肺動脈狭窄 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

肺動脈狭窄(はいどうみゃくきょうさく)

pulmonary stenosis

執筆者: 杉村 洋子

概要

 肺動脈狭窄はその狭窄部位により、肺動脈狭窄(弁下、弁、弁上)と末梢性肺動脈狭窄に分類される。肺動脈弁性狭窄が大半を占めるが、全体として他の心奇形と合併することが多く、単独では先天性心疾患全体のうち、6~8%と少ない1)

病因

 病因は先天性で不明である。末梢性肺動脈狭窄はWilliams 症候群(染色体7q11.23の微細欠失)やAlagille症候群(染色体20p12の単一遺伝子欠損)、先天性風疹症候群、Noonan症候群、Ehlers-Danlos症候群等への合併がみとめられる。

病態生理

 右室から肺へとつながるルートの狭窄であるため、肺動脈狭窄に比例して、右室収縮期圧が上昇する。右室のコンプライアンスが低下し右室拡張末期圧が上昇する。したがって右房圧も上昇する。また、右室壁は求心性に肥厚するため内腔は狭小化する。思春期までは心拍出量は正常である。肺動脈狭窄の度合いが高度であれば、心拍出量の低下へとつながる。圧較差40mmHg以下は軽症で予後良好、圧較差50mmHg以上は経皮的バルーン拡張術もしくは弁切開術の適応となる。右室圧>左室圧の場合は卵円孔で右左シャントとなり、チアノーゼを生じる。

臨床症状

自覚症状

 軽症の肺動脈狭窄では自覚症状は全くみられない。生涯にわたって無症状ですごせることが多い。健診等の聴診の際に聴取される心雑音によって発見されることが多い。中等症となると、幼少時は無症状ですごせても、30~50歳代になるにつれ、労作時の呼吸困難や易疲労感が出現するようになる。中等症からは学齢期には運動制限が必要となる。重度の狭窄の場合は、新生児期から啼泣時のチアノーゼ出現を認め、右心不全による哺乳力低下、体重増加不良、多呼吸、肝腫大などが出現する。最重症例では大啼泣や排便などの際の力みによる突然死もおこりうる。  

 右室収縮期圧により(1)50mmHg以下:軽症(2)50mmHg~体血圧程度:中等症(3)体血圧以上:重症と大まかに分類されている。

他覚症状

 胸骨左縁上部に駆出性収縮期雑音を聴取する。背部から左肩へ放散する。雑音が長いほど狭窄が高度である。II音は分裂するが、II音の肺動脈成分は重症なほど弱い。また、胸骨左縁第2~3肋間にスリル(thrill)を触れる。

検査成績

胸部レントゲン写真:

 通常、心拡大はないか、あっても軽度である。肺動脈弁性狭窄の場合は、狭窄後拡張( post stenotic dilatation)のために主肺動脈が拡張し左第2弓の突出を認める。右心系の拡大も全例に見られるわけではない。  

心電図:

 軽症の肺動脈狭窄ではほぼ変化は認められない。中等症以上の場合は、右軸偏移、右房負荷と右室肥大の所見がみとめられる。新生児の最重症例では胎生期からの右室流出路狭窄のため、右室低形成となり、左室肥大の所見を呈することもある。   

心エコー:

 弁性狭窄ではBモードで肺動脈弁の開放が不充分なドーム状(doming)を呈したり、domingとまではいかなくても、開放制限により、ドップラーエコーでこの部分での加速が観察できる。また、肺動脈弁自体が分厚く可動性が不良であったり、癒合して1弁もしくは2弁となっていたり異形成弁であることがある。弁下狭窄では、右室流出路の狭窄もしくは右室内での異常筋束部分での加速を生じる。いずれの場合も圧較差は簡易Bernoulliの式〔(圧較差mmHg)=4×(加速m/s)2〕から計算できる。たとえば、肺動脈弁の部分で、エコー上、ドップラーで4m/sの加速が計測できたとすると、そこでの圧較差は前述の式にあてはめると4×42=64mmHgとなる。  

心臓カテーテル検査:

 圧測定で、肺動脈と右室の圧を測定することにより両者の圧較差が測定できる。狭窄部位より遠位部の肺動脈平均圧はほぼ正常範囲となる。この圧較差は心エコーで測定した圧較差とは10~20mmHgくらい軽くなることが多い。これは同じ時相で圧較差を比較しているか否かによる相違である。肺動脈造影では狭窄後拡張をみとめたり、弁性狭窄の右室造影では厚手のドーム状に変形した肺動脈弁を描出することができる。抹消肺動脈狭窄の場合は、圧較差20~30mmHg以上、右室圧の上昇、片側の場合は対側肺動脈の肺高血圧、著明な左右の肺血流分布の差の存在などがポイントとなる。

診断・鑑別診断

 聴診所見、胸部レントゲン写真、心電図、心エコーなどから診断がつく。鑑別診断としては収縮期雑音を聴取する疾患で、以下のようなものがある。心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、機能的雑音、大動脈狭窄、ファロー四徴症など。新生児期の重症肺動脈狭窄症とは、肺動脈閉鎖症、エプスタイン奇形が鑑別疾患として重要である。

治療

 軽症例は生涯にわたって、無治療で過ごす。運動制限は全く不要である。中等症の症例は30歳代から50歳代までは日常生活上はほぼ無症状ですごすことが多いが、激しい運動の後の心拍出量低下に伴う、気分不快、易疲労感は考慮しておく必要があるため、学齢期では激しい運動は禁とする。他に右心不全徴候がある場合は、利尿剤等を内服することもある。

 肺動脈弁狭窄は、約20年前にカテーテルによる治療がはじめられた。現在は、中等度の肺動脈弁狭窄に関しては、第一選択はカテーテル治療、第二選択は外科治療となってきている。

 カテーテル治療は、以前は安静時に肺動脈と右心室の50mmHg以上の圧差がある症例を治療の適応としていたが、最近では、エコーで圧差が35mmHg以上で、心電図上右室肥大がある症例も適応と変わってきている。バルーンのサイズの選択はシングルバルーンの場合は弁輪径の35%から50%増しが適当とされる。拡大目標径が大きい場合は、バルーンのサイズも大きくなっていくわけだが、大きいバルーンを使用するためには、太いシースを使用する必要が生じる。これに引き換え、ダブルバルーンとして、バルーンを二つ使用する場合は、二つの細いバルーンを組み合わせて、予定の径とするために、太いシースを末梢静脈に挿入する必要がなくなる。また、バルーンを拡張させている間も、二つのバルーンの隙間から血流が維持できるために、血圧低下等の合併症が少ない。 

 重症例に対する肺動脈弁のバルーンは手技施行中に血圧低下等の合併症が生じる可能性が高いことより、気管内挿管をし、筋弛緩剤を併用した十分な鎮静をかけた上で施行することが望ましい。 

 弁下や弁上の狭窄については、拡大径が弁輪で規定されており、バルーン拡大術による著明な効果は得られない。特に弁下狭窄に対するバルーン拡大術では、拡大術を施行した直後に刺激により弁下の肥厚心筋が収縮し、一時的に狭窄度合いをさらに強くすることもある。弁性狭窄に弁下の狭窄を合併している場合も、同様である。 

 末梢性の肺動脈狭窄では、術後、癒着等により狭窄が出ているような場合には周囲の組織が硬くなっていると判断し、前後の正常な肺動脈径の50~70%増か、最狭窄部の3~4倍のサイズまでのバルーンサイズを選択することができる。ただし、これは術後あるていどしかし、もともとの狭窄の場合は、周囲組織の癒着がないことより、前後の正常な肺動脈径の10~15%増か、最狭窄部の2~3倍までのバルーンサイズを選択することが推奨されている2)。術後の強度な狭窄部位で、バルーンでは拡張できない場合は、cutting balloonを使用して、周囲の組織の内膜に切れ目をいれてから拡張することや、繰り返す狭窄部位にはステントを留置することもある。 

 近年では、ハイブリッドと称して、手術中にカテーテルでバルーン拡大術を同時に施行する、若しくはステントを留置するなどして良好な結果を挙げている。 

 外科治療は、バルーン拡張術が不充分あるいは不成功だった場合に施行することとなる。人工心肺を使用せずに盲目的に拡張する手術(Brock術)、もしくは人工心肺を使用して、癒合している肺動脈弁を直視下に剥離する。弁輪そのものが小さかったり、異形成弁の場合、弁下、弁上に狭窄が存在する場合は、パッチを使用して拡張することになる。新生児の重症例はカテーテル治療が不可能な場合には肺動脈への血流を維持するために動脈管のかわりとなるブラロック・タウジッヒ短絡(BT shunt) を増設する必要が生じる。その後の治療方針も右心室の大きさ等で大きく異なっていく。

予後

 軽症例は予後良好である。中等症は年余にわたる圧負荷のために心筋肥厚や線維化による心筋障害、肺動脈弁尖の線維化などが生じ、狭窄解除を途中で施行した方が望ましいが、生命予後自体は良好である。重症例は放置すれば心不全が進行する可能性が高く、また動脈管依存性の高い場合は、動脈管の狭小化・閉鎖で急変する場合もある。

最近の動向

 肺動脈弁性狭窄の治療についてはインターベンションが定着し、成功率も高くなった。末梢性肺動脈狭窄に対してもインターベンションが盛んに行われるようになっている。ハイブリッド方式として、外科的治療と同時に末梢の肺動脈にステントを留置する等のインターベンションを施行していく試みがされてきている。

参考文献

1) Lawrence A. Latson, Louredes R. Prieto: Pulmonary stenosis: in "Moss and Adams' Heart Disease In Infants, Children, And Adolescents(6th ed)" (Hugh D. Allen et al. eds), Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 2001,p820~844

2) Pulmonary valve balloon dilation, Dilation of branch pulmonary artery stenosis: in "Cardiac catheterization in congenital heart disease" : (Charles E. Mullins eds) , Blackwell Futura, 2006, p430~453

(MyMedより)推薦図書

1) 大谷修・堀尾嘉幸 著、坂井建雄・河原克雅 編集:カラー図解 人体の正常構造と機能〈2〉循環器,日本医事新報社 2000

2) 中澤誠 編集:先天性心疾患 (新目でみる循環器病シリーズ),メジカルビュー社 2005
 

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