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ileus, intestinal obstruction
執筆者: 市川 靖史
イレウスは「腸閉塞」と同義に使用されるが、本来は機械的な閉塞のあるなしに関わらず「腸管拡張に伴う腹部膨隆、腹痛、嘔吐を主症状とする病態」をも含む病態全体に用いられる。
イレウスは(図1)のごとく機械的イレウスと機能的イレウスに分類される。

この他に小腸イレウス、大腸イレウスというように部位による分類もあり、small bowel obstruction (SBO)は外科医が遭遇する最も一般的なイレウスである。
日本のイレウスに関する調査は2000年に恩田らが発表した「イレウス全国集計21,899例の概要」に詳しく述べられている(文献1)。これによれば、
1)イレウスの約60%は癒着性である(以下、腫瘍が関与するイレウス(15.3%)、麻痺性イレウス(6.1%)、絞扼性イレウス(5.5%)、外ヘルニア嵌頓(3.1%)、腸重積(1.2%)、腸軸捻転(1.2%)と続く)
2)癒着性イレウスのうち手術の既往を有さなかったものは全体の1.3%に過ぎず、75%で上部または下部消化管手術の既往がある
とされる。
米国の外科学教科書でもsmall bowel obstructionの原因の第一位は癒着性イレウス(60%)であり、以下腫瘍性が20%、ヘルニアが10%であるといい、本邦との傾向はほぼ一致する。
図1)
[機械的イレウスの臨床症状、検査成績]
イレウスの身体所見とは腹痛、嘔吐、排ガスの停止、腹部膨満であるが、以下に特殊なtechnical termをあげる。
単純性イレウスの多くは、腸管が内容物を送ろうと蠕動の亢進が認められるが、亢進が進むとにmetallic sound(金属性音:キーンという音)に移行する。逆に腸の蠕動音が消失したsilent bowelは麻痺性イレウスに分類されるが、時に腸の壊死、腹膜炎を伴う重篤なイレウスの兆候である。
胃腸の蠕動運動が腹壁を通して見ることができる現象を指し、通過障害のある腸管の口側腸管が拡張し、腹壁を圧迫した状態で蠕動が亢進することによる。
絞扼性イレウスでは、絞扼部の腸管が局所的な鼓腸を示し、腫瘤として触れる。これをWahl徴候と呼ぶ。
小腸ガス像ではKerckling皺壁の陰影所見が梯子状あるいはバネ状に確認される。空腸は回腸に比較して、Kercklingの皺壁が密に存在し、回腸では皺壁は疎である。このため空腸の小腸ガス像には多数の皺壁陰影が認められいわゆるニシンの骨(herring bone)状に見え、回腸のガス像は梯子状(step ladder)のやや疎な皺壁陰影が認められるという。注)鏡面形成が階段状に認められる状態もStep ladder appearanceといわれる。
異物性の腸閉塞の中でも、胆石の落下によるものでは腹部単純レントゲンでpneumobiliaが認められることがある。また空腸と回腸とでは回腸のほうが内腔が狭いため、胆嚢結石などの異物は回腸で閉塞を起こすことが多い。
イレウスでは治療の一環としてlong tubeを挿入し貯留した腸内容をドレナージし経過を観察する。この際に閉塞部位の同定とその程度を見るために消化管造影が行われる。造影所見は四方分類(図2)が有名であり、I型(完全狭窄)を呈するものは手術が必要となる。

腸管内に水分が充満していると腹部単純レントゲン所見ではいわゆるガスレスイレウスとして非特異的な所見を呈する。腹部超音波はreal timeの腸管所見を捉え、内容物により拡張した小腸の所見も正確に捉えることが可能である。以下の所見は超音波診断による絞扼性イレウスの所見とされるものである。
絞扼性イレウスで描出率が高いとされるが、単純性イレウスでも約80%で腹水が検出されたという報告がある。混濁腹水は絞扼の診断根拠とされるが、発現率は低いという。確認された腹水を穿刺吸引し、混濁、血性の有無を見ることが重要である。
いわゆる「to and fro」の消失である。腸管内容物の沈殿と記載されていることもある。絞扼性イレウスに特異的な所見といわれる。
肥厚のみでは炎症と虚血の差はないという報告が多いが肥厚腸管のColor Doppler flow検査では虚血腸管の85.7%が診断可能であったという(文献2)。
有用性を指摘する報告もあるが、単純性イレウスとの間で差はなかったという報告が多い。
腹部CTはイレウスの原因診断に関して良好な診断能を呈する(sensitivity: 94~100%、accuracy: 90~95%)とされ(文献3)、部位診断および絞扼の有無に関しても診断の一助となる。イレウスに対するCT検査は1997年のアンケート調査時で手術症例の46.6%、保存治療例の22.9%にとどまっていた(文献1)が、最近では手術治療となった症例の80%に施行されているという(文献4)。
絞扼を診断する兆候は以下の通りである。
closed loop obstruction:約80%が絞扼性イレウスに移行するとされる。㈰拡張した小腸ループがU字、V字を呈する、㈪閉塞腸管が鳥のくちばし状を呈する (beak sign)、㈫腸間膜の捻転部位が動静脈の渦巻状を呈する(whirl sign)などがこれに当たる(文献5,6)。このほかに腸管壁の肥厚、腸管気腫症、門脈ガス像、腹水などが絞扼性イレウスの所見とされる。
Breath-hold turbo spin-echo MR imagingの出現によりMR enteroclysisは小腸疾患の検査への有用性が大いに高まってきた。イレウスは小腸内にガスあるいは内容物が貯留し注腸の状態に近いことを考えると、イレウス診断に対するMRの価値は高いと考えられる。Kimらによれば腸閉塞の診断に関してMRIがCTと同等と考えられた症例は全体の33%、 MRIとCTが同等の価値を有したものが53%であったという(文献7)。 Peristasis gap sign:絞扼腸管の蠕動が消失し、その他の腸管の蠕動が保たれている所見である(文献8)。
術前に行われた血液検査のうち絞扼性イレウスと単純性イレウスとの間に有意な差があるとされるものに 1)WBC 2)pH 3)Pco2 4)BE 5)LDH、CPK、血清アミラーゼなどがあげられる。
図2)
[機能的イレウスの病因、診断、治療]
麻痺性イレウスとは腸管の運動が消失=麻痺することで生じるイレウスである。腸管麻痺が先行して腸管内容が停滞し腸管の拡張を生じるものと、絞扼性イレウスのように、機械的閉塞に血流障害が重なり腸管蠕動が消失するもの、いわゆる急性腹症、癌性腹膜炎のように腹膜の炎症に伴う蠕動の低下に起因するものなどがある。
腸管運動とは、消化管壁を覆う内輪、外縦の2平滑筋層により生じる「蠕動」である。この2つの筋層には網目状に神経が張り巡らされており、自律神経系と消化管ホルモンがこれをコントロールしている。加えて消化管には神経遮断によっても活動を停止せず「スローウエイブ」を発信するカハールの介在細胞(intestinal cell of Cajal: ICC)が存在しペースメーカーとして働いている。これらに異常が生じた場合に麻痺性イレウスが起こると考えられるが、その原因は様々である。
【病態および治療】
麻痺性イレウスは腸管の蠕動が減弱・消失するため、腸音も聴取しないか減弱する。腸音が亢進あるいは金属音となる単純性イレウスとの鑑別は容易である。単純性イレウスの診断の経過中にイレウスの症状が続いたまま蠕動音が消失した場合は穿孔などの急性腹炎に注意する。
消化管穿孔、急性胆嚢炎、胆管炎、膵炎、虫垂炎等は汎発性あるいは局所の急性腹膜炎を引き起こす。汎発性腹膜炎では全腸管の麻痺による、腸管の拡張、蠕動音の消失を認める。限局性の腹膜炎では炎症の周辺に腸管麻痺を引き起こし腹部Xp像でいわゆる炎症部位周辺の小腸ガス=sentinel loopの所見を生じる(急性膵炎など)。
急性腹膜炎によって生じる腸管麻痺は炎症性刺激に伴う交感神経反射により引き起こされると考えられる。
麻痺性イレウスの病態を呈し、圧痛、反跳痛、筋性防御などの腹膜刺激症状があれば急性腹症として緊急手術の適応である。絞扼性イレウスも麻痺性イレウスと同様に腸音が消失し、緊急手術の適応であるが、この腸管麻痺には腸管の循環障害が関わっている。
突然の腹痛で発症し診断が困難であることが多い。虚血に陥った腸管には酸素供給が低下することによる機能不全が生じ、初期から麻痺性イレウスの像を呈する。腸が梗塞に陥るまでには3~12時間かかるといわれ、麻痺性イレウスの所見とこれに一致しないほど激しい痛み、更には心房細動、動脈硬化症の既往がある場合、本症を疑う必要がある。
麻痺性イレウスを一部または全ての腸管に呈する症候群である。大腸で急性発症するものを、特にacute colonic pseudo-obstruction: Ogilvie syndromeと称する。
原因は不明だが、何らかの基礎疾患(感染、外傷、心・肺疾患、脳神経疾患、代謝・中毒性疾患など)に合併し、特に手術の既往を有する症例が多いとされる。腸管麻痺の直接の原因はCajal細胞など内輪外縦筋層内神経叢の異常あるいは腸管平滑筋そのものの異常とされる。
小腸の病変が主体である場合、麻痺を呈する腸管が一部分であり、かつ症状が長期化した場合に、同部位の切除など外科的治療が有効とされる。一方大腸が病変の主体である場合は、拡張腸管の穿孔の危険があるため拡張腸管に人工肛門を造設するなどの外科的処置が施されることがある。しかし多くは保存的治療とされ、腸管蠕動薬(シサプリド、ソマトスタチンアナログ、塩化ベタネコール、エリスロマイシン、大建中湯、ネオスチグミンなど)の投与、イレウス管や大腸内視鏡による拡張腸管の貯留物除去が有効であったという報告もある。
Clostridium difficileは抗生物質投与後下痢症の原因菌として広く知られている。腸管の炎症が激烈となった場合には偽膜性腸炎、麻痺性イレウスの症状を呈することがある。麻痺の原因としては偽膜性腸炎の病因である腸管虚血や、Clostridiumの毒素による中毒などが考えられる。経口のバンコマイシン投与による腸炎の治療が効果的である。
特発性あるいは続発性アミロイドーシスにおいて、消化管はアミロイド沈着の頻度が高く、AL型アミロイドーシスでは固有筋層、粘膜筋板への高度なアミロイド沈着により消化管運動障害を生じ、AA型では粘膜固有層への沈着が高度であるため下痢症状を生じるとされる。消化管の生検により確定診断が可能である。腸管蠕動薬投与などの保存的治療が行われる。
細小血管炎による可逆的な腸管虚血は、腸管麻痺の原因となる。現疾患の治療が有効である。
この他、向精神薬(抗コリン薬)の使用、脊髄あるいは脳等の中枢神経障害など、腸管運動に影響を与える様々な病態が麻痺性イレウスに関与する。急性腹膜炎を除けば、機械的閉塞が無い麻痺性イレウスの治療には、その病因を究明し、病因に沿った治療を行うことが重要である。
開腹術の術後には一過性の腸管麻痺が起こり、いわゆる術後イレウス(Postoperative ileus: POI)の状態となる。外科医が経験する最も多いイレウスとも考えられるため項を変えて詳述する。
術後に各腸管がPOIからの回復にかかる時間はおおよそ以下の通りとされる。
小腸:術後4時間から24時間
胃:24から48時間
大腸:48から72時間
POI が生じる最も大きな原因は、手術ストレスなどにより腸管の神経支配が交感神経優位の状態になるためと考えられる。大腸では、小腸や胃に見られるような自律的に腸管蠕動を引き起こす神経系が少ないため、特に強く交感神経優位の状態に影響され、他の腸管よりも長くPOIの状態が続く。術後の持続的硬膜外麻酔は手術創の痛み和らげ、また交感神経反射を抑制するため、POIの症状を抑制するといわれる(ただしopioidを使用するとPOIの期間の短縮は起こらないという)。この様に交感神経反射はPOI発生に最も重要な役割を果たしていると考えられる。
また、手術では消化管の把持、牽引、擦過などの操作が行なわれるため、腸管壁への好中球浸潤が起こる。浸潤した炎症細胞は様々なサイトカインや神経伝達物質を放出し、このためにPOIが生じるともいわれる。最近ではcyclooxygenase-2(COX-2)がプロスタグランディンの生成を通じて回腸輪状筋の収縮能を抑制することが報告された。以前からNSAIDの一部が消化管の蠕動を促進することが知られていたが、その作用機序にも関与する報告であると考えられる。
腸管を強く牽引したり擦過したりするような操作を避け、腸管の乾燥に伴う広範囲の漿膜炎を防ぐための工夫が必要である。
最近では内視鏡下手術の発達により、多くの手術が開腹を伴わないか、非常に小さな開腹創のみで行なわれ るようになってきた。鏡視下手術は消化管の乾燥が無く、手指による牽引、擦過が無いことあるいは低侵襲性により、交感神経刺激は低く、サイトカインの分泌も少ないとされる。開腹手術と比較すると、鏡視下手術後のPOI期間は有意に短縮されたとする報告が多数認められる。
近年では開腹手術時のカルボキシルメチルセルロース膜(SeprafilmTM)の使用、あるいは鏡視下手術などがイレウスの頻度を低下させると言われる。
早期離床は古くから現在まで術前面談の際に必ず患者に告げられることである。しかし早期離床が明らかにPOIの期間を短縮し腸管の蠕動促進を刺激するという事実はない。
胃管留置も昔ながらのPOI対策である。長期の留置は肺炎などの呼吸器合併症を増加させ、食事開始をも阻害するため、POIの期間を延長しかねない。胃管は腸管蠕動が回復すれば早期に抜去するべきである。
胃のPOI(gastric ileus)は大腸のPOI(colonic ileus)よりも速く回復しており、少量の経口物質は、比較的早期から摂取可能となる。このためPOIの期間短縮を目指した、早期の食事開始に関する試みは特に大腸の手術後の患者に対して、古くから行なわれている。軽い胃の膨満はgastrocolic reflexにより、消化管の中で最もPOIからの回復が遅い大腸の蠕動を刺激することは、理論上にも明らかである。しかしPOI期間の短縮には効果的とする報告と、これまでの食事開始と変わらなかったとする報告があり、臨床的な意義は未だ明らかではない。これまでの報告で明らかなことは、早期の食事開始は縫合不全を含めた合併症を増加させることは無く、安全に行えるという事実である。
[機械的イレウスの治療]
絞扼性イレウスの診断がつけば直ちに手術を行いイレウスの原因を除去するべきである。前述のアンケート調査によればイレウスの術式では癒着剥離が63.2%、腸切除が23.8%であったという(文献1)。
単純性イレウスの保存的治療には胃管またはイレウス管(long tube)を挿入し、貯留液のドレナージをしながら排ガス、排便を待つ。
単純性イレウスの中で保存的治療の後手術となった症例のうち、手術までの期間は2日以降1週間以内が39.1%、1週間以降2週間以内が 29.5%であるという(文献1)。逆に保存的治療で食事が開始されるまでの期間は1週間以内が81.9%であることから、1週間という期間は保存的に見る一つの区切りと思われる。
多くの臨床施設では4日後までのイレウス管排液量の推移から開腹の適応を決定していると思われる。
[機械的イレウスに対する手術の予後]
イレウスの死亡率を図に示す。手術症例に限っての死亡率は術死3.6%、他病死7.3%であったという(文献1)。ただし絞扼性イレウスの死亡率は7.4%、癒着製イレウスでは1.4%であったという。
また術後合併症には感染症:7.5%、イレウスの再発:6.7%、呼吸障害:4.8%とされている(文献1)。米国の報告では小腸閉塞の手術後、その12%に再度小腸閉塞が起こるとされている(文献9)。
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6) Mak SY, Roach SC, Sukumar SA, Small bowel obstruction: computed tomography features and pitfalls. Curr Probl Diagn Radiol. 2006 Mar-Apr;35(2):65-74.
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8) 松岡弘芳、高原太郎、正木忠彦ら、MR intestinography診断の有用性、消化器外科2003、26: 1091-1095
1) 主婦の友社 編集, 吉田美香:胃・腸を切った人のおいしい特効メニュー,主婦の友社 2008
2) 田中雅人・奥田保男・船橋正夫・井田義広 著:超実践マニュアル 医療情報,医療科学社 2007
3) 上泉洋 著, 白日高歩:イレウスチューブ 基本と操作テクニック,医学書院 2004
4) 山中克郎・北啓一朗・藤田芳郎 著:救急・総合診療スキルアップ CBRレジデント・スキルアップシリーズ 10:シービーアール 初版版 2007
5) シルビア・C・マッキーン 著・編集, エドリエンヌ・L・ベネット,ラクシミ・K・ハラシャマニ 編集, 福井次矢 翻訳:病院勤務医の技術 ホスピタリスト養成講座,日経BP社 2009
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