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最終更新日:2010.07.29

先天性免疫不全症候群(せんてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん)

primary immunodeficiency syndrome

執筆者: 原 寿郎

概要

総論

 免疫不全症は生体免疫系の遺伝的あるいは二次性の欠陥によって発症する疾患群で,それぞれ先天性(原発性)免疫不全症primary(congenital)immunodeficiency syndrome,続発性免疫不全症secondary(acquired)immunodeficiency syndromeと呼ばれる.

 感染防御機構の異常が存在すると考えられた場合,まず,(1)先天性免疫不全症候群,(2) 続発性免疫不全症候群,のどちらであるのかを診断する.先天性免疫不全症全体の頻度は,まれであるが,続発性免疫不全症候群はよく遭遇する.

 易感染性を示すものとして下記のような解剖生理学的異常による場合があり除外を要する.

(1) 先天奇形・異常:繊毛不動症候群immotile cilia syndromeのように繊毛運動の異常により異物の排除がうまくいかない場合,副鼻腔炎や気管支炎を起こしやすい.外胚葉性形成異常ectodermal dysplasiaで粘液腺が欠如した場合,気管支炎・肺炎を繰り返す.その他,先天性心疾患,肺分画症,皮膚髄膜洞,食道気管瘻,尿路奇形などによることがある.
(2)生理学的異常:気管支喘息,重症心身障害児,
(3)外傷,異物,結石,
(4) 医原性.ときに解剖生理学的異常と感染防御機構の異常の両方を伴っている例もあり,注意を要する.

1.感染防御機構と病原微生物

 病原微生物の種類を同定することにより,ヒト感染防御機構の主要4因子であるT細胞系,B細胞系(抗体),補体系,食細胞系のいずれに異常があるかを推定して精査を進める.

 一般化膿菌(ブドウ球菌,肺炎球菌,大腸菌,緑膿菌など)の場合は,貪食されて処理される.その過程でオプソニン化に関与する抗体や,走化因子や免疫溶菌に関与する補体も重要である.同じ細菌でも細胞内寄生性細菌(結核,癩,サルモネラ,ブルセラ,レジオネラなど)では主にT細胞が感染防御に働く.

 ウイルスではヘルペスウイルス(水痘,サイトメガロ,単純ヘルペス),麻疹ウイルスなどはT細胞が主体に働くが,細胞融解型ウイルスであるエンテロウイルス(ポリオ,コクサッキー,エコー),日本脳炎,デング熱などでは,ウイルスが細胞外に遊離されるため,抗体がより重要である.

 真菌の感染防御にはT細胞が主体に働くが,アスペルギルスには好中球も重要である.

2.免疫不全症の診断 

【免疫不全を疑う感染の特徴とその症状】 

(1) 反復する感染 
(2) 重症化する感染 
(3)遷延する感染 
(4)日和見感染も含めまれな病原体による感染 
(5)感染により予期しないあるいは重度の合併症が起こった場合,免疫不全を疑う. 

 免疫不全を疑う症状として,しばしば認められる症状は,外界と接した呼吸器,消化器,皮膚の感染である. 

(1)呼吸器感染では中耳炎,副鼻腔炎,気管支炎,肺炎,気管支拡張症などがあり,特に抗体欠乏の免疫不全でよくみられる.適切な治療が行われないと,反復する中耳炎は慢性耳漏を生じ,慢性気管支炎は気管支拡張症となるなど進行性であることが特徴である.細胞性免疫不全では,そのほかに間質性肺炎,ニューモシスティス肺炎などが多い. 

(2)消化器症状では反復性下痢,難治性下痢,吸収不全が細胞性,抗体欠乏性免疫不全共にみられる.細胞性免疫不全では,特に口内カンジダ症がみられる. 

(3)皮膚病変では発疹,湿疹,膿皮症,毛細血管拡張,膿瘍,脱毛がみられる. 

(4)感染の全身症状として発育不全(体重増加不良)がみられる場合もある.

 感染以外の症状として,免疫機構の欠陥・免疫調節の異常によるリンパ網内系の悪性腫瘍,自己免疫疾患,アレルギー疾患が重要である.

 その他ときに認められる症状として血液疾患(再生不良性貧血,溶血性貧血,好中球減少,血小板減少),リンパ節および扁桃の発達不良,体重減少,発熱,慢性結膜炎,歯周囲炎,リンパ節炎,肝脾腫,重症ウイルス感染症(特にサイトメガロウイルス,ヘルぺスウイルスなど),慢性肝疾患,吸収不全,関節炎,慢性脳炎,反復性髄膜炎,敗血症,胆管炎,肝炎,尿路感染症,慢性口内炎,ワクチンの副作用出現(BCG接種後全身播種など)などがある.

【病 歴】

 出生歴(臍帯脱落遅延),栄養法,家族歴(血族結婚),既往歴(麻疹,風疹,水痘などの経過,易感染性の有無,アレルギー,自己免疫疾患),予防接種歴(生ワクチン後の経過)のすべてが必要である.特にT細胞機能のスクリーニングとして麻疹,水痘の自然経過は有用である.またT細胞機能不全,あるいは慢性肉芽腫症でBCG感染が重症化する.

【理学所見】

 発育不良,皮膚(発疹,出血斑,毛細血管拡張,湿疹,膿皮症),毛髪の異常,顔貌の異常(CATCH22),眼球結膜の毛細血管拡張,扁桃の発達不良,歯周囲炎,口内・爪カンジダ症の有無,リンパ節腫大または発達不良,胸腹部(心奇形,肝脾腫,無脾),失調,精神運動発達遅滞,骨・関節変形などがポイントである.

【検査】

 注意する点は年齢別基準値により判断すること,また検査の時期,病期によっては異常を示さない例があることである.生後数か月は母体から移行したIgGがあるので,低γグロブリン血症の診断は困難である. 

(1)スクリーニング検査
リンパ球数<1500/μlでリンパ球減少,好中球数<1500/μl(乳児期以降),<1000/μl(乳児期)で好中球減少と考える. 

(2)診断用検査,特殊検査
B細胞異常,T細胞異常,食細胞異常,補体異常の有無を病歴,理学所見,スクリーニング検査により推定し予想される異常に応じた診断用検査,特殊検査を行う.

先天性免疫不全症候群

 先天性免疫不全症候群は、免疫系の何らかの遺伝的異常によって生じる免疫機構の異常を特徴とする疾患群であり、120以上の遺伝的背景が明らかになっている。易感染性、反復感染、感染症の重症化・遷延、日和見感染、発癌などを主な特徴とするが、種々の自己免疫疾患、アレルギー等の免疫調節障害を呈することもある。感染病原体が同定できれば免疫不全の種類がおよそ規定され、診断の手がかりとなる。多くは単一遺伝子の異常によって生じ、2000人〜100,000人に1人の発症頻度である。

IUIS PID Classification Committee分類

1. 複合免疫不全症
 T細胞、B細胞の両者の機能不全があり、細胞性免疫と液性免疫の両者が障害される疾患である。先天性免疫不全症の約10%を占める。そのなかで重症複合免疫不全症はT細胞、B細胞のほぼ完全な欠損あるいは機能不全を呈するもので、乳児期早期から重篤な易感染性を呈し、すみやかに造血幹細胞移植などにより免疫能を確立しなければ乳児期に死亡する疾患である。

2. 主として抗体不全を示すもの
 先天性免疫不全症の中で最も頻度が高く約45%を占める。B細胞の分化障害やB細胞の内因的欠陥による機能不全、T-B細胞相互間の異常等により、抗体産生が障害されたものである。その代表疾患ともいえるBruton無ガンマグロブリン血症では、Bruton tyrosin kinaseの欠損により骨髄におけるB細胞の分化過程が障害されており、原則として末梢血にはB細胞は存在しない。新生児期には移行抗体のため発症しないことが多く、乳児期後半から易感染性が生じる。分類不能型低ガンマグロブリン血症は幼児期から学童期に発症することが多く、その一部しか原因が解明されていない。

3. その他の明確に定義された免疫不全症
 特徴的な臨床症状を呈するWiskott-Aldrich症候群や毛細血管拡張性運動失調症、DiGeorge症候群、高IgE症候群、慢性皮膚粘膜カンジダ症など11疾患が含まれている。

4. 免疫調節障害
 Chediak-Higashi症候群や家族性血球貪食症候群を呈するPerforin欠損症やMunc13-D欠損症、X-linked lymphoproliferative syndrome (XLP)、CD95 (Fas) 欠損によるAutoimmune lymphoprofiferative syndrome (ALPS)、制御性T細胞の異常によるImmunu dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked (IPEX) 症候群等が含まれ、リンパ球機能の制御機構の異常による疾患で、自己免疫やリンパ組織の異常増殖を特徴とする疾患である。

5.貪食細胞の数・機能の異常
 Kostmann症候群等の先天的な好中球の欠損症や慢性肉芽腫症、leukocyte adhesion deficiecy (LAD)等の好中球機能異常症等が含まれる。ブドウ球菌などの一般細菌や真菌による重症感染症を繰り返し、易感染性の程度によっては造血幹細胞移植が必要である。抗酸菌に対する易感染性を特徴とするIFN-gamma/IL-12経路の異常である、IFN-gamma receptor欠損症やIL-12、IL-12 receptor欠損症などもこれに含まれる。

6. 自然免疫障害
 NEMOやIkappaBA遺伝子異常による免疫不全を伴う無汗性外胚葉形成不全症 (EDA-ID)、IL-1 receptor-associated kinase 4 (IRAK4) 欠損症などは自然免疫に重要なIL-1やToll-like receptor等のシグナル伝達の異常がある。

7. 自己炎症性疾患
 家族性地中海熱、TNF receptor associated periodic syndrome (TRAPS)、高IgD症候群等では、自然免疫の制御機構に関連する分子の異常によって自己炎症を生じる。

8. 補体欠損症
 各補体成分の欠損症では、易感染性や自己免疫疾患、腎炎等を発症する。

臨床症状・所見

 先天性免疫不全症では、呼吸器、消化器、皮膚の感染の頻度が高く、乳幼児期に発症するものが多い。長期的な感染によって慢性耳漏を生じたり、気管支拡張症となることもある。細胞性免疫不全症では、間質性肺炎やカリニ肺炎、難治性下痢、口内カンジダ症、重症ウイルス感染症等が見られる。ワクチンの副反応(ポリオの発症や播種性BCG感染症等)、自己免疫疾患、アレルギー等にも注意が必要である。臍帯脱落遅延の有無や水痘などの感染症の経過、家族歴は重要である。

 理学所見としては、皮膚(出血斑、毛細血管拡張、湿疹、膿皮症、色素脱出)、毛髪、顔貌(CATCH22)、眼球結膜(毛細血管拡張)、扁桃の発達不良、歯周囲炎、リンパ節の腫大や発達不良、心奇形、失調、発達障害、骨・関節の変形等の所見にも注意が必要である。

検査・診断 2,3)

 リンパ球数、好中球数、血清中の免疫グロブリン値 (IgG・IgA・IgM)、C3、C4、CH50のチェックは必要である。血清の免疫グロブリン値は移行抗体の影響や各年齢による正常値を充分考慮する必要がある。

 診断用検査としては、リンパ球サブセット、リンパ球幼弱化試験、NK活性、血清IgGサブクラス濃度、分泌型 IgA、好中球殺菌能・貪食能・遊走能、特異抗体産生能検査、胸部X線(胸腺陰影)、ツベルクリン反応などが必要となる。

複合免疫不全症

 T,B細胞双方に欠陥があり,細胞性免疫の異常と抗体産生不全を合併する.代表的な疾患について詳述する.頻度は原発性免疫不全症の約10%である.

重症複合免疫不全症

severe combined immunodeficiency(SCID)

【定 義】

 細胞性・液性免疫の両方が高度に障害され重篤な易感染症状を呈し,免疫機能が再建されなければ乳児期に致死的となる原発性免疫不全症である.

【病 因】

  T細胞,B細胞の有無により3型に分けられる.

(1)T-B+重症複合免疫不全症 B細胞を有するX連鎖型SCID(サイトカイン共通受容体γ鎖変異)が最も頻度が高くSCID全体の約50%を占める.常染色体劣性型(Jak3の変異,IL-7受容体の変異)もある.

(2)T-B-重症複合免疫不全症 RAG 1/2遺伝子変異のためV(D)J再構成障害によるSCIDが約25%,ADA遺伝子変異によるADA欠損症が約15%を占める.

(3)その他 オーメン症候群Omenn syndrome,X連鎖型高IgM症候群などの特殊型である.

【病態生理】

(1)T-B+重症複合免疫不全症 B細胞を有するX連鎖型SCIDでは,サイトカイン(IL-2,4,7,9,15,21)共通受容体γ鎖変異のため,T細胞分化に必要なIL-7のシグナルが入らずT細胞の分化障害が起こる.B細胞を有する常染色体劣性遺伝型SCIDでは,共通受容体γ鎖からのシグナルを伝達するJak3の異常により同様なT細胞の分化障害が起こる.

(2)T-B-重症複合免疫不全症 RAG 1/2遺伝子変異の場合T細胞・B細胞両方の分化が障害される.ADA欠損の場合にSCIDが発症するメカニズムは未だ十分明らかでないが,その欠損によりdeoxyadenosine(dAo),deoxyadenosine triphosphate(dATP)の細胞内蓄積をきたし,dATPの蓄積はDNA合成,またdAoの蓄積は蛋白合成を阻害することにより,T細胞傷害性にはたらく可能性が考えられている.

【臨床症状】

 生後まもなく肺炎(間質性肺炎),難治性下痢症,鵞口瘡(口内カンジダ症)などを発症し,体重増加不良も顕著となる.病原体としては一般細菌,細胞内寄生性細菌(BCG菌を含む),ウイルス,真菌,カリニなどすべての病原体に対し易感染性を示す.自然経過では2年以内に死亡する.ADA欠損症では臨床症状が軽く発症時期が遅いものがある.

【診 断】

(1)現症 全身リンパ組織の低形成があり表在リンパ節は触知せず扁桃は認められない.

(2)画像検査 胸部X線,CT,MRIで胸腺の欠損,ADA欠損症では,約半数に肋骨先端のcuppingを認める.

(3)一般検査 リンパ球絶対数は著減(<1000~<100/μl),しかしB細胞+SCIDでは正常のこともある.

(4)免疫検査 T細胞数は著減,B細胞数は著減~正常.血清免疫グロブリン値は,IgG,IgA,IgMすべてが低値~欠損で,特異抗体産生は欠如する.遅延型皮膚反応欠如,リンパ球幼若化反応,細胞傷害活性,サイトカイン産生能,サイトカイン(IL-2)反応性など全般的T細胞機能の欠如を認める.

(5)フローサイトメーター解析 B細胞を有するX連鎖型SCIDは,共通受容体γ鎖に対する単クローン性抗体により診断できる.

(6)ADA活性測定 ADA欠損症ではADA活性の欠如を認める.

(7)遺伝子解析 原因遺伝子の解析を行い診断を確定する.

【治療・予後】

(1)造血幹細胞移植 HLA一致同胞からの骨髄移植が第一選択の治療法で,約90%が治癒する.HLA不一致ドナーからの骨髄移植を受けた患者の生存率は約60%である.

(2) 酵素補充療法 ポリエチレングリコールpolyethyleneglycol(PEG)で修飾したPEG-ADAによる酵素補充療法がADA欠損症に有効である.

(3)遺伝子治療 ADA欠損症に対して世界で初めての遺伝子治療が行われたが,有効性は明確でなかった.その後共通受容体γ鎖変異X連鎖型SCIDに対し行われ,明らかな有効性が認められたが、白血病が高率に発症した.

抗体欠乏を主徴とする免疫不全症

 B細胞の内因性欠陥またはT-B細胞相互間の異常により,抗体産生が障害された疾患群で,最も頻度が高い(原発性免疫不全症の約45%).9疾患の中で代表的な2疾患を詳述する.

X連鎖無γグロブリン血症

 X-linked agammaglobulinemia(XLA)

【定 義】

 1952年,Brutonが最初の無γグロブリン血症を報告したため,Bruton型無γグロブリン血症ともいわれている.本症は伴性劣性遺伝で,Btk遺伝子の変異によりB細胞の分化障害が起こりすべてのγグロブリン産生が著減し,そのため様々な感染症が起こる疾患.

【成 因】

 XLAの遺伝子は,Btk(Bruton's tyrosine kinase)と呼ばれる非受容体型チロシンキナーゼをコードしている.XLA患者ではこの遺伝子に変異があり,Btk活性は消失もしくは著減している.XLAではプロB細胞からプレB細胞への分化の障害がみられるが,その理由は未だ明らかでない.

【病態生理】

 B細胞の分化が初期段階で停止するため,B細胞数およびγグロブリン産生が著減する.

【臨床症状】
 
 移行抗体が消失する乳児期後半より細菌感染症を反復する.主に呼吸器感染(肺炎,気管支炎,中耳炎),皮膚感染(膿皮症),重症全身感染(骨髄炎,髄膜炎,敗血症)などを反復する.起炎菌は黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌などが主体となる.抗体が感染防御に重要なウイルス(エンテロウイルスなど)に感受性が高く,ポリオワクチンによるポリオ様麻痺,エコーウイルスによる慢性脳炎,ロタウイルスによる慢性下痢症などが起こる.

【診 断】

(1)病歴では乳幼児期よりの易感染性,現症では扁桃低形成,咽頭X線でアデノイド組織の低形成,胸腺は正常.

(2)典型例では血清IgG値が200mg/dl未満,IgM,IgA値も著減(例外あり),特異抗体産生能の欠損,同種血球凝集素の欠損.

(3)末梢血中のB細胞数(CD20, CD19)は1%未満,骨髄中プロB細胞増加,プレB細胞は少数存在.

(4)フローサイトメーターによる単球のBtk蛋白の検査,保因者診断も可能.

(5)Btk遺伝子解析

【治 療】

 静注用免疫グロブリンによる補充療法血清IgG値を,400~500mg/dl以上に保つ.

【予 後】

 気道感染が十分予防されないと進行性の気管支拡張症を生じ呼吸不全で死亡する.補充療法を行っていてもエコーウイルスによる慢性脳炎を発症することがある.まれに悪性腫瘍が発症する.

IgA欠損症


【定義・分類】

(1)IgA単独欠損症 血清IgAが5mg/dl以下でIgG,IgMの異常を示さないもの.血清中IgA,分泌型IgAのどちらかあるいは両方が欠損する.

(2)IgA・IgGサブクラス欠損症 IgA欠損症にIgGサブクラス,特にIgG2やIgG4などの欠損を合併するもの.

【成 因】

 本症では表面(Sm)IgA保有B細胞はSmIgM/IgDを保有し未熟な段階で留まっているので,IgA欠損症の主たる病因として,SmIgA+B細胞自身が原因のための分化障害,あるいはIgA特異的ヘルパーT細胞の機能低下かサプレッサーT細胞機能亢進による分化障害が考えられている.続発性として,薬剤(抗てんかん薬),ウイルス感染症,自己免疫疾患,リンパ系悪性腫瘍などがあり病因は多彩である.

【病態生理】

 IgAは分泌型IgAとして,消化管・気道などの外界と接する局所免疫を担当する.それ故IgA欠損症では約半数で感染症が問題になる.また根底にある免疫調節障害のため自己免疫疾患・アレルギー疾患の合併,分泌型IgAが防御している組織における悪性腫瘍の発症の報告がある.

【臨床症状】

(1)感染症 反復性呼吸器感染を起こしやすいが,無症状である場合も多い.そのほか,反復性大腸炎,慢性下痢などが報告されている.

(2)アレルギー疾患 局所免疫の障害により過剰な抗原が侵入し,アトピー性免疫反応を呈する.喘息,蕁麻疹,アレルギー性鼻炎などが報告されている.

(3)自己免疫疾患

(4)悪性腫瘍 胃癌,大腸癌,肺癌,子宮癌など分泌型IgAが防御している組織における腫瘍の発症,また悪性リンパ腫発症の報告もみられる.

【診 断】

 血清IgAが5mg/dl未満よりIgA欠損症と診断.さらに分泌型IgAは正常か,IgG・IgMは正常か,IgGサブクラスの欠損はないか,合併症はないか,原発性か続発性かなどを診断する.

【治療・予後】

 対症療法のみで,IgAの補充療法は行われない.γグロブリン製剤投与や輸血などによりIgAに対するIgG抗体が産生されると,IgAを含有するγグロブリン製剤の投与でショックを起こすことが知られている.感染に対しγグロブリン製剤を使用する際は,IgAがほとんど含有されない製剤を選択し注意して使用する.予後は一般に良好である.

その他の明確に定義された免疫不全症

 特徴的な臨床症状を呈する7疾患が含まれ,原発免疫不全症の約20%を占める.代表的な4疾患を詳述する.

ヴィスコット・オールドリッチ症候群

Wiskott-Aldrich syndrome(WAS)

【定 義】

 血小板減少,湿疹,易感染性を3主徴とする原発性免疫不全症.

【成 因】

 伴性劣性遺伝型式をとるWASが大部分を占め,WASP遺伝子の異常により生じる.常染色体遺伝のWASは原因不明である.伴性劣性遺伝形式をとり,小型血小板性血小板減少のみを呈するX連鎖性血小板減少症X-linked thrombocytopenia(XLT)も同じWASP遺伝子異常症である.

【病態生理】
 
 WASP遺伝子産物であるWASP蛋白は,主に細胞質に存在し,細胞骨格へのシグナル伝達とその制御に関与している可能性が考えられている.

【臨床症状】

(1)血小板減少症 出生直後・早期からみられ,血便・皮下出血などの出血症状を呈する.

(2)難治性の湿疹

(3)易感染性 呼吸器・皮膚・消化管感染症が多く,髄膜炎・敗血症もみられる.細菌(特に肺炎球菌),真菌,ウイルス感染が重症化・遷延する.

【合併症】

 自己免疫疾患:自己免疫性溶血性貧血・腎炎・血管炎・関節炎・炎症性腸疾患の合併が報告されている.悪性腫瘍:ほとんどが悪性リンパ腫である.

 WASP異常症では,(1)小型血小板は共通症状で,(2)湿疹,(3)易感染性の程度,(4)悪性腫瘍・自己免疫疾患の合併の有無により臨床スコアが提唱されている.スコア1~2はXLT,スコア3~4はWAS,スコア5は悪性腫瘍・自己免疫疾患の合併を呈するものである.

【診 断】

(1)血小板検査 全例で血小板減少がみられ,かつ血小板が小型である.骨髄検査では巨核球数は正常である.

(2)免疫検査

 T細胞機能:T細胞数減少,T細胞機能低下が進行性にみられる.

免疫グロブリン:IgM低下,IgA・IgE上昇.

特異抗体産生:多糖体抗原に対する抗体反応の低下が進行性にみられる.そのため同種血球凝集素価,肺炎球菌抗体価は低値である.

(3)特異検査

 フローサイトメーターによる細胞内WASP蛋白の検出:末梢血単核球を用いて行う.

WASP遺伝子の変異解析.

WASP蛋白のウェスタンブロット法による検出.

【治 療】
 根治療法は,造血幹細胞移植とくに骨髄移植である.摘脾は出血傾向のコントロールとして有効.

【予 後】

 死因は乳幼児期の出血・感染がほとんどである.長期生存例では自己免疫疾患,リンパ網内系悪性腫瘍の合併が高頻度となる.

毛細血管拡張性運動失調症

ataxia-telangiectasia(AT)

【定 義】

 ATM遺伝子の異常による,小脳性失調,眼球結膜と皮膚の毛細血管拡張,免疫不全による易感染性,悪性腫瘍の合併などを主症状とする常染色体劣性の疾患である.ルイ・バール症候群Louis-Barsyndromeとも呼ばれている.

【成 因】

 ATM遺伝子変異による.

【病態生理】

 責任遺伝子は,PI-3キナーゼファミリーに属し,他の生物の細胞周期チェックポイント遺伝子と相同性の高い部分を有する.ATM蛋白は細胞周期制御,DNA修復に関与していると考えられている.患者細胞は放射線高感受性,細胞周期の異常,染色体脆弱性を認める.

【臨床症状】

(1)神経症状 幼児期に進行性の小脳性失調,ときに錐体外路症状で発症することが多い.進行性で,MRIでは小脳虫部の著明な萎縮,組織学的に小脳皮質プルキンエ細胞の著しい脱落が認められる.

(2)眼球結膜・皮膚の毛細血管拡張 神経症状出現のあと3~6歳で出現してくる(図5-3).

(3)易感染性 肺炎,気管支炎,気管支拡張症などの呼吸器感染が多い.病原体は細菌とウイルスが多い.

(4)悪性腫瘍の合併 原発性免疫不全症のなかではATに最も高率にみられる.女性保因者の乳癌発生率も高い.

【診 断】

(1)臨床症状

(2)検査所見

免疫検査:末梢血T細胞数の減少と機能低下,血清IgA・IgE,ときにIgG2・IgG4の欠損.

血清α-フェトプロテイン(AFP)の上昇.

放射線照射による患者細胞のDNA修復障害.

染色体脆弱性:染色体切断や転座が高頻度に認められることより,染色体切断症候群とされている.

(3)ATM蛋白のイムノブロット解析

(4)ATM遺伝子解析

【治 療】

 根治的な治療法はない.

【予 後】

 反復気道感染による気管支拡張症,呼吸不全と悪性腫瘍の合併が予後を決定する.

ディジョージ症候群

DiGeorge syndrome

【定 義】

 胸腺の低または無形成によるT細胞不全,副甲状腺の低または無形成による低カルシウム血症,心・大血管系の異常,顔貌異常を伴う原発性免疫不全症である.

【成 因】

 内因として22番染色体(22q11.2)の部分欠失,10番染色体(10p)の部分欠失,外因として催奇形因子(アルコール,カフェイン)など複数の原因による発生過程の障害が考えられている.

【病態生理】

 内因・外因による発生過程の障害により,第1・2鰓弓から発生する上下顎・外耳・鼻隆起,第3・4・6鰓弓から発生する胸腺・副甲状腺,大動脈・肺動脈などに異常を生じる.

【臨床症状】

(1)胸腺無・低形成 細胞性免疫不全の程度によって完全型あるいは部分型と分けられる.感染症としては口内カンジダ症,下痢,副鼻腔炎,肺炎,髄膜炎,敗血症などが報告されている.部分型では,易感染性は年齢とともに軽快傾向を示す場合がある.

(2)特異な顔貌 眼間開離,眼裂斜下,耳介変形,小顎症,上唇の人中短絡,鼻根部扁平.

(3)心血管系の異常 右側大動脈弓,大動脈弓離断,総動脈幹遺残,ファロー四徴症などが高頻度.

(4)副甲状腺の欠如 新生児テタニーを初発症状とする場合がある.

【診 断】

(1)症状 4主要症状中3つ以上あるものをディジョージ症候群と診断する.

(2)検査所見 新生児期の胸部X線写真・CTにより胸腺低形成,血液検査でT細胞減少・T細胞機能低下.

(3)FISH(fluorescence in situ hybridization)法 22q11.2の欠失は大部分の症例で見い出されるが必要条件ではない.

【治 療】

 完全欠損型では,胸腺移植・骨髄移植.

【予 後】

 免疫不全の程度,心血管奇形の重症度に依存する.

チェディアック・東症候群

Ch ed iak-Higashi syndrome

【定 義】

 白血球原形質のペルオキシダーゼ陽性巨大顆粒,部分白子症,易感染性を特徴とする原発性免疫不全症である.

【成 因】

 CHS1遺伝子異常による常染色体劣性遺伝の疾患である.

【病態生理】

 CHS1蛋白は細胞内蛋白輸送の調節に関与すると考えられており,その異常により細胞原形質に巨大顆粒が形成され,かつ殺菌性蛋白質・溶菌酵素の食胞内放出が障害されていると推定される.

【臨床症状】

(1)易感染性 好中球機能不全症(粘着能,走化能,殺菌能の低下)とNK細胞活性低下を認める.

(2)部分的白子症 メラノソームの成熟異常による白子症(皮膚,毛髪,網膜,虹彩)を特徴とする.

(3)神経症状 運動失調,感覚障害,精神症状

(4)増悪期 accerelated phase 大部分の患者がVAHS(ウイルス関連血球貪食症候群 virus-associated hemophagocytic syndrome)様の病態(発熱,肝脾腫,リンパ節腫脹,汎血球減少)を呈し死亡する.

【診 断】

 上記臨床症状,検査所見(巨大顆粒が白血球,メラニン細胞,神経細胞,筋細胞などの細胞でみられる)から診断は容易である.CHS1遺伝子解析.

【治 療】

 免疫不全の根治療法として,骨髄移植がある.増悪期に対してVAHSと同様の治療を行う.

【予 後】

 多くの症例が,感染症,VAHS様増悪で死亡する.

補体欠損症

 補体系は生体内へ侵入した病原体に対する初期生体防御機構のみならず,免疫複合体の除去にも重要な役割を果たしている.したがって補体欠損に関連する臨床所見は,大きく,(A)感染症と,(B) 膠原病・血管疾患collagen-vascular diseaseの2つに分けられる.

(1)古典経路の前期反応成分であるC1,C4およびC2欠損症では免疫複合体の除去が悪くなるため主に膠原病・血管疾患の頻度が高くなると考えられている.

(2)C3は補体活性化の中心的役割を果たしており,オプソニン作用をもつC3b,iC3b,chemotactic活性を有するC5aが生成されないため,C3欠損症では易感染性と膠原病・血管炎の両者が高率にみられる.

(3)後期補体成分C5-C9に関係する異常ではナイセリア感染が起こりやすく,わが国では特にC7/C9欠損症に伴う髄膜炎菌性髄膜炎の頻度が高い.C9欠損症は日本全国でほぼ0.1%の頻度で存在し,日本で最も頻度が高い補体欠損症である.大多数は健康であるが,正常人より有意に髄膜炎菌性髄膜炎に罹患しやすい.

(4)C1 inhibitor欠損症は,常染色体優性遺伝型式をとり遺伝性血管神経浮腫(HANE)が起こる.本症ではC3は正常でC4の減少がみられる.急性期治療に外国では濃縮C1 inhibitor製剤が使用される.予防にダナゾールが有効.

食細胞機能不全

 食細胞とくに好中球の遺伝的異常があり,細菌感染を反復する.原発性免疫不全症の約15%を占める.代表的な2疾患を詳述する.

慢性肉芽腫症

chronic granulomatous disease(CGD)


【定 義】   

 食細胞の細胞内殺菌機構の障害のため反復・遷延感染症を呈する原発性免疫不全症である.

【成 因】

 X連鎖型ではgp91 cytochrome b遺伝子変異,常染色体劣性型ではp22 cytochrome b,p47またはp67 cytosol factor遺伝子変異により活性酸素の産生に欠陥を生じることにより細胞内殺菌機構が障害され発症.

【病態生理】

 食細胞の主な殺菌機構である活性酸素の産生を触媒する酵素(NADPH oxidase)は,膜分画のチトクロームb558を構成するgp91,p22蛋白と細胞質分画のp67,p47の4つのphox蛋白と低分子GTP結合蛋白質から構成される.4つのphox蛋白質のうちの1つの異常によりCGDが発症する.伴性劣性遺伝型式をとるgp91欠損症の頻度が最も高い(75%).

【臨床症状】

 典型例では乳児期より始まる反復性・難治性の感染症である.初発症状は肛門周囲膿瘍,リンパ節炎,肺炎,皮膚化膿症,口内炎などの頻度が高く,肝膿瘍も好発する.起炎菌はカタラーゼ陽性・H2O2非産生の細菌(ブドウ球菌,グラム陰性桿菌,結核菌)や真菌(アスペルギルス,カンジダ)などによる.細菌自体が産生するH2O2が分解されないカタラーゼ陰性菌に対しては正常の殺菌効果が認められる.

【診 断】

(1)食細胞活性酸素産生測定 nitroblue tetrazolium(NBT)色素還元試験,化学発光(ケミルミネセンス)法,チトクローム小還元法,フローサイトメーター法などがある.

(2)病型診断 フローサイトメーター法,ウェスタンブロット法,遺伝子解析により診断.

【治 療】

(1)予防投与 ST合剤,IFN-γ

(2)感染治療 抗生剤・抗真菌剤投与,顆粒球輸注,外科治療

(3)根治療法 骨髄移植の成功例がある.遺伝子治療は未だ実験段階.

(4)BCG接種は播種するので禁忌.

【予 後】

 細菌・真菌感染で死亡し平均寿命は30歳前後.

白血球粘着不全症


【定 義】

 白血球が炎症部位へ遊走していくためには,白血球-血管内皮細胞間のローリングと粘着が重要であり,粘着・ローリングに必要な分子の異常による接着障害を白血球接着不全症と呼ぶ.

【成因・分類】

(1)白血球接着不全症 I 型 粘着に必要なβ2インテグリン(CD18/CD11)の先天的な欠損による接着障害.

(2)白血球接着不全症 II 型 β2インテグリンは正常で,ローリングに必要なセレクチン型接着分子のリガンドであるsialyl Lewis型糖鎖に異常を認める接着障害. II 型はきわめてまれであるので I 型のみ詳述する.

【病態生理】

 接着に重要なβ2インテグリンはLFA-1(CD11a/CD18),Mac-1(CD11b/CD18),p150/95(CD11c/CD18)と呼ばれる3分子から構成されている.共通のβ鎖(CD18)をもつためβ鎖の異常があると,β2インテグリンに含まれる3分子すべてが膜表面に発現しない.リンパ球,好中球,単球・マクロファージなどの白血球膜に存在する細胞接着性膜蛋白が欠損または減少することにより好中球・リンパ球・NK細胞の機能が障害されて易感染性を呈する.

【臨床症状】

 主な症状は臍帯脱落遅延,非膿瘍形成の重症皮膚化膿症,肺炎,歯肉炎・歯周囲炎,中耳炎,創傷治癒の遅延などである.細菌(ブドウ球菌,緑膿菌などが主体),真菌感染を反復する.

【診 断】

 特徴的な臨床症状と検査所見(末梢血白血球・好中球数の異常高値,好中球機能(粘着能,遊走能,貪食能)の低下,細胞傷害性T細胞活性・NK細胞活性の低下)が有用である.

確定診断にはフローサイトメーターでβ2インテグリン(LFA-1,Mac-1)の解析を行う.

【治 療】

 根治療法は造血幹細胞移植

【予 後】

 対症療法のみでは感染で死亡.

文献

1) Notarangelo L et al: Primary immunodeficiency diseases: An update from the International Union of Immunological Societies Primary Immunodeficiency Diseases Classification Committee Meeting in Budapest, 2005. J Allergy Clin Immunol 117: 883-896, 2006

2) http://www1s.u-toyama.ac.jp/pedi/mennHp/index.html 原発性免疫不全症のホームページ

3) Stiem ER et al. Immunodeficiency disorders: general considerations. In Immunologic Disorders in Infants and Children, 5th ed, Elsevier Saunders, Philadelphia, pp289-355, 2004.

(Mymedより)推薦図書

1) Thao Doan・Roger Melvold・Susan Viselli・Carl Waltenbaugh 著、高橋秀実・矢田純一 翻訳:イラストレイテッド 免疫学 [リッピンコットシリーズ],丸善 2009

2) 齋藤 紀先 著:休み時間の免疫学 (休み時間シリーズ),講談社 2004

3) 萩原清文 著、多田富雄 編集:好きになる免疫学 (KS好きになるシリーズ),講談社 2001
       
 

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