起立性調節障害 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.26

起立性調節障害(きりつせいちょうせつしょうがい)

Orthostatic Dysregulation

執筆者: 中村 嘉宏

概要

 自律神経による起立後の循環動態の調節が不十分なために引き起こされる病態である。一般には朝の起床後の立ちくらみ,眩暈,脳貧血,目覚めが悪い,などといった症状の訴えが多いが,それ以外にも多彩な症状を訴える。動悸、易疲労性、失神などが挙げられ、思春期前〜思春期の小児に多い。また、身体的要因、環境的あるいは心理的ストレスによって強い影響を受け、腹痛、嘔気、嘔吐、下痢などの消化器症状や、頭痛、食欲不振、睡眠障害、起床困難、倦怠感などの不定愁訴を伴う。

 欧米での小児科領域では認識度が低いが,日本では比較的認知度が高く,外来患者も少なくない。心身症として捉えられる機会も多く,新学期開始後や,夏休み後の生活リズムの変化,社会環境,家庭環境の変化によっても症状を呈する。

病因

 ODは、循環器系を調節する自律神経の機能失調が背景にあり,血管のトーヌス(緊張度)と循環血液量との不均衡がこの疾患の原因である。循環血液量と血管トーヌスとの不均衡が、脳循環や臓器血流の不全をもたらすと考えられている。

 またODの亜型として神経調節性失神(neurally mediated syncope)がある。これも自律神経調節の障害による失神と考えられている。

病態生理

 血管トーヌスと循環血液量との不均衡は,循環動態では,低血圧や心拍数増加が引き起こされる。脳血流低下により頭痛,眩暈,嘔気,心拍数増加により動悸などの症状に繋がる。腹部臓器への血流減少は腹痛,嘔気の訴えの原因になる。

 起立性調節障害の病態として、(1)迅速な血管収縮反応の低下や静脈の緊張性欠如(特に下肢において)、(2)カテコラミン過剰放出あるいはβ受容体の過敏性、(3)副交感性C線維を経由する脳からの交感神経に対する奇異性の抑制反応(Bazold-Jarisch 反応)、(4)脳の血管収縮の関与、などが報告されている。

 (1)の病態では、起立に伴う腹部や下肢の血管収縮応答が不十分で,循環血液が腹部や下肢の血管にプールされる。その結果、心臓への静脈還流が相対的に減少し,起立維持や歩行に要する血流や血圧を維持出来ないと考えられている。

 体位性迷走神経失神(postural vasovagal syncope)の思春期年代患者に関する近年の報告(Stewart et al. 2004)では,心臓への静脈還流が減少する原因としての,血流プールの部位は,従来考えられてきた下肢だけが原因ではなく,むしろ腹部への血液の貯留の方が失神の原因として大きく寄与するのではないかという指摘がある。正常者と患者の両者で起立時に下肢のインピーダンスは増加(水分の増加)したが,腹部のインピーダンスの増加は失神患者群でのみ認められたと報告されている。但し,体静脈系の収縮不全なのか体動脈系の収縮不全なのかは明らかではない。

 (2)、(3)の病態に関しては、神経調節性失神の病態生理と深く関わる。姿勢転換,驚愕,疼痛刺激などにより,交感神経の過剰な興奮に伴い頻拍となったことが,脊髄・延髄に伝わり,反射性に副交感神経が異常に興奮する結果,交感神経、同結節,心臓に対し急激かつ強力な抑制作用を生じ,心停止を来す。また血管運動神経にも抑制がかかり血管拡張を呈し低血圧も生じるとされる。

臨床症状

自覚症状

 眩暈、立暈、動悸、易疲労性、失神などが挙げられる。身体的発達の著しい思春期前〜思春期(10〜20歳)の年代で多く、学童の1割前後に同疾患の症状を認める。身体的要因、環境的あるいは心理的ストレスによって強い影響を受け、腹痛、嘔気、嘔吐,下痢などの消化器症状や、頭痛、食欲不振、睡眠障害、起床困難、倦怠感などの不定愁訴を伴う。神経調節性失神は,自覚症状の前に意識消失が起こる。

他覚症状

 起立や起床に伴う顔色不良,心拍数増加(診断基準の通り),低血圧(診断基準の通り),心電図以上(診断基準の通り),失神,が挙げられる。

 神経因性失神は,転倒,採血,指を戸や窓で挟む,排尿あるいはトイレで息む,咳嗽、嚥下などの刺激によっても失神を生じる。

検査成績

 ODの診断に用いる従来の診断基準でほぼODのスクリーニングが可能である。また起立負荷試験により診断が確定される。

 神経調節性失神では,受動的起立負荷試験(head up tilt test)により失神発作,失神前症状が再現され,診断が確定される。Tilt testで陽性に出ない場合,試験時に薬物負荷(DOB)を行い,神経反射を増強させることにより失神発作が確認できる場合もある。いずれにしても,神経調節性失神の場合は,心停止に備えて,静脈ルートの確保は必須であり,血圧の連続測定も必要であることから動脈ラインの確保が望ましいとされる。救急救命に関する蘇生薬や酸素,マスク・バッグの準備も必須である。

 他疾患の鑑別の目的で,必要に応じ,血液検査(一般血算:貧血の評価,生化学),胸腹部レントゲン写真,心電図,心エコー,頭部CT・MRI,脳波,免疫学的検索(Ig G, A, M, C3, C4, CH50, RF, ASO, Ferritin, ANA),尿所見(定性,沈渣,生化)などを追加する。

診断・鑑別診断

診断基準


 小児の起立生調節障害(Orthostatic dysregulation, OD)の診断には, 1960年の小児起立性調節障害研究班による診断基準(表1)がこれまで用いられてきた。この診断基準は現在でも,外来でのOD診断のスクリーニングには有効である。
 



診断法


 ODの診断には起立負荷試験が不可欠である。起立負荷試験には能動的起立負荷試験と傾斜台を用いて行う(head up tilt test )受動的起立負荷試験とがある。

能動的起立負荷


 スクリーニングでは (3)~(4) を省略する。

 患者が緊張しない静かな環境で午前中に行う。臥位は,外来診察台の高さと固さが良い。

 (1) 安静臥位を10分間保つ。水銀血圧計を上腕に装着する。
   また四肢誘導心電図を装着するのが望ましい。

 (2) 安静臥位10分後に,血圧を3回測定し,収縮期血圧(中間値)を決定する。
   心拍数も測定する。

 (3) 収縮期血圧(中間値)でカフ内圧を固定(ゴム管をコッヘルで固定)し,
   聴診器を腕に当てたまま起立させる(コロトコフ音がわずかに聴取される状態)。

 (4) 起立により消失したコロトコフ音が再開するまでの間隔(秒)を記録する。

 (5) 起立直後,1,3,5,7,10分後の心拍数、血圧(収縮期・拡張期)を測定する。
   起立後連続測定できればより良い。起立中に,嘔気、フラフラ感,など,
   失神前駆症状や低血圧発作を認めたら,直ちに安静臥位をとる。

 表1の基準に基づき診断する。近年提唱され始めた,ODのサブタイプについては後に新しいサブタイプ毎の診断基準に基づき述べることにする。


受動的起立負荷

 これは、傾斜台の上で横臥位から傾斜角70度程度まで起立させ、最大30-60分の起立負荷を行うものである。この場合、saddle boardとfoot boardのいずれかを装着する。Saddle boardでfoot boardが無い場合は、足底からの重力刺激の入力が減弱し、失神が起きやすく擬陽性が出やすいとされる。一般にはfoot boardを付けた状態で行われる。

 イソプロテレノール負荷を加え検査感度を向上させる方法もある。原因不明の失神患者についてTilt testを施行した場合、起立負荷時間が30-60分で24-75%のTilt陽性率が、イソプロテレノール負荷を併用すると陽性率が60-100%に上昇するとされる。

 Tilt陽性は、血圧の低下をもって陽性とされる場合が多く、収縮期<60mmHg, Tilt負荷1分値より収縮期血圧-20mmHgが基準とされる。心拍数変化では-20bpmで陽性とする。

 Tilt test陽性の反応パターンは3つに大別される。

 (1) 突然の徐脈・心停止型 (cardioinhibitory response):3秒以上の突然の心停止。

 (2) 低血圧型(vasodepressor response):有意な心拍数減少を伴わない。

 (3) 混合型 (mixed):低血圧、心拍数の両方が低下する。

 原因不明の失神発作のうち40〜80%がTilt test陽性で、失神発作のない人では83〜100%がTilt test 陰性であったいう報告もある。

鑑別診断


 OD症状の患者には、脳腫瘍,てんかんなど器質性中枢神経疾患,過敏性腸症や潰瘍性大腸炎などの消化器疾患,リウマチ性疾患や自己免疫疾患、甲状腺機能低下や下垂体腫瘍など内分泌疾患,また不整脈や心筋炎,心奇形や弁膜疾患など心疾患,前庭神経炎や頭囲変換性眩暈,慢性副鼻腔炎,メニエール病など耳鼻科疾患,乱視などの眼科疾患,慢性疲労症候群などの感染症,など、器質的疾患の鑑別が重要である。

 また睡眠障害や,精神疾患との鑑別も必要な場合があると考えられる。

 神経因性失神に関しては、前述の受動的起立負荷試験 (head up tilt test) 以外に,血液検査(貧血、甲状腺機能含め)、12誘導心電図、Holter心電図、心エコー、脳波、CT、MRIも含め包括的精査が必要である。

治療

 (1) 説明療法 

 器質性疾患の鑑別を行い,診断確定後に,困っている症状はODが原因であり,それが、自律神経の機能失調が原因であると説明する。またそれはあくまで身体疾患であり,「怠け病」ではないことを説明し,本人や保護者にも納得してもらう。

 思春期頃に多いという年齢的な特徴があること、殆どは一時的なものであること, 日内変動や季節変動が存在すること,を本人に理解させる。予後が良く,自然軽快することもあることを説明し,安心させることも大切である。

 (2) 日常生活指導 

 軽症の場合,規則正しい生活リズムの励行や生活習慣の注意から始める。生活習慣では、早寝早起きなどの規則正しい生活リズムが推奨される。強要はしない。生活習慣では,起床や起立行為を30秒以上かけて緩徐に行う,入浴時の起立には注意する,などが挙げられる。また,起立耐性を獲得するために,日中は,身体がだるくても横にならないようにする。夏期には,気温の高い場所を避け,適切な飲水を指導する。

 また,学校の担任や養護教員に対しても,ODの病態生理の理解を促す。本人の訴える症状や,その原因となりうる社会的に困っている状況や問題を,保護者ならびに学校関係者や周囲も理解し,解決できるよう連絡を取り合うことも重要である。診断書の提出は効果的である。

 学校生活では,静止状態での起立姿勢を3分以上続けないよう要請する。軽症例では運動制限は必要ない。中等症以上では競争的内容の運動は避ける。

 (3) 食事療法 

 塩気のある食事を忌避させない。塩分摂取量を10g/dayに若干増量するよう指導する場合もある。但しこの場合,低血圧が確認され,それに起因する病態で主症状が説明可能であり,塩分摂取で症状の改善が見込まれることが必要である。安易に塩分摂取を奨励することは,むしろ弊害に繋がる危険性もあるので注意が必要である。 塩気のある食事を,水分と一緒に摂取することが必要である。

 (4) 運動療法 

 散歩など,軽い運動を奨励する。1日15~30分で良い。

 (5) 装具 

 下半身への血液の貯留を防ぐ。弾性ストッキングなどで効果がある場合がある。

 (6) 薬物療法 

 日常生活の指導や、非薬物療法で効果が乏しく、症状が強い場合は薬物療法を検討する。とくに社会生活に障害が生じるほどの強い症状では,薬物療法の適応である。

[OD治療薬] 

 a. 交感神経刺激薬

  塩酸ミドドリン(ミトリジン)低血圧症状に:4mg, 分2, 朝夕,最大6mg
  メチル酸アメジニウム(リズミック)低血圧症状に:20mg, 分2, 朝夕

 b. 血管収縮薬・偏頭痛薬

  メシル酸ジヒドロエルゴタミン(ジヒデルゴット)頭痛,腹痛に:2mg, 分2, 朝夕

 c. 神経調節性失神治療薬

  β阻害剤:酒石酸メトプロロール(ロプレソール,セロケン):40mg, 分2, 朝夕
  抗不整脈薬(頻拍の予防):ジソピラミド(リスモダン):150mg, 分3, 毎食後

 エルゴタミンと他の昇圧剤との併用は高血圧となる場合があるので注意する。

 β阻害剤は,喘息をもつ症例には禁忌である。また低血圧(収縮期<90mmHg)傾向にある患者には,β阻害剤は更に血圧を下げる危険もあるため注意する。神経調節性失神で低血圧傾向の患者には,ジソピラミドを使用する。但し,β阻害剤以外の薬物では神経調節性失神への有効性は認められていない。神経調節性失神の診断は,tilt testによる失神,失神前駆症状の出現で確定するが,その際,低血圧も呈しているため,ODとの鑑別は必ずしも容易ではない。従って,神経調節性失神を認め,低血圧傾向で基礎にODが存在すると考えられる時は,交感神経刺激薬を用いる場合もある。

 薬剤療法は,2~3週間使用しても効果が認められない場合は,怠薬のないことを確認の上,薬剤を変更する。

 神経症状が強い例では,抗うつ薬の塩酸イミプラミン(トフラニール 10mg, 分2, 朝夕または夕のみ,など)が使用される場合もある。しかし,予後の稿でも述べるように,心理学的,精神医学的アプローチが必要な症例には,小児精神神経領域の専門医の判断に適応を委ねた方が賢明であろう。

予後

 軽症の場合や,一般的なODへの薬物療法に反応し,症状が改善され社会生活に支障がない症例では,予後は良いと考えられる。

 生活リズム・習慣の改善,上記の薬物療法で改善しない場合や,社会心理学的背景が強く関与していると考えられる場合は,専門医や臨床心理士による心理カウンセリングが必要となる。症例によっては精神医学的薬物療法も必要な場合もある。従って,一般小児診療では心理療法を原則,実施しない。心理療法が必要な児は重症であり,早い段階で専門医による診療が必要である。 

最近の動向

 成人での同様の疾患では,起立不耐症(orthostatic intolerance)という概念が用いられ、起立性低血圧、体位性頻脈症候群、神経調節性失神のサブタイプに分類されそれぞれに診断基準が設けられている。

 近年,小児のODについても,起立直後性低血圧、体位性頻脈症候群、神経調節性失神、遷延性起立性低血圧の4つのサブタイプへの分類が提唱されている。2006年の小児心身医学会では,各サブタイプについて診断・治療ガイドラインが発表されたので,表2に示す。
 



参考:サブタイプ別の処方例

a. 起立直後性低血圧(INOH)

  処方A メトリジンあるいはメトリジンD錠(2mg)

  (1) 1回1錠,1日2回(起床時,夕食後)
  (2) 午後からも症状が続く場合:1回1錠,1日2回(起床時,昼食後)
  (3) 早朝の症状が強い場合:1回1錠,1日2回(起床時,眠前)

                  但し,不眠を起こせば中止する

  処方B 処方A2週間で改善しない場合は増量

  処方C 処方Bで起立試験に改善を認めない場合は以下のいずれかを使用

  (1) リズミック錠(10mg) 1回半錠,または1錠(起床時)
  (2) ジヒデルゴッド錠(1mg) 1回1錠,1日2回(起床時,昼食後)

b. 体位性頻脈症候群(POTS)

  処方A 起立直後性低血圧と同じ

  処方B 処方A2週間で起立試験に改善が認められない場合は,βブロッカーを併用
       インデラル錠(10mg) 起床時1回1錠  注)喘息には禁忌。

c. 神経調節性失神

 INOHやPOTSが基礎にあり,神経調節性失神を生ずる場合,上記の処方に準ずる。
Tilt test(受動的起立負荷試験)で確定診断された場合は、発作予防にβブロッカーやジゾピラミドが使用される。

参考文献

1.井上博:循環器疾患と自律神経機能,医学書院 1997

2.浅井利夫:起立性調節障害 今日の小児治療指針 第12版,医学書院 2000

3.田中英高:起立性調節障害 小児疾患の診断治療基準 第2版,東京医学社2001

4.Stewart, J. M. et al., Relation of Postural Vasovagal Syncope to Splanchnic Hypervolemia in Adolescents. Circulation. 2004; 110:2575-2581.

5.磯田貴義;失神: 今日の小児診断指針第4版,医学書院 2004

6.菊地豊;起立性調節障害:小児疾患の診断治療基準 第3版,東京医学社2006

7.日本小児心身医学会:小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005 

8.中村嘉宏;起立性調節障害:小児科診療ガイドライン,総合医学社 2007

(MyMedより)推薦図書

1) 田中英高 編さん:起立性調節障害 (小児科臨床ピクシス 13),中山書店 2010

2) 大国真彦 著:起立性調節障害―朝、起きられない子どものために,芽ばえ社 2009

3) 田中英高 著:起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応,中央法規出版 2009
 

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