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Enterohemorrhagic E.coli (EHEC) infection
別名: O157
執筆者: 柳澤 敦広
腸管出血性大腸菌感染症は、いわゆるO-157を代表とする病原性大腸菌のある一群による感染症で、汚染された食材や水を摂取することで発症し食中毒の原因にもなる。頻回の下痢、腹痛、血便といった強い症状を認め、その一部は溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)を合併し重篤になるため厳重な管理が必要。また、保健所への届け出が必要で家族の検査を行うこともある。
平成11年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)では3類感染症に分類され、入院隔離は必須ではないが直ちに保健所に届け出る義務がある。また、保菌者も含め就業が制限される。学校保健法の「学校において予防すべき感染症」では第3種として扱われ、出席停止期間は「伝染のおそれがなくなるまで」とされる。
病原大腸菌は発症機序と症状の違いから以下の5種類に分類される。
(1)腸管病原性(血清型)大腸菌(Enteropathogenic E.coli:EPEC)
(2)腸管組織侵入性大腸菌(Enteroinvasive E.coli:EIEC)
(3)腸管毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic E.coli:ETEC)
(4)腸管凝集付着性大腸菌(Enteroaggregative E.coli:EAECまたはEAggEC)
(5)腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E.coli:EHEC)
以下EHECについて述べる。
EHECはベロ毒素(Verotoxin:VT)、あるいはVTと同じものである志賀毒素(Shigatoxin:Stx)を産生するためVerotoxin-producing E.coli(VTEC)、あるいはShigatoxin-producing E.coli(STEC)とも呼ばれる。
また、O抗原は細胞表面にある多糖体(lipopolysaccharide:LPS)で、その抗原構造の違いから多くの血清型に分けられる。EHECの血清型は、国内では80%以上がO157であるが他にもO1、O26、O111、O128、O145をはじめとして多数の報告がある。
VTは血管内皮細胞、尿細管上皮細胞、腸上皮細胞などを標的とし、Gb3といわれる糖脂質をレセプターとして結合し細胞内に取り込まれたのち、蛋白合成を阻害し細胞死を招く。また、LPSは炎症性サイトカインを誘導し細胞障害を進展させる。
EHECは、国内の家畜牛などの糞便中にかなりの割合で検出され、その糞便に汚染された食材、井戸水なども感染源となりうる。熱、消毒剤に対しては抵抗性は弱い。一方、低温条件、酸性条件には強い。よって、牛肉、レバーの生での摂取は感染の危険性が高い。経口的に侵入し、約100個という少ない菌量で感染が成立するといわれる。また、人から人へ二次感染をおこすこともある。
EHEC感染者の約半数が出血性大腸炎を発症し、その他は無症状、あるいは軽い下痢症のみとなる。
潜伏期は、平均3〜5日だが2週間に及ぶこともある。
出血性大腸炎の典型的症状は、頻回の水様便で発症し激しい腹痛を伴い、やがて著しい血便(鮮血便)を呈するようになる。発熱は軽微なことが多い。
出血性大腸炎患者の約1割が、5〜7病日頃にHUSを合併する(詳細はHUSの項を参照)。顔色不良、乏尿、傾眠傾向などの症状の出現に注意する。
1. 迅速診断検査として便からO157抗原(イムノクロマトグラフィー法)やVT(酵素抗体法)を検出するキットが数社から発売され普及している。
2. 便中のVT産生遺伝子をPCRで検出する方法は迅速で特異性も高いがあまり普及していない。
3. 抗生剤の使用後など上記検査でEHECが検出できない場合、血清でO157抗体(LPS抗体)を測定する方法(ラテックス凝集法)が有用。外注検査会社(BML)で受け付けている。
上記検査を組み合わせて行うことが多いが、保険で算定できるのは1種類の検査分のみ(PCRは保険適応外)。
その他の所見としてWBC、CRPの上昇は軽度で、腹部超音波検査で著明な結腸壁の肥厚を認めることが特徴的。
確定診断は便培養と、分離同定された菌株からVTを検出することである。
血便を伴う疾患の鑑別として、他の細菌性腸炎(サルモネラ、キャンピロバクター等)、炎症性腸疾患、腸重積や血管性紫斑病があげられる。便培養、WBC、CRP上昇の程度、画像所見から鑑別できる。
HUSへの進行のチェックとして尿所見の異常(尿蛋白、潜血、尿NAG、β2MGの上昇)、WBC増多、血小板減少、血清ビリルビン、血清LDHの上昇に注意する。
以前より抗生剤投与の是非は議論されている。欧米では抗生剤投与は勧められていないが、国内の報告では病初期での抗生剤使用(ホスミシン:FOM等)使用は合併症発症を低下させるとされ、多くの症例で使用されている。この場合、経口投与を原則とし使用期間は3〜5日間にとどめる。他、下記の手引きでは、バクシダール、カナマイシンがあげられているが、キノロン系はVT産生を高め勧められないとする報告もある。
腸管運動を抑制する止痢剤や痛み止め(ブスコパン等)は用いない。
その他の痛み止めとしてペンタジン等の使用は最小限にとどめる。
乳酸菌製剤:臨床的な有効性は実証されていないが、症状改善後も排菌が残る例などに用いられる。
二次感染を起こし得るため接触予防策に努める。また、便培養にて2回連続で菌が検出されなければ菌は陰性化したとみなす。
処方例:ホスミシン40〜120mg/kg/日、分3〜4内服、3〜5日間
HUSを合併しなければ、予後は良好。
EHEC感染症はここ数年、散発事例が多く年間2000〜4000例と増加傾向にあり、夏期に多発している。
厚生労働省ホームページにて「一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き(改訂版)」(平成9年作成)や、「腸管出血性大腸菌O157対策関連情報」が閲覧できるので参照されたい。
1) 青木眞 著:レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版,医学書院 2007
2) 大曲貴夫:感染症診療のロジック,南山堂 2010
3) 西原崇創 著、古川恵一 監修:そこが知りたい!感染症一刀両断!,三輪書店 2006
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