ウィルソン病 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

ウィルソン病(うぃるそんびょう)

Wilson's Disease

執筆者: 児玉 浩子

病因

 Wilson病の病因は13番染色体長腕にある銅輸送ATPase (ATP7B)の遺伝子異常である。遺伝形式は常染色体劣性で、発症頻度は約1/35,000人、保因者頻度は約1/120人で、世界的にほぼ同じ頻度である。遺伝子変異部位は非常に多彩で、300以上の変異が報告されているが、欧米人患者でのATP7B遺伝子異常はHis1069Glnが最も多く(約38%)、日本人を含むアジア人患者ではArg778Leu変異が最も多い(約25%)。

 遺伝子変異と臨床症状(表現型)に明らかな関連はない。略語のATP7はカチオン輸送ATPaseとして7番目に発見されたことにより命名された。ATP7遺伝子は、まず初めにもう1つの先天性銅代謝異常症であるMenkes病で発見され、それを契機にWilson病責任遺伝子が同定された。Menkes病およびWilson病責任遺伝子・責任蛋白は構造、機能が非常に類似しており、発見された順序によりMenkes病責任遺伝子・蛋白にA、Wilson病責任遺伝子・蛋白にBがつけられた。

病態生理

 ATP7Bは、8個の膜貫通部位、n末端に6個の銅結合部位、ATP結合部位のある膜蛋白で、銅をサイトソルからゴルジ体内に輸送する作用を持つ(図1)。正常肝細胞では、銅はATP7Bによりサイトソルからゴルジ体内へ輸送される。ゴルジ体に輸送された銅はアポセルロプラスミンと結合して、セルロプラスミンとなって血中および胆汁中に分泌される。正常では血清銅の90%以上はセルロプラスミン結合銅である。本症患者では、肝細胞でのATP7B欠損により銅は肝細胞内でサイトソルからゴルジ体内へ輸送されず、肝細胞のサイトソルに銅は蓄積する。一方、ゴルジ体内は銅欠乏になる。

 その結果、血液や胆汁にセルロプラスミンとして銅は分泌されず、血清銅、セルロプラスミンは低下する。肝臓に蓄積した銅の一部はセルロプラスミン非結合銅(アルブミンやアミノ酸と結合)として血液中に出る。本症での神経障害や腎障害などは、血液中に増加したセルロプラスミン非結合銅がこれらの組織に蓄積するためと考えられている(図2)。肝機能異常のない神経型の本症患者でも肝臓に銅は蓄積している。

臨床症状

 本症は非常に多彩な症状を呈する。肝障害、神経障害、精神障害、腎障害、関節障害が主な症状で、発症は症例により異なる。肝障害は劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬変など様々な形で発症する。神経症状は錐体外路症状で、構音障害、パーキンソン様歩行、手のふるえ、ジストニア、アテトーゼなどで、精神障害を伴うことも多い。血尿や関節炎が初発症状のこともある(表1)。感冒等で検査した際にたまたま肝機能異常を発見される場合もある。好発年齢は肝型では7-10歳、神経型は10-15歳であるが、幼児から成人まで発症年齢は非常に幅がある(図3)。したがって、原因不明の肝機能異常、神経障害、精神障害、血尿、関節炎などでは本症を鑑別診断しなければならない。

検査成績

 血清セルロプラスミン・銅低値、尿中銅の排泄増加が特徴で、これら検査で診断できることが多い(表2)。しかし、本症患者の数%は血清銅・セルロプラスミンが正常であると報告されている。血清銅、セルロプラスミンが低値を示さない病態は不明であるが、ATP7B活性がある程度残存していることも考えられている。ペニシラミン負荷により尿中銅排泄は著明に増加する。ペニシラミン負荷試験も診断に有用である。肝銅含有量は全例で増加しており、肝銅濃度高値を証明すれば確定診断できる。遺伝子診断も可能である。頭部画像では基底核の変化が特徴である(図4図5図6)。

治療

 治療の基本は蓄積した銅を排泄させること(初期療法)と、銅が蓄積しないように予防すること(維持療法)である。初期治療法の選択基準および投与方法を図7表3に示す。一般に初期治療はキレート薬であるトリエンチンまたはペニシラミンを用い、通常は治療開始から数ヶ月間行い、その後維持治療に移行する。維持治療の場合の投与量は初期治療の1/2-1/3量で行い、治療は生涯必要である。キレート薬は体内の銅を結合し尿中に排泄させる作用がある。ペニシラミンが最もキレート効果がよいが、副作用発現頻度が高い。

 約30%に初期副作用として発熱、発疹など、さらに約10%に白血球減少、SLE、ネフローゼ症候群、Goodpasture症候群など重篤な副作用が発現し、ペニシラミン投与を断念する症例も多い。最近ではペニシラミンの副作用が強いことより、初期治療の第1選択薬としてトリエンチンを推奨されている。これらキレート薬は空腹時に服用することが大切で、食後や食直前の服用は効果がない。亜鉛は米国ではWilson病のオーファンドラッグとして認可されており、わが国でも現在治験が行われている。投与量は成人で150 mg/日、6~16歳で75 mg/日、5歳以下で50 mg/日を2~3回に分け、食事と1時間あけて服用する。発症前患者や維持療法は亜鉛のみでも十分コントロール可能であるとされている。

 亜鉛効果の主な機序は腸管での銅吸収の抑制である。亜鉛を経口摂取すると腸粘膜のメタロチオネインが増加し、増加したメタロチオネインに経口摂取した銅が結合する。粘膜は日々脱落し便中に排泄されているので、結果的に銅吸収を抑制することになる。上記の機序からわかるように尿中銅排泄はキレート薬投与では増加するが、亜鉛投与では増加しない。

 神経型では、キレート薬や亜鉛治療の場合、治療開始後神経症状が一時悪化することが多い。その理由として、治療により肝などに蓄積した銅がフリー銅として血液中に増加し、神経に移行し、神経障害を悪化させると考えられている。テトラチオモリブデートはこのような神経障害の悪化をきたさないキレート薬として注目されており、米国では現在治験中である。

 劇症肝炎、溶血発作型発症例では、肝移植が適応になる。キレート薬で神経症状の改善が見られなかった患者でも肝移植で症状の改善が見られたとの報告もある 。肝移植後はキレート薬などのWilson病の治療は不要である。

予後

 早期に治療を開始すれば、予後は良好で、日常生活・社会生活も全く普通に行うことが可能である。女性患者では妊娠出産も可能である。しかし妊娠中も治療は続けなければならない。進行した神経障害の場合は、完全には改善しないことが多い。劇症肝不全で発症した場合も予後は不良で、早期の肝移植が適応になる。

最近の動向

 従来、治療の第一選択薬はペニシラミンであったが、副作用が強いことからトリエンチンが推奨されている。亜鉛は現在治験中で2008年には認可される予定である。亜鉛が使用できるようになれば、発症前患者および維持期の治療として使用可能になる。最近では、肝移植患者が増加している。

参考文献

1) 児玉浩子:Wilson病、Menkes病. 講義録 内分泌・代謝学、寺本民生、片山茂裕(編)、pp381-384、メジカルビュー社、東京、2005.

2) 顧艶紅、児玉浩子:Wilson病. 小児内科.38増刊(小児疾患の診断治療基準):161-162, 2006.

3) 藤沢千恵、児玉浩子:Wilson病に対する亜鉛治療. 小児内科 39: 885-887, 2007.

(MyMedより)推薦図書

1) 越山裕行 著:最新内分泌代謝学ハンドブック,三原医学社 2006

2) 有馬正高 監修、熊谷公明・栗田広 編集:発達障害の基礎,日本文化科学社 1999

3) 加藤忠史 著:脳と精神疾患 (脳科学ライブラリー),朝倉書店 2009
 

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