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abdominal trauma
執筆者: 石丸 哲也
小児の腹部外傷の受傷機転としては交通事故が最も多く、他に転倒・転落、スポーツ外傷、虐待などが含まれる。腹部外傷には自宅でも経過観察の可能な軽傷のものから致命的なものまであるが、交通事故や転倒・転落という「不慮の事故」は、0歳を除いた1~19歳の死亡原因の第一位である。
小児の腹部外傷は、小児のもつ解剖学的・生理学的特徴や生活パターンの違いから成人外傷とは異なる特徴がある。
まず、横隔膜が12歳頃までほぼ水平で肋骨弓角が開いているため、成人では肋骨で保護されている肝臓・脾臓が腹壁下に存在することとなり損傷しやすい。また、肝臓・脾臓の相対的容積が大きく損傷される確率が高い。そして小児の腹壁は成人に比べて脆弱なため外力が直接作用しやすい。
呼吸の形式も幼児期までは横隔膜が主体の腹式呼吸で、しだいに胸式呼吸に移行する。このため、乳幼児患者の腹腔内圧が上昇するような病態では、呼吸状態にも影響が及ぶことがあり注意を要する。
受傷機転と損傷臓器はかなり密接な関係にあり、加わる外力の部位、方向、程度によって損傷臓器を予測できる。よって、本人、家族、目撃者からの病歴聴取は極めて重要である。
例えば転落事故では、転落した高さだけでなく、着地した場所(コンクリートだったのか土や芝生だったのか)やどのように落下し体のどの部位から着地したかによって損傷臓器が異なってくる。ガードレールや鉄棒などからの転落では、高さがさほどではなくても腹部を強打し、外力が集中するため重症となることがある。また、自転車で転倒しハンドルで上腹部を打撲したような場合には、脊椎の前面に位置する十二指腸や膵臓という臓器がハンドルと脊椎に挟まれて損傷を受けやすい。
事故状況と受傷状態が一致しないことや、先に述べたように小児は腹壁が脆弱なため、小さな外力であるにもかかわらず予想以上の臓器損傷を認めることもある。
腹痛、嘔吐などが腹部外傷でよく見られる症状であるが、血圧低下や頻脈、意識障害、顔色不良などはショックの症状である可能性があるため見逃さないようにする。小児の場合、表現力が不十分で症状を正確に伝えられないことや、ある一箇所の痛いところに集中してしまって他の痛いところを訴えないようなこともあって問診での病状把握は難しい。
腹部の診察では、腹部膨満の有無を観察し腸蠕動音の聴取を行う。
次いで圧痛の部位、反跳痛(腹部を押して急に放した時に感じる痛み)や筋性防御(腹膜炎の際に表れる腹壁の硬さ)の有無を診る。反跳痛や筋性防御は腹膜炎の所見である。
小児は診察に非協力的で身体所見をとりづらい場合もあるが、体表に生じる擦過傷や打撲痕などは、受傷機転と同様、損傷臓器を推測する際の重要な手がかりであるので、全身をくまなく観察するよう心がけるべきである。
ただ、臓器損傷を生じていても体表面に変化がみられない症例もあるため、次に述べる検査結果と総合的に診断をすすめていく必要がある。
血液検査にて出血による貧血がないか、腹膜炎がないかを確認する。
AST(GOT)やALT(GPT)が上昇していれば肝損傷が疑われ、アミラーゼの上昇で膵臓の損傷が予測される。尿検査にて血尿を認めれば腎臓を含めた尿路系の損傷が予測される。
簡便で侵襲なく繰り返し行える検査であり、来院時すでにショック状態である患者に対して腹腔内出血の有無を確認する場合や、出血の進行状況を経時的に観察する場合には最も適している。しかし、実質臓器損傷の有無や程度など詳細な観察を行う場合には検者により差が出てしまう。
腹腔内遊離ガス(free air:腸管損傷のサイン)や骨折の有無などを診断する。
腹腔内遊離ガスの有無や腹腔内出血の程度、実質臓器損傷などを診断できる情報量の多い検査であるが、患児に体動があると鮮明な画像が得られないため鎮静が必要になってしまうことがある。鎮静を行うと意識レベルの変化を正確に観察できなくなることから、症例に応じて適応を考慮する必要がある。また、放射線被爆の観点から考えると、経時的観察を目的とした頻回の検査には適さない。
患児の意識レベルが清明で全身状態が安定している場合には、すでに述べたような検査を行い確実な診断を行った後で治療方針を決めていけばよい。しかし重症外傷の場合には、腹部だけでなく頭部・胸部などの外傷を合併していることも多く、刻一刻と変化していく患児の状況を把握するための検査と全身状態を安定させるための初期治療を同時進行で行い、適切な治療方針を速やかに決定していかなければならない。
まず、気道の評価を行う。会話が可能な場合、啼泣している場合は気道閉塞なしと判断できる。しかし、無呼吸の場合や陥没呼吸などの気道閉塞を疑う所見を認めた場合、意識障害を認める場合には気管内挿管などの方法で確実な気道の確保を行う。
続いて呼吸の評価を行う。視診・触診・聴診にて胸郭挙上や呼吸音の左右差、皮下気腫や頚部気管の偏位の有無、さらには打診にて鼓音・濁音などを観察し、緊張性気胸や大量血胸などの致死的胸部外傷を見逃さないようにする。合併している場合には胸腔ドレーンを挿入して速やかに治療を行う。
続いて循環の評価を行う。皮膚色や意識レベル、血圧、脈拍などからショック状態か否かを判断する。ショックと診断された場合には急速輸液を行って循環動態の安定化を図る。外傷によるショックは90%以上が出血性ショックであるとも言われており、緊張性気胸などの致死的胸部外傷が否定されたにもかかわらずショック状態を呈する腹部外傷患者では、腹部超音波にて腹腔内出血の有無を確認する。急速輸液を行っても循環動態が安定しない場合には、早急に輸血を行い、ただちに手術などによる根本的な止血を行う。
急速輸液にて循環動態が安定したら先に述べたような検査を行って治療方針を決めていくが、身体所見をとる際には衣服を脱がせて受傷部位だけでなく全身を詳細に観察する。小児は低体温になりやすく、低体温は代謝性アシドーシスや凝固異常を引き起こすため、低体温にならないように注意が必要である。
12~24時間後に症状が出現してくることはまれではなく、遅発性腸管損傷などはよく知られている。初診時に全身状態が良好だからといって油断せず、出血の有無と実質臓器損傷は超音波で確認しておきたい。
急速輸液を行っても循環動態が安定しない出血性ショックの症例に対しては、救命を目的とした止血だけのための緊急手術(damage control surgery)が選択される。この場合、CTなどの画像診断は省略して最短時間で手術室へ直行できるようにする。この手術では止血が最大の目的であり、臓器損傷に対する処置は原則行わない。速やかに手術を終了し循環動態を安定させた後、再度手術を行って損傷臓器の修復などを行う。
肝臓・脾臓・腎臓などの実質臓器損傷による出血で、比較的状態の安定している症例に対しては、動脈に挿入したカテーテルを用いて出血部位を塞栓する経皮動脈塞栓術(TAE)という方法が用いられることもある。
全身状態が落ち着いている症例では安静・補液による保存的治療が可能であるが、一度止血した後に再出血することもあるため経時的な観察が必要である。
初診時の検査で全く異常所見がなく自宅で経過観察が可能な場合であっても、遅れて症状が出現する可能性もあり注意を要する。
小児では成人に比べて少ないが、腸管の損傷に対しては手術が必要である。
1) 厚生労働省統計表データベース:厚生統計要覧、人口動態統計
2) 日本外傷学会外傷研修コース開発委員会:外傷初期診療ガイドライン、第2版、へるす出版、東京、2002
3) 檜顕成、他:小児の外傷の特徴、小児外科37巻2号、pp123-128、2005
4) 武井健吉、他:小児外傷治療における診察のポイント、小児外科37巻2号、pp141-145、2005
5) つる知光、他:腹部外傷の初期治療、小児外科37巻2号、pp161-165、2005
6) 諸江雄太、他:腹部外傷性出血の管理、小児外科37巻2号、pp172-176、2005
1) 外傷初期診療ガイドライン 改訂第3版,へるす出版 2008
2) 荒木尚 著・翻訳、清水直樹・上村克徳・小原崇一郎 翻訳:トロント小児病院外傷マニュアル,メディカルサイエンスインターナショナル 2008
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