急性脳炎・急性脳症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.15

急性脳炎・急性脳症(きゅうせいのうえん・きゅうせいのうしょう)

Acute encephalitis/ Acute encephalopathy

執筆者: 水口 雅

概要

 急性脳炎・急性脳症では、ウイルスやマイコプラズマなどの感染症を契機に急性の脳障害が生じる。臨床的には発熱、痙攣、意識障害が多くの例で認められる。

 急性脳炎では脳実質に炎症(白血球の浸潤)がある。急性脳症では脳内に炎症がないにもかかわらず、脳浮腫が生じる。Reye症候群、急性壊死性脳症、痙攣重積型急性脳症など多くの病型に分かれる。

病因

急性脳炎の病因


 急性脳炎は一次性脳炎と二次性脳炎とに分類される。現在、日本では一次性脳炎の病原として単純ヘルペスウイルスがしばしば、日本脳炎ウイルス、エンテロウイルス71型が稀に見られる。二次性脳炎の誘因としては、インフルエンザなどのウイルスやマイコプラズマの感染、ワクチン接種が多い。かつては麻疹、風疹などウイルス性発疹症が多かったが、近年は減少した。

急性脳症の病因


 急性脳症の誘因となる感染はインフルエンザ、ヒトヘルペスウイルス6型などウイルスが多い。アスピリン、非ステロイド性抗炎症薬(ジクロフェナク、メフェナム酸)、テオフィリンなどの薬剤が、それぞれReye症候群、急性壊死性脳症、痙攣重積型急性脳症の増悪因子として関与すると推測される。

病態生理

急性脳炎の病態生理


 一次性脳炎ではウイルスの直接侵襲(脳内への侵入、定着、増殖)が主たる病態である。脳内にウイルスが存在し、時にウイルス封入体を形成する。脳実質細胞の壊死、血管の破壊(出血)をともなう強い炎症を生じやすい。

 二次性脳炎ではアレルギー・自己免疫が主たる病態で、その典型は急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis、以下ADEM)である。主に脳の白質、神経細胞の髄鞘を障害して脱髄性炎症をおこすことが多い。

急性脳症の病態生理


 急性脳症では脳実質細胞の細胞膜における水・電解質調節や脳血管内皮における血液脳関門が破綻することにより、広範囲の脳浮腫(細胞性ないし血管性)が生じ、頭蓋内圧が上昇する。早発性(発症48時間以内)・びまん性・血管性の脳浮腫と全身の臓器障害、血液障害をともなう病型(急性壊死性脳症など)では炎症性サイトカインの過剰な産生と作用(サイトカインの嵐)が病態の中心を占める。これに対し遅発性・限局性・細胞性の大脳皮質浮腫をともなう病型(痙攣重積型)では興奮毒性による遅発性神経細胞死が主病態と推測される。

臨床症状

急性脳炎の臨床症状


 発熱の他に痙攣、意識障害が多くの例で、髄膜刺激徴候(頭痛、嘔吐、項部硬直、Kernig徴候)が一部の例で見られる。びまん性の炎症では意識障害と頭蓋内圧亢進徴候(頭痛、嘔吐、うっ血乳頭、眼球・姿勢・呼吸・循環の異常)が、限局性の炎症では神経学的局所徴候(大脳基底核障害による不随意運動、小脳障害による失調など)が認められる。

急性脳症の臨床症状


 発熱の他に痙攣、意識障害が多くの例で見られる。重症例は昏睡にともなって頭蓋内圧亢進徴候を呈する。重症例の一部は、出血傾向や血圧低下、乏尿などの全身症状をともなう。

検査成績

検体検査


 血液検査では炎症反応の他にウイルス抗体価、血液学的・生化学的変化(播種性血管内凝固、電解質異常、多臓器障害、高血糖、低血糖など)、アシドーシスを見る。病原体の検査として鼻咽頭拭い液、便、血液、髄液を用いゲノム・抗原検出を行う。髄液検査では細胞数、蛋白など一般検査の他に、二次性脳炎ではミエリン塩基性蛋白などを測る。

頭部画像検査


 CT、MRIではびまん性脳浮腫や局在性病変が描出される。特に側頭葉・前頭葉病変は単純ヘルペス脳炎に、視床・基底核・黒質病変は日本脳炎に、多発・散在性白質病変はADEMに、両側対称性視床病変は急性壊死性脳症に、両側前頭葉皮質病変や一側大脳半球皮質病変は痙攣重積型に特徴的な所見である。

生理検査


 脳波では大脳皮質の、聴性脳幹反応では脳幹被蓋の機能を評価する。

診断・鑑別診断

急性脳炎


 急性の脳実質障害を示す神経症状(4.臨床症状を参照)に加え、脳脊髄液に炎症所見(細胞数の増多など)があれば容易に診断できる。脳脊髄液に特異的な変化が無くても、ある種の感染症に固有の神経症状(水痘後の小脳失調など)や頭部画像所見(MRI、CTなど)で脳炎の特徴が認められれば、脳炎の診断は可能である。一次性脳炎の確定診断においては、脳脊髄液でのウイルスゲノム検出(PCR法、RT-PCR法)または抗原・抗体の検出が根拠となる。

急性脳症


 特異的な頭部画像所見(両側対称性視床病変など)が存在する例を除けば、検査所見のみによる確定診断は不可能であり、意識障害の程度・持続を観察した上で臨床的・総合的に診断する。

治療

 一次性脳炎、二次性脳炎、急性脳症のいずれにおいても、症例の重症度に応じた支持療法(全身管理、痙攣の抑制と再発予防、頭蓋内圧降下療法)を行う。

 一次性脳炎で病原ウイルスに対する原因療法の有効性が確立しているのは、単純ヘルペス脳炎のみである。したがって単純ヘルペス脳炎の疑いが少しでもあれば、抗ヘルペス薬(アシクロビル)の投与を開始する。単純ヘルペス脳炎の診断が確定した場合、抗ヘルペス薬を十分長期間投与することが重要である。これは小児の単純ヘルペス脳炎の20〜30%に再発が見られるからである。

 二次性脳炎であるADEMでは、中等症以上の症例に対してメチルプレドニゾロン・パルス療法が施行され、多くの場合、有効である。パルス無効例、重症例の一部に対して、免疫グロブリン大量療法、血漿交換療法が選択される。

 急性脳症のうち、脳浮腫が急速に進行し凝固異常や多臓器障害をともないやすい病型には、メチルプレドニゾロン・パルス療法、ガンマグロブリン大量静注療法、脳低体温療法など抗サイトカイン、脳保護を狙った治療が施行される。

予後

急性脳炎


 一次性脳炎の予後は病原体ごとに異なるものの、概して不良である。単純ヘルペス脳炎の死亡率はかつて30%もあったが、抗ウイルス薬の導入により現在では10%以下に減少した。しかし生存例の多くに神経学的後遺症が残っている。

 二次性脳炎の予後は、一次性脳炎より良い。とくにADEM症例の大多数はメチルプレドニゾロン・パルス療法に反応して回復する。ただし麻疹脳炎の予後はADEMより悪い。


急性脳症


 病型により予後は異なり、急性壊死性脳症では死亡率は30%以上、痙攣重積型急性脳症では2%未満である。いずれの病型においても、生存者の多くに神経学的後遺症(知能障害、運動障害、てんかん)が残る。

最近の動向

 インフルエンザ脳症の初期対応、診断、治療、リハビリテーション、グリーフケアに関する包括的なガイドラインが2005年、厚生労働省インフルエンザ脳症研究班(主任研究者:森島恒雄岡山大学大学院教授)により刊行された。インターネット上に公開されている(岡山大学小児科HP pdf)。

参考文献

1) 水口雅: 急性脳炎・急性脳症. 五十嵐隆(編)、小児科診療ガイドライン―最新の診療指針、pp 183-186、総合医学社、東京、2007.

2) 水口雅:小児の急性脳症、ライ症候群. 山口徹、北原光夫、福井次矢(編)、今日の治療指針 2007年版、pp 996-997、医学書院、東京、2007

執筆者による主な図書

鴨下重彦・天野曄・松尾宣武・五十嵐隆・松平隆光 編:実践 小児医療,日本医師会

執筆者による推薦図書

熱性けいれん懇話会ガイドライン改訂委員会:熱性けいれんの指導ガイドライン(小児科臨床1996;49:207-15),日本小児医事出版社

(MyMedより)推薦図書

1) 羽鳥文麿 著・編集、五十嵐隆 総編集:小児救急医療 (小児科臨床ピクシス 1) ,中山書店 2008

2) 小野正恵 著:Primary care note こどもの病気,日本医事新報社 2006

3) 千葉厚郎 監修:ナースのための早引き脳神経疾患ハンドブック,ナツメ社 2008
 

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