成長ホルモン分泌不全性低身長症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.29

成長ホルモン分泌不全性低身長症(せいちょうほるもんぶんぴつふぜんせいていしんちょうしょう)

Growth hormone deficiency

執筆者: 田中 敏章

概要

 成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断と治療の基準は、厚生労働省間脳下垂体機能障害調査研究班より、「成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断の手引き(平成18年度)(表)」「成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療(平成13年度)」が作成されている。成長科学協会では、この「診断の手引き」に従って、適応判定事業を行っている。


病因

 小児の低身長(身長SDスコアがー2SD以下)のうち、その原因が下垂体から分泌される成長ホルモン(GH)が少ないことによる低身長症。低身長全体のうち、5%以下である。

 GHDの大部分は病因があきらかでない特発性(約90%以上)で、その他頭蓋咽頭腫などの器質性(5~10%)と、非常に希な遺伝性に分類される。遺伝性GHDとしては、わが国でも家族性の単独GH欠損症(IGHD) type Ia、Ibやtype II 、GH構造遺伝子異常症、下垂体の発生に関与する転写因子の異常による複合型GH欠損症などが報告されている。

病態生理

 成長ホルモン(GH)は、視床下部からのGHRHやsomatostatinの調節により下垂体から分泌され、直接前軟骨細胞に働いて軟骨細胞の増殖を促し、子どもの成長を促進する。従って、成長ホルモンの分泌低下により、成長率の低下をきたし、その結果として低身長となる。小児の成長のパターンは、大きく乳幼児期(出生より3~4歳頃まで)、前思春期(3~4歳頃より思春期が始まる前まで)、思春期(思春期が始まってから成人身長に達するまで)の3つ時期に分けられるが、前思春期が主にGH依存性の成長といわれており、この時期における成長率の低下が、GHDの病態である。

 その他、蛋白代謝・糖質代謝・脂質代謝にも関与しているため、重症型(後述)GHDは乳児期に低血糖、小児期に肥満傾向、高脂血症を、成人においては高脂血症・動脈硬化などを引き起こす。中等症、軽症GHDにおいては、代謝面の病態を示すことはほとんどない。

臨床症状

 「診断の手引き」では、主症状は成長障害で、身長SDスコアが-2SD以下か、成長率が2年以上続けて-1.5SD以下とされているが、最も重要な臨床症状は成長率の低下である。しかし、成長率は短期間の測定では誤差が大きくなるので、1年間の身長の差で評価する必要がある。

 先天性の重症GHDでは、乳幼児期に低血糖が認められることがある。他の下垂体ホルモンの分泌不全を伴っている主に重症GHDの場合は、それら他の下垂体ホルモン分泌不全の症状も伴う。TSH分泌不全の場合は、寒がりになる、便秘がちになる、肌がカサカサするなど。ゴナドトロピン分泌不全の場合は、男子の場合は、停留精巣、小陰茎、小精巣などで、思春期年齢になっても二次性徴が始まらないなど。ACTH分泌不全症は、小児では症状が出ることが少ないが、疲れやすいなど。ADH分泌不全では、多飲・多尿など。

検査成績

 GHは日内変動があるので、随時の1回採決では診断できないが、GH依存性の成長因子であるIGF-I(ソマトメジンC)やその結合蛋白であるIGFBP-3などは日内変動を示さないので、GH分泌能を間接的にみるマーカーとなす。しかし特発性低身長児との値の重なりも多く、重症型GHDは低値であることが多いが、中等症、軽症は、正常範囲にあることが多い。

 確定診断は、GH分泌刺激試験による。成長障害があり、インスリン負荷試験、アルギニン負荷試験、グルカゴン負荷試験、クロニジン負荷試験、L-dopa負荷試験のうち2つ以上のGH分泌刺激試験にて、成長ホルモン頂値が6ng/ml以下(リコンビナントhGHを標準品としたキットによる)の場合、GHDと診断される。

 器質性、特に頭蓋内腫瘍の場合には、MRIによる検索が必要である。特発性とよばれているなかで、典型的な例は骨盤位分娩、仮死、黄疸遷延などの既往があり、MRI で下垂体柄(茎)が見えない、下垂体低形成、異所性後葉などの所見がある。

治療

 短期的には身長増加を促進して、なるべく早く身長を正常化することより、低身長に伴う心理社会的問題の改善をはかる。長期的には成人身長を正常化し、社会的に良好に適応することを目標とする。

 GHだけでなく、他の欠乏しているホルモンの補償療法も必要な場合もある。また、低身長や思春期遅発にともなう心理的ケアも重要である。

 就寝前の成長ホルモンの自己注射が原則である。用法として週6~7日となっているが、毎日のほうが、効果があると考えられる。用量は、ソマトロピン(遺伝子組換え)0.175mg/kg/週を標準治療量として用い、半年毎に投与量を検討するのがよい。長期の治療が必要となるので、皮下注射の手技を本人(年長児の場合)または保護者に教え、自宅での自己注射を行なう。

 皮下注射をする部位は、臀部・大腿部・腹部・肩胛部に投与する。患者自身が行うときには、大腿部または腹部の皮下に行うのがよい。注射をする時間は、夜寝る前が実際的で、また血中濃度や代謝に与える影響もより生理的であることが知られている。風邪などで、熱のあるときには効果が余りないと考えられるので、注射を休ませてもよい。また、2ー3日の旅行(修学旅行など)などのときも、厳格に注射を指示するよりも休ませた方が、精神的な面も含めて考えればよい。

 副作用の早期発見のために、3ー6ヶ月ごとに甲状腺機能、末梢血液検査、尿検査、一般生化学検査、HbA1cなどの検査をおこなう。身長、体重、思春期の有無をかならず調べる。患者の体重に合わせて毎日の量を0.1~0.2mgきざみで増量していく。治療量の検討は前思春期には最低半年に1回、思春期には3ヶ月に1回行う。

予後

 短期的な身長促進のデータは多いが、それに伴う心理社会的問題の変化を検討した報告は少ない。アメリカで、CBCL(Children’s behavior check list)を用いて検討し、6ヶ月後よりQOLが改善したと報告されている。

 我が国のGHDにおけるGH治療による成人身長の報告では、男160.3±6.1 cm(-1.80±1.08 SD)、女147.8±5.4 cm(-2.03±1.08 SD )で、平均治療期間は5年を越えているのにも関わらず、男の38.1%、女の46.2%が正常化(-2SDを越える)していなかった。GH治療はまだ確立した治療法とはいえず、原則的に専門医が治療にあたるべきである。

診断・鑑別診断(表)

 基本的に成長障害があり、2つ以上のGH分泌刺激試験でGH頂値が6ng/ml以下の場合、GHDと診断される。GHDは、GH分泌刺激試験の最大頂値が3ng/ml以下は重症、3~6ng/mlは中等症、6ng/mlを越える場合は軽症と分類される。

 重症の場合は、他の下垂体ホルモン(ゴナドトロピン、TSH、ACTH)の分泌低下の有無をLHRHテスト、TRHテスト、CRFテストなどで検査し、分泌低下があれば、必要に応じて補充しなければならない。

 低身長のうち、GHDは低身長全体では5%以下である。低身長の多くは家族性低身長、SGA性低身長、特発性低身長で、その他GH治療の適応となるものとして、ターナー症候群、プラダー・ウィリ症候群、小児慢性腎不全性低身長症、軟骨無形性症・軟骨低形成症がある。

その他

 診断の手引きによって診断された場合は、保険診療による治療ができる。しかしGH製剤は非常に高額なので、実際の治療においては、小児慢性特定疾患研究助成事業による助成が受けて治療開始することが多い。しかし、この助成基準は、診断基準よりも厳しいので、注意が必要である。

成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断手引き

判断基準

病型分類

注意事項



 診断基準と異なる助成基準は、以下の点である。

1)身長SDスコアが-2.5SD以下。

2)IGF-I(ソマトメジンC)の値が200 ng/ml未満(5歳未満の場合は、150ng/ml未満)。

3)GH分泌負荷試験の最大頂値が、6ng/ml以下。すなわち、重症および中等症GHDだけが対象で、軽症GHDは対象でない。

4)乳幼児でGH分泌不全が原因と考えられる症候性低血糖がある場合には、GH分泌負荷試験の最大頂値が、6ng/ml以下。

5)脳腫瘍等器質的な原因によるGHDの場合、身長SDスコアが-2SD以下、または成長速度SDスコアが2年以上にわたって-1.5SD以下で、GH分泌負荷試験の最大頂値が3 ng/ml以下。

 GH治療により、成長率があまり改善しない例は、投与量が0.175mg/kg/週を下回っていないか検討し、確実に注射をしているか聞く必要がある。コンプライアンスが悪い例は、血中IGF-I 濃度の上昇が悪い。注射をしていても成長率もあまり改善されず、IGF-I濃度の上昇も悪い例は、栄養の指導も行う。

成長科学協会では、「診断の手引き」に従って、治療適応判定を行ない、また治療継続適応判定も行っているので、適応判定申請書・治療成績報告書を送付するとよい。

 (財)成長科学協会〒113-0033 東京都文教区本郷5-1-16 TEL:03-5805-5370 FAX:03-5805-5371 ホーム・ページ:http://www.fgs.or.jp

参考文献

1) 「成長ホルモン分泌不全性低身長症 診断の手引き」間脳下垂体障害調査研究班平成18年度総括・分担研究報告書(主任研究者 千原和夫):127-128、2007

2) 「成長ホルモン分泌不全性低身長症 診断と治療の手引き」間脳下垂体障害調査研究班平成13年度総括研究報告書(主任研究者 加藤 譲):48-51、2002

3) 田中敏章、他.成長ホルモン分泌不全性低身長症における遺伝子組換え成長ホルモン治療による最終身長の正常化の割合.日本小児科学会雑誌 105:546-551,2001

4) Stabler B,Siegel PT,Clopper RR et al.Behavior change after growth hormone treatment of children with short stature.The Journal of Pediatrics 133:366-373、1998

(MyMedより)推薦図書

1) 藤枝憲二・千原和夫・寺本明 監修:成人成長ホルモン分泌不全症の臨床,メディカルレビュー社 2006

2) 藤枝憲二 編集:小児内分泌疾患鑑別診断チャート,診断と治療社 2009

3) 小児内分泌学,診断と治療社 2009
 

免責事項

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