直腸肛門奇形 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

直腸肛門奇形(ちょくちょうこうもんきけい)

anorectal malformation

別名: 鎖肛 | 肛門異常 | 先天性消化管奇形

執筆者: 工藤 寿美

概要

 生まれつきおしりの穴がない病気を肛門が閉鎖しているという意味で鎖肛という。鎖肛にはおしりの穴があっても正常な位置とずれている場合や狭窄している場合も含まれる。また表面上の異常も大切であるが、体の中にどのような異常を伴っているかということも大切である。このように直腸から肛門までの様々な奇形を総称して直腸肛門奇形という。出生10,000人に2.0~2.5人という頻度でみられる先天性疾患であり、男女比は57%対43%でやや男児に多くみられる。
 

病因

尿直腸中隔説

古典的な直腸肛門発生の考え方:尿直腸中隔の下降説

  胎生初期には泌尿器系の原基であるallantoic ductは後腸の末端と交通し総排泄腔cloacaを形成し、cloacal membraneにより外界と境されている。総排泄腔は体制5~8週に尿直腸中隔urorectal septumの尾側への発育により、腹側の尿生殖洞urogenital sinusと背側の肛門直腸管anorectal canalの2つの腔に分けられ、前者より尿道、膀胱が、後者より直腸が形成される。尿直腸中隔の下降の過程において、2つの腔はcloacal ductとよぶ小孔により交通を有するが、胎生7週頃閉鎖する。一方、cloacal membraneは尿直腸中隔により尿生殖膜urogenital membraneと肛門膜anal membraneに分けられ、尿生殖膜は胎生7週頃に孔があき、肛門膜は胎生8週頃肛門部のproctodermの陥凹とともに穿孔し、直腸肛門管は連続したものとなる。

古典的な鎖肛発症の考え方:尿直腸中隔壁の発育不全説

 鎖肛では、尿直腸中隔の発育不全がcloacal type(尿道、膣および直腸が一孔に合流する病型)となり、cloacal ductの遺残は直腸肛門と尿道との瘻孔による交通(尿道瘻)を形成し、肛門膜の開孔不全は膜様肛門閉鎖あるいは肛門狭窄の病型を形成する。女児ではMullerian ductが胎生6週頃尿直腸中隔を下降するので、直腸が膀胱あるいは尿道と交通することはきわめて稀であり、膣瘻あるいは膣前庭瘻を形成することが多い。

Cloacal Plate説

新しい直腸肛門発生の考え方:Cloacal Plateによる誘導説

 Cloacal PlateによってDorsal Cloaca(総排泄腔の背側部分)がtail grooveへ誘導される。Cloacal Plateの背側部位にアポトーシスがおこり薄くなってCloacal Membraneとなり直腸肛門が体表面に開口する。直腸肛門が正常に発生することによって尿生殖洞から分離される。

新しい鎖肛発症の考え方:Cloacal Plateの背側部位の異常説

 Cloacal Plateの背側部位の異常によりDorsal Cloaca(総排泄腔の背側部分)のtail grooveへの移動が障害され鎖肛が生じる。

病態生理

 直腸がどこまで本来の肛門の近くまでできてきているかによって、高位、中間位、低位という病型に分類される。男児は中間位、高位が多く、女児は低位が多い。約80%の患児に瘻孔という細い管が直腸盲端から直腸前方の臓器に開口している。直腸前方の臓器は性別によって異なるので、男児では、膀胱や尿道、陰嚢や皮膚、女児では膣、前庭、会陰の皮膚などに開口している。また女児では、直腸、膣、尿道が1つに合流している直腸総排泄腔瘻というタイプもある。瘻孔は細く充分な排便は得られないので患児は腸閉塞症状をきたす。適切な処置で排便可能な状態にしないと経口摂取も不可能である。病型に応じて、新生児期に造肛術または人工肛門造設術、あるいは瘻孔ブジーなどを行い排便を確保する。手術によって本来の位置に肛門を形成したあとも肛門ブジ―などのメンテナンスや長期フォローアップが重要である。

 直腸肛門部の筋群は、直腸肛門を支持する肛門挙筋群と、肛門管の括約作用を行う内・外肛門括約筋により構成される。肛門挙筋群は腸骨尾骨筋、恥骨尾骨筋、恥骨直腸筋から成り、恥骨、腸骨、尾骨により作られる骨盤底において、腸骨尾骨筋と恥骨尾骨筋は左右からハンモック状をなし、恥骨直腸筋は馬蹄型をなしている。恥骨直腸筋が収縮すると直腸は前方へ引かれて‘くの字’の屈曲anterior angulationを形成する。これは排便機能において失禁を回避するために極めて重要な役割を果たしている。鎖肛では中間位、高位において外肛門括約筋の発育不全、内肛門括約筋の欠如を伴うことが多く、直腸が通っていないので恥骨直腸筋の発育も悪く前方に短縮している。鎖肛に対する根治術の際には、直腸を恥骨直腸筋の馬蹄型の内側に通して肛門皮膚へ縫合することが重要である。恥骨直腸筋は男児では尿道を女児では膣を取り巻くように存在するので、その剥離および拡張には細心の注意が必要である。

臨床症状

会陰所見:

 本来の肛門の位置には肛門の穴がない。あるいは肛門の位置に異常がある。瘻孔がある場合はそこから胎便が出てくる。会陰や陰囊の皮下に胎便の透見できる索状物があることもある。男児の場合、瘻孔の位置は肛門窩から陰囊、陰茎背面の間、女児の場合、肛門窩から膣前庭までの間のどこにでもありえる。また、肛門が外見的には正常に見えてもその奥の肛門管や直腸に狭窄があるものも直腸肛門奇形の一つである。

身体症状:

 腹部膨満、嘔吐などの腸閉塞症状をきたす。ガスや便によって腸管が拡張し、消化管穿孔をきたすこともある。膀胱や尿道と瘻孔でつながっている場合は、尿中に便が混じる。新生児期には便がゆるいため瘻孔から排便して症状がでなかった場合でも、離乳がすすむと著しい便秘の症状がでてくる。

合併奇形:

 合併奇形の頻度は約40~50%と高く、食道閉鎖、十二指腸閉鎖、心大血管奇形、泌尿生殖器奇形、四肢の奇形、仙骨奇形、ダウン症候群などがある。とくに仙骨奇形がある場合、肛門挙筋群の神経支配異常を呈することがあり、根治術を行っても排便機能が得られないことがある。鎖肛に食道閉鎖、椎骨異常、橈骨欠損あるいは腎奇形を伴うものを特にVATER associationという。

検査成績

[検査]

倒立位X線撮影invertogram(Wangensteen-Rice法)

 外表に瘻孔がない場合、生後12時間以上経過して口から飲み込んだガスが直腸に到達してから倒立位または胸膝位で側面のX線撮影を行い直腸盲端の位置を診断する。肛門窩をバリウムにてマークし、股関節を70°屈曲位とし、左右の坐骨陰影が重なるようにし、直腸盲端の便が空気とおきかわって直腸が十分ふくらんだ状態で撮影する。P-C線(恥骨陰影中央と仙尾関節を結ぶ線)は肛門挙筋群の上端に相当し、I線(坐骨下端を通りP-C線に平行な線)は肛門挙筋群の下端に相当する。

鎖肛の病型診断

 高位:直腸盲端がm線より口側
中間位:直腸盲端がI線とm線(P-C線とI線の中間で両者に平行な線)の間
低位:直腸盲端がI線より肛門側

瘻孔造影

 外表に瘻孔がある場合、造影剤を使って瘻孔および直腸盲端を描出し病型診断をする。

注腸造影、尿道造影

 人工肛門造設後、人工肛門から造影剤を用いて直腸盲端および瘻孔を描出する。尿道造影を同時に行って病型診断をする。

膀胱造影

 泌尿器奇形、膀胱尿管逆流、神経因性膀胱、瘻孔などをみる。

診断・鑑別診断

直腸肛門奇形の国際分類

治療

 手術によって本来の位置に肛門を造る。低位では新生児期に根治術、または瘻孔ブジ―で少し待機し離乳が進む前に根治する。中間位、高位では新生児期には人工肛門造設術を行い、骨盤の発育を待って乳児期に根治術を行う。その後肛門ブジ―が落ち着いたら人工肛門閉鎖術を行い初めて肛門から排便できるようになる。

低位:

会陰式肛門形成術
cut back(カットバック)手術
瘻孔ブジ―  →anal transplantation(Potts法)
           anterior sagittal anorectoplasty(ASARP)

中間位:

人工肛門造設術→仙骨会陰式肛門形成術→人工肛門閉鎖術

高位:

人工肛門造設術→腹(仙骨)会陰式肛門形成術 (Pena法)→人工肛門閉鎖術
            腹腔鏡補助下肛門形成術

予後

 排便機能の臨床的評価法にはKellyのスコアが広く用いられている。Continenceは便失禁の程度、Soilingは便による下着の汚染の程度、Sphincter squeezeは直腸指診による肛門管の収縮の強さの程度である。



 また日本小児外科学会の直腸肛門奇形研究会では以下のような評価法を用いている。



 排便機能の客観的評価法としては直腸肛門内圧検査がある。肛門管静止圧は周囲を取り囲んでいる肛門括約筋の圧を安静時に計測したものである。直腸肛門弛緩反射は便の代わりにバルーンを空気で膨らませて直腸を刺激したときに肛門が弛緩する反射がでるかどうかをみる。肛門管随意収縮圧は自分の意思で肛門を絞めつける強さを測定する。ゲームができる年齢になれば患児が遊びながら随意収縮の訓練をすることもできる。

 鎖肛根治術後の排便機能は病型によって異なる。低位および中間位の場合、恥骨直腸筋、肛門括約筋の発達が良いため約80%に良好な排便機能を認める。高位でも、恥骨直腸筋の馬蹄型の内側を通す手術を行うようになってからは重症の便失禁はみられなくなってきた。しかし恥骨直腸筋や肛門括約筋の発育不全による便失禁、下着の汚染などは高位型に多く認める。失禁には便秘が重症化してoverflowになるためにおこるもの、心身の成長とともに改善してくるもの、肛門括約筋の発育不全や神経障害によるもので改善が期待できないもの、などがある。術後早期から便秘を予防し排便訓練を行い、程度に応じて内科的にもさまざまな対処を行い、外科的には肛門括約筋不全に対する補強手術や順行性洗腸用ストマ造設などを行うこともある。

 鎖肛根治術によって造られた肛門は全周性に縫合されている。手術創は瘢痕となって治癒するが、鎖肛の場合の創は輪であり排便時以外は縮んでいる。乳児期の便は無形なので多少肛門が狭くても排便できるが、術後何もしないで放置すると造った肛門が縮んだまま固くなってしまい肛門狭窄をきたす。全周性の瘢痕狭窄のためこれを再度適切な径にまで広げることは非常に大変である。そこで肛門狭窄をきたさないよう、術後は肛門ブジ―を行うことが必要であり、少なくとも便性が有形普通便になり排便によって肛門を適切な径に広げることができるようになるまで主たる保育者に毎日行ってもらう。

 直腸の拡張と便意の有無は重要である。低位鎖肛術後は直腸が拡張していて便秘に陥りやすいので注意が必要である。高位鎖肛では術後ある程度の年齢になり便意を獲得して便を貯めないで管理できるようになるまでは油断禁物である。便秘を放置すると直腸が拡張してしまい、overflow型の失禁や便の排出困難にて摘便や洗腸などの処置が必要になったりする。便意の獲得のためにも、浣腸や座薬を使用しながら直腸を拡張させないように排便管理をすることが重要である。

 直腸を引き下ろして肛門のない皮膚に切開を置いて縫合した肛門には本来の肛門管はない。直腸粘膜が直接皮膚に連続するので、粘膜が余剰になると肛門からはみだしてくる。この粘膜脱があると下着とこすれて出血したり、下着の汚染の原因になったりすることがある。程度に応じて手術による治療を検討する。

最近の動向

 鎖肛の病因に関しては、動物を用いた発生の研究やいくつかの関連する遺伝子が報告されているが、まだ全容の解明には至っていない。単一遺伝子病(いわゆる遺伝病)ではなく多因子遺伝病(高血圧や糖尿病などと同様)と考えられており、今後の遺伝子工学の発展とともに解明も進むことが期待される。

参考文献

1) Anorectal Malformations in Children:A.M.Holschneider, J.M.Hutson Editors:Springer
2) 鈴木宏志・横山穣太郎・岡田正 編集:標準小児外科学,医学書院

(MyMedより)推薦図書

1) 岡田正 著:系統小児外科学,永井書店 2005

2) 日本小児整形外科学会教育研修委員会 編集:小児整形外科テキスト,メジカルビュー社 2004

3) 日本小児整形外科学会教育研修委員会 編集:小児整形外科手術テクニック,メジカルビュー社 2007

4) 山高篤行・下高原昭廣 編集:小児外科看護の知識と実際 (臨床ナースのためのBasic&Standard),メディカ出版 2010
 

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