小児の臓器移植 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.02

小児の臓器移植(しょうにのぞうきいしょく)

執筆者: 水田 耕一

概要


病因


病態生理


臨床症状


検査成績


診断・鑑別診断


治療


予後


最近の動向


脳死移植と生体移植

 1997年10月に臓器移植法が施行され、日本でも脳死での臓器提供による移植が可能になった。しかしながら、1999年2月に第1例目の脳死提供以来、2008年12月までの脳死臓器提供は76例であり、その内20歳未満の小児に対する脳死移植は、肝移植12例、腎移植5例、心移植3例、肺移植3例、小腸移植1例に過ぎない。現在、本邦においては、肝移植の97%、腎移植の85%が生体移植で占めているのが現状である。以下、小児実質臓器移植について概説する。

肝移植

 本邦における生体肝移植は年間約500例が行われ、その内、18才未満の小児例は約120例である。小児肝移植の適応となる疾患は、胆道閉鎖症やアラジール症候群などの胆汁うっ滞性疾患、劇症肝不全、先天性代謝性疾患では、オルニチントランスカルバミナーゼ欠損症やシトルシン血症などの尿素サイクル異常症、銅代謝異常のWilson病、アミノ酸代謝異常のチロシン血症や有機酸代謝異常のメチルマロン酸血症やピルビン酸血症など多岐に渡る。また、小児の原発性肝腫瘍の肝芽腫や、稀な血管性病変である先天性門脈欠損症も肝移植の適応となる(表1)。生体肝移植の術式は、レシピエント(臓器受容者)の肝全摘後に、グラフト肝としてドナー(臓器提供者)から摘出した肝臓の一部(左葉、または外側区域)の肝静脈、門脈、肝動脈を、レシピエントの肝静脈、門脈、肝動脈とそれぞれ吻合する。胆道再建は、グラフト胆管とレシピエント空腸との吻合で再建する。レシピエントが乳児症例の場合、グラフト血管のサイズと、レシピエント血管のサイズに口径差があるため、レシピエント血管を広く形成するなどの工夫が必要である。本邦での小児肝移植の成績は1年生存率87%、5年生存率84%と良好であるが、適応となる原疾患や、個々の術前状態により異なっている1)。小児肝移植後のグラフト喪失の原因は、肝静脈狭窄、肝動脈血栓、慢性拒絶反応などであり、患者死亡の死因は、消化管穿孔、日和見感染症、現疾患(劇症肝炎)の再発などが挙げられる。サイトメガロウイルス(CMV)、Epstein-Barrウイルス(EBV)、ニューモシスチス肺炎(PCP)などの日和見感染症対策としては、CMVアンチゲネミア法、EBVリアルタイムPCR法、βDグルカンなどによるウイルスや真菌のモニタリングによる早期診断が重要である。

腎移植

 腎移植の適応となる疾患は、巣状糸球体硬化症(FSGS)、低形成腎、多嚢胞腎などの腎尿路疾患による末期腎不全患者である。多くの場合、腹膜透析や血液透析の施行歴があるが、透析を経験するよりも経験しない方が移植後の生着率や生存率が良好であることから、透析を導入せずに腎移植を受けるケース(先行的腎移植)が近年増加しつつある。術式は成人腎移植と同様の後腹膜アプローチで、腎動脈と内腸骨動脈または外腸骨動脈の吻合、腎静脈と外腸骨静脈の吻合、尿管膀胱吻合を行い、腸骨窩へ腎臓を移植する。低年齢、低体重例の場合は、腹腔内へ腎臓を移植し、腎動静脈は腹部大動脈、下大静脈とそれぞれ吻合する。術後の免疫抑制剤は、バシリキシマム、タクロリムス、またはシクロスポリン、メチルプレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチルの4剤で導入され、小児の場合は成長障害を避けるべく、ステロイド剤(メチルプレドニゾロン)の早期離脱が推奨されている。術後早期では、肝移植同様にCMV、EBV、真菌などの日和見感染症への対策が重要である。移植成績は、1999年以降のグラフト腎生着率では、生体腎移植が1年生着率96%、5年生着率90%、献腎移植では、1年生着率88%、5年生着率79%と生体腎移植の方が良好な成績となっている2)。グラフト腎喪失の原因としては、血液型不適合や抗HLA抗体による超急性拒絶反応や、現疾患(FSGS)の再発などである。

小腸移植

 小児の小腸移植は、腹壁破裂や新生児壊死性腸炎などによる大量小腸切除後の短腸症候群のうち、中心静脈カテーテルに起因する感染症や血栓症を繰り返し点滴ルートが確保できなくなった症例や、高カロリー輸液のために高度の肝障害が出現し、高カロリー輸液を続けられない症例が適応となる。小腸移植は、移植後の拒絶反応が強く、移植後の感染症も細菌性の敗血症や免疫抑制下の日和見感染症が容易に引き起こされるため、移植後の成績は他の臓器移植に比べ成績が不良であり、海外での約1600例の累積生存率は56%となっている。しかし近年、免疫抑制療法の進歩や管理法の進歩により、その成績は徐々に改善し、最近では1年生存率80%と報告されている3)。本邦では2008年12月まで4例の脳死小腸移植が行われているが、18歳未満の小児への脳死移植は1例であり、その1例も移植8ヶ月後に敗血症で死亡した。一方、生体小腸移植は、2008年6月まで11例が行われ生存率は64%であり、年少児で肝障害を合併している症例の予後が不良とされる。本邦においては今後も生体部分小腸移植が中心になっていく可能性が高く、その場合は、グラフトとしての小腸の長さに限界があることや、小児の脳死移植で多く用いられる肝小腸同時移植が不可能であるため、小腸移植の適応とタイミングの決定が重要になる。近年は、短腸症候群における治療を、経腸栄養、経静脈栄養による管理から、小腸移植まで包括的・総合的にプログラムするIntestinal Rehabilitation Programという概念が提唱され実施されている3)

肺移植

 本邦における肺移植は、1998年に生体肺移植が、2003年に脳死肺移植が実施されて以降、2007年12月までに、生体肺移植は66例、脳死肺移植は39例(20才未満1例)が行われている4)。主な適応疾患は、原発性肺高血圧症、特発性間質性肺炎、肺リンパ脈管筋腫症、閉塞性細気管支炎などである。欧米における小児例では、嚢胞性線維症や原発性肺高血圧などが多くを占める。生体肺移植の術式は、レシピエントの両肺を全摘し、健康な二人の成人ドナーから右下葉と、左下葉を摘出し、それぞれをレシピエントの右肺、左肺として移植する。生存率は、生体肺移植の5年生存率が77%、脳死肺移植の5年生存率が57%と、世界平均の50%を上回っているが、他の臓器移植に比べると未だ劣っているのが現状である。肺は他の臓器と比べて拒絶反応が強いことや、外気と交通している臓器であるため感染症の頻度が高いことなどが原因とされている。本邦でも、感染症による死亡が脳死肺移植の20%、生体肺移植の40%を占めている4)

心移植

 本邦での脳死心移植は、2008年12月までに60例が施行されたが、臓器移植法により15才未満の臓器提供は禁止されているため、18才未満の小児患者への心移植は3名に過ぎない。小児心臓移植の適応疾患は、拡張型心筋症、肥大型心筋症などによる重症な心不全患者であり、生存率は1年生存率78%、5年生存率62%と報告されている。死因は、移植直後では急性拒絶反応と感染症が、移植長期では、慢性拒絶反応や冠動脈障害が主な原因である。本邦では拡張型心筋症をはじめとして18才未満の心臓移植適応患者は年間40-50例と報告されているが、救命のためには海外への渡航移植に委ねるしか方法がない。1997年の臓器移植法成立後から2005年までに33人が渡航移植を行い、27例が生存(生存率82%)しているが、渡航後の死亡が11例、渡航準備中の死亡が11例であり、小児心移植における深刻な問題である5)。このような状況を改善するためにも、15才未満の小児からの臓器提供を可能とする臓器移植法の早期改正が望まれる。

参考文献

1)  日本肝移植研究会.肝移植症例登録報告.移植43巻1号:45-55頁,2008.

2)  宍戸清一郎,相川 厚,大島伸一 他:本邦における小児腎移植の現状と長期成績.移植42巻4号:347-353頁,2007.
 
3)  和田 基,天江新太郎,林 富:小腸移植の国内外の現状と将来への展望.移植42巻3号:252-257頁,2007.

4)  日本肺および心肺移植研究会:本邦肺移植症例登録報告(2007).移植42巻5号:430-432頁,2007.

5)  越後茂之,小野安生,福島教偉:小児移植-本邦における小児心臓移植の適応基準と適応患者.移植41巻3号:215-220頁,2006.

※表1 小児肝移植の適応疾患

小児肝移植の適応疾患 
 胆汁うっ滞性疾患 
     胆道閉鎖症 
     ラジール症候群 
      バイラー病 
       原発性硬化性胆管炎

劇症肝不全(原因不明、ウイルス性)

先天性代謝性疾患
 ウィルソン病
 オルニチントランスアルバミナーゼ欠損症 
   シトルリン血症カルバミルリン酸合成酵素欠損症 
 チロシン血症 
   メチルマロン酸血症 
   プロピオン酸血症糖原病 
   原発性高蓚酸血症
 新生児ヘモクロマトーシス

血管性病変 
   バッドキアリー症候群 
   先天性門脈欠損症 
  
肝細胞性疾患 
  Cryptogenic cirrhosis(原因不明肝硬変)

原発性肝腫瘍
 肝芽腫
 肝血管腫

執筆者による推薦図書

1) Asher Hirshberg,Kenneth L. Mattox 著、行岡哲男 翻訳:トップナイフ―外傷手術の技・腕・巧み,医学書院

2) NHK取材班 著:被曝治療83日間の記録―東海村臨界事故,岩波書店

(MyMedより)その他推薦図書

1) 平成12年度文部科学省科学研究費総合研究(A)(1)「小児心・肺移植の臨床応用に関する総合的研究」研究班(松田班) 平成9年度, 松田暉:小児の心臓移植・肺移植,日本医学館 2003

2) 河原崎 秀雄 編さん:小児生体肝移植,日本医学館 2010

3) 相川厚 著:日本の臓器移植----現役腎移植医のジハード,河出書房新社 2009
 

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