末梢動脈塞栓症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.02

末梢動脈塞栓症(まっしょうどうみゃくそくせんしょう)

arterial embolism

執筆者: 重松 邦広 宮田 哲郎

概要

 上下肢の主幹動脈に、何らかの塞栓子が飛来して閉塞をきたすことにより、重篤な肢の虚血をきたす疾患である。発症は突然であり、急性動脈閉塞であることから、適切な診断・処置がなされないと救肢のみならず、MNMS(myonephropathic metabolic syndrome)により生命をも脅かす疾患である。

病因

 塞栓子は、心房細動に由来する左房内血栓など心原性であることがほとんどであるが、粘液腫などの心臓腫瘍や大動脈壁在血栓によることもある。その他、感染性心内膜炎やリウマチ性弁膜症などがその原因疾患となる。

病態生理

 中枢から飛来した塞栓が主幹動脈に引っかかり、末梢の血流障害を引き起こし、急性動脈閉塞を呈する。動脈塞栓は解剖学的に動脈分岐部に生じることが多い。このため末梢側に分岐する複数の動脈内に2次血栓の進展を引き起こしたり、動脈そのものに攣縮をきたすなどして2次的に虚血をきたすことになり、重症化する。

臨床症状

 急性動脈閉塞の主要徴候としていわゆる5Pと称される拍動消失(pulseless)、疼痛(pain)、蒼白(pallor)、知覚異常(paresthesia)、運動麻痺(paralysis)が挙げられる。これらは虚血の重症度に応じて現れる。

 軽症の場合、急性期には四肢の冷感程度で、そのまま慢性化した場合無症状であることもある。しかしながら、重症の場合患肢にチアノーゼを認め、高度な疼痛高度や知覚異常を伴うことが多い。また運動麻痺・神経麻痺まで生じdrop footを呈することも稀ではない。このように重症である場合、治療の時期を逸すると大切断しか治療手段がなくなり、筋硬直が起きて足関節などの可動性が消失した状態では、救肢困難である。

他覚症状


 塞栓子の末梢における動脈拍動は消失することから、末梢動脈拍動の触診により、閉塞部位が推測可能である。例えば、膝窩動脈が塞栓子で閉塞した場合、膝窩動脈までは拍動を触知するが、足背動脈や後脛骨動脈は触知しない。上肢の場合は、多くの場合上腕動脈に塞栓することが多く、橈骨動脈ならびに尺骨動脈の両者を触知しないことが多い。塞栓部位の末梢は冷感著明である。重症の場合は、チアノーゼを認め、発症から時間が経過すると(golden timeを過ぎてしまった場合)筋硬直がおこり、神経麻痺も伴い非可逆的な変化を来たす。

検査成績

 臨床検査に移る前に、もともと間歇性跛行がなかったかどうか確認するなどの問診により閉塞性動脈硬化症(ASO)に代表される慢性動脈閉塞の急性増悪でないことを判断する必要性がある。慢性閉塞の急性増悪の場合、側副血行路が形成されていることが多く、治療にいたるまでの時間的余裕があることが多い。しかしながら塞栓症の場合は側副血行路の形成がなく、虚血が重症化しやすいことから、発症6時間以内のGolden time内に治療に移行する必要性があり、必要十分な検査を短時間に行う必要性がある。

 心電図、胸部XP、血液ガス検査、血液検査は必須である。筋肉の虚血に伴う損傷はCPKとMB、トランスアミラーゼ、アシドーシスの変化などで推察可能である。心房細動の認められた場合は、心エコーで心機能評価に加えて、心房内血栓の残存の有無を確認するべきである。通常、経胸壁心エコーでは充分な検索を行うことは困難であり、術後落ち着いたところで経食道心エコーを行う。前述のように血管撮影は必須ではない。生理学的検査としてABPI はチェックしておくべきである。血栓除去などの手術を行う場合には、皮切部位などのアプローチ方法を決定するために超音波で塞栓子の部位と閉塞部位を確認しておく必要がある。

診断・鑑別診断

 発症前に間歇性跛行等のASOを症状を認めていなかった場合にや心房細動を認める場合には本疾患である可能性が非常に高い。逆に発症以前に間歇性跛行を認めていたなどの臨床症状情報が得られた場合には、ASOの急性増悪(血栓症)である可能性が高い。ASO急性増悪の場合、治療方針決定に血管撮影が必要になることが多いが、塞栓症では、超音波診断のみで治療方針を決定可能であり、手術までの時間を短縮するためにも、血管撮影を行う必要はない。超音波検査ならびに問診にてASOの急性増悪を疑う場合には血管撮影を行う。血液検査上は、発症初期には大きな異常のあることは少ないが、以前の塞栓による腎梗塞を認める場合には腎機能低下を認めることも稀ではない。一般に急性閉塞を呈した場合、筋壊死をきたしCPK上昇やGOT、GPT,LDHなどの逸脱酵素の上昇を見ることが多いが、発症直後には異常のないことが多い。末梢血管疾患について提唱されているTASCIIでは、急性動脈閉塞の重症度に関してRuhterfordらの報告から表1のように報告している。

治療

 急性動脈閉塞治療の第一の目標は、2次血栓の予防により虚血の進展を防止することである。このため、急性動脈閉塞の診断がついた時点で、血栓の進展を予防するためにヘパリン100単位/Kg 静注をまず行う。その後、重症度に応じて治療を行い、前述の重症度IIIの場合には救命目的に大切断を選択する。その他の場合、Fogartyカテーテルによる血栓除去を施行する。内腔にガイドワイヤーを通すことのできるのスルールーメン構造のカテーテルも入手可能であり、下腿3分枝(前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈)に選択的にカニュレーションする場合には有効である。血栓が残存する場合にはカテーテル留置下の血栓溶解療法も選択されることもある。大動脈終末部に塞栓を起こした場合、saddle embolismと称され、両下肢の重症な虚血に陥る。この場合は、Fogartyカテーテルによる血栓除去では十分でないことも多く開腹して直視下に血栓摘除術を施行せざるを得ない必要性のあることが多い。

 虚血が重症化しており時間が経過している症例においては、血行再開後、虚血再還流傷害により、局所の毛細管の透過性が亢進し末梢側の浮腫が著名におこり、下腿におけるコンパートメント内の圧上昇をきたし、神経障害や筋壊死にいたる症例も認められる。このような場合には、筋膜切開が必要となる。また筋壊死からミオグロビン尿をきたす症例も多く、重症例では急性腎不全に移行し、もともと腎機能の低下している症例では血液透析が必要となることもある。重症度を考慮せず血流再開を行った場合にはMNMS陥り、急激な高K血症をきたし血液透析導入を行っても生命予後はきわめて不良である。このような状況を避けるためにも治療前の重症度評価が重要である。

 心房細動による塞栓症の場合は、ワーファリンによる術後抗凝固療法は必須であり、PT-INRを2.0程度にコントロールする。

予後

 塞栓後、golden time(6時間)以内であれば、血栓除去を行うことで塞栓子の除去は可能であり、予後も良好である。しかし、一旦MNMS陥ると生命予後はきわめて不良である。

 心房細動に起因する場合、ワーファリンによるコントロールが行われていない場合、塞栓症を繰り返すことも多く、徐々に末梢動脈の閉塞を来たし、重症虚血にいたることもある。また塞栓による脳梗塞を起こした場合、生命予後が脅かされることも多い。

(MyMedより)推薦図書

1) 宮田哲郎 編集:一般外科医のための血管外科の要点と盲点 (Knack & Pitfalls),文光堂 2010

2) 後藤信哉 著:動脈硬化/血栓性疾患ハンドブック,医歯薬出版 2009

3) 青木延雄 著:血栓の話―出血から心筋梗塞まで (中公新書),中央公論新社 2000
 

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