前立腺癌 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.11.01

前立腺癌(ぜんりつせんがん)

prostate cancer

別名: 前立腺がん | 前立腺ガン

執筆者: 福原 浩

概要

 前立腺癌は骨転移を来しやすく、難治性の癌という印象であったが、近年は前立腺特異抗原(PSA)検診を受ける人が増加し、早期に発見される例が増えている。また、発症が高齢な方に多く、他の悪性腫瘍よりも進行が比較的緩徐なため、根治的前立腺摘除術という手術療法以外にもホルモン療法などの治療の選択肢が多い。治療法の決定には、患者の平均余命と治療による生命予後の延長との比較、QOLを加味した生存期間についての考慮が必要である。

病因

 前立腺癌の原因として、がん遺伝子、がん抑制遺伝子、アンドロゲンレセプターの異常など分子生物学的なアプローチから種々の知見は得られているが、まだ詳しくは解明されていない。食事に関しては、脂肪摂取が悪影響を及ぼしており、緑黄色野菜等の繊維成分を含む食品が発生頻度を減らすことが示唆されている。ただ、効果的な予防法は未だ提示されていない。

病態生理

 前立腺は精液の一部をつくる臓器で、前立腺癌はその前立腺に発生する癌である。前立腺癌罹患率は世界の中での地域差が大きく、特に米国では、男性の悪性腫瘍の罹患率の第1位である。我が国でも罹患患者数は年々増加し、2001年現在、新規年間罹患数は2万3548人である。将来、肺癌に次いで男性癌の2番目になると予測されている。

臨床症状

 前立腺癌の症状は、排尿障害を有するという意味で、前立腺肥大症とよく似ている。つまり、排尿困難、残尿感、頻尿などだが、他に肉眼的血尿や、骨転移に伴う腰痛などを主訴とする場合もある。ただ、近年はPSAの普及もあり、無症状の場合も多くなっている。また、症状が似ているためよく誤解されているが、前立腺肥大症から前立腺癌に移行することはない。

検査成績

 PSAは前立腺癌の存在を鋭敏に検出できる優れた腫瘍マーカーであるが、前立腺癌だけでなく、前立腺肥大症、前立腺炎などでも異常値を示す。Tandem-Rの測定キットでPSAが4.0 ng/ml以上の場合や直腸診で硬結部位を触知する場合は泌尿器科医を受診することが推奨される。

診断・鑑別診断

 前立腺癌の確定診断は、前立腺針生検による病理組織結果にて行う。前立腺針生検には、経直腸的に行う場合と経会陰的に穿刺する場合とがある。麻酔法は全身麻酔、腰椎麻酔、仙骨麻酔、鎮痛薬投与のみと施設によって異なるが、検査時間は10-20分程度である。病理結果にて前立腺癌と診断されれば、周囲組織への浸潤の有無、リンパ節転移の有無などをCT、MRI検査で調べ、さらに、前立腺癌の転移部位として最も頻度の高い骨転移を調べるため、骨シンチを行う。

治療

 前立腺癌は男性ホルモン依存性と言われており、男性ホルモンの作用を抑えることは前立腺癌の進行状態を問わず有効である。男性ホルモンは、下垂体から分泌されるLH-RHホルモンの影響下にあり、95%は精巣から、残り5%は副腎由来といわれている。



ホルモン療法には大きく分けて2種類あり、ひとつは男性ホルモンを抑制する方法、もう一つとして男性ホルモン量は維持したままで前立腺に作用しないようにする方法が挙げられる。男性ホルモンを抑制する方法も2種類あり、陰嚢部に切開を入れ両側の精巣を摘出する外科的治療法(去勢術)と、下垂体に作用して男性ホルモンを低下させる注射薬(LH-RHアナログ)を1ヶ月または3ヶ月ごとに皮下注射する方法とがある。いずれの方法も治療効果には差を認めない。



もう一つの、男性ホルモンが前立腺に作用しないようにする方法として数種類の内服薬が普及している。その中には、男性ホルモンの作用を抑えるだけでなく前立腺癌へ直接作用して増殖を抑える女性ホルモン剤もある。これらのホルモン療法は単独で行うだけでなく、違った作用機序のものを併用することもよく行われている。ホルモン療法の副作用として、男性ホルモンのバランスが崩れるため、女性の更年期症状に似た症状が出現することがある。特に、発汗過多、乳房の軽度腫脹はよく見られる副作用である。



ホルモン療法は一般には体への負担が少なく、極めて有効な治療である。ただ、平均5年(2年〜10年)で効果がなくなることが問題点として挙げられる。そのため、明らかな転移がない場合は、下記の諸治療が推奨されている。



根治的な治療法としては大きく分けて、手術療法と放射線療法とがある。手術療法では、根治的前立腺摘除術が行われる。これは、恥骨の裏側にある前立腺・精嚢を膀胱と尿道から切り離し、新たに膀胱と尿道を吻合する方法である。一般的には、下腹部を切開する恥骨後式前立腺全摘除術が最もよく施行されている。手術時間は約3-4時間、出血量は平均400-800ccで、術後約2週間で退院となる。合併症として主なものに、尿失禁、インポテンス、尿道狭窄が挙げられる。癌の部位によっては、術後のインポテンスを避けるため、勃起神経温存術が可能なこともある。他の術式として経会陰式前立腺全摘除術が行われており、最近では、腹腔鏡下に前立腺を摘出する腹腔鏡下根治的前立腺摘除術を行う施設が増えてきている。



放射線療法として一般的なものは外照射法であり、5年生存率は手術療法と同等と言われている。人体への極度の負担がないため、重篤な持病を持った患者、高齢の患者にはよい適応となる。ただ、治療期間に5週間から6週間かかり、副作用として、排尿痛、頻尿、下痢、血便が出現することがある。この他に、小さな放射性物質を前立腺内に直接埋め込む小線源療法(ブラキ療法)や発生させた超音波で癌を焼灼させる高密度焦点式超音波療法(HIFU)を行う施設が増えてきており、これらは入院期間が短期間で済む方法である。他にも重粒子線を使用する方法があり、一部の施設で行われている。

予後

 前立腺癌の予後は、全身状態、年齢、病期、分化度などにより決まる。臨床病期A,Bでは、5年生存率がそれぞれ90-100%、80-90%と良好である(表1)。病期C,Dでは、分化度により異なり、高分化腺癌では病期Cで90%、病期Dで80%であるが、低分化腺癌では病期Cで40%、病期Dで20-30%と低い。手術療法や放射線療法の根治的治療を行った場合は、定期的なPSAによるフォローアップのみでよく、再発した場合でもホルモン療法が有効である。さらに、1種類のホルモン療法が効かなくなった場合も違った種類のホルモン療法が効くこともあり、様々な組み合わせを試みることが重要である。

最近の動向

 抗がん剤治療は一般には無効とされていたが、海外で効果が認められた薬剤ドセタキセル(商品名タキソテール)が出現している。我が国では保険適応の抗がん剤はないのが現状であるが、一部の施設では投与が開始されている。

参考文献

1) Marugame T, Matsuda T, Kamo K, Katanoda K, Ajiki W, Sobue T and the Japan Cancer Surveillance Research Group: Cancer Incidence and Incidence Rates in Japan in 2001 based on the Data from 10 Population-based Cancer Registries. Jpn. J. Clin. Oncol. 37: 884-891, 2007



2) 大野ゆう子・他:日本のがん罹患の将来設計、大島明、黒石哲生、田島和雄、編:がん/統計白書—罹患/死亡/予後−2004、pp201-217、篠原出版新社、2004



3) 日本泌尿器科学会 日本病理学会編:前立腺癌取扱い規約【第3版】、金原出版、東京、2001

(MyMedより)推薦図書

1) 日本泌尿器科学会 編集:前立腺癌診療ガイドライン〈2006年版〉,金原出版 2006

2) 加藤 晴明 著:イラストレイテッド泌尿器科手術―図脳で覚える術式とチェックポイント,医学書院 2007

3) 村石修 著、福井次矢 編集:前立腺がん―正しい治療がわかる本 (EBMシリーズ),法研 2008
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: