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最終更新日:2010.02.16

糖尿病性昏睡(とうにょうびょうせいこんすい)

執筆者: 林 道夫

糖尿病患者の急性合併症(意識障害)

 糖尿病患者に起こりうる意識障害として、糖尿病性ケトアシドーシス(Diabetic Ketoacidosis, DKA)と高浸透圧性非ケトン性昏睡(Nonketotic Hyperosmolar Coma, NKHC, HONC/HNKCと略記されることもある)による高血糖性昏睡と、低血糖昏睡、更に脳血管障害、乳酸アシドーシス(Lactic Acidosis, LA)、などがある。本稿ではDKA, NKHC、低血糖性昏睡について主に述べ、LAについても若干言及する。

高血糖性昏睡

 病態生理:DKAもNKHCも糖尿病の代謝失調の究極像といえる。誘因として、感染や外傷などのストレス、インスリン自己注射など糖尿病治療の中断、清涼飲料多飲(いわゆるペットボトル症候群)、不適切な高カロリー輸液や糖負荷試験(医原性)などがあるが、誘因が不明なものも多い。NKHCでは利尿剤などの薬剤が誘因となることもある。このような誘因によるインスリン欠乏、大量のグルコース負荷、インスリン拮抗ホルモン上昇などを出発点として昏睡が成立してゆく過程を図1に示す。DKAはケトアシドーシス、NKHCは脱水・血漿高浸透圧がそれぞれ最も強く表に出た病態だが、両者は必ずしもはっきりと区別されるものではなく、連続した病態としてとらえられる。DKAはインスリン分泌が完全に枯渇した1型糖尿病に起こるとされていたが、清涼飲料性ケトアシドーシスのようにインスリン分泌が保たれている症例にもおこりうる。

高血糖性昏睡の成立機序


DKAはケトアシドーシス、NKHCは脱水・血漿高浸透圧がそれぞれ最も強く表に出た病態だが、両者は必ずしもはっきりと区別されるものではなく、連続した病態としてとらえられる。DKAはインスリン分泌が完全に枯渇した1型糖尿病に起こるとされていたが、清涼飲料性ケトアシドーシスのようにインスリン分泌が保たれている症例にもおこりうる。

症状:

意識障害に至るまでに、高血糖に伴う口渇、多飲、多尿、体重減少等の症状が出現する。脱水を反映して皮膚の乾燥、緊張低下、低体温をみる。DKAではアシドーシスによるKussmaul大呼吸、呼気のアセトン臭、腹痛(急性腹症として扱われることもある)が特徴的である。NKHCでは特徴的な症状が現れにくく、眼振、ミオクローヌス、けいれんなどの神経症状がしばしば出現する。

検査所見:

高血糖は一般にDKAで300mg/dl以上、NKHCで600mg/dl以上であり、NKHCの方が血糖上昇が激しい。血中、尿中のケトン体はDKAで著明に上昇するが、NKHCでは一定しない。血中ケトン体は正常ではアセト酢酸が主体だが、DKAではβヒドロキシ酪酸(β-OHBA)が主体となる。DKAでは動脈血pH、HCO3が低下するが、NKHCでは低下しないか、低下するにしても軽度である。DKAでは血中アミラーゼ上昇を見ることがあり、腹痛と相まって急性膵炎と誤診されることがある。電解質(特にK)は全体としては大量に喪失しているが(表1)、脱水の程度、細胞内移行等により血中レベルは必ずしも喪失の程度を反映しない。NKHCでは血中Naの上昇が著しい。脱水を反映してBUN, Crが上昇する。

高血糖昏睡時の電解質喪失量


診断:

意識障害患者で高血糖を確認することが診断のきっかけとなる。受診歴のない未治療糖尿病患者やペットボトル症候群、医原性のものでは昏睡の原因が高血糖であることが見逃されることもあり、昏睡や意識障害の患者を診たら血糖チェックは必ず一度は行うべきである。脱水所見、呼気アセトン臭やKussmaul大呼吸等の特徴的所見にも注意する。尿検査では、一部の尿ケトン試験紙(アセト酢酸を検出する)ではβ-OHBAは検出できない点、大量の尿中ケトンが尿糖試験紙の反応を阻害することがある点に注意すべきである。血中ケトンの測定も可能であり、血中β-OHBAを直接測定できる。意識障害は高血糖、高浸透圧、脱水、アシドーシス、電解質異常が総合的に作用して起こるので、個々のデータ異常の程度とは必ずしも比例しない。高血糖からDKAやNKHCを疑い、高浸透圧、ケトアシドーシスなどの所見を押さえてゆけば診断は難しくはないが、誘因となった感染症や外傷、心筋梗塞等の基礎疾患を見逃さないように注意が必要である。

治療:

DKAとNKHCで治療法は基本的には共通点が多く、ポイントとなるのは十分な補液による脱水の補正、インスリン投与、血糖値のコントロール、pHのコントロール、電解質補正、その他の支持療法などである1)。以下項目別に記述する

脱水補正:

末梢静脈点滴靜注で最初の1時間で1000ml輸液するのが基本である。これは通常の末梢静脈点滴セットを全開にした際の輸液速度にほぼ相当する。血管内ボリュームを補正し、急激な浸透圧降下(脳浮腫を起こす危険がある)を避けるために、最初の輸液内容としては生理食塩水が適している。いわゆるhalf salineはそのままの形では市販されておらず、緊急時にわざわざ自製するのは非現実的であるのみならず、上に挙げたボリューム補正、浸透圧降下の点からも生理食塩水に勝る利点はないと思われる。

重症腎不全を伴う無尿の状況ではカリウム(K)を含まない輸液で開始すべきであるが、後述するように治療に伴い血中Kは急激に下がりうるので、輸液内容にKを加えるタイミングを逸してはならない。輸液量が大量であり、輸液量を決める目安としてCVPを測れる利点もあるので、中心静脈ラインをとっておくことが望ましい。

最初の1時間以降の輸液速度は、心機能、肺の状態、CVPなどのパラメーターを参考にして調節することになるが、高齢者のNKHCでは高度の脱水と共に心機能が低下していることもあり、心不全を回避しつつ脱水を補正するため各パラメーターをこまめにチェックすることが重要である。

NKHCの治療では血糖管理よりもむしろ輸液管理の成否が治療の結果を左右する。最初の1時間で1000ml,次の2時間で1000ml,その次の3時間で500ml。24時間で喪失水分量の半分を輸液する、というのが輸液量の一つの例である。

インスリン投与:

速効型インスリンを輸液ライン側管より持続的に注入する。一例として、治療開始時に5〜10単位靜注、次いで生理食塩水に溶解したインスリンを毎時5単位持続投与を基本としている。輸液チューブの内壁にインスリンが付着するとされているが、最初に回路をフラッシュしてwash outすれば実用上問題はない。投与量を調節する際の目安は血糖値とケトーシスの程度である。NKHCでは主に血糖値の低下度を指標としてインスリン投与量を調節してよいが、DKAではむしろケトーシスの程度が重要である。血糖の過度の降下をグルコース投与で防ぎつつ、ケトーシスが消失するまで十分にインスリンを投与する必要がある。

血糖コントロール:

初期治療では血糖を250〜300mg/dl以下に下げてはならない。持続した極度の高血糖に引き続く急激な血糖低下・正常化によって脳浮腫が発生する危険がある。血糖、アシドーシスが改善しても意識状態の改善がない場合、脳浮腫を疑う。血糖の過度の降下を防ぐために血糖値が300以下になったら輸液内容に5%程度のグルコースを加える。NKHCではこれとともにインスリン投与量を減らしても良いが、DKAではインスリン投与量の減少は容易にケトーシスの悪化を招くので、血糖改善のみを理由としてインスリン投与量を減らしてはならない。

pHのコントロール:

単純な糖尿病性ケトアシドーシスならば、pHはインスリン投与によりコントロールされる筈である。pH>7.0であれば重炭酸ナトリウムは原則として投与しない。重炭酸ナトリウム投与には浸透圧負荷、酸素乖離曲線の左方変移、中枢神経系のparadoxical acidosis などの不利益があるからである。pH<7.0の場合、50mEq程度のメイロンを投与することもあるが、このような場合(特にアシドーシスの程度がケトーシスの程度だけでは説明できない場合)は乳酸アシドーシスの合併が疑われ、重炭酸ナトリウム投与とともに有効な組織循環を保つことが重要である。

電解質補正

高血糖性昏睡では、受診までに体外に大量の電解質が失われていることが多い。


治療上問題になるのはKとPである。血中K値はアシドーシスによる影響、インスリン作用欠乏による細胞内への取り込み低下、腎不全等により上昇するので、大量の体外喪失にもかかわらず受診時には血中濃度が必ずしも低値を示さず、治療に伴い急速に低下することが多い。血中K値を頻回にチェックし、毎時25mEqを最大として適宜補正しなければならない。血中K低下を放置すると横紋筋融解の原因となりうる。

その他の支持療法:

DKAでは感染症が誘因となっていることがしばしばある。一方では、明らかな発熱が見られなかったり、脱水状態のためX線写真での肺炎の所見が出にくい等の理由で感染症が見逃されることがある。身体所見から感染症の存在を確実に診断するのが困難な場合でも、抗生剤投与は積極的に行うのがよい。 NKHCでは痙攣を見ることがあるが、これに対してはアレビアチン(フェニトイン)ではなくセルシン(ジアゼパム)を用いる。 DIC予防のためヘパリン投与(一日5000〜10000U)する。

乳酸アシドーシス(LA)

 ショックなど、重度の循環不全状態で、組織循環障害のため嫌気性代謝が亢進し乳酸が蓄積して起こる代謝性アシドーシスである。基本的に全身状態の悪い患者に起こるものなので、迅速的確に対処しないと致死的である。ケトン体上昇がなく、アニオンギャップ(AG)が著明に上昇するのが特徴である他はDKAの症状と類似する。DKAでケトン体上昇だけでは説明できない強いアシドーシスがありAGが上昇している場合は、LAの併発が疑われる。治療は何よりも循環動態の保持が中心となり、またpH補正のため重炭酸ナトリウムを積極的に用いるが、他は基本的には上記のDKA,NKHCと異ならない。

低血糖性昏睡

 ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源であり、血液中のブドウ糖濃度の低下(低血糖)は重大な中枢神経障害や、生命の危険をもたらしうる。このような事態を回避するため、血糖値が重大な中枢神経障害が生じるレベルまで低下する以前に、様々な自律神経症状(警告症状)が出現する。警告症状により、血糖が低下しつつあることが自覚され、摂食などの行動により致命的な低血糖が回避される。しかし、インスリン治療中の糖尿病患者などが、低血糖に何回かさらされると、血糖低下に対する自律神経の反応が低下し、警告症状の出現がないまま、意識消失などの重大な低血糖症状に至ることがある。本人にとって突然の意識消失として現れるこのような無自覚性低血糖は、生命の危険、QOLの低下、また、車の運転中などに起こった場合は他者への危険性も伴い、糖尿病治療上重大な問題となりうる。低血糖に対する自律神経の反応の障害の原因は先行する低血糖であることが知られており、的確な血糖コントロールによって一定期間低血糖を避けることで、低血糖に対する自律神経の反応は回復する。近年実用化された、超速効型インスリン、持効型インスリンを適切に用いることにより、低血糖の回避と良好な血糖コントロールを両立させることは、以前ほどは困難ではなくなっている。

低血糖時の生体の反応(健常人の場合)2)


 血糖の低下に伴い、膵臓ランゲルハンス氏島からのインスリン分泌は低下し、グルカゴン分泌は増加する。グルカゴンは、低血糖に対して血糖を上昇させるように働く拮抗ホルモンの主役であり、血糖値が65mg/dl(概略)程度に低下すると、分泌が刺激される。エピネフリン、ノルエピネフリン、成長ホルモンも同レベルの血糖で分泌が刺激される。空腹感・あくびなどの副交感神経症状が現れることもある。血糖値が55mg/dl(概略)程度に低下すると、コルチゾールの分泌が刺激される。動悸・手足のふるえ・冷や汗、空腹感などの交感神経症状も出現する。血糖値が45mg/dl(概略)程度に低下すると、集中力の低下・疲労感・眠気等の中枢神経症状が起こる。更に血糖が低下し遷延した場合、異常行動・意識消失・不可逆な中枢神経障害、さらには死亡がもたらされる危険がある。

なぜ低血糖になるのか3)


 低血糖の鑑別のためのフローチャートを図2に示す。

低血糖の鑑別フローチャート


 臨床上問題となる低血糖の殆どは、インスリンを注射している患者、あるいはインスリン分泌を刺激するスルフォニル尿素薬を服用している患者に起こる。これら患者では外部から機械的に注射された、あるいは薬物により非生理的に分泌された、インスリンが、血中を循環している。このようなインスリンは生理的な内因性インスリンと異なり、血糖が低下しても血中濃度が低下しない。内因性インスリン分泌能が低下した患者ほど、外部からのインスリンに依存する度合いが大きくなり、低血糖を起こす可能性が大きくなる。従って、2型糖尿病患者よりも1型糖尿病患者、さらには同じ1型糖尿病患者でもインスリン分泌が枯渇した者ほど、低血糖を起こしやすい。

 内因性インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病患者では、膵臓ランゲルハンス氏島からのグルカゴン分泌が低下していることが知られている。前述のように、グルカゴンは拮抗ホルモンの主体であり、グルカゴン分泌低下は低血糖に直結する。低血糖に対するエピネフリンの上昇反応も1型糖尿病患者では低下しているとされ、これも低血糖を起こしやすくする要因である。

なぜ低血糖になるのか


低血糖の診断


 内服治療やインスリン注射をしている糖尿病患者で、空腹時や薬剤を誤って過量に使用した時などに、上に述べた血糖低下時の症状が起こった場合、低血糖であると診断するのはさして困難ではない。多くの場合、患者が自ら補食する事で意識障害などの重篤な状態に陥ることが回避されるが、無自覚低血糖などで突然の中枢神経症状を呈した患者が救急受診した場合、その患者が糖尿病治療中であるとの情報がないと、他の原因による意識障害との鑑別が必要になり、低血糖に対する治療が遅れることがある。低血糖による昏睡は、痛覚刺激に対しても反応しないほどの深昏睡となる場合もあり、処置が遅れた場合生命の危険も伴うが、ブドウ糖投与により確実に治療できるので、意識障害患者の診察に当たっては必ず血糖値を測定するべきである。

低血糖の治療


 本人に意識があり、経口摂取が可能であれば、ブドウ糖やショ糖(10グラム程度)の摂取により、血糖値を上昇させることができる。血糖コントロールのためにαグルコシダーゼ阻害薬を服用している患者では、ショ糖の体内への吸収が遅延する可能性があり、低血糖時にはショ糖(二糖)ではなくブドウ糖(単糖)を服用するよう、指導する。

 本人に意識がない場合、経静脈的にブドウ糖液(50%ブドウ糖液20ml)を投与する。ブドウ糖投与は低血糖性昏睡に対する必須の治療であり、他の原因による昏睡であったとしてもブドウ糖投与が悪影響をもたらすことは殆ど考えられないので、低血糖性昏睡の可能性がある場合、血糖測定の結果を待たずにブドウ糖投与を行ってよい。

 インスリン注射に伴う低血糖は治療により比較的短時間で回復することが多いが、スルフォニル尿素薬内服による低血糖は、高齢者や腎機能低下時など薬剤の代謝が低下している場合、数日間に及び遷延することがある。初期治療で一旦回復した血糖が再び低下しないよう、注意が必要である。

無自覚低血糖

 低血糖に対する警告症状の主体は、交感神経刺激症状である。警告症状により、血糖が低下しつつあることが自覚され、摂食などの行動により致命的な低血糖が回避される。しかし、インスリン治療中の糖尿病患者などが、低血糖に何回かさらされると、血糖低下に対する自律神経の反応が低下し、警告症状の出現がないまま、意識消失などの重大な低血糖症状に至ることがある。本人にとって突然の意識消失として現れるこのような無自覚性低血糖は、生命の危険、QOLの低下、また、車の運転中などに起こった場合は他者への危険性も伴い、糖尿病治療上重大な問題となりうる。

 糖尿病患者では慢性合併症としての自律神経障害が生じるが、無自覚性低血糖の原因となる交感神経の低血糖への反応性の低下は、糖尿病の慢性合併症と言うよりは、低血糖自体による交感神経系の異常(Hypoglycemia-associated autonomic failure)であることが明らかになっている。このことを端的に示すのが、数週間にわたり適切な血糖管理によって低血糖を回避することにより、低血糖への反応性が回復する(無自覚性低血糖が生じなくなる)、と言う事実である4)。
 低血糖により、交感神経系の低血糖への反応性が低下する原因については、未だ不明な点が多い。低血糖により脳血流関門に存在するGLUT-1の発現が上昇し、通常であれば脳内のブドウ糖濃度が低下するような低血糖の際にも脳内ブドウ糖濃度が保たれ、低血糖の自覚が遅れる、との仮説があるが、低血糖時のGLUT-1の発現については様々な報告があり、一定しない。脳内ブドウ糖濃度の変化が無自覚性低血糖の出現に寄与している可能性はあるが、その原因はGLUT-1の発現の変化だけではなさそうである。

無自覚性低血糖の頻度


 報告により数値は異なるものの、1型糖尿病患者の25%-50%は無自覚性低血糖を経験している5)。2型糖尿病患者においても、約70%が低血糖を経験し、このうちの8%は無自覚性であったとの報告がある6)。低血糖の出現は、糖尿病歴が長く、インスリン注射をしており、HbA1cが低いものほど、高頻度であった。

無自覚性低血糖への対策


 低血糖自体による交感神経系の異常が更に無自覚低血糖を引き起こす悪循環を是正し、無自覚性低血糖を予防するためには、低血糖が出現しないよう、治療計画全体を見直すことが重要である。例を挙げれば;

*自己血糖測定による血糖変動パターンの把握。

*食事・運動の時刻や内容についての的確な問診。

*上記内容をふまえた、適切な補食摂取、インスリン量の調整。

*24時間を通して一定の作用を発揮し、特定の時間に作用のピークが出現することのない持効型インスリンや、吸収が速く、作用が遷延することのない超速効型インスリンの使用。

 このような治療の見直しにより、2-3週間低血糖を回避することで、低血糖に対する警告症状が回復する。血糖自己測定機器の普及や、持効型や超速効型などの新しいインスリン製剤の実用化により、低血糖を回避しつつ良好な血糖コントロールを実現することは、現実的な治療目標となっている。
 

付記:無自覚性低血糖と運転免許

 
 2002年6月より、道路交通法令の改正により、無自覚性の低血糖が、「免許を与えない者もしくは保留することができる者」として扱われるようになった。警察庁の見解として、「自ら結果回避ができない場合には、交通の安全の見地から、免許を付与することはできない」、とされているが、一方で、「運転中のみ、糖分の摂取等により血糖値を高めにコントロールでき、低血糖による意識障害を回避できるのであれば、免許の取得を可能とする」、ともされている。低血糖を起こす可能性があり、車の運転に従事することのある患者に対しては、事前の補食等により、運転中の低血糖を確実に回避できるよう指導することが重要である。業務として運転に従事するタクシードライバー、旅客・運送会社の運転士などが、インスリン注射を導入したことにより職場配置転換を強いられる場合もあるので、患者の社会的背景にも配慮した指導が必要である。

参考文献

1)林 周兵,林 道夫.糖尿病患者の輸液療法.メディカルプラクティス 2006;23:325-328

2)Service FJ. Hypoglycemic disorders. N Engl J Med.1995;332:1144-52.

3)Cryer PE. Diverse causes of hypoglycemia-associated autonomic failure in diabetes. N Engl J Med.2004;350:2272-9.

4)Fanelli CG, Epifano L, Rambotti AM, et al. Meticulous prevention of hypoglycemia normalizes the glycemic thresholds and magnitude of most of neuroendocrine responses to, symptoms of, and cognitive function during hypoglycemia in intensively treated patients with short-term IDDM. Diabetes. Vol. 42, 1993:1683-9.

5)Gomis R, Esmatjes E. Asymptomatic hypoglycaemia: identification and impact. Diabetes Metab Res Rev. Vol. 20 Suppl 2, 2004:S47-9.

6)Henderson JN, Allen KV, Deary IJ, Frier BM. Hypoglycaemia in insulin-treated Type 2 diabetes: frequency, symptoms and impaired awareness. Diabet Med. Vol. 20, 2003:1016-21.

(MyMedより)推薦図書

1) 堀正二・菅野健太郎・門脇孝・乾賢一・林昌洋 編集, 高久史麿 監修:治療薬ハンドブック2010 薬剤選択と処方のポイント,じほう 2010

2) 日本糖尿病学会 編集:糖尿病治療ガイド〈2008‐2009〉,文光堂 2008

3) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 著:高血圧治療ガイドライン2009,ライフ・サイエンス出版 2009

4) 日本糖尿病学会 編集:糖尿病専門医研修ガイドブック―日本糖尿病学会専門医取得のための研修必携ガイド,診断と治療社 改訂第4版 2009

5) 弘世 貴久 著:これなら簡単 今すぐできる外来インスリン導入,メディカルレビュー社 2007

6) 岡本卓 著:糖尿病最新療法―インスリン注射も食事制限もいらない,角川SSコミュニケーションズ 2009

7) 牧田善二 著:糖尿病専門医にまかせなさい,文藝春秋 2009

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