胆道閉鎖症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.12

胆道閉鎖症(たんどうへいさしょう)

biliary atresia

別名: 先天性胆道閉鎖症 | 胆道閉塞症 | 新生児胆汁うっ滞 | BA

執筆者: 連 利博

概要

 本疾患はわが国では1万出生に1人という比較的稀な疾患で、毎年約100人の新しい本症患児が生まれている。手術なしでは全例が2歳までに肝不全で死亡するという難病で、早期発見・早期治療がまずは「治癒」への必要条件である。しかし、手術が成功し胆汁が排泄されるようになっても、胆管炎などを併発すると、肝臓は徐々に瘢痕化していくことになり、肝硬変と呼ばれる病態に陥れば、さまざまな続発症に悩まされながらやがて肝不全へと向かうことになる。このように、早期治療が必ずしも「治癒」のための十分条件とはならないが、早期発見と適切な治療がなされなければ、自己肝での長期生存は難しい。治療成績は未だ満足できるものではなく、長期的には約半数の患児達は肝移植へと進むのが現実である。

 肝移植は長足の進歩を遂げ、今や日常の治療手段として位置づけられるようになったが、肝移植を受けた患者は、例外はあるにせよ、終生免疫抑制剤を服用しなければならず、易感染性やまれに続発するリンパ増殖症などさらなる問題も内包した治療手段であることを理解せねばならない。さらに、わが国の臓器提供者は圧倒的に両親など近親者による生体部分肝移植でありドナーのリスクも伴うことを認識しなければならないことと、現時点では20歳を過ぎると小児慢性特定疾患の指定からはずれることになり、免疫抑制剤は保険適応外となるので、患者家族にかかる経済的負担は大きい。このように、本疾患をめぐる諸問題は、肝移植が臨床の治療手段となった現在、自己肝による生存を追求することに焦点があてられ、早期発見、病因解明が焦眉の要件である。

病因

 胆道閉鎖症の原因は不明である。病因論としてはウイルス感染を含める外因的環境説、発生異常説、免疫異常説の3つに大きく分かれる。

 ウイルスとしては, cytomegalovirus, reovirus type 3, rotavirusなどが報告されてきたが、世界各地で追試され、再現性に乏しい結果であった。また、発生頻度が人種により異なるので、環境因子は否定的であるとの意見もある。

 発生異常説とは、妊娠4週ごろに前腸の卵黄嚢付近に形成されてくる肝臓原基の中で、8週になると門脈の周囲にDuctal plate と呼ばれる胆管が形成され始める。本症はその胆管のremodelingが停止し、増加する胆汁量に追いつかず、胆管は破綻し肝内胆管に炎症が生じるとする仮説(ductal plate malformation theory)である。多脾症など脾臓に関する合併奇型を有するタイプも10%前後に見られ(biliary atresia splenic malformation syndrome) 、本疾患は発生過程のどこかで異常が起こったとする先天的な疾患グループ(embryonal type)と何らかの後天的な原因で疾患が成立する(perinatal type)とする二つの別の原因が混在していると想定することが、現在一般的になりつつある。

 免疫学説は、自己免疫疾患としての原発性胆汁性肝硬変や硬化性胆管炎などと病理学的所見が類似していることから想定されてきたが、最近maternal microchimerismに関連して特に脚光を浴びている。これは、妊娠中に母親の免疫担当細胞が胎盤を通過して胎児へ移行し、免疫学的な障害を与えた結果、胆汁の流れる道が閉塞し胆道閉鎖症となるという仮説である。胎児の発達する過程にある肝臓にallo-autoimmune injuryを与えることのみならず、もし母親の多能性幹細胞が胎児に移行すれば、患児の胆管を構成する細胞に分化転換する結果、自己のリンパ球に攻撃されるauto-alloimmune responseというメカニズムも考えられるので、今後の病因論の展開として注目されるところである。免疫学説は術後に投与されるステロイドが真に効果があるものとすれば、つじつまが合うことになり興味深い。

病態生理

肝臓の解剖生理:

 肝臓には酸素を多く含む肝動脈、腸管から吸収された栄養を含む門脈という2本の血管と、肝臓で産生された胆汁の流出経路である肝管の3本が肝門部と呼ばれる部位で出入りし、流入した血液は肝静脈と呼ばれる静脈を出口とし下大静脈へ注ぎ心臓へと戻る。胆汁は肝臓から排泄されると、肝管から一旦胆嚢へ入り濃縮され、総胆管から十二指腸へと流出する。肝臓は生合成、エネルギーの蓄積、老廃物の廃棄など代謝の要である。胆汁は腸管での脂肪の消化吸収に与る。

本症の肝臓の形態:

 肝外胆管は閉塞し索状物に置き換わっている。通常胆嚢は萎縮し、胆嚢内に胆汁が貯溜していないことが多い。組織学的には、肝内胆管周囲にリンパ球が浸潤し、胆管上皮は広汎に荒廃しており、手術時すでに一定の肝線維化が起こっていることが多い。胆嚢が正常の場合もある。これには、二つのタイプがあり、胆嚢には十分に胆汁が充満しているが総胆管以下が閉塞している場合(type Ia、かつて吻合可能型と呼ばれた)と、胆嚢は正常サイズに近いが造影しても肝内胆管との交通はなく、総胆管から十二指腸には造影剤が流れるタイプ(type IIIa)である。後者では、造影時の圧のかけ方が少なければ、アラジール症候群を見逃すことになるので、一定の圧をかけて肝臓に向けて造影しなければならない。

 胆汁の排泄経路に問題がある時、胆汁はうっ滞し、その成分のひとつである胆汁酸が蓄積すると肝臓が障害される。胆汁が腸管に排泄されないと、脂肪吸収が悪くなるので、患児はクリームのような白色のべっとりとした脂肪便を排便することになる。また、脂溶性ビタミンの吸収が悪くなり、とくにビタミンKが低下すると出血傾向が見られるようになる。

臨床症状

 黄疸と灰白色便である。

 生直後には生理的に黄疸がでるものであり、また母乳栄養児には強く黄疸がでることが多いので、なかなか症状が診断に結びつかない。採血して直接ビリルビン値の検査をすれば大体わかるのだが、1ヶ月健診ではそこに行き着かないのが現状である。

 便が白くなれば診断に直結するのだが、色は主観的で、患児の親のみならず医師もその判断に苦慮することがある。そのため、これまでいくつかの地方自治体で便色調カラーカードが採用され、客観的な指標のもとに一定の効果が得られている。しかし、たとえ便色を客観的に捉えることができたとしても、本症の約30%に、生後しばらくは便は黄色調であったとの研究会からの報告からすると、便色は必ずしも早期診断の決め手にならないのであろう。台湾での経験でも、便色調カラーカードは3ヶ月以降の症例を減らし、手遅れの症例を減らすことで威力を発揮した。診断のフロントラインにいる産科医や小児科医にとって、「胆道が閉鎖している」という病名からすると「胆汁がまったく流れないはず、したがって便は必ず白くなる」と考えてしまうのかもしれない。便の色を診断の根拠としてしまうと、例えば1ヶ月健診で便が黄色であれば本症でないと否定されてしまうことになり、かえって診断が遅れることにもなりかねない。すなわち、便の色は緩やかに白色調を帯びてくるもので、診断のきっかけとなりにくいと認識しておいたほうがよいのかもしれない。

診断・鑑別診断

 診断は直接ビリルビン値が上昇し、超音波エコーで肝門部に線維組織塊(TCS:特異度95%)、胆嚢の萎縮(敏感度76%)と哺乳によって収縮しない所見 (敏感度88%)のどれかがあれば、それだけで確診に近い。確定診断のためにこの段階で開腹し、胆道造影と肝生検を行うことに躊躇する必要はない。他の検査、たとえば十二指腸液検査または肝胆道排泄シンチグラムの偽陰性や偽陽性率は報告されていない。肝機能検査としては、閉塞性パターンを示し、直接ビリルビン値の上昇、AST,ALT, GGTPの上昇(早期の場合、正常範囲のこともある)。術中胆道造影で、肝内胆管造影されないか、されても正常の樹枝状分岐像は無く、雲状ないし斑状陰影を呈する場合は本症である。ただし、肝内胆管が造影されないが十二指腸が造影される場合には総胆管側を圧迫して再造影を行い、肝内胆管との交通が無いことを確認する。

早期診断への新しい試み:

 肝移植を避け自己肝での生存率を実質的に高めるためには1ヶ月以内の手術を目指すべきである。そのためには何か新たな簡便な検査の開発と普及が期待される。胆汁うっ滞により胆汁酸が蓄積すると肝臓を障害する。生化学的には胆汁酸は硫酸抱合されると水溶性となるので、胆汁酸はこちらの代謝経路が活発化し腎から尿中に排泄される。成人での肝疾患を尿検査で発見しようと開発されたのが尿中硫酸抱合型胆汁酸(USBA)の測定法である。臨床検査として簡便で感度も高くすでに保険適用された検査法である。この検査を本症の早期発見、とくに母乳性黄疸との鑑別に使えないかが検討されてきた。新生児期の正常値は、現在のところ2.5SDをcut offに用いると、55.0μmol/g Cr.である。USBAを用いた診断のガイドラインを紹介する。

胆道閉鎖症(肝胆道疾患等)の早期発見のための尿USBA測定ガイドライン

 1ヶ月以内の発見を目指して生後3週ごろにこの検査を利用することで、今後の早期発見が増えることが期待され、いくつかの地域で検討され始めた。一方で、 1ヶ月健診での見逃しが現実の問題なので、これを減らすために1ヶ月健診時の黄疸児にはこの尿検査を施行してみるのも一つの方向性ではないか思われる。

治療

 タイムリーな手術により胆汁を消化管に誘導することが治療の第一歩である。この手術は肝門部空腸吻合術であるが、東北大学前教授、葛西森夫先生により開発されたので、その名前を冠して葛西手術と呼ばれ、世界中で行われてきた。この術式の本質は肝門部の線維組織塊の切断によりその中に埋没した100μ前後の胆管からしみでてくる胆汁を腸管で受けるというものである。胆管と腸管とは粘膜・粘膜吻合でないため、肝臓と腸管との間に形成される瘻孔が完成するまでの術後約1ヶ月間はできるだけ多くの胆汁の流れを確保することが重要である。

 葛西手術後早期の管理として、2,3週間は抗生剤、1ヶ月は副腎皮質ステロイド剤、利胆剤を使用されることが多い。利胆剤の最近の使用状況は、日本胆道閉鎖症研究会の全国登録集計によると、ステロイドとウルソデオキシコール酸(UDCA)がほぼ90%、デヒコール50%、プロスタグランジンE2が30%であった。

 ウルソデオキシコール酸(UDCA)は胆管上皮の非イオン性透過により移動しClを高めHCO3-の分泌を促進する親水性胆汁酸で、疎水性胆汁酸の洗浄作用から細胞膜を護る。特に胆汁排泄が確保された症例でALT,AST,γGTPが上昇している症例では投与することにより改善し、体重増加に伴って投与量が10mg/kgを下回ると肝機能が悪化し、投与量を体重にみあうように増加すると再び肝機能が改善するという現象は日常的に経験されるところである。私の経験ではUDCAに依存して正常の肝機能を保てる症例が減黄例の多くに見られている。長期的投与が自己肝生存によい影響を与えるかどうかは今後の検討を待たねばならない。

ステロイド療法

1)ステロイドの胆汁排泄促進の機序:

 コルチコステロイドの胆汁分泌促進はグルココルチコイドレセプターを介したCl/ HCO3-の交換装置の活性化による、ステロイドの直接的な利胆作用が明らかになってきている。以前われわれが経験したPTCD下にステロイドを投与した時の反応から考えても細胆管レベルでの利胆作用が主たる作用機序であると考えているが、その詳細は、障害を受けている肝細胞の修復、細胆管における胆汁排泄促進、一般的な炎症の抑制、免疫抑制作用が関連しているなどの諸説で、未だ解明されていない。

2)投与方法:

 近年、術後早期の胆汁排泄促進を目的としてステロイドが多くの施設で使用されており、臨床研究で効果的であると報告されているが、その適応、投与量、投与開始時期、投与期間などについては各施設でまちまちである。プレドニン10mg程度(約2mg/kg)が効果を示す最少量という印象を持っている。4mg/kg/日で開始するのが、わが国で通常良く行われている方法である。一方、米国においては、術後1日目からソルメドロール10mg/kgと大量投与で開始している。この投与方法は肝移植の直後に使われる方法であり免疫抑制と肝庇護を目的としている。これまで本症におけるステロイド薬のもっとも効果的で適切な使用法についてのまとまった研究はない。これは世界的に注目されているところであり、現在、ステロイド投与に関する多施設ランダム化試験がアメリカ、イギリス、日本で行われている。
 本症におけるステロイド薬のもっとも効果的で適切な使用法については世界的に求められているところであり、多施設前方視的ランダム化試験の報告が出始めている。イギリスではプレドニン2mg/kg/日と非投与群との比較が報告され、自己肝生存に有意差はなかったが、肝機能は投与群で有意に良かった。タイからの報告では、4mg/kg/日を1日おきで、有意差なかったが、対象患者の手術時日令が平均89日と遅い傾向にあり、3ヶ月以降の手術ではいずれにせよ予後不良というのが実感であるので、これらの条件下で有意差がなかったことの背景を理解しておかねばならない。米国、日本では進行中である。これらの研究が成果を出すためには、担当医師と患者側の理解と協力が必要である。

 退院の目標を血清総ビリルビン値2.0 mg/dl以下、血清CRP陰性とする。黄疸消失例の術後治療は、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)を補充する。

初回手術退院以後の問題


 葛西手術後6ヶ月以内に黄疸が消失せず、持続または増悪する場合、適合するドナーがいれば肝移植の準備を開始して、成長が停止するまでには実施するのが理想的である。肝移植の詳細については、別項に譲りたい。葛西手術後、黄疸が完全に消失(血清総ビリルビン値が1.0 mg/dl 以下)して安定した後、黄疸が再発して持続する場合、再手術も考慮する。

胆管炎:

 葛西手術後は肝門部の肝臓表面に腸管が直接縫合されているので、腸内細菌が肝臓内に逆行性に上行し肝内胆管で感染を起こしやすい。これを胆管炎と呼んでいる。

(診断)

 肝機能障害の悪化と発熱である。年長児では右上腹部の疼痛を訴えることがある。

(治療)

 腸管内圧を上げないために絶食とし、経静脈的に抗生剤を投与する。通常数日で解熱する。繰り返す場合は、すでに肝内胆管が破壊され、胆汁の貯溜する嚢胞が単発にもしくは多数形成されていることがあるので、エコーや造影CTが必要である。胆管炎は早期に治療を開始しないと、敗血症に移行したり不可逆的な肝障害に陥ることがあるので注意が必要である。

(予防策)

 胆汁分泌が悪いとそれだけ細菌は逆行しやすいと考えられので、脱水や腸閉塞には気をつけなければならない。手術として、肝臓に直結する空腸(ルーY脚)を長くすることが多数の施設で行われている。ルーY脚に逆流防止弁を作成することは試みられたが、有効な付加手術とはならなかった。何度も胆管炎を起こす症例にはルーY脚の癒着剥離が奏功する場合もある。

長期的な諸問題


門脈圧亢進症:

 肝臓が瘢痕化し硬くなると門脈血流が滞り門脈圧が高くなる。門脈圧亢進症と呼ばれるこの病態は、消化管全般にうっ血が生じ、門脈血は肝臓から遠ざかる方向の血流に変わり、脾静脈を逆行し胃上部や食道壁内の血管を通って奇静脈から心臓にもどる血流動態によって惹起される問題である。大量の血液が通過するため太くなった食道壁の副側血行路が食道静脈瘤と呼ばれるものである。本症では、比較的早期に葛西手術が行われた場合でも、すでにある程度の肝硬変はみられ、肝内血行は肝臓発生の早期から障害されている可能性がうかがえる。一方で、門脈圧亢進症も全くない本当の「治癒」と呼ばれるべき症例も、近年各施設で長期生存した患者にはみられるようになってきている。食道静脈瘤は内視鏡所見により、破裂が近いかどうかが推定できるので、予防的に内視鏡的硬化療法が選択される場合もある。

 脾臓もうっ血し脾機能亢進状態に陥る。脾臓はもともと赤血球、白血球、血小板などを壊し処理する臓器なので、この病態ではこれら血球が全般的に減少する。赤血球の寿命は短くなっており、ビリルビンの元となるヘモグロビンの産物が通常より多く肝臓を通過することになり、肝臓はその処理に追われる。血小板が低下すると出血傾向が出現し、この状態で、解熱剤を使用したとき、血小板機能が抑制され消化管出血のきっかけとなることは時に見られるところである。脾臓が著明に大きくなり運動制限が必要となった場合、また血小板数が5万/mm3以下となってくると、脾動脈を部分的に塞栓する、場合によっては脾臓を摘出するなど、脾機能亢進を抑制する方法がとられる。欧米ではこの時点で肝移植を選択することもあるようだが、肝機能がほぼ正常で脾機能亢進だけが進む場合もあり、このように自己肝での生活が十分に可能である場合、脾機能亢進だけをコントロールする方法は優れており、また将来肝移植になったとしても左上腹部の癒着を招来するだけであり、大きな妨げとはならない。ただし、脾周囲の血流を遮断する結果、後腹膜の別の側副血行路を発達させることになり、十二指腸や小腸上部(ルーY脚)からの出血を招来することがある。この場合は肝移植もしくは、それが不可能な場合シャント手術で対処することになる。

肝肺症候群:

 肝硬変になると、肺の血管に異常がおこることがあり、この病態は肝肺症候群と一つにまとめて呼ばれている。これには二つのまったく異なる病態が存在する。一つは肺内シャントと呼ばれ、肺の末梢血管が太くなり肺胞での酸素の交換に与らない血流が増え、体内の酸素が不足する場合である。この病態は肝移植で改善する。もう一つは肺高血圧症と呼ばれる病態で、肺血管は逆に縮まっている状態となる。原因は不明で、症状も低酸素による突然の意識消失で発症することがあり、注意を要する。肺血管を拡張させる薬を必要とし、日常生活に酸素吸入は不可欠となるので、早期発見、早期の肝移植が必要で、収縮期肺動脈圧が60mmHgを越えると手術には耐えられないとされている。

栄養管理:

 手術により良好な胆汁の排泄がえられた場合、栄養上問題になる事はない。しかし、手術後胆汁排泄が悪く、従って胆汁酸もミセル形成濃度に達しない場合は、脂肪及び脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収が障害され、これらの物質が体の中で欠乏する。脂肪の欠乏はエネルギー不足となりやすく、体重増加不足の原因となる。また、脂肪の一種で、人の体にとって欠くことのできないリノール酸とアルファリノレン酸の必須脂肪酸の欠乏も起こり、感染に対する抵抗力の低下など種々の異常が起こってくる。脂肪酸の中にはEPAとDHAがあり、胆道閉鎖症児ではこれらのいずれも不足している事が最近の研究からわかっており、DHAは大脳や網膜を作っている成分の30%を占める重要な脂肪酸で、これが不足すると脳の発達や視力に悪い影響を及ぼすと言われている。ビタミンA欠乏は目の異常、D欠乏はくる病(骨折しやすい)、E欠乏は末梢神経の異常、K欠乏は血液凝固因子の不足を招来する。また、カルシウム・鉄・亜鉛なども不足しがちである。胆道閉鎖症におこりやすいこれらの栄養障害を考慮し、これらの補充ができる食事メニューを管理栄養士に指導してもらうのがよい。

家庭問題:

1)患児への配慮:

 本人は小学校高学年から中学生になる頃に、自分の病気について知りたくなることが多い。それまでは外来に来ても医師と親の会話を聞いていてもわからないが、年齢とともに段々と会話の内容が理解でき、自分は深刻な病気を抱えているということを認識してくる。ご両親はそのような時期を機敏に捉えて、本人にしっかりと説明しなければならない。年齢に応じた説明を繰り返すことである。また、主治医から医学的に説明してもらうのがよい。

 高校生になると、自分の体は自分で管理し、薬を飲む習慣も自然に身につけさせるのが理想的である。本症を持つ女性は初潮が少し遅れ、その発来は平均14歳といわれている。妊娠は生理的に胆汁鬱滞を起こすので、胆管炎などを時に起こしてきた人は妊娠を契機に胆管炎が頻回となるかもしれない。結婚に際しては、相手に病気の理解を促すことは重要で、主治医を巻き込んで話し合いの時間を持ち、病気の正しい理解を求めることが必要である。

2)家族への配慮:

 患児に専念するあまり、元気な兄弟姉妹への配慮が不足がちになることは、難病の子どもを持つ家庭に見られる共通の傾向である。兄弟姉妹には、病気が難しいこと、肝移植が必要になることもあるというような真実の説明をするべきである。本当のことを知らせないと、兄弟姉妹は誤解からいろいろと自分達のイメージを被害妄想的に膨らませることがある。兄弟姉妹を祖母などにまかせっきりにして孤立させないようにし、スキンシップを持ち、一緒に時間を過ごす工夫が必要である。兄弟姉妹が疎外感を持ったり、「愛されていない」という感覚をもち成長すると、後になってうつ病など精神的なトラブルを抱えてしまうことがあると言われている。

3)胆道閉鎖症の子どもを守る会:

 本症をめぐる様々な問題に対しては、医療者の支援もさることながら、別の観点から患者家族の会による支援が一層有益なことが多い。守る会は1973年に発足し、長年相互扶助、公的支援の申請、実現など社会的活動に努力されてきた。

事務局は
〒170-0002
東京都豊島区巣鴨 3-25-10
バロンハイツ巣鴨 603
電話: (03)3940-3150
FAX:(03)3940-8525
http://tando.lolipop.jp/

公的支援制度の利用:

 健康、福祉に関することで問題が生じた場合、かかりつけの病院のみならず、各地域には保健福祉部があり、窓口で相談することができる。特定疾患の医療費、公費負担、保健師の訪問、身体障害者手帳の交付などが様々な支援制度の存在を知ることが重要である。以下、各種公的援助制度と窓口を列挙する。

 小児慢性特定疾患(保健所)、自立支援医療(育成医療、区保健福祉部)、身体障害者手帳(区保健福祉部)、傷病手当金(社会保険事務所、各健康保険組合)、生活保護(区保健福祉部)、特別児童扶養手当(保健福祉部)

予後

 日本胆度閉鎖症研究会で報告されているわが国の成績(術後2年以内の短期成績)は、生後30日以内に葛西手術が行われた場合の黄疸消失率が約70%、黄疸再現率は20%と最良で、生後31日から90日での黄疸消失率は55~60%、黄疸再現率は30~40%と15日ずつ細分化しても、この間には大差はない成績である。一方、生後91日以降の手術では黄疸消失率は50%に届かず、逆に黄疸再現率は約50%と高い。したがって、例えば患児が生後120日以降で、適合するドナーがいれば、葛西手術より一期的肝移植を推奨することもあり、この場合ご両親と小児外科医、移植外科医との十分な話あいが必要である。

 本症は比較的稀な疾患であるので、例えば、イギリスでは葛西手術を施行する施設が3ヶ所に指定されている。わが国では多くの専門施設でも年間1,2例、多くても4、5例の手術経験しかないので、一般的に言われているように手術症例数の多いところが成績がよいのかどうかは明らかではない。これまで学会や研究会などで本症に関わる手術手技や術後管理は十分に検討されており、専門施設なら成績にそれほど遜色はないと思われる。要は、小児外科指導医が常勤し、手術や術後管理に関わることが可能な施設での手術が望まれるところである。

最近の動向

 この20年間、小児外科医は肝移植の確立に邁進してきた。肝移植は、今日日常の治療手段となったが、一方、早期発見はと言えば、過去20年間さほどの改善は見られていない。自己肝で生存できることが、本人や家族のみならず医療経済的にも好ましい。本疾患にかかわる医療者の次世代の目標は、患者の自己肝生存であり、長期生存者のQOL改善である。以下にその項目を列挙し、すぐにでも着手できることから始めなければならない。

早期発見の促進:

 生後1ヶ月以内の葛西手術を目指す。

手術成績の向上:

 手術手技や術後管理のさらなる改善のためには、エビデンスのある治療を追求することであり、そのためには各施設が連携し、同じ目的をもった臨床研究を国内はもとより世界的規模で行うこと。

社会的支援の充実:

 長期生存者が増加し、特に肝移植を受けて成人する場合も今後増加する。小児慢性特定疾患としての公費負担支援制度の見直しが必要となろう。

病因の解明:

 病因の解明が将来的には必ずや費用効果的によりよい治療につながると思われる。それには、資金の投入と国際的な協力が必要である。

執筆者による主な図書

1) Toshihiro Muraji, David Suskind, Naoki Irie 著:Biliary atesia:a new immunological insight into etiopathogenesis,Expert Reviews Ltd
2009

2) Muraji T, Hosaka N, Irie N et a 著:Maternal microchimerism in underlying pathogenesis of biliary atresia: quantification and phenotypes of maternal cells in the liver.,Pediatrics 121:517-521, 2008

3) 連 利博 著:胆道閉鎖症スクリーニング:1ヶ月健診における尿中硫酸抱合型胆汁酸測定の提案、,周産期医学 35:1274-1277, 2005

4) 連 利博 :胆道閉鎖症について:肝門部腸吻合術後に利胆剤は必要か?,小児外科 38:319-321、2006.

5)Naoki Irie, Toshihiro Muraji, et al.著:Maternal HLA Class I compatibility in patients with biliary atresia,Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition. 49:488-492    

(MyMedより)推薦図書

1) 胆道閉鎖症の子供を守る会 編集:胆道閉鎖症の子供と肝臓移植,三一書房 1990

2) 笠原群生 著:こどもの肝移植―『いのち』を救うタイミング,診断と治療社 2007

3) 後藤正治 著:生体肝移植―京大チームの挑戦,岩波書店 2002

4) 加藤友朗 著:移植病棟24時 赤ちゃんを救え!,集英社 2007
 

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