっている。アニサキス特異抗原に対するIgG, IgA, IgEのELISAキットによる測定も可能となり、その陽性率は70~80%程度である。確定診断にはペア血清の測定が望ましい。胃アニサキス症の診断には、内視鏡検査が有用であり、糸状で白色調の虫体が胃壁に刺入しているのが観察される(図2)。虫体は生検鉗子で容易に摘出可能である。


図2 アニサキス


小腸アニサキス症の診断は困難な場合が少なくないが、小腸X線所見、超音波検査が有用である。小腸X線では、小腸に限局性の粘膜浮腫像の反映である拇指圧痕像と短軸方向の伸展不良を伴うKerckring皺襞の腫大として描出される。虫体が描出されれば確定診断が可能であるが虫体の描出率は30%程度である。超音波検査では限局性の小腸壁肥厚と管腔の狭小化と腹水が認められる。

大腸アニサキス症の診断は、従来小腸アニサキス症の診断と同様にX線上で限局性浮腫像と伸展不良が特徴であるが、近年の大腸内視鏡検査の普及に伴い内視鏡下に虫体を摘出したとの報告例が増加している。

本症の診断には病歴の聴取と虫体の確認が重要である。前述のごとく消化管アニサキス症の大部分は劇症型であること、好発部位が胃であることから、明らかな生魚摂取の病歴があり、内視鏡検査で虫体が証明されれば診断は容易である。腸アニサキスなど診断困難な場合には補助診断として抗アニサキス抗体など血清学的診断を併用する。

診断・鑑別診断

急激な心窩部痛、悪心、嘔吐を呈するため、胃潰瘍、胃穿孔や胆石症との鑑別が必要である。小腸アニサキス症で虫体が描出不能例では、全身性エリテマトーデスの小腸病変、好酸球性腸炎などと類似しており診断は容易ではない。また、回腸末端部に発症することが多いため、虫垂炎、腸閉塞などとの鑑別診断が必要となる場合がある。大腸における限局性の浮腫像は、虚血性腸炎、薬剤性腸炎や感染性腸炎との鑑別が必要である。

治療

胃アニサキス症では、内視鏡で虫体を摘出することが確実な治療法である。腸アニサキス症ではイレウス症状を呈さない状態の時、鎮痙薬などの対症療法を行いながら幼虫が死亡、吸収されることによって症状が緩和するのを待つ。アニサキス類幼虫は、ヒト体内では長時間生存できないからである。

文献

1) van Thiel PH, Kuipers FC, RoskamRTH.: A nematode parasitic to herring, causing acute abdominal syndromes in man. Trop Geogr Med 2: 97-113, 1960

2) 石倉肇、菊地由生子、石倉浩.:アニサキス幼虫による急性腸炎. 胃と腸 18:393-397, 1983

3) 木村英作:寄生虫学テキスト、第2版.文光堂、東京、148-151、2002

4) 松本主之、藤澤 聖、迫口直子、他:4.寄生虫感染症 4)消化管アニサキス症 胃と腸 37(3) 429-436、2002

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: