気管腫瘍 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

気管腫瘍(きかんしゅよう)

Tracheal tumor

執筆者: 東山 聖彦 尾田 一之 児玉 憲

概要

 原発性の気管腫瘍はきわめて稀である。多くが悪性腫瘍で、良性腫瘍はその内の10-15%の頻度を占めるという。悪性腫瘍では、海外の文献を幾つかまとめると、気管発生の悪性腫瘍774例では、扁平上皮癌375例(48%)、腺様嚢胞癌249例(32%)が圧倒的に多く、以下、カルチノイド41例 (5%)、粘表皮癌、腺癌、小細胞癌などの順になるが、本邦では扁平上皮癌(図1)よりむしろ腺様嚢胞癌の頻度の方が高いとされている。気管癌の頻度は、全悪性腫瘍の0.1%以下である。良性腫瘍は、乳頭腫が30%の頻度で最も多く(図2)、続いて軟骨腫、線維腫、血管腫などが代表的である。発生部位では、小児では気管近位側に、成人では気管遠位側(気管分岐部側)に多く、管状の気管壁の内、気管膜様部側に多いとされている。





続発性の気管腫瘍には、他臓器由来の悪性腫瘍の気管壁内転移と隣接臓器由来の悪性腫瘍の気管進展・浸潤(食道癌、肺癌、甲状腺癌、喉頭癌など)がある。

病因

 悪性腫瘍中、扁平上皮癌は喫煙との関係が指摘されている。一方、腺様嚢胞癌では一般には男性が多いとされているが喫煙との関係はない。乳頭腫はパピローマウイルスが関わっており、特に若年者にみられる喉頭気管パピロマトーシスでは多発することが多く、パピローマウイルス タイプ6または11がその発症に関わっているとされている。その他の腫瘍では病因は不明である。

病態生理

 腫瘍が気管内腔に向かって発育進展し、内腔を3分の2以上狭窄させると気道狭窄の諸症状がでる。すなわち咳、繰り返す肺炎、喘鳴などで、さらに4分の3以上となると呼吸困難を伴うようになる。遠位側の気管狭窄では呼気性の気道閉塞のため、当初は気管支喘息として見過ごされる場合がしばしばある。近位気管狭窄は吸気性または吸気・呼気性の呼吸困難となる。気管粘膜が覆っている気管腫瘍の場合には、出血(血痰)は比較的稀であるが、扁平上皮癌では比較的早期より血痰が出現することがある。

 気管壁外への腫瘍の進展により、声がれ、嚥下困難など隣接臓器の障害が出現する。

臨床症状

自覚症状


 初発症状は、80%以上の頻度で、咳、血痰、喀血、喘鳴、呼吸困難などの呼吸器症状である。前述の如く出血症状は20%の頻度であるが、扁平上皮癌では早期より血痰が出現する。その他には、声がれ、嚥下困難、反復性の閉塞性肺炎の症状があげられる。いきなり呼吸困難で発症する場合も稀ではない。


他覚症状


 喘音は主に吸気性に聴診できることから、本来、気管支喘息とは異なる。近位側の気管狭窄では、深呼吸時に患者の口元に耳を傾けるとその狭窄音を聴くことができる場合がある。

検査成績

胸部X線


 通常の胸部X線は、気管病変の発見には不向きで、しばしば見落とされ安い。ただし高圧で撮影すると気管の腫瘤陰影が描出されることがある(図3)。



 気道狭窄による二次的な閉塞性肺炎や無気肺で、気管腫瘍が発見されることがある。気管の断層撮影もかつては気管腫瘍の描出に優れているとされたが、現在は後述のCTに替わられている。

胸部CT、MRI


 CTは病変の描出のみならず、大きさ、良悪、疾患名、気道狭窄程度、さらに周囲縦隔組織への進展程度が正確に評価できる(図4)。



 良性病変は通常境界鮮明、(半)円形で、腔内に突出するように存在する。石灰化を伴う場合には、過誤腫や軟骨腫である。悪性腫瘍では、辺縁が不規則で、腔内進展のみならず、気管壁外進展を示し、腫瘤内部が不均一であることや、周囲のリンパ節転移による腫大を伴うこともある。

 MRIは腫瘍の性状のみならず、周囲組織への進展をみるうえで情報をもたらす。特にT1強調画像は、気管とその周囲の軟部組織、大血管、食道など臓器への進展を知る上で有用である(図5)(図6)。





 水平面のみならず、矢状面など様々な画面での観察が可能であるが、最近のCTにおいても3D構築が可能で、気管腫瘍の部位・進展程度を評価できる。

気管支鏡検査


 気管支鏡検査は、病理組織型、気道狭窄部位と程度を直接評価でき、今後の治療方針を決める上で、最も重要である(図7)。



 ただし気道狭窄の程度が進行している症例では、出血や窒息を助長する可能性があり、その施行の適応や麻酔法にはきわめて注意が必要である。生検を行う際には、気管粘膜表面には腫瘍細胞を認めない場合が多く(扁平上皮癌以外)、腫瘍の粘膜下組織を採取する必要がある。

その他


 喀痰細胞診では、扁平上皮癌では比較的初期より陽性になるが、それ以外の腫瘍では稀である。

診断・鑑別診断

 上記の特に喘鳴、呼吸困難などの呼吸器症状や反復する肺炎などは、常に気道狭窄病変を念頭に置きながら診断を進めることが重要である。画像では胸部単純X線以外に、胸部CTおよび気管支鏡検査にて診断を行う。鑑別すべき疾患では気管支喘息があげられるが、腫瘍以外の異物、良性気道狭窄(例えば結核性)なども考慮にいれる。

 原発性気管腫瘍に対し、続発的気管腫瘍(喉頭癌、甲状腺癌、肺癌、食道癌などの周囲からの直接的進展と、きわめて稀である乳癌、腎癌、黒色腫などの気管壁内転移)との鑑別も治療方針を決める上では重要である。

治療

 中枢気道である気管に発生した腫瘍は、気道狭窄による前述の諸症状によりQOLの低下をきたし、やがて呼吸困難により致命的となる。そこでこれら病変に対する代表的治療には外科療法、レーザー治療、ステント挿入療法、放射線療法、化学療法などをあげることができる。

外科療法:気管形成術


 Belseyらにより1950年に約2cmの気管管状切除がおこなわれたのが歴史的に始めてとされているが、その後、1964年にGrilloらにより広範な気管切除とその端々吻合について詳しく報告され、以降、気管形成術の麻酔管理、術後管理、気管吻合法などに関する多くの諸家の報告により、本術式は大きく進歩し体系化されるようになった。

 通常、気管軟骨輪は15-19個あり、気管切除範囲は授動を行えば、気管長の50%までは切除して端々吻合が可能であるとされている。

 気管形成術の適応は、気管原発の腺様嚢胞癌、扁平上皮癌、カルチノイド、気管良性腫瘍などがしばしば適応となる。続発性では甲状腺癌によるものが外科切除される場合がある。

 手術手技や麻酔法は、気管腫瘍の部位により大きく異なる。頚部気管の病変の切除では、前頚部の襟状の皮膚切開のアプローチにさらに必要に応じて胸骨を割るアプローチと右胸腔内アプローチを組み合わせる。遠位側気管の病変では、右後側方切開による開胸アプローチか、胸骨縦切開による前方からのアプローチである。麻酔では、気管切除時から吻合が半周以上終わるまでは術野挿管を行う。気道閉塞症状が著明で、通常の気管内挿管が困難な場合には、 PCPSなどを用いて全身麻酔を行うこともある。

 近位側の頚部気管での吻合では、術後1週間の頚部前屈固定が必要である。術後合併症では、吻合部離開、狭窄、肺炎、反回神経麻痺などである。特に吻合の際には、過度の緊張がかからないように適度な気管の授動を行うこと、膜様部側からの血流を温存すること、気管軟骨のカッテイングさせない、吻合部周囲の周囲組織による被覆(大網、肋間筋など筋肉、胸腺組織など)を行うなどの工夫が重要である。

レーザー治療


 早期の気管扁平上皮癌に対しては、光線力学的治療(photodynamic therapy, PDT)が行われる場合がある。

 腫瘍による気道狭窄が高度で、直ちに狭窄・閉塞症状を解除しなくてはならない場合や、気管腫瘍からの出血の場合には止血目的で、内視鏡によるレーザー焼灼を行うことがある。通常、ND:YAGレーザーが用いられ、照射チップには接触型と非接触型があり、これらチップを気管支鏡の鉗子孔を通して反復して焼灼を行う。合併症には、気管穿孔、血管穿孔による出血などがあるため、照射部位を確認しながら安全に焼灼術を行う。

ステント挿入療法


 腫瘍による気管狭窄に対する呼吸困難を軽減するために、内視鏡的にステント挿入が行われることがある。気管内腔に突出している腫瘍には、まずレーザー治療を行なった後に本治療法が行われ、気管壁外からの圧迫によるものには直接施行されることが多い。ステントには、主にチューブ型(Dumon型)と金属型(Expander型)があり、狭窄の様式、疾患、後日のステントの取り出し除去などを考慮して、その適応が決められている。

予後

 悪性気管腫瘍で、比較的なまとまった治療成績を論じることができる疾患は限られている。気管扁平上皮癌でしかも外科治療の対象例では、5生率13-47%、10生率13-36%の報告があるが、その内、断端陽性例、リンパ節転移陽性例では放射線療法との併用が行われている症例が多い。扁平上皮癌では術後放射線療法による治療効果は高いものと考えられている。腺様嚢胞癌では、外科切除例では、5生率66-73%、10生率55-57%と比較的良好で、切除断端での遺残症例でも生存期間が長く、腫瘍の生物学的性格を反映していると考えられる。断端陽性例に対する術後の放射線療法は生存率改善に結びつかないとする報告もある。5年以降の晩期再発も局所以外にも経験され、その臓器として、肺、骨、肝などがあげられている。

(MyMedより)推薦図書

1) 清益功浩 著:咳事典 咳を科学する-その咳、大丈夫?危険!-,医薬経済社 2010

2) 今西好正・徳原正則・小谷博子 著:心から納得・理解できるMRI原理とMRS,医療科学社 2009

3) 山田晴子・赤堀 博美・菊谷武 著:かむ・のみこむが困難な人の食事―もっとおいしく!もっと食べやすく!,女子栄養大学出版部 2004

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