静脈炎および静脈血栓症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.09.09

静脈炎および静脈血栓症(じょうみゃくえん、じょうみゃくけっせんしょう)

phlebitis, phlebothrombosis

別名: 静脈血栓症

執筆者: 新本 春夫

概要

 静脈壁の炎症は血栓を発現させ,静脈中の凝血は静脈壁の炎症を惹起するため,静脈炎と静脈血栓症を臨床上区別することは実際的でない.むしろその発症部位が治療方針、予後にとって重要であり,表在静脈に生じたものは表在性静脈炎,深部静脈に発生したものは深部静脈血栓症とよぶ. 


病因

 静脈内に血栓が発生するメカニズムとして,Virchowの3因説が有名である.

1) 血液の凝固能亢進

2)静脈内膜の変性,損傷

3) 血流の停滞または緩徐

 現在までにさまざまな誘因が考えられているが(表1),原因不明のものも多い.また加齢も誘因とされ,年齢別としては壮年者に多いが,若年者に発生する場合は背景や誘因が異なっており,膠原病,ベーチェット病,先天性凝固異常症の割合が多い.部位については,左下肢に多く発症し,iliac compression syndromeとの関係が指摘されている.静脈造影を示す(図1).

臨床症状

1) 表在性静脈炎

 表在静脈に沿って発赤した有痛性の索状硬結として触れる.特殊なものとして前側胸壁にみられるMondor病や悪性腫瘍やBurger病に随伴する遊走性静脈炎がある.

2) 深部静脈血栓症

 典型的な症状は患肢の腫脹,疼痛,熱感,変色であるが,しばしば全身の発熱をともなう.また鼠径部や腓腹部に自発痛や圧痛を認め,静脈を索状に触れることもある.慢性期には患肢の浮腫,易疲労性,色素沈着,表在静脈の拡張,二次性静脈瘤,皮膚の硬結などが出現してくる(静脈血栓後遺症postthrombotic syndrome).本症は典型的な症状がなくても重篤な合併症である肺塞栓症を引き起こす可能性がある.鑑別すべき疾患としてはリンパ管炎,蜂窩織炎,急性動脈閉塞症,筋肉の断裂,Baker嚢胞破裂などがあるが,いわゆる紅斑を呈し,悪寒と戦慄を伴えばリンパ管炎と蜂窩織炎の方が疑わしい.さらに抗生物質投与で症状が急速に改善する場合には本症は否定的となる. Homans徴候は受動的に足を背屈させられたときの腓腹部の不快感である.本症に特徴的といわれているが,他の原因でも本徴候は陽性となるので注意が必要である. 重篤な静脈血栓症として有痛性青股腫がある.血栓化が広範囲に起こり,末梢からの静脈還流が完全に阻止され,高度の浮腫,チアノーゼ,動脈拍動の消失,壊死,ショックに至る.本症はしばしば急性動脈閉塞と紛らわしいが,動脈閉塞の場合は患肢の蒼白,皮膚冷感があり,鑑別可能である.

検査成績

 表在性静脈炎では特異的な検査所見はないか、あってもCRPの上昇のみであることが多い。深部静脈血栓症ではD-ダイマーの上昇がスクリーニング検査として有用で、感受性が高い。基礎疾患の診断の一助として一般的な血液検査の他に、凝固線溶機能検査を行い、多血症や血小板血症の有無、アンチトロンビンIIIやプロテインC、Sなどの活性や抗原量の低下の有無を確認する。

診断・鑑別診断

 上記の問診,理学的所見により診断は容易であるが,鑑別診断だけでなく,病態を把握する上でも下記の諸検査は有用である.検査法の詳細については成書にゆずるが非侵襲的検査が望ましい.

1) 超音波断層検査(2)

 Valsalva法やプローベによる圧迫を用いることで血栓の有無や範囲がより明確になるだけでなく、ドップラー検査を併用すれば、静脈弁不全による逆流の有無がわかる。

2) X線CT

 肺動脈から下大静脈、さらには腸骨・大腿静脈までの閉塞の描出および血栓閉塞の原因疾患の検索に有用である.

3) 静脈造影(図3)

 浮遊血栓の検出やリンパ浮腫との鑑別に有用である.

4) 空気容積脈波法(図4)

 下腿静脈血を欝滞させた後,急速に解除した際の静脈還流の様子から深部静脈閉塞の有無を判定する.腸骨・大腿静脈の血栓症の診断に有用で、静脈還流機能が測定でき、また慢性期の静脈血栓後遺症の下肢静脈機能の定量に有用である。

 その他にサーモグラフィー,RI静脈造影,125I-fibrinogenスキャンニングなどがあるが,一般的でない.

治療

1) 炎症に対する治療

 原則として無菌的であるため,ほとんどが局所の冷却や消炎鎮痛剤の投与で軽快する.カテーテルの留置や静脈注射,外傷等,原因が明らかな場合はその除去が第一であり,化膿性疾患が疑われるときは抗生物質の投与が必要になることがある.

2) 線溶療法

 血栓の溶解を助長する目的で,プラスミノーゲンアクチベーターの一種であるウロキナーゼが使われる.発症早期(7~10日以内)に投与したほうが効果的であり,一日240,000単位程度を点滴静注し,その後は漸減し,約3~7日間投与することが多い.線溶療法施行中は抗凝固療法の併用が望ましく,ヘパリンを一日10,000~15,000単位投与し,線溶療法終了とともにヘパリンをワーファリンに切り替える.なお本治療は出血中または出血する可能性のある患者には禁忌である.

3) 抗凝固療法

 血栓の新生および進展の抑制が目的であり,静注用としてヘパリンが,経口用としてワーファリンが用いられる.ヘパリンの作用はアンチトロンビンIIIの抗トロンビン作用を増強させることにあり,持続静注が望ましい.投与量は活性化部分トロンボプラスチン時間で投与前値の1.5~2倍を目安にする.ワーファリンの作用は凝固因子(II,VII,IX,X)合成に関与するビタミンKの作用を抑制することにあり,投与量はプロトロンビン時間およびトロンボテストで約20~30%になるよう調節する.通常維持量は一日2~5mgであるが,抗凝固作用の発現に2~3日を要するため,初期量として5~8mg程度で開始し,漸減して維持量にする。また早急な効果発現のためにはヘパリンを投与しながらワーファリン治療を開始する.投与期間は約6ヵ月で,症状を観察しながら漸減するが,他剤併用による作用の増強,減弱に注意し,納豆,ほうれん草などのビタミンKを多く含む食品の摂取を制限させる.ヘパリン,ワーファリンともに必要量は個体差が大きく,高齢者では減量したほうが安全である.

4) 血栓摘除術

 Fogartyのバルーンカテーテルを用いて,中枢側血栓の除去による肺塞栓の予防および静脈還流障害の軽減を目的として行われる.適応は(1)腸骨大腿静脈領域の中枢側閉塞で,重篤な還流障害がある場合,(2)発症7日以内,(3)肺塞栓の可能性のある場合などであるが,弁破壊の危険が大きく,血栓の発生原因を除去しないため,術後の再閉塞や再発が高率にみられ,遠隔成績については異論が多い.

5) バイパス手術

 深部静脈血栓症に対する血行再建術は,静脈が低流量系のため,グラフトが早期に血栓閉塞する危険性が高く,長期開存による還流障害の改善は期待できない.しかし側副血行路を発達させる可能性はあり,適応や術式,グラフトの選択など検討の余地がある.

6) 下大静脈フィルター

 肺塞栓症の再発予防を目的として下大静脈に永久留置するフィルターや最近では回収可能な一時留置型フィルターが開発され,臨床使用されている。永久留置型フィルターは抗凝固療法がおこなえない症例や無効症例などが適応となるが、長期留置によりフィルターの移動、静脈穿破も報告されており、若年者への適応は慎重にする。一時留置型フィルターは数週間の間、急性肺血栓塞栓症が予防できればよい病態が適応の原則である。

7) 静脈欝滞の治療

 急性期には患肢挙上とし,下肢の場合は原則として安静,歩行禁止とする.炎症が軽快したら,静脈血栓後遺症への進展を予防するため,

(1)長時間の立位,坐位を避ける

(2)弾性ストッキングの着用

(3)就寝時の患肢の挙上(15~30度)

(4)患肢の清潔の保持

(5)空気マッサージ器の使用

(6)散歩,水泳,階段昇降等の励行

などを指導する.

予後

 表在性静脈炎のうち、基礎疾患がない場合は予後良好である。深部静脈血栓症は肺塞栓症を合併しなければ生命予後は良好だが、静脈血栓後遺症を合併するとQOLは著しく低下する。

執筆者による主な図書

1) 新本春夫 著:血小板生物学,メディカルレビュー社

2) 新本春夫 著:Knack & Pitfalls 一般外科医のための血管外科の要点と盲点,文光堂

3) 新本春夫 著:心血管病学,朝倉書店

4) 新本春夫 著:血栓症ナビゲーター,メディカルレビュー社

5) 新本春夫 著:心臓血管外科テキスト,中外医学社

6) 新本春夫 著:最新医学別冊 新しい診断と治療のABC60,最新医学社

7) 新本春夫 著:EVTテクニック,中外医学社

(MyMedより)推薦図書

1) 清水敬樹 編纂:ICU実践ハンドブック―病態ごとの治療・管理の進め方,羊土社 2009

2) 藤田紘一郎 著:血液型の科学 (祥伝社新書 189),祥伝社 2010

3) 竹田津文俊 著:基礎からわかる解剖学,ナツメ社 2009

4) 岡田隆夫 著:基礎からわかる生理学,ナツメ社 2008

5) 平井正文・折井正博・岩井武尚 編集:最新テクニック下肢静脈瘤の診療,中山書店 2008

6) 岩井武尚 著:こうして治す 下肢静脈瘤,保健同人社 2008

免責事項

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