急性腸管膜血行不全 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.10.28

急性腸管膜血行不全(きゅうせいちょうかんまくけっこうふぜん)

acute mesenteric ischemia: AMI

執筆者: 緒方 裕

概要

 腸間膜血行は複数の血流から構成され、部分的な虚血は代償できる解剖学的特性をもつ。しかし、血管閉塞までの時間、閉塞範囲によっては側副路の代償が不十分となり、腸間膜動静脈の循環が障害され腸間膜血行不全が生じ、適切な処置が施されないと腸管は壊死に至る。 腸間膜血行不全には急性腸間膜血行不全(acute mesenteric ischemia: AMI)と慢性腸間膜血行不全(chronic mesenteric ischemia: CMI)があり、AMIは動脈閉塞、非閉塞性腸間膜虚血(non-occlusive mesenteric ischemia: NOMI)、静脈閉塞に分類される。急性動脈閉塞をきたす病態には、塞栓症、血栓症、動脈解離があり、早期診断とAMIの原因を特定することが必要である。動脈系病変、静脈系病変いずれもいわゆる急性腹症として発症する。

病因

 急性腸間膜血行不全の約50%は上腸間膜動脈(superior mesenteric artery: SMA)塞栓症であり、約25%は上腸間膜動脈血栓症である[1]。前者は心臓弁膜症や不整脈などの心合併疾患を基礎に有する心由来の塞栓症である。そのほか腫瘍塞栓やコレステリン塞栓により発症するといわれている。これに対して上腸間膜動脈血栓症は動脈硬化性疾患を基礎にもつ高齢者に多く、腸間膜動脈の慢性狭窄に生じた二次血栓症である。

 NOMIは動脈あるいは静脈の攣縮により生じる腹部内臓の急性血行不全である。その発生は、体外循環使用、ショック状態、血管作用薬投与(ジキタリス、αアドレナリン作動物質、バゾプレッシン)などと関連があるといわれている[2-4]。循環血液量低下に伴い、バゾプレッシンやアンギオテンシンの作用で、腹部内臓血流を犠牲にして心脳循環を保つ機構が推定されている。いったん動脈の攣縮が発生すると、ショックが改善された後も引き続き攣縮が持続し、不可逆的な臓器障害をもたらす。

 上腸間膜静脈(superior mesenteric vein: SMV)血栓症の病因は、腹部外傷、手術などの侵襲、膵炎、炎症性腸疾患、腹膜炎、腹腔内膿瘍などの炎症、門脈圧亢進症や心不全による血液鬱滞、先天性凝固亢進症(antithrombinIII低下、protein C・S低下)、抗リン脂質抗体症候群、癌、経口避妊薬使用などの凝固能亢進があげられる[5, 6]。

病態生理

 急性閉塞が生じて3時間もすると腸管粘膜には重篤な障害が発生し、血行再開できた場合でも再環流障害が発生しやすくなる。腸管の壊死が進行すれば、アシドーシス、敗血症、ショックとなり重篤な状態となる。腸管壊死を回避できる頻度は発症後12時間以内で100%、12 - 24時間で56%、24時間以上で18%と報告されている[7]。

臨床症状

 突然発症する限局しない広範囲の持続的な腹痛、その割には腹部所見に乏しいのがAMIの早期臨床症状である。腸管壊死が広範囲に進行すると腹膜刺激症状が認められる。静脈血行障害では、血栓の部位と範囲により食欲低下や突然発症し徐々に悪化する腹痛などの様々な症状を呈する。腹満はしばしばみられる。腹痛や腹満は1ヶ月以上の長期におよぶこともある。下痢は1/3異常にみられ、下血はまれであるが、便潜血はしばしば陽性となる。血行障害が進行すれば腸管が壊死し重篤となる[8, 9]。

検査成績

 血液検査は感度、特異度ともに低い。初期では白血球上昇が唯一の異常所見の場合もある。腹部単純X線撮影では病態が進行すると腸管麻痺像、腸管壁の浮腫像(thumb printing)や腸管壁気腫像(腸管壊死の所見)がみられる。

 CTはmulti-detector row computed tomography(MDCT)の登場で、冠状断や矢状断などのmultiplanar reformation(MPR)像の作成が可能となり、有用な診断法となってきた。とくに造影剤注入直後の相と遅い相でスキャンする二相性MDCTの有用性が報告されている[10]。MDCTの3D画像を得ることで腸間膜動静脈と小腸の評価が可能であり、血管造影検査と同等な上腸間膜動脈閉塞の診断が得られる[11]。急性上腸間膜動脈血栓塞栓症の特徴的なCT所見は、造影CTのSMA内造影欠損像、単純CTのSMA内高濃度病変(新鮮血栓)、smaller SMV sign(SMAより細いSMV)である。塞栓症では、SMAは起始部から3~8 cm末梢で閉塞することが多く(図1)[12]、血栓症では動脈硬化などにより、SMAの起始部で閉塞することが多い。



 SMAに造影されない塞栓(→)がみられ、盲腸や上行結腸の造影効果は不良である(▲)。文献12より引用

 静脈血栓症の診断にもCT検査が最も有用であり、上腸間膜静脈の拡張および造影欠損(図2)[12]や内腔透亮像(central lucent sign)が認められる[13]。


図2:上腸間膜静脈血栓症の造影CT、MPR冠状断像

 SMAに造影されない血栓(→)がみられ、一部の空腸の浮腫が認められる(▲)。文献12より引用

 一方、USは末梢の塞栓の診断率は低く、腸管ガスと重なり診断ができない場合も少なくない。MRIは検査の画像化に時間がかかるためAMIの診断にはあまり用いられない。

 選択的血管造影検査は今なお診断のgolden standardとする向きもあるが、その侵襲性と所要時間を考慮すると、MDCTが普及している現在診断目的の適応は疑問である。血管造影検査の適応は、あくまで血管拡張剤投与、血栓溶解剤投与、血管形成術などの血管内治療(IVR治療)を目的とした場合に限ると考えたほうがよいと思われる。

治療

 治療法の選択は各症例の病態により異なり、発症から診断までの時間的経過に左右される。しかし、確定診断できないまま緊急開腹となり、初めて病変が明らかになることもまれでなない。塞栓や血栓の基礎疾患が明らかな場合はその治療も併施する。


動脈閉塞


カテーテルによる血栓塞栓溶解療法

 発症後12時間以内であれば、選択的上腸間膜動脈造影検査に引続いてカテーテルからウロキナーゼの大量動注療法やtissue plasminogen activatorの動注療法にて血栓塞栓の溶解が期待できる場合がある。しかし、血栓溶解療法は、時間がかかり、血栓が溶解後の虚血部粘膜脱落部位よりの消化管出血が生じ、腸管壊死の判定ができないなどの問題があるため、第一選択の治療法にはなり得ず、側副血行路発達がみられるごく一部の症例に選択できる方法である。

血行再建術

 血行再建法としてまず試みられるのはバルンカテーテルによる血栓塞栓除去術などのIVR治療であり、塞栓症の場合にはこれで完全に血行が回復する場合も多い。しかし、血栓症の場合、血栓除去術が不可能であることが少なくなく、その場合には腹部大動脈よりグラフトを用いた血行再建術が適応となる。バイパス経路としては、より生理的な順行性経路と手術操作が容易な逆行性があるが、成績には差がない[14]。代用血管としては自家静脈と人工血管のいずれも選択し得るが、明らかに腸管穿孔による腹腔内感染がある場合には自家静脈を選択せざるを得ない。上腸間膜動脈解離は、症例によっては保存的治療にて経過観察も可能になってきたが、手術適応になる症例はSMAの動脈瘤様拡張が増大傾向を示すもの、SMAの真腔に血栓化がみられるもの、抗凝固療法が無効なものである[15]。

腸管切除

 発症より12時間以上経過した症例では、通常腸管のviabilityは失われており、腸管切除術の適応となるこが多い。明らかに壊死した腸管がある場合や回復の見込みのない腸管と判断できた場合には血栓塞栓除去術後の再灌流障害を軽減するためにも、再灌流前に腸管切除をするか血行遮断を行うことが望ましい。虚血となった腸管が再灌流後に壊死するか否かは、再灌流後の視診、拍動の触知、ドプラ音、超音波ドプラ、腸管酸素分圧測定、レーザードプラ法などによる評価を基に判断される。視診では腸間膜の動脈弓の拍動、腸管切離時の断端からの出血、色調の回復や蠕動運動の確認が腸管viabilityの所見としてあげられる。

 血行再建術によって明らかに血行が良好となった腸管を残せた際には、腸管吻合を行うことに門題はない。しかし、残存腸管が極端に短くなるような場合や回復するか否かの判断がつかない場合には、とりあえず温存し、後日のsecond-look手術により腸管の色調、壊死の有無や吻合部の状態を確認する。second-look手術は術後の経過で適応を決めるのでなく、初回手術の状態で予定手術として12~36時間後に計画することが望ましい。


非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)

 NOMIの場合、CTやUSでも診断に至らないことが多く、確定診断のためには血管造影検査が必要である。腸管壊死に至っていない場合は、経カテーテル的にパパベリンを動注することが唯一の治療法である。パパベリン投与によっても腹痛が軽減しない場合は腸管壊死を疑い、直ちに開腹手術を行う。腸管切除後血行が良好にみえる腸管でも壊死となる場合があり、second-look手術が必要である。


静脈血栓症

 腸管壊死を疑わせる所見がない症例では、まず抗凝固療法による保存的治療を検討する。ヘパリン、ウロキナーゼの全身投与が一般的であるが、上腸間膜静脈内投与や門脈内投与も行われる[16]。またantithrombinIII欠損症による血栓症急性期では、antithrombinIII製剤の補充が必要であるように基礎疾患に応じた対応が要求される。

 静脈血栓の場合、静脈内膜との癒着や静脈壁の伸展性のためFogartyカテーテルによる血栓除去は動脈ほど容易ではない[17]。最近ではTIPS(transjuglar intrahepatic portosystemic shunt)を応用した血栓除去術や経皮経肝的アプローチで血栓除去した報告がある[18]。

 腸管が壊死している場合は、当然腸切除が必要である。肉眼的に正常でも壊死部の近傍には血栓が残存しており、腸管切除の際には健常部を10~15 cm以上含めて切除することが望ましい。しかし、厳密に切除範囲を判断することは困難であることが多く、吻合してsecond-look手術を行う場合もある。

予後

 腸間膜血行不全は様々な病態の集合であり、それぞれの病態に応じた診断治療を行う必要がある。当然予後はその病態や合併する基礎疾患の状態に左右される。一般に広範囲の腸管壊死をきたし、広範囲の腸管切除を余儀なくされる症例の死亡率は高い。したがって、急性腸間膜血行不全では、救命のためには本症を念頭に置いた早期診断が不可欠である。また、大量腸管切除による短腸症候群となるため、術後早期は全身循環管理が重要であり、急性期を過ぎれば吸収障害や栄養障害に対する栄養管理が大切となる。

最近の動向

 急性腸間膜血行不全における早期診断の意義は、腸管壊死の進行阻止と大量腸管切除の回避にあり、診断技術の進歩は救命率の向上につながる。非侵襲的かつ簡便でしかも診断的価値が高いMDCTは、MPR画像や3D画像の構築により急性腸間膜血行不全の確定診断が可能となった。今後、血行再建術や腸管切除後の血行動態や腸管虚血、viabilityの正確な評価が可能になれば、さらに治療成績の向上に貢献することが期待される。

参考文献

1)Brandt LJ, Boley SJ: AGA technical review on intestinal ischemia. American Gastrointestinal Association. Gastroenterology 118:954-968, 2000

2)McNeill JR, Stark RD, Greenway CV: Intestinal vasoconstriction after hemorrhage: role of vasopressin and angiotensin. Am J Physiol 219:1342-1347, 1970

3)Bailey RW, Bulkley GB, Hamilton SR, et al: Protection of the small intestine from nonocclusive mesenteric ischemic injury due to cardiogenic shock. Am J Surg 153:108-116, 1987

4)Studer W, Wu X, Siegemund M, et al: Resuscitation from cardiac arrest with adrenaline/epinephrine or vasopressin: effects on intestinal mucosal tonometer pCO2 during the postresuscitation period in rats. Resuscitation 53: 201-207, 2002

5)Rhee RY, Gloviczki P, Mendonca CT, et al: Mesenteric venous thrombosis: still a lethal disease in the 1990s. J Vasc Surg 20:688-697, 1994

6)Kumar S, Sarr MG, Kamath PS: Mesenteric venous thrombosis. N Engl J Med 345:1683-1688, 2001

7)Lobo Martínez E, Meroño Carvajosa E, Sacco O, et al: [Enbolectomy in mesenteric ischemia]. Rev Esp Enferm Dig 83: 351-354, 1993

8)Condat B, Pessione F, Helene Denninger M, et al: Recent portal or mesenteric venous thrombosis: increased recognition and frequent recanalization on anticoagulant therapy. Hepatology 32: 466-470, 2000

9)Morasch MD, Ebaugh JL, Chiou AC, et al: Mesenteric venous thrombosis: case for nonoperative management. J Vasc Surg 34: 680-684, 2001

10)Kirkpatrick ID, Kroeker MA, Greenberg HM: Biphasic CT with mesenteric CT angiography in the evaluation of acute mesenteric ischemia: initial experience. Radiology 229: 91-98, 2003

11)Wiesner W, Hauser A, Steinbrich W: Accuracy of multidetector row computed tomography for the diagnosis of acute bowel ischemia in a non-selected study population. Eur Radiol 14: 2347-2356, 2004

12)園村哲郎,石井清午,中田耕平,ほか:血管性病変,急性胃腸炎,消化管穿孔による急性腹症.画像診断 27:326-334, 2007

13)石井貴士, 島田長人,柴 忠明:上腸間膜静脈血栓症. 臨外 52:1543-1547, 2006

14)Taylor LM Jr, Porter JM: Treatment of acute intestinal ischemia caused by arterial occlusion. Rutheford RB (ed), Vascular Surgery, 5th ed. Philadelphia, WB Saunders, 1278-1284

15)Sparks SR, Vasquez JC, Bergan JJ, et al: Failure of nonoperative management of isolated superior mesenteric artery dissection. Am Vasc Surg 14:105-109, 2000

16)井上忠彦,松本賢治,松原健太郎,ほか:プロテインS欠乏症を伴う上腸間膜静脈血栓症の1例.静脈学 15:265-270, 2004

17)折井正博,秋山芳伸,森末 淳,ほか:腸間膜静脈血栓症.手術 50:909-915, 1996

18)高橋直人,黒木一典,緒方直人,ほか:急性症候性上腸間膜静脈血栓症に対する新しい治療法.経皮経肝的門脈血栓血管内除去療法の有用性について.手術 58:1351-1352, 2004

(MyMedより)推薦図書

1) ウィリアム サイレン 著、William Silen 原著、小関一英 翻訳:急性腹症の早期診断―病歴と身体所見による診断技能をみがく,メディカルサイエンスインターナショナル 2004

2) 堀川義文、岩尾憲夫、安田晶信 著:急性腹症のCT,へるす出版 1998

3) 跡見裕 編集:術式別 消化器外科術前術後 ケアの要点―イラストでらくらくわかる!,メディカ出版 2007
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: