小児急性虫垂炎 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.15

小児急性虫垂炎(しょうにきゅうせいちゅうすいえん)

Acute Appendicitis

別名: アッペ | 虫垂炎 | モウチョウ

執筆者: 田原 和典

概要

 盲腸の内側端に付属する細長い小指大の管腔臓器である虫垂に生じた化膿性炎症疾患。小児急性腹症のなかで最も発生頻度の高い疾患で、緊急手術を要する代表的な疾患である。小児特に就学未満の年令においては、症状の訴えが曖昧で診断に苦慮することがある。加えて、小児では病状の進行がはやく、穿孔に至る症例が多いため、迅速な診断と治療を要する。小児急性虫垂炎は年長児ほど頻度が高く、5才以下の症例は稀で、10~20歳代に最も多い。男女比は3:2 と男児にやや多い。今日急性虫垂炎に対する診断技術は向上しており、非穿孔例では安全な治療を行える。しかしながら、創感染や腹腔内膿瘍などの術後合併症は、穿孔例では依然高く、臨床上穿孔例を見逃さず確実な診断をおこなうことが重要である。 

病因

 以前より種々の説がある。内腔閉鎖説、屈曲説、感染説、食物繊維説などが考えられているが、現在のところ内腔閉塞説が有力である。閉塞原因は未だはっきりとしてなく、糞石、リンパ濾胞腫大、異物、サルモネラ菌などの感染に対するリンパ組織の局所的反応などが閉塞因子として考えられている。

病態生理

 糞石やリンパ濾胞の腫大により虫垂根部に閉塞をきたし、虫垂内腔の内圧が上昇し、加えてリンパ液の循環が抑制され、これにより粘膜面の腫脹が生じる。さらに内腔圧の上昇がすすむことにより、粘膜面の循環障害(虚血・梗塞・壊疽)が生じ、これにより腸管内細菌が壁内へ侵入し、炎症が波及するために発症するとされている。起因菌は好気性菌では大腸菌が最多で、次いで緑膿菌、溶血性連鎖球菌、クレブシエラがみられ、嫌気性菌ではBacteroudes群が多い。

 急性虫垂炎の病型は病理学的に、粘膜内にのみ好中球浸潤を認めるカタル性(catarrhal)、全層に認める蜂窩織炎性 (Phlegmonous)、壁構造が破壊された壊疽性(gangrenous)の3型に分類される。カタル性は可逆性で、保存的治療で回復可能であるが、蜂窩織炎性と壊疽性は不可逆性で絶対的な手術適応となる。

臨床症状

自覚症状

 典型的な症状としては、食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛、発熱がある。小児において食欲不振は重要な所見で、通常急性虫垂炎の場合、患児が食欲を訴えることは少ない。食欲不振より腹痛が発来し、軽度の嘔気を伴うようになる。腹痛は種々であり、年長児の場合、腹痛は心窩部あるいは臍周囲より始まり、徐々に右下腹部へと限局するのが典型的であるが、始めから右下腹部痛からはじまるものや、下腹部や臍周囲に限局した疼痛を訴えるものなど様々で、特に年少児では臨床症状は雑多であり診断に難渋することがある。

 腹痛は継続性の疝痛で、その疼痛をかばうため歩行時には前傾姿勢となり、右下腹部を抱え込むようになる。発熱は、初期では軽度で 37.0~37.5℃の微熱が多いが、年少児では38℃台に達することがある。また、穿孔や膿瘍形成の場合は、急速な体温上昇(38℃以上)が見られるようになり注意が必要である。通常排便異常は見られないが、膿瘍を形成した場合には腸管刺激による下痢を訴えることもある。

他覚症状

腹部触診

 腹部触診における圧痛は、急性虫垂炎で最も重要な所見のひとつで、小児外科医にとって治療方針を決定するための重要な因子となる。

 臨床的には McBurney点、Lanz点やKümmell点などの圧痛点が用いられる。McBurney点は、臍と右上前腸骨棘を結ぶ線上の右側(外側)より 5cm部分で、虫垂根部がこの部に位置する。Lanz点は、左右の上前腸骨棘を結ぶ線上を3等分した右1/3の点で、虫垂先端が内下方に向かう点である。 Kümmel点は、臍より右下方1~2cmの部であり、大網が虫垂の炎症のために引き降ろされた部である。このうちMcBurney点は虫垂炎の診断に最もよく用いられる所見である。ただし、炎症を起こした虫垂が存在する位置により上記所見とは異なる場合があり、加えて盲腸の位置に異常がある場合圧痛の位置も異なるため、上記圧痛のみにこだわらず、他の検査をすすめるべきである。

 他に体位変換など種々の操作を加えることで疼痛を誘発する徴候 (Blumberg徴候、Rosenstein徴候、Rovsing徴候など)があり、これらの徴候は虫垂炎の診断をより確実にするために有用である。

 また、腹膜刺激症状のひとつである筋性防御も重要な所見で、炎症が虫垂の漿膜側より壁側腹膜に波及したことを示し、特に腹部全体に筋性防御が認められた場合、汎発性腹膜炎の存在が疑われ、穿孔を示唆する重要な所見として取られる。膿瘍や腫瘤を形成した場合、有痛性の腫瘤として触知することがある。

検査成績

血液検査

 末梢白血球数の増加と核の左方移動をみる。急性虫垂炎における、末梢白血球数の増加の感度は52~96%、核の左方移動の感度は39~96%と報告されている。末梢白血球数は10,000~18,000/㎣に増加し、一般に炎症の進行により多くなる。CRP(C-reactive protein)は炎症の有無の良い指標であるが、発症早期では上昇は見られない。

腹部単純X線

 右下腹部の伸展をさけるように左側を凸とする腰椎の側彎、右下腹部の腸管ガス増加、糞石、膿瘍形成による腸管ガスの欠如、穿孔に伴う腹膜炎による麻痺性イレウス像などの所見を呈することがある。

腹部超音波検査

 超音波検査は虫垂炎の補助診断として有用な検査法であり、今日広く用いられている。小児の虫垂は小さいため、成人と比べて描出することが難しいように考えられるが、成人に比べて体壁が薄く、周囲腸管と比べて虫垂自体が大きいため、炎症により腫大した虫垂は比較的容易に描出することができる。

 検査手順としては、右側腹部で上行結腸や腸腰筋を確認し、これを指標に尾側にたどり回盲部に至る。虫垂はこの周囲で管腔構造として同定される。虫垂の同定をさらに確定させるために、圧迫にても内腔がつぶれないことや蠕動がみられないこと、盲端に終わっていること等を確認する。虫垂の腫脹は小児では6mm以上が蜂窩織炎性以上と考えられる。正常虫垂は、外側より漿膜層が高エコー層、筋層が低エコー層、粘膜下層が高エコー層、粘膜が低エコー層、虫垂内腔が高エコー層の 5層構造を示すとされ、このうち内側の高エコー帯が薄く整っている場合を正常ないしカタル性、肥厚している場合を蜂窩織炎性、不正な場合を蜂窩織炎性ないし壊疽性と診断する。

 虫垂は炎症により屈曲することがあり、虫垂を全長にわたって描出することは必ずしも容易ではない。虫垂の描出が困難な時は、腸腰筋や腸骨動静脈が虫垂描出の目安となるため、同部または圧痛点付近を慎重に検索して管状構造を見いだす。また、糞石が見られた場合には、これを含む管状物が虫垂であり、これから虫垂が同定される。加えて、虫垂周囲の液貯留、限局した腸管麻痺、腹水の存在などは間接所見として重要である。最終的に虫垂が同定されても、腹部全体の観察を追加して行うことは、他の合併症を見逃さないためにも重要である。超音波検査は簡便で低侵襲だが、術者の技量、虫垂の位置や腸管ガスにより描出ができないことも少なくない。

腹部CT検査

 一般的に急性虫垂炎が疑われた場合、まず超音波検査による検索が行われるが、超音波検査で明らかな虫垂が描出されない症例に対して腹部CT検査が行われることが多い。CTの放射線被曝によるリスクはあるものの、虫垂の位置や腸管ガスに影響を受けない利点があり、腫大した虫垂の描出に関して最も信頼できる検査である。

診断・鑑別診断

 小児の場合成人と比較して多彩な臨床症状を呈し、特に就学未満における診断は決して容易ではない。鑑別疾患として、腸間膜リンパ節炎、急性胃腸炎、便秘症、腸重積症、Meckel憩室、クローン病、紫斑病、尿路感染症などがあげられる。小児急性虫垂炎は進行が早く、重症化いやすいため迅速に診断・治療をおこなう必要がある。

治療

外科的手術

 急性虫垂炎の治療は虫垂切除術が原則である。蜂窩織炎性以上の虫垂炎は不可逆性変化のため手術適応となる。発症より時間が経過し、嘔吐、絶食が続き脱水症や体液バランスの異常が見られる場合には、輸液による体液の補正をまず行う必要がある。手術方法は、従来から行われている開腹虫垂切除術と、近年一般的になった腹腔鏡下虫垂切除がある。

 開腹虫垂切除術では、皮膚切開法は交互切開(McBurney)法、横切開および傍腹直筋切開法が用いられる。開腹した後虫垂を同定し、虫垂根部を結紮した後虫垂を切除する。盲腸の虫垂断端は埋没縫合をおこなう。穿孔例に対しては、腹腔内を大量の温生理食塩水にて十分洗浄し、従来は必要であればドレーンを留置していたが、最近はドレーン挿入の是非が議論となっており、施設により異なる。

 腹腔鏡下虫垂切除術は、12mmのポートを臍部より挿入し、ここより腹腔鏡を用い腹腔内を観察する。そのほか5mmのポートを2カ所より挿入し、ここより鉗子を入れ虫垂を検索する。虫垂間膜の処理はハーモニックスカルペルを用い切離し、虫垂根部を結紮したのち虫垂を切除する。盲腸虫垂断端は、開腹術の処理とは異なり断端埋没は行わない。腹腔鏡にて腹腔内を十分観察し、温生理食塩水にて洗浄の後手術を終了する。

保存的治療

 最近は、腹膜刺激症状が無く、超音波検査にて腫大のないカタル性虫垂炎に対しては、手術を行わないとする治療方針も普及している。

 保存的治療としては抗生物質の投与が行われており、起因菌として最も頻度の高いE.coliに対してセフェム系抗生剤が一般的に用いられるが、Bacteroides属はその多くがセフェム系抗生剤を失活させるβ-lactamaseを産生するため、抗生剤の選択に注意を要する。穿孔性虫垂炎でも、膿瘍形成を伴う腫瘤形成性虫垂炎の場合、待期的虫垂切除を行うために、腫瘤形成性虫垂炎初発時には抗生剤の投与をまず行い、炎症所見を改善させることがある。この場合、複数菌感染症であることを考慮し、広域セフェム系抗生剤を中心とする多剤併用抗生剤投与が行われる。

Interval appendectomy

 穿孔性虫垂炎に伴う膿瘍・腫瘤形成症例での急性期の虫垂切除は、周囲腸管への炎症波及による浮腫や癒着が高度のため手術が難しく、術後の創感染や遺残膿瘍などの合併症を併発することが少なくないため、急性期は禁食、輸液、抗生剤投与による保存的治療にて炎症を鎮静化させ、炎症がおさまった約3~4ヶ月後に待期的手術を行うInterval appendectomyをおこなうことが最近では普及してきている。しかし、待機せずに手術を行うことでより短期間で治癒させられるという報告や、保存的治療にて治癒した虫垂炎は経過観察でよいとする報告もあり、現在でも腫瘤形成性虫垂炎に対する待機手術の是非については議論が多い。

予後

 最近の診断技術、術前術後管理、麻酔、手術手技の向上、抗生物質の開発により、致命的な合併症はみられなく、予後は良好である。しかしながら、乳幼児での穿孔性虫垂炎の死亡例もみられる。

執筆者による推薦図書

1) 牧野尚彦、篠原尚 著:イラストレイテッド外科手術,医学書院

2) 加藤高明 著:3D Anatomy,日本医事新報社
 
3) 佐々木克典 著:外科医のための局所解剖学序説,医学書院

4) Kathy Barker 著:アット・ザ・ベンチ,メディカル・サイエンス・インターナショナル
 

(MyMedより)その他推薦図書

1) 井清司 著:救急外来腹部診療スキルアップ (CBRレジデント・スキルアップシリーズ (9)),シービーアール 2006

2 市川光太郎 著:小児救急のおとし穴 (CBRレジデント・スキルアップシリーズ (1)),シービーアール 2004

3) 辻本文雄・井田正博・松原馨 著:腹部超音波テキスト 上・下腹部 (Atlas Series超音波編),ベクトルコア 2002
 

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