体外受精・胚移植 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.30

体外受精・胚移植(たいがいじゅせい・はいいしょく)

執筆者: 齊藤 英和

概要

 人の体外受精・胚移植は、1978年に始めてイギリスで成功したが、この治療法は卵ならびに胚の初期発育を体外で行う点で一般の不妊治療とは大きく異なる画期的な治療法であった。その後、現在に至るまで、多くの症例の治療に用いられている。その後胚凍結・融解胚移植法や顕微授精が開発され、現在本邦では、一年間に数万人以上の患者がこれら治療を受けている。胚凍結・融解胚移植や顕微授精を含めると2008年の治療で約21,000人の児が誕生しており、不妊治療の中心的方法となっている。
 今回、本治療法に関する重要と思われる項目について、歴史的背景も含めキーポイントとなる点について解説した。

病因

【Ⅰ.対象疾患】  

1.卵管性不妊:両側卵管閉塞、卵管形成術などの治療が適応外あるいは無効であった症例、その他卵管の機能障害のある症例
2.男性不妊症:乏精子症、精子無力症、精子奇形症などで数回の人工授精を行ったにも関わらず妊娠に至らない症例。閉塞性無精子症.非閉塞性無精子症であるが精巣生検により精子が存在する症例。
3.免疫性不妊症:抗精子抗体などが陽性などの人のうち、人工授精を行ったにも関わらず妊娠しない症例
4.子宮内膜症性不妊症:薬物療法、手術療法が無効であった症例
5.原因不明:明らかな不妊原因が不明で長期間、他の不妊治療をしても妊娠に至っていない症例。

治療

  【Ⅱ.治療方法:体外受精のスケジュール】  

 体外受精・胚移植の治療法は、卵胞発育法、採卵、精子調整・媒精法、培養、凍結保存、胚移植、黄体期補充などにわけられる。GnRH agonistを用いた基本的なスケジュールを図1に示し、それぞれの方法について解説する。
 



1.卵胞発育法

 体外受精を行う際に、多数の卵胞を発育させて採卵する場合と、自然周期や複数だが、少ない数の卵胞を発育させて、採卵する場合がある。どちらの方法にも利点・欠点がある。多数の卵胞を発育させると、最低1個採卵できる確率は上昇するが、採卵時間が長くなる。また、卵巣過剰症候群を起こす確率が上昇し、黄体期のホルモン値も正常と大きく異なるため、黄体期のホルモン補充も考慮しなければならない。自然周期や少ない数の卵胞を発育させると、採卵時卵が採取できない周期の確率が高くなり、採卵時点で、治療が終了となることがある。しかし、採卵時間が短く、卵巣過剰刺激症候群が起こる確率が低下する。また、続けて次の月経周期に治療を行うこともできる。

 いずれの卵胞発育法でも、採卵周期の月経第3日目前後で、排卵誘発剤を投与する前に子宮内膜の剥離状態や卵巣に嚢胞が存在しないか、モニターすることが大切である。子宮内膜の剥離が悪い場合、そのまま遺残すると新しい内膜の発育を阻害することもある。この場合、やわらかいネラトンカテーテルなどで吸引しておくことよい。また、卵巣に嚢胞が存在する場合は、治療周期をキャンセルすることもある。GnRH agonistのロング法で月経第3日目に卵巣に嚢胞が存在する場合は、ゴナドトロピンの投与開始を嚢胞消失まで延期し、GnRH agonist投与を継続する。

 さらに、月経3日目には採血も行い、血中エストラジオールが50pg/ml以下であり、LH,FSHも正常範囲にあることを確認しておくことも大切である。  卵胞が十分発育した時点で、最卵胞発育の終段階として排卵誘起するが、LH サージの代用でhCGを用いる場合や、卵胞発育刺激時にGnRH agonistを用いていなければGnRH agonistを用いて内因性のLH サージを誘起することができる。HCGの量は5000単位、10000単位が一般的である。また、GnRH agonist(buserelin)を用いてLH サージを誘起するときは300μgで十分であるが、場合によっては、3時間ぐらいの時間をおいてもう一度、鼻腔に噴霧する。大切なことは、鼻什が出る場合などは前もって鼻をよくかんでおくなど、鼻粘膜より吸収し易い状態にしておくことである。   

a. 方法

1) 自然周期
2) クロミッド®(またはセロフェン®)
3) クロミッド(またはセロフェン)+hMG(またはreFSH)(+ GnRH antagonist )
4) hMG(またはreFSH)のみまたは+GnRH antagonist
5) GnRH agonist + hMG(またはreFSH)
6) その他などいろいろな排卵誘発法が患者に合わせて用いられる。

1)自然周期

 卵胞の発育は基本的に自然にゆだねられるが、LH サージは夜間に起こることが多いので、採卵時間を固定するために、内因性のLH サージが起こるまえに、hCGの投与やGnRH agonist(buserelinなど)を用いて内因性のLH サージを誘起することが多い。また、卵胞発育モニター中でhCGやGnRH agonistの投与を決定する前に内因性のLH サージが起こらないように、GnRH antagonistを併用する場合もある。  

2)クロミッド(またはセロフェン)

 患者は通常、月経周期を持つ症例が多いので、クロミッド(またはセロフェン)は、卵胞の選択が行われる以前の月経第3日目より開始し、5日間使用するのがよい。クロミッドは抗エストロゲン作用があるため、長く使用すると子宮内膜の発育が遅れ、また、半減期が7日と長いため胚移植のときでも内膜に影響が残ることがあり、胚にも直接影響する可能性がある。卵胞は自然周期に比較すると、大きめ(直径20mm以上)になっても内因性のLH サージが起こることは少ない。代謝されエストロゲンレセプターと結合が少なくなると、卵胞発育によるエストラジオールがpositive feedback により、内因性のLH サージを引き起こすようになるが、その際には、エストラジオールにより子宮内膜が厚くなり、頚管粘液も変化してくるので注意深く観察すると、hCGの投与やGnRH agonistを用いて内因性のLH サージを誘起するタイミングを判断しやすい。このようにすれば、GnRH antagonistを内因性のLH サージの抑制のために使用しなくてもすむことが多い。  

3)クロミッド(またはセロフェン)+hMG(またはreFSH) (+ GnRH antagonist )

 クロミッド(またはセロフェン)は、卵胞の選択が行われる以前の月経第3日目より開始し、5日間使用し、さらに卵胞刺激が必要な場合は、hMG(またはreFSH)をクロミッド使用時から、またはクロミッドに続いて使用する。 クロミッド単独と同様に、クロミッドの使用時は卵胞の大きさがかなり大きくなるまで、クロミッドはエストロゲン受容体をブロックしているが、クロミッドが体外に排出される過程で、内因性のLH サージが起こる可能性があるので、GnRH antagonistの使用を考慮する。子宮内膜の厚さの変化や、子宮頚管粘液の変化もモニターすることが大切である。

4)hMG(またはreFSH)のみまたは+GnRH antagonist

 卵胞の選択が行われる以前の月経第3日目より開始するのがよい。卵胞が多数発育してくると個々の卵胞の大きさがまだ小さいのに、血中エストラジオール値はpositive feedbackを起こすのに十分な値に達することがよくある。この卵胞が十分な大きさに達しないうちにLHサージが起こることをpremature LH surge と呼んでいる。よって、hMG(またはreFSH)を単独で使用する際には、血中のLHの変動について、頻回に測定する必要がある。また、最近は、GnRH antagonistを併用し内因性のLH サージを抑制することで卵胞が至適大きさになるまでFSHを継続することも可能である。 GnRH antagonistの投与に関しては、FSH投与から、固定の日を定めて投与を開始する方法と、卵胞が14mmぐらいに到達した時点から、GnRH antagonistの投与を開始する投与法がある。患者により、gonadotropin に対する卵胞発育の反応は異なるので後者のほうが合理的と考える。

 GnRH antagonist製剤としてはCetrorelixとGanirelixがある。 Cetrorelixでは、連日投与法と単回投与法があり、Ganirelixは連日投与法のみである。卵胞が14mm前後の至適大きさに達した時点から、投与を開始する。連続法は連日0.25mg、Ganirelixの単回法は3mgを用いるが投与後、3日経っても採卵が決まらない場合は、その後、連日投与の0.25mgを採卵決定日まで投与する。また、antagonistを投与するときは、FSH投与量を増加するほうが卵胞の発育は円滑である。また、GnRH antagonist使用時は、使用前後のLH,E2を測定し、これらの変動を評価しながら卵胞発育モニターをすることが大切である。  

5)GnRH agonist + hMG(またはreFSH)(図2) 
 


 hMG(またはreFSH)ではpremature LH surgeが起こることがあり、これを予防するためにGnRH agonistやGnRH antagonistが併用される。歴史的にはGnRH agonistが先に開発され、臨床応用された。そのため、GnRH agonistを併用する排卵誘発法が依然最も多く使用されている、本邦では、GnRH agonistとして経鼻投与のbuserelinやnafarelinが使用されることが多い。この使用方法には大きく分けてlong法とshort法がある。

 経鼻投与のbuserelinにてその投与法を説明すると、月経開始よりbuserelin1200 - 900μg / dayを 数日間しか使用しないultra-short 法や月経開始よりまたは月経開始第3日より900 - 600μg / dayをhCG中止日まで使用するshort法、また月経開始1ないし2週間前から使用するlong 法、月経開始2週間前から、または月経開始日より900 - 600μg / dayを開始し約1ケ月以上使用し血中estradiolが充分低値になるまでbuserelinを使用し続けた後にhMG(またはreFSH)を開始するultra-long法などが考案されている(図1)。長くGnRH agonistを使用するほど採卵日を制御することができる。しかしLHが卵胞期で極度に低値になると卵胞発育に影響するので、LHを測定しながら低値の場合はLH活性を含むhMG製剤を使用する。

 長期間GnRH agonistを使用することによって採卵後の黄体期には血中LHがかなり長期間に渡って低値を示す。GnRH agonistを併用し、かつ黄体期の補充を行わない場合の卵胞発育刺激法では採卵後14日以前に次の月経が開始されることが多く見受けられる。これはGnRH agonistを併用した場合の黄体期LHが低値であることが原因の一つと考えられる。このためGnRH agonist + hMG(またはreFSH)療法の際は、黄体期の補充は必要不可欠である。この黄体期補充には大きく分けて黄体ホルモンを補充する方法、hCGを補充する方法と両者を併用する方法がある。どちらを用いても、また両方を同時に用いてもよい。HCGを用いる場合は卵巣過剰刺激症候群に注意が必要となる。 

6)その他

 最近、乳癌の治療に用いられているアロマターゼインヒビターであるフェマーラ®などを用いた排卵誘発法が報告されている。フェマーラ®はクロミッドと同様に月経周期の第3日目から7日目の5日間服用し、フェマーラ単独がまたは、FSH併用で排卵誘発を行う。クロミッド治療で出産した児と本薬剤を使用し出産した児の奇形発生率の検討では、フェマーラはクロミッドより奇形率が高いという報告はない。しかし、フェマーラの臨床適応は乳癌とされているため、使用にする場合には、患者によく説明し同意をとる必要がある。   

2.採卵法 

    体外受精治療の黎明期では、腹腔鏡下採卵が行われていたが、経膣超音波法が開発されると採卵も超音波下に経膣的採卵に移行した。腹腔内に癒着がない場合には、卵巣はダグラス窩に位置することが多く、膣円蓋の腹腔側はダグラス窩であることより、膣円蓋より18-21Gの針を穿刺し腸管や子宮などに接触せず卵巣内の卵胞に到達することができる。卵胞液と同時に卵を吸引器または注射器にて吸引する。吸引した卵胞液はすぐに、実体顕微鏡下に卵を探し、培養液にて洗浄後、別の培養液に入れ培養器に収納する。この間温度が下がらないように、実体顕微鏡のステージは摂氏37度に加温しておく。

3.精子調整・媒精法

 通常の精液所見のときは、精子遠心洗浄と精子スイムアップ法を用いるが、精子濃度が低いときや、運動性が低いときはアイソレート選別法を加える。

 まず、精液が液化したのち、精液1mlまたは運動精子数で約1000万以上の運動性精子を含む精液と培養液、約10mlを混和する。不純物が多い場合または粘液物質が多い場合は二プロART用異物除去フィルターを用いて異物を除去後、300g で10分間遠心を2回行う。2回目の遠心洗浄後、そのままチューブ20-30分放置し、沈殿物より、2-5mmスイムアップしてきた運動精子のみを回収し、媒精に用いる。

 アイソレート選別法は最初の遠心の際に精液と培養液を混和後、アイソレート2mlを遠心チューブの底に層をつくるように挿入し、1000g20分遠心する。遠心後運動精子はチューブの底に沈殿する。これを回収し2回目以降の精子調整法は同様に行う。

4.培養

 約1mlの培養液に採卵された卵が入っているが、これに、採卵後約2-3時間後に調整した運動精子10万個を媒精する。原精液所見が悪いときは、原所見に応じて媒精する運動精子数を30万個ぐらいまで増量することもある。原精液所見が極度に悪い場合は、採取された卵の半数を顕微授精にする場合や全部の卵を顕微授精にする場合もある。

 媒精2時間後に媒精した卵を精子が含まれていない培養液に移し培養を継続する。培養液は市販のどの培養液を用いてもよいが、われわれは、グルコースを低濃度に含む培養液で媒精から胚盤胞まで培養している。卵・胚を培養する培養液はミネラルオイルで覆い、使用前約8時間以上(または前日)培養器に入れ、倍培養液のpHを7.4にしておくことが大切である。 
 
5.胚移植 

  歴史的には胚移植は胚の発育段階のいろいろな時期に行われてきた。黎明期では、採卵後2日目の4細胞期で胚移植が行われることが多かったが、現在は3日目の8細胞期から5日目の胚盤胞期の時期に胚移植が行われることが多い。胚移植時には胚への影響を考え、膣の洗浄は滅菌生食を用い、消毒液を用いない。いろいろな胚移植カテーテルを用いて胚を少量の培養液(0.03ml 以下)と一緒に子宮底付近に移植する。

 移植後は経膣超音波で移植液の位置を確認する。移植胚数は原則1個としている。35歳以上の高齢者や複数回胚移植をおこなっても妊娠に至らない症例には、胚移植数は2個まで許容する。これは2008年日本産科婦人科学会の総会で可決された生殖補助医療における移植胚数に関する会告であるが、生殖補助医療は妊娠させることよりも、妊娠後の安全性に重きをおいて治療することが大切である。また、この際、残りの胚は凍結保存することができることを夫婦に説明することも重要としている。

 胚移植後の安静が必要であるというエビデンスはないが、患者の希望に応じて、1-2時間安静としている。 

 6.凍結保存

 多胎妊娠は妊娠中や分娩時に種々な合併症を引き起こす可能性がある。そのため産科学的には、できれば単胎妊娠のほうが好ましいとされている。体外受精や顕微授精などでは卵を体外に採取・受精させ、発育胚を体内の子宮に移植し妊娠を得るため、移植する胚を制限することにより、多胎妊娠を防止することができる。日本産科婦人科学会は本年、移植する胚数を原則1個と規定し、妊娠・分娩時に母体や児の安全に考慮している。移植胚数を制限することにより、移植されない多数の形態良好胚が生じ、これらを凍結保存しておく必要性がさらに高まっている。

 1972年にWhittingham らがはじめてマウスの胚を凍結保存し、その後、融解移植することにより正常産仔を得て以来、ラット、ウサギなど多くの哺乳動物で同様の成功が報告されている。ヒト胚では1983年、Trounson らが初めて凍結受精卵を融解移植し妊娠分娩例報告して以来、体外受精胚移植の普及とともに広く臨床応用されるに至っている。特に最近、Vitrification法がヒト胚の臨床にされるにいたり、凍結手技の実施施設の割合が増加している。  

a. 胚凍結保存の意義  

 胚凍結保存の意義は7つある。もっとも重要なものは多胎妊娠の回避である。そのほか、卵巣過剰刺激症候群の予防、着床環境の改善し自然周期に近い環境で胚移植、経済的・身体的負担の軽減、胚の遺伝子診断に利用、若い時期に卵胚を凍結保存する、癌の化学療法前に卵胚を凍結保存することである。

 多胎妊娠は種々な妊娠の合併症を母体側・胎児側双方に引き起こすようになっている。多胎の妊娠・分娩リスクを胎児側よりみると
1.流早産の危険が高い、
2.胎児の発育遅延や低出生体重児の出生が多い、
3.胎児の先天異常が多い、などがある。

 また母体側からみると、
1.妊娠中毒症の頻度が高い、
2.流早産防止のため妊娠早期からの入院、また長期の入院が多い、
3.頸管縫縮術を受ける割合が多い、
4.帝王切開術の施行例が多い、
5.産後の異常出血が多い。
 また低体重出生児が多いため、NICUの施設やスタッフ不足など医療経済上の負担も大きな問題である。

 このように多胎妊娠は多くの問題を抱えているため、多胎妊娠が生じないための予防策の検討が最も重要な課題となっている。幸いなことに体外受精・顕微授精では移植する胚の数を減らすことにより、確実に多胎妊娠を減らすことができる。ただ、このため余剰卵が多く生じるために、より安全で容易な凍結方法の必要性が増加してくる。

 第2に発育卵胞数が多いと、胚移植後、卵巣過剰症候群が起こりやすくなり、母体に危険が増すことになる。このようなときは、受精し、良好胚に発育した胚すべてを凍結保存し、採卵周期での卵巣過剰症候群の発生を回避することができる。

 第3には、採卵周期は過排卵刺激法用をいることが多く、異常に高いホルモン環境となり、胚が子宮内膜に着床する環境が障害され、子宮内膜と胚の発育が同調しにくいと考えられている。このため、胚移植の着床環境を改善するために、採卵周期には胚移植せず凍結保存し、後の自然周期やホルモン補充周期を用いて、胚移植し妊娠率を改善する。

 第4の意義としては、1回の採卵で複数回の胚移植が可能となることより、過排卵刺激や採卵手技に伴う、患者の身体的、精神的、および経済的負担を軽減することができることである。特に卵巣過剰刺激症候群は妊娠に伴って増悪する可能性が高いので、卵巣過剰刺激症候群を起こしやすい患者の場合は受精し発育した胚全てを凍結し、後の月経周期に移植することにより卵巣過剰刺激症候群を予防することが望ましい場合もある。

 第5の意義としては、胚の遺伝子診断に応用できることである。分割した胚の割球の1個から2個を採取し、遺伝子診断に用い、残りの部分を凍結し診断が確定するまで凍結保存する。時間の余裕を持って、重篤な遺伝疾患を持たない胚のみを移植することができ、妊娠後の絨毛診断や羊水穿刺、およびその結果による人工妊娠中絶を回避できる。

 第6の意義としては、若い時期に卵胚を凍結保存し、子育てに余裕が持てる時期になって、融解・胚移植し、児を持つことである。しかし、これに関しては高齢になり妊娠・分娩となるため産科的リスクが上昇するなど、いろいろな社会的倫理的問題が含まれている。

 第7の意義としては、癌の化学療法前に卵胚を凍結保存することできることである。癌の化学療法は卵巣における卵に障害を与え、その数を激減する。この影響により癌完治後に卵巣機能の減弱し、不妊になる症例がある。このような症例に対し、癌治療まえに卵・胚を保存し、完治後、この卵・胚を利用することで、妊孕性を維持することができる。

b. 胚の凍結融解法の概念 

  従来胚の凍結保存にはプログラムフリーザーを用いた方法が一般的であった。しかし最近開発されてきている方法、超急速凍結法( Vitrification 法)が急速に普及している。まずプログラムフリーザーを用いた方法での胚の凍結融解法の概念について解説する。

 凍結融解法は種々の障害を胚に及ぼす可能性がある。特に胚はその細胞質が他の細胞に比較し大きいことより障害の可能性は高くなる。そこで胚に対しては普通の細胞とは異なる方法で凍結・融解を行うことが必要となってくる。もう一つの特徴は臨床応用する際、胚は他種の細胞凍結保存に比較しその数が少ないことである。胚以外の細胞ではたくさんある細胞のうち凍結・融解によって何個か生存していれば良いのであるが、胚は個々の胚が生存することが必要になってくる。

 細胞を入れた溶液を摂氏0度以下に冷却していくと、細胞を取り囲んでいる水が凝結し氷晶が形成される。この温度を氷晶点という。この氷晶点より低い温度にすると細胞外に氷が形成され、細胞外の塩濃度は高くなり細胞内の水は細胞外に移動する。これにより細胞は脱水状態となり、細胞内の溶質濃度は高まることになる。細胞外の溶液の温度が時間をかけてゆっくり下がるならば、細胞外の氷晶も徐々に形成されて細胞の脱水化もゆっくり進行し細胞内には氷晶は形成されない。しかし細胞内の塩濃度が上昇することにより、細胞内の蛋白質などの構造に変化を引き起こし、細胞を障害する可能性がある。-30〜-40℃には細胞内に氷晶を形成する温度が存在し、これを共晶点という。この共晶点を超えても-80℃まで、緩徐に冷却を続ければ、さらに脱水が進み、細胞内氷晶はほとんど形成されない(緩慢凍結法)。また、これに対してこの共晶点を超えた時点で液体窒素に投入して、急速に冷却した場合には、細胞内にごくわずか残っていた、水分が超微小結晶を形成する(急速凍結法)。細胞内の氷晶形成は細胞内の構築や細胞膜に傷害を与え細胞の生存率が低下する。しかし、冷却速度を早くするほど形成される氷晶の体積が小さくなるため、冷却速度を早くして高濃度による溶液効果による傷害をできるだけ少なくできる。したがって、細胞の生存性を保ちながら凍結するためには、高濃度の溶液効果を起こさない範囲で細胞を充分に脱水しながら、かつ、氷晶形成を小さくする冷却速度のバランスを考える必要がある。

 凍結された胚を融解する際にも注意をしなければならない点がある。胚をゆっくり解凍すると一度融解した細胞内の水が癒合して再結晶化することがある。こうなると細胞内に大きな結晶が形成されることになり、細胞が大きく損傷される可能性が高い。これを避けるためには急速に胚を融解する必要がある。また急速に解凍すると、細胞内に浸透した凍結保護剤が細胞外にでる前に、細胞外で氷晶が融けた水で溶液が希釈され、細胞内に水が流入する。この水の流入は細胞内の浸透圧が高いために急速・大量に入り、細胞が腫大し細胞構築に障害を与える。よって、胚を融解する際には、この2点に注意しながら融解することが大切である。一般的には緩慢凍結法には緩慢な融解が必要であり、急速凍結法には急速な融解が適している。

  c. Vitrification とは
 
 物体は個体、液体、気体という3つの状態を持つことはよく知られている。そして、個体から液体に変わる温度を融点、液体から気体に変わる温度を沸点と呼んでいる。さらに、固体には結晶にように固まる状態とガラスのように結晶をつくらず、一様に固まる状態がある。このガラスのように結晶をつくらず、一様に固まる状態をVitrificationと呼ぶ。ゆっくり温度を下げると、液体状態にある物体は結晶をつくる。しかし、液体から、超急速に温度を下げると、結晶を作らず、ガラス状に一様な固体になる。急速に温度を下げ、結晶を作らず、ガラス状に一様な固体になる温度の範囲で、もっとも高い温度点をVitrification pointという。融点や沸点が固体から液体、液体から固体、また、液体から気体、気体から液体の両方向に変化できる点であるのに対して、Vitrification pointはガラス状固体から、結晶状固体に変化できるが、逆には変化できない点であることが特徴である。胚や卵を凍結保存する際には細胞内に結晶を作らないようにすることが大切であり、Vitrification法はこの氷晶を形成しないVitrification point以下に超急速に温度を下げる方法である。

d. Vitrification 法

 Vitrification 法では、低濃度の細胞透過性凍結保護剤に平衡後、高濃度の凍結保護剤に暴露する。細胞内の水が急速に失われ細胞内の塩濃度が高まるが、すぐに、液体窒素に胚を入れるため、高濃度溶液暴露時間が短いことと、始めに細胞内に透過した凍結保護剤により、溶質効果による細胞構築の障害は最小限にできると考えられる。また、融解の際には超急速に融解されるために、一度融けた氷の再氷晶化は避けられる。ただ高濃度の凍結保護剤に浸されているので溶質効果が起こらないうちに凍結保護剤を希釈する必要がある。しかし希釈を急ぐと細胞内の凍結保護剤が細胞外に出る前に大量の水の流入が起こり、細胞構築を破壊するので、このバランスを取って最適希釈時間を決定しなければならない(図3)。
 融解時の最初の融解液の浸透圧は、胚の生存性に大きな影響を与える因子であり、凍結に用いた液の浸透圧よりも一段高い浸透圧(1M)であることが重要である。 


  
  e. Ultra-rapid Vitrification 法

 Vitrification 法のなかでも、卵・胚の周りの凍結保護剤を最小限にするクライオトップやクライオループを用いて、卵・胚を液体窒素内に浸漬する超急速Vitrification法が開発された。この方法では、前もって、胚・卵に透過型の凍結保護剤を浸透させておき、卵・胚の収縮は、急激にならないように、短時間の平衡時間であるが、2から3段階の濃度の異なる平衡液を使うほうがよいと考える。さらに、融解の際に、復水の影響を最小限にするために、最初に卵・胚を浸漬する融解液はより高濃度の溶液が必要となる。

f. 凍結保護剤 

 凍結保護剤は大きく分けて、細胞内に浸透する透過型と細胞内に透過しない非透過型とに分けられる。透過型にはglycerol, dimethyl sulphoxide(DMSO), ethylene glycol, propandiol, propilene glycol, methanolなどがあり、非透過型には蔗糖、トレハロース、 polyvinyl pyroridone (PVP)などがある(表1)。


 
 透過性の凍結保護剤は細胞質内に浸透し細胞内の塩濃度が高値になる際に起こる溶質効果を防ぎ、細胞内の氷晶形成温度を低下させる。また非透過型の凍結保護剤は細胞外の塩濃度を上昇させることによって、細胞から水を流出させ、また融解の際に過量の水の細胞内流入を防ぐ。   

g. 胚と子宮内膜の同期化と黄体期管理

 凍結融解胚移植周期は自然周期とホルモン補充周期を用い、胚移植の時期は子宮内膜との同期性を考慮して決定される。自然周期では超音波断層法と血中ホルモンより排卵日を同定し、排卵から胚移植までの日数を体外受精周期での採卵から凍結までの日数と一致させる。ステロイドホルモン補充周期では、エストロゲン・プロゲステロン製剤が投与されるが、その製剤の種類、投与法、投与量、投与期間などは様々で、前周期の黄体中期よりGnRHアナログを併用することもある。プロゲステロンを投与した日を排卵日と定め、上記と同様に移植日を決定する(図4)。妊娠が確認された場合、胎盤からのホルモン産生が安定する妊娠10週ごろまでホルモン補充を続けることが必要である。 



  h. 胚の凍結保存期間  

 日本産科婦人科学会の見解では、「胚の凍結保存期間は被実施者夫婦の婚姻の継続期間であって、かつ卵子を採取した女性の生殖年齢を超えないものとする。」とされており、胚の凍結保存をする際には、被実施者夫婦によく説明し、その施設での凍結保存期間に関する条件を提示し、同意を書面で取っておくことが重要である。たとえば、被実施者夫婦が離婚した場合やどちらか一配偶者や両者が何らかの理由で死亡された場合凍結保存してある胚の処置はどうするのか、詳細に書面をもって、同意を得ておかなければならない。  

7.黄体期補充        

 体外受精・胚移植の治療時には、黄体期管理がよくおこなわれる。この根拠として、採卵時の顆粒膜細胞の吸引、卵巣刺激に伴うE2の上昇、GnRHアゴニストの使用に伴うLH分泌の抑制などがあげられている。黄体期初期には多数の黄体が形成されているために、血中のプロジェステロンはかなり高値になるが、黄体期管理を行わないと黄体の退縮時期が早く、早期に血中のプロゲステロン値がさがり、月経が開始する症例をよく経験する。このため、プロゲステロン、hCGの単独または併用投与や、プロゲステロンにエストロゲンを加えた補充療法が行われるのが一般的である。

 hMG単独またはhMGとクロミフェン併用投与周期においては、プロゲステロン投与の有用性は認められていないが、GnRHアゴニストを下垂体機能抑制に投与した周期では、種々の薬剤の黄体期管理有用性が示されている。また、GnRHアゴニストを用いた周期でも、黄体期管理の有用性を示す報告もある。
 投与方法には、経口投与、経膣投与、筋注投与があり、妊娠率、妊娠継続率に関し、筋注投与が優れていると報告もありますが、多くの報告では、投与法に有意な差を認めない報告が多い。

 またプロゲステロンの投与量に関しては、経膣投与、筋注投与で、それぞれ2つの投与量で検討されているが、その群間には臨床妊娠率等に有意な差を認めていないが、今後さらに詳細な検討が必要と思われる。

 hCGは黄体からのE2,P4の産生を促し、黄体機能を補助できる可能性がある。hCGまたはP4を用いた黄体期管理を行った群は、行わなかった群よりも妊娠率が高く、さらにhCG投与群のほうがより高い妊娠が得られたとの報告もある、P4投与群と差を認めないとの報告もある。hCGによる黄体期管理はOHSSの発生のリスクがあるので、OHSSのリスクの低い患者に限るべきだと考える。

 hCGとP4の併用に関しては、黄体期中期後期にE2の低い症例にhCGをP4と併用投与するとP4単独投与よりも妊娠率が高値であったとの報告があるが、有意差なしとの報告もあり、報告数も少なく今後、さらに検討が必要と思われる。黄体期管理の開始時期と終了時期について検討はあまり行われていないが胚移植前後からの投与と開始が一般的である。

最近の動向

 最近、黄体期にGnRHアゴニストを併用する黄体期管理法が報告されている。ホルモン補充周期で子宮内膜を調節し、他人の胚を移植後、黄体期6日目にトリプロレリン0.1mgを単回投与した症例で妊娠率、着床率、出産率が高くなったとの報告がある。このレシピエントには黄体形成がないので、GnRHアゴニストが子宮内膜や胚に直接作用し、着床率を改善したと推測される。そのほかにも、体外受精の治療時に下垂体機能抑制のためにGnRHアゴニストおよびアンタゴニストを用いた周期の黄体期にGnRHアゴニストを単回投与した症例で妊娠率、着床率、出産率が向上したとの報告や、アロマターゼ阻害剤による排卵誘発を行い、黄体期管理にブセレリンを使用すると、妊娠率が上昇したとの報告がある。しかし、これらの方法の有効性は今後検証されていくことになると思われる。

日本の現状

【Ⅲ.成 績】    

 生殖補助医療(ART)の現状を分析してみると、体外受精をはじめとするART治療件数は年々、増加の一歩をたどっている。2008年に治療した分の成績をみると体外受精・顕微授精による新鮮胚を用いた治療や凍結胚・卵を用いた治療数は合計で約19万件となっており、これによる出生数は21,704人となっている。このように、本邦においてARTによる出生児が全出生の約2%となっている。

 2008年の結果を要約する。登録施設は年々増加し、08年末での登録施設は609施設となった。08年の治療周期総数は190,613 周期で、出生児数は21,704人である。また、それぞれの治療法も年々増加し、顕微授精を除く新鮮胚(卵)を用いた治療は59,148周期、顕微授精を用いた治療は71,350周期、凍結胚(卵)を用いた治療は60,115周期となり、顕微授精の治療は顕微授精を除く新鮮胚(卵)を用いた治療周期を越えている(図5)。



 出生児数は、顕微授精を除く新鮮胚(卵)を用いた治療は4,664、顕微授精を用いた治療は4,615、凍結胚(卵)を用いた治療は12,425となり、凍結胚(卵)を用いた治療での、出生児数が急激な増加を示している(図6)。



 妊娠率は胚移植周期に対する割合は、顕微授精を除く新鮮胚(卵)を用いた治療は23.7%、顕微授精を用いた治療は20.4%、凍結胚(卵)を用いた治療は32.2%と凍結胚を用いた治療で最も高かった(図7)。




 日本産科婦人科学会では2008年4月に移植する胚数を原則1個とする会告を決議した。これにより新鮮胚移植である体外受精・顕微授精では胚移植あたりの妊娠率が急激に低下した。凍結胚の成績が新鮮胚に比較して高い理由は、胚移植周期のホルモン状態が自然に近いことと、凍結保存する際に、形態不良胚は凍結せずに良胚だけを凍結することにより、胚の選別がすでに行われていることによる可能性もある。
 生殖補助医療による多胎妊娠は、最近減少傾向ではあるが、2008年は顕微授精を除く新鮮胚(卵)を用いた治療では多胎が7.2%、であった。また、顕微授精を用いた治療では7.4%、 凍結胚(卵)を用いた治療では6.2%であり、2007年に比較し急激に低下した(図8 )。



 2007年の治療より、インターネットを用いた治療症例ごとの成績を登録することが可能となり、症例年齢別の治療成績を分析できるようになった。2008年の治療成績を図9にあげる。成績の表し方もいろいろあるが、胚移植あたりの妊娠率は30歳まではでは35%前後であり、30代前半より、徐々に下降する。また、治療開始あたりの生児獲得率でみると、30歳までは10%台後半であるが、30歳代前半より下降し、40歳には半減している。このように体外受精などの治療をしても、年齢の影響は30歳代前半より開始することが明らかであり、できるだけ年齢の若い時期に挙児を希望することが望ましい。


     
【Ⅳ.リスク】  

1.卵巣過剰刺激症候群 

 FSH製剤を用いて卵胞発育を行った周期では、hCG注射後、数日して卵巣が直径7cm以上に腫大することがある。卵巣が腫大すると血管の透過性が増し、水分やたんぱく質が組織や腹腔・胸腔に移行し、むくみ・腹水・胸水の原因となる。一方で血管内では血液が濃縮され流れにくくなり、また溜まり,時には血管内で血液が凝固し、血栓症(脳梗塞,心筋梗塞など)を起こすこともある。

 体外受精では、妊娠率を高めるために排卵誘発剤を使用することが頻繁に行われるが、卵胞発育の経過観察を頻繁に行うなど、慎重に行うことが必要である。また多嚢胞性卵巣症候群などの、排卵誘発剤に過剰反応を起こしやすい人や、以前に卵巣過剰刺激症候群を起こしたことのある人に対しては、排卵誘発剤の量を減らしたり、胚移植後のhCG注射を中止してプロゲステロン剤のみに変更したりすることで、その発生を予防するよう努める必要がある。  

2.腹腔内出血 

 採卵手術の際に卵胞を穿刺するため、腹腔内に多少の出血がみられる。ほとんどはそのまま吸収されて消えるが、血管の損傷などがあると出血が多量となり、止血のために開腹手術を必要や輸血が必要となることもある。よって、体外受精の治療の際には、出血時間や凝固時間を検査しておくことも大切である。  

3.骨盤内感染症 

 採卵手術後、数日たってから細菌などによる骨盤内感染を起こすことがまれにある。子宮内膜症の症例や骨盤内臓器に炎症が既往にある人に多くみられる。多くの場合は、抗生物質の投与により軽快するが、まれではあるが、卵巣のチョコレートのう腫に感染を起こし、卵巣を摘出する症例もあるので、注意を必要とする。  

4.血液製剤使用による感染症 

 卵や胚を培養する際に、いろいろな培養液が用いられておりますが、これらの培養液には、卵・胚の発育に必要な成分としてアルブミンという血液中の成分が添加されている。このアルブミンは現在行われている検査で、安全が確認された血液より作られており、現在までに、これらの培養液を用いられて、感染が起こったという報告はない。しかし、未知のウイルスも存在も含め、今後、完全に感染を否定することはできない。また、血液製剤にはウイルス以外にも未知の物質が含有されている可能性も考慮しておかなければならない。  

5.多胎妊娠

 多胎妊娠は単胎妊娠に比べ、周産期死亡率が高いといわれている。日本産科婦人科学会としては、原則移植胚数を1個までとしております。年齢複数回胚移植しても妊娠に至らない場合、年齢も考慮しながら2個までの胚移植は許容できると考えている。  

6.出生児のリスク 

 短期に判明する先天異常のリスクは、通常の妊娠と同様の率または、やや上昇しているとの報告も存在している。また、長期(数十年)に関わる児の予後については未だ不明である。しかし、最近、通常では頻度の少ない疾患の罹患率が増えていることが懸念されている。その中には、Beckwith-Wiedemann 症候群やAngelman 症候群など精神障害を伴う疾患もあり、現在、生殖補助医療の成績、児の状態を日本産科婦人科学会に報告し、慎重に調査している段階である。    

【Ⅴ.カウンセリング】 体外受精・胚移植を希望するご夫婦に関しては、実施前にまたは、治療しても妊娠に至らなかった時など、必要性のある時点で、担当医等により、カウンセリングを行う体制が必要である。    

【Ⅵ.日本産科婦人科学会の生殖医学登録 】

 登録の意義は、治療の現状把握や安全性の評価ができるばかりでなく、今後の治療戦略を考えることにも寄与する。また、この治療で出生した児の長期予後は不明であることから、長期間の注意深い評価する上でも重要なシステムとなる。 

 日本産科婦人科学会では、昭和58年10月に「体外受精・胚移植に関する見解」を掲載し、会員に体外受精・胚移植の治療に対する、会員の姿勢について見解を公表した。それに引き続いて、日本産科婦人科学会は生殖医学登録に関する見解を、昭和63年3月の会告「体外受精・胚移植の臨床実施に登録制について」として掲載した。平成2年4月には第一報、「生殖医学の登録に関する委員会報告」として、昭和63年までの治療分の臨床実施成績を報告した。

 この間理事会内委員会である「生殖医学の登録に関する委員会」が、登録報告の業務を行なってきた。平成5年度以後の生殖医学登録は、「診療に関する倫理委員会」が会告に定められた施設登録並びに施設ごとの包括的な調査を、すべての登録施設を対象に行ってきた。一方、同時期より「生殖・内分泌委員会」が個票を用いた詳細な調査を、登録施設中の協力を申し出た施設を対象に行った。「生殖・内分泌委員会」では調査後の報告を平成6年度から、ICMAR(The international Committee for Monitoring ART )の前身機関である国際統計(International Working Group for Registers on Assisted Reproduction)方式にそろえて報告してきた。また、平成11年年度には倫理委員会改組により、倫理委員会の下部組織である、登録・調査小委員会が登録施設全部の施設ベースでの調査を行ってきた。

 すなわち、平成15年分までの治療は、登録・調査小委員会が登録施設全部の施設ベースでの調査を担当し、生殖内分泌委員会が、ボランティアベースで一人一人の治療について個票を用いて調査した。 日本産科婦人科学会では、近年2つの調査方法を統合し、会員の登録の煩雑さを軽減する方向性を検討してきた。平成19年1月1日からの治療に関する報告は、インターネットを用いて、登録施設全部に一人一人の治療について個票を用いる調査を開始した。また、登録は一つ一つの治療を入力する方法を原則とするが、何人かの治療を一括して入力する方法でも登録できるようにして、登録しやすい環境を整備している。

【Ⅶ.不妊治療体制】

 不妊治療は、産婦人科医のみで対応できるものではなく、チーム医療が必要である(図10)。産婦人科医のほかに泌尿器科や精神科の医師の協力が必要である。また、不妊治療が複雑になってきたために、不妊治療中に患者に各時点での不妊治療を十分わかるように説明し、看護をする不妊コーディネーターナースが必要である。不妊ラボには、卵や精子を扱う胚培養士、胚培養管理士が必要である。また、厚生労働省の特定不妊治療を行う施設の望ましい要員として、胚培養に精通した人がいることある。この職種の人がいることで、胚培養に関するリスクマネージメントが向上すると思われる。



 産婦人科医のほかに泌尿器科や精神科の医師の協力が必要である。また、不妊治療が複雑になってきたために、不妊治療中に患者に各時点での不妊治療を十分わかるように説明し、治療中に看護をする不妊コーディネーターナースが必要である。不妊ラボには、卵や精子を扱う胚培養士、胚培養管理士が必要である。また、厚生労働省の特定赴任治療を行う施設の望ましい要員として、胚培養に精通した人がいることある。この職種の人がいることで、胚培養に関するリスクマネージメントが向上すると思われる。    

【VIII.安全管理体制】 

 平成22年4月22日の第62回日本産科婦人科学会総会において「生殖補助医療実施医療機関の登録と報告に関する見解」が改定され、生殖補助医療の実施登録施設は次の項目を満たすことが必要となった。

☆ 安全管理に関する留意事項

 ART登録施設は、生殖医療の安全を確保するため、下記の事項に留意すること。

① 生殖医療に係る安全管理のための指針を整備し、医療機関内に掲げること。
② 生殖医療に係る安全管理のための委員会を設置し、安全管理の現状を把握するとともに、医療機関内における事故報告等の生殖医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること。
③ 生殖医療に係る安全管理のための職員研修を定期的に実施すること。
④ 体外での配偶子・受精卵の操作にあたっては、安全確保の観点から必ずダブルチェックを行う体制を構築すること。なお、ダブルチェックは、実施責任者の監督下に、医師・看護師・いわゆる胚培養士のいずれかの職種の職員2名以上で行う必要がある。
⑤ 各ART登録施設は安全管理体制の状況を、「ARTの臨床実施における安全管理に関する調査票(別表)」を用いて、毎年、日本産科婦人科学会倫理委員会に報告すること。報告のない場合、および報告内容に問題のある場合は、登録を抹消されることがある。

 これらの留意事項は、生殖補助医療に限らず、有床・無床を問わず全ての診療施設において、平成19年3月に出された、「医療安全管理者の業務指針および要請のための研修プログラム作成指針」によって定められているものである。
 生殖補助医療においても、十分な安全管理の徹底をはかることが改めて求められている。

おわりに

 体外受精は不妊治療の骨格的治療となってきたが、この治療が、世代を超えて影響をおよぼすことより、妊娠率よりもより安全に治療を行うことが求められている。このために、治療システムを整備し、さらに治療の安全性を追及していかなければならない。

参考図書

1) Gardner DK,Weksmam A,Howles CM,Shoham Z,: Textbook of Assisted Reproductive Techniques 2nd: Taylor&Francic

2) Strauss JF,Barbiere R,: Yeu and Jaffe’s Reproductive Endocrinology 5th:Elsevier Saunders

3) Speroff L,Frilz MA,: Clinical Gynecologic Endocrinology and Infertility 7th:Lippincoff Williams&Wilkins.

4) 堤治 企画:『不妊治療ハンドブック』(産婦人科の実際 vol.58,No11,2009),金原出版

5) 堤治 著:『授かる』 朝日出版社,2004

(MyMedより)推薦図書

1) 今井道夫・香川知晶 編集:バイオエシックス入門―生命倫理入門,東信堂 2001

2) 吉村泰典 著:生殖医療の未来学―生まれてくる子のために,診断と治療社 2010

3) 荒木重雄・福田貴美子 著:体外受精ガイダンス,医学書院 2006
 

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