細菌性心内膜炎 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.19

細菌性心内膜炎(さいきんせいしんないまくえん)

Bacterial Endocarditis

執筆者: 柳川 幸重

概要

 心腔、弁、大血管を含めた心内膜への感染により細菌性集簇を含んだ疣腫(ゆうしゅ=vegetation)を作った全身性敗血症の状態を言う。菌血症、血管塞栓、心障害の症状が起こる。古くは「亜急性細菌性心内膜炎:Subacute Bacterial Endocarditis:SBE」と呼ばれていたが、細菌以外の真菌などの微生物も原因となるので、現在では「感染性心内膜炎:Infective Endocarditis」という名称が使われる。疣腫(ゆうしゅ=vegetation)は疣贅(ゆうぜい=vegetation)と呼ばれていたが日本循環器学会用語集では疣腫という言葉になっているので、ここではそれを用いている。

病因

心臓の構造上の原因

 先天性心疾患(心室中隔欠損症、動脈管開存など)および短絡手術(Fallot四徴症)、弁狭窄・閉鎖不全、複雑心奇形および心臓手術後の疾患において起こる乱流ジェットが心内膜に吹きつけられて内膜が損傷する。この部位の修復機序として通常の内膜損傷と同じ機序で血小板とフィブリンが沈着する。これが次第に大きくなり、非細菌性血栓性疣腫(nonbacterial thrombogenic vegetation: NBTV)が形成される。内膜への障害はさまざまな原因で起こり、人工弁などの心内異物の装着によってでもNBTVは形成される。このNBTVの存在が感染性心内膜炎の起こるもっとも大切な条件となる。

原因としての菌血症

 我々の日常生活においては一過性の菌血症がしばしば起こっている。この菌血症における流血中の細菌(微生物)が、非細菌性血栓性疣腫(NBTV)に付着し増加すると感染性心内膜炎となる。菌血症を起こす原因としては、う歯およびその歯科的治療がもっとも多いが、あらゆる種類の感染症が原因となり得る。起因菌は、緑色連鎖球菌( Strept. viridans)が約5割であり最も多く、黄色ブドウ菌(Staph.aureus)、表皮ブドウ球菌(Staph.epidermidis)があり、その他にグラム陰性桿菌や真菌がある。原因により病状進行が異なり、原因の5割を占める連鎖球菌が原因となる場合は、「亜急性」に進行することが多いが、ブドウ球菌の場合は急性であることが多い。

病態生理

  心内膜の損傷部位に出来た非細菌性血栓性疣腫(NBTV)に感染が起こり細菌集蔟を含む疣腫(Vegetation)を形成し、1.全身感染である敗血症と、2.心組織の破壊による弁閉鎖不全などを起こし、3.疣腫から菌の付着した血栓が流血中に流出し末梢血管を栓塞することによる種々の症状・所見を呈する。

臨床症状

自覚症状


全身感染症状として

発熱:
 全身感染症の症状として発熱は90%以上の例で起こるので、先天性心疾患の基礎疾患を有する患児の発熱に際しては、最初に考慮すべき疾病である。だるさ(倦怠感)、食欲不振、体重減少も非特異的な自覚症状として頻度が高い。

塞栓症状として

関節痛・筋肉痛:
 四肢に栓塞が起こると訴え、15〜40%に見られる。胸痛:約10%に見られ、筋肉痛または右心系の塞栓による肺塞栓の症状と考えられている。

腹痛:
 稀であるが、腸間膜動脈に栓塞を起こすと腹痛、イレウス、血便が見られる。
視力障害:稀であるが中心網膜動脈塞栓を起こすと視力障害が起こる。

他覚症状


全身性感染症状として

敗血症、DICが起こる。

心組の破壊の結果として

心雑音:
 乱流ジェット血流を有する心疾患に起こるので、ほとんどの例で心雑音を聴取するが、新しい心雑音の出現は心組織の破壊を意味し、感染性心内膜炎を疑う重要なきっかけとなる。新に起きてきた房室弁閉鎖不全などがその原因となることが多い。

塞栓症状として
 
皮膚点状出血:
 眼瞼結膜、頬粘膜、四肢に微小血管塞栓に寄って起こる。爪下線状出血(splinter hemorrhage)、指趾掌側の有痛性皮下結節(Osler結節)、指趾掌側の無痛性小赤色斑(Janeway発疹)、中心部が白色の眼底出血性梗塞(Roth斑)が知られている。これらの症状は小児での頻度は低いが、こどもでも口腔粘膜、結膜、四肢に点状出血を認めることは多い。

脾腫:
 小児の亜急性の例に見られることが多い。脾梗塞も見られ、左季肋部痛を認めることがある。

肝腫大:
 見られることがある。

脳梗塞:
 中大脳動脈領域に起こることが多く、神経学的症状を起こす。

腎不全:
 腎動脈塞栓、糸球体腎炎(免疫複合体による)

検査成績

血液検査

 感染があるので、白血球増多、CRP陽性、赤沈の亢進が見られる。

血液培養陽性

 もっとも大切な検査である。感染性心内膜炎の菌血症は持続性のものであるので、必ずしも発熱時を待つ必要はない。また動脈血と静脈血で培養陽性率に差はないので、静脈血培養で良い。大切なことは24時間以上かけて連続3回以上の血液培養を十分な量の血液で採ることである。(好気性菌と嫌気性菌の培養を取ることが望ましい)抗菌薬投与は血液培養の偽陰性の主な原因であるので、既に抗菌薬を用いている場合は、その一時的中止も必要とされることがある。

心エコー図

 感染性心内膜炎が疑われる場合は、心エコー図を撮る必要がある。疣腫の確認は血液培養の陽性とともに確定診断に繋がるからである。心臓の弁とその起始部、乱流ジェット血流の当たる部位、または人工弁などの異物上に、解剖学的に説明不可能な可動性の心臓内腫瘤映像を見た時には、疣腫と考える。また、今まで見られていない異常な血流が見られた時には、新たな弁閉鎖不全、欠損孔の出現を疑う。心エコー図で確認できる疣腫はある程度以上の大きさのものになるので、疣腫を認めないことは感染性心内膜炎を否定する根拠にはならない。また小児では経胸壁心エコー図の描出能が良好であるので、経食道エコーの適応は少ない。

診断・鑑別診断

 成人において用いられる「感染性心内膜炎のDukeの臨床的診断基準」を、小児においても参考にすることが多い。先天性心疾患における原因不明の発熱では感染性心内膜炎を念頭において、抗菌薬投与の前に血液培養を採っておくことが大切である。先天性心疾患の中で心房中隔欠損は、感染性心内膜炎の危険率は低いとされている。

治療

 血液培養により菌の種類が同定されている時には、それに応じて抗菌薬を使用する。もっとも頻度の高い連鎖球菌(Strept. viridans、 Strept. bovis)ではペニシリン感受性菌のことが多く、ペニシリンGを大量・長期間用いる。15〜20万単位/kg/日(上限2,000万単位/日)を持続注入または6回に分けて静注する。また、アミノギリコシドを併用することもある。治療期間は原則4週間である。内科治療で軽快しない場合、急性期の治療としても抗菌薬単独使用よりも外科的治療も併用した方がが有効であるとの報告もある。

予後

 予後は、起因菌の種類、心組織の破壊の場所と程度、塞栓した場所によって異なる。ブドウ状球菌によるものは、進行が急速であり予後が悪い。弁閉鎖不全の起こった時には、外科的アプローチも必要である。早期診断・早期治療し得れば、根治可能であるが、内科的治療で軽快した場合は、残った疣腫は再感染の危険を有する。

最近の動向

 1997年にAHAより出されたrecommendationの見直しが2007年に発表された。主な内容は、以下の通りである。


1.歯科手技における抗菌薬投与による感染性心内膜炎(IE)予防は、たとえ予防投薬が効果的なものであったとしても、非常に少数例で予防に成功する可能性があるのみである。
2.歯科手技における抗菌薬予防投薬はハイリスクの心疾患患者のみに勧められる。 
3.心疾患のあるものへの抗菌薬予防投与は、歯科手技だけでなく、歯肉・口腔内粘膜を含む全ての口腔内の手技に際して勧められる。 
4.「一生IEのリスクが高い」と言う理由だけでの予防投薬は勧められない。 
5.IE予防という理由だけでの、泌尿器科的手技、または消化管に対する手技における抗菌薬の予防投薬は勧められない。 

予防

 人工弁置換患者、先天性心疾患(心房中隔欠損は除く)、動静脈短絡術後患者、感染性心内膜炎の既往者などハイリスクの患者は、日常生活でのう歯の予防、ニキビ、便秘に注意しておくこと、手術前に歯科処置を済ませておくことが大切であり、抗菌薬の予防投与を忘れないことが予防として大切である。

参考文献

循環器の診断と予防に関するガイドライン(2001-2002年合同研究班報告) 

感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン:Circulation Journal Vol.67, Suppl. IV, 2003

Friedman RA, Starke.JR. Infective Endocarditis: In: Garson A Jr., Bricker JT, Fisher DJ, Neish SR (eds) The science and practice of Pediatric Cardiology 2nd edn, Williams & Wilkins 1998, 1759-1775.

Wilson W, Taubert KA, Gewitz M, et al. Prevention of Infective Endocarditis. Guidelines From the American Heart Association. A Guideline From the American Heart Association Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease Committee, Council on Cardiovascular Disease in the Young, and the Council on Clinical Cardiology, Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia, and the Quality of Care and Outcomes Research Interdisciplinary Working Group. Circulation 2007.

(MyMedより)推薦図書

1) 高橋長裕 著:図解 先天性心疾患―血行動態の理解と外科治療,医学書院 2007

2) 中澤誠 編集:先天性心疾患 (新目でみる循環器病シリーズ),メジカルビュー社 2005

3) 上野勝則 著:内科医のための心臓病診療アップデイト (CBRアップデイト・シリーズ 1) (CBRアップデイト・シリーズ 1),シービーアール 2008
 

免責事項

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