未熟児網膜症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.26

未熟児網膜症(みじゅくじもうまくしょう)

Retinopathy of prematurity (ROP)

執筆者: 近藤 寛之

概要

 早産で生まれた新生児(低出生体重児)におこる眼疾患である。視覚の感覚受容体である網膜を損傷するか網膜剥離を引き起こすことで、乳児期の視覚発達を阻害する。重症例では白色瞳孔を生じ失明にいたることもある。現在、超低出生体重児の救命率は以前と比べ著しく向上しており、特に在胎週数22~23 週の児や出生体重499g以下の児も増加している。このような児は未熟児網膜症を発症する危険が高く、より重症の網膜症となりやすい。

病因

 早産により網膜での生理的な血管の発育が阻害されることでおきる。その結果、病的な組織である新生血管や増殖組織が発生し網膜剥離を生じる。

病態生理


網膜での生理的な血管の発育


 母体内では、胎児の網膜は初期には血管のない状態(無血管)である。網膜の血管は妊娠後(胎生)14週より視神経から発生する。無血管である網膜は生理的な低酸素状態であり、成長因子と呼ばれる物質が分泌し血管の発育を促す。網膜の血管は視神経から網膜の端に向かって放射状に伸び続け、満期産での出生の直前に完成する。

未熟児網膜症での新生血管の形成


 早産に続発する全身状態の変化は網膜血管の発育に大きく影響する。新生児は呼吸不全などによる全身の低酸素状態のために酸素投与が必要であり、そのため網膜は出生前と比べ相対的に高酸素となりやすい。高酸素状態では成長因子の分泌が低下し、血管の発育が一旦停止する。その後、網膜が再び低酸素状態となると成長因子の分泌が上昇し血管の発育が促される。このとき、母体内と同じような血管の発育が再開することもあるが、生まれたときの網膜血管が非常に未熟な場合や高度の低酸素状態などが加わると、成長因子が過剰に分泌される。その結果、異常血管である新生血管が形成され、その周りに病的組織である増殖組織が形成され未熟児網膜症が進行する。




自然経過


活動期未熟児網膜症


 未熟児網膜症が発症し進行する過程は、5段階に分類されている。第1段階では、発育途中の網膜血管の先端部と無血管の部分との境界に一致して境界線と呼ばれる組織が形成される。



 第2段階ではこの境界線の厚みが増す。第3段階では境界線部分に新生血管が形成される。新生血管は網膜の内側にある硝子体(水晶体と網膜の間の空間を埋める透明なゼリー状組織)に向かって形成される。


 新生血管は自然に壊れやすく、硝子体に出血をおこす(硝子体出血)。この第3段階は未熟児網膜症の予後を決定する分岐点である。この時期までに網膜症が停止すれば、視機能への障害は少ない。一方、網膜症が悪化し、増殖組織が拡大すると、第4段階となり、硝子体と増殖組織が一体となり網膜に障害を及ぼし、網膜剥離が生じる。



 この網膜剥離は網膜に癒着した増殖組織が網膜を牽引することで生じるため、牽引性網膜剥離と呼ばれる。第5段階は網膜が完全に剥離した状態である。網膜剥離が広がるとともに増殖組織は水晶体の裏側に一塊となり、瞳孔の中央が白く見える状態となり、白色瞳孔と呼ばれる。



瘢痕期未熟児網膜症

 
 活動期の病変は、遅くとも数ヶ月以内には衰えはじめ、その後は後遺症を残して固定した状態となる。この時期は瘢痕期と呼ばれる。わが国の厚生省新分類ではその重症度を1~5度に分類している。第1度では、視力の発達に重要である黄斑部(網膜の中心部分)に異常がみられないため、将来よい視力が得られることが多い。第2度では、活動期の第3段階に形成された増殖組織によって、黄斑部の網膜が牽引される。その程度により将来の視力は大きく異なる。

 第3~5度では網膜のシワや網膜剥離を生じた結果、視力に重大な影響を及ぼす可能性がある。広範囲の網膜剥離では将来、光を失う可能性も高い。また最終的に眼球萎縮や緑内障、角膜混濁などの合併症をおこすこともある。

臨床症状

活動期

 
 自然経過では未熟児網膜症は本来の出産予定日より少し早い時期に重症化しはじめる。自然治癒しない限り、数ヶ月以内に未熟児網膜症は完成する。まだ視覚の発達しはじめる以前の時期であり、視力低下などの自覚症状はまだ表に現れてこない。

乳幼児期


 満期で出生した新生児の場合、視覚の発達は生後3ヶ月ごろより本格化する。この時期までに視覚障害があると「目を合わさない、目が小刻みに揺れる、目が横や下を向く」ことで家族が気づくことがある。未熟児網膜症でも視覚に影響が生じているとこのような症状がみられる。網膜剥離を生じた場合には、「瞳孔の中央が白く見える(白色瞳孔)」ことがある。網膜剥離の結果生じた眼球萎縮や角膜混濁は肉眼でも観察できることがある。

学童期以降


 活動期に網膜症が治癒しても網膜は脆弱である事が多く、児が成長してから再び網膜剥離や硝子体出血をおこすことがある。学童期前後にみられることが多い。網膜剥離は手術治療が必要である。

検査成績

 瞳孔を広げる薬(散瞳剤)を点眼し、眼底検査を行い診断する。硝子体出血や網膜剥離をおこすと網膜を直接観察することができなくなる。この場合、超音波検査で網膜剥離の有無を確認する。

診断・鑑別診断

 早産で生まれた低出生体重児に眼底検査を行うことで診断可能である。ただし、出生直後にみられる疾患ではないので、経時的な診察が必要である。出生直後に未熟児網膜症に似た所見が見つかった場合、他の疾患の可能性がある。新生児期に網膜の無血管や網膜剥離がみられる疾患として、家族性滲出性硝子体網膜症、色素失調症、第一次硝子体過形成遺残などがある。乳幼児期に白色瞳孔がみられる疾患にはこのほかに網膜芽細胞腫などがある。

治療

[治療と予後]

乳幼児期の視覚発達


 視覚の発達には黄斑部の発達が必要である。未熟児網膜症では黄斑部の障害や網膜剥離によって視覚の発達が障害される。また、乳幼児期は視覚が発達する途中の時期であり、この時期に何らかの理由により片眼の障害が生じると片眼性の視力低下(弱視)をきたす。未熟児網膜症を有する児は高度の近視や遠視、乱視などが見られることが多く、一時的な硝子体出血や水晶体摘出手術後など、さまざまな理由により弱視となりやすい。さらに、超低出生体重児で眼球以外の障害、とくに脳内出血や水頭症を有する児では、将来光覚が維持されても視力が測れず、視覚発達の程度を評価するのが難しいことが多い。

網膜凝固治療


 活動期未熟児網膜症が第3段階となると、網膜症は急速に悪化し網膜剥離に進行する可能性が高いため、網膜凝固術を行う。網膜凝固術には光凝固(レーザー凝固)と冷凍凝固術の2つがあるが、現在は主に光凝固術が用いられている。米国の研究によると適切な時期に網膜凝固術を行えば、将来視力が悪化する症例は少なくなる。米国では網膜光凝固の時期・適応をより詳細に評価し、普及させる試みが続けられており、その成果はわが国での網膜光凝固治療にも取り入れられている。ただし、現在のところ、すべての症例が網膜凝固術によって視力低下を防ぐことができるわけではないため、網膜剥離に進行した場合には手術治療が考慮されている。

未熟児網膜症の外科的治療


未熟児網膜症の比較的早い時期の外科的治療


 網膜剥離を生じた未熟児網膜症に対する手術治療として、強膜輪状締結術と硝子体手術の2種類がある。

 強膜輪状締結術は、網膜剥離が完成する以前の比較的早い時期(生後3~4ヶ月頃)に、網膜に対する牽引を緩和し、網膜剥離の拡大を阻止するために行う。

 

 強膜輪状締結術の解剖学的成功率は70%前後であり、無効例では硝子体手術を要することもある。また、網膜剥離が治癒しても、残存する増殖組織による黄斑部の牽引や近視の増強の結果「弱視」となる可能性があり、視力予後は必ずしもよいとはいえない。

 硝子体手術は、網膜を牽引する硝子体や増殖組織を直接除去する手術である。



 十分な網膜凝固術により新生血管が退縮した症例は硝子体手術の適応がある。この時期での硝子体手術は進行した時期での手術より治療成績がよい。ただし、十分な硝子体切除のためには水晶体を切除する必要があり、片眼例ではコンタクトレンズによる矯正が必要であるが、「弱視」となりやすい。

進行した網膜剥離に対する外科的治療


 網膜症が最終段階である白色瞳孔を呈した場合、通常数年以内に網膜の萎縮のために光覚を失う。そこで、白色瞳孔を形成する増殖組織を除去し、網膜剥離を治療するために、硝子体手術が行われる。ただし、手術の成功率は、30%~60%程度であり、網膜が全剥離と成った症例では、治癒しても網膜が萎縮しているための最終的に0.1以上の視力が得られることは少ない。網膜剥離が治癒しない場合には眼球萎縮になる可能性がある。

最近の動向

II型未熟児網膜症

 
 未熟児網膜症の予後を左右する要因のひとつが、病変の進行速度である。わが国では、臨床分類に進行速度の違いが重視され、急速に進行する予後不良のタイプがII型網膜症と定義されてきた。一方、国際分類では進行速度に関する分類はなかったが、2005年の国際分類の改定によって、わが国のII型網膜症に相当する概念が盛り込まれ、II型網膜症の重要性が国際的にも喚起されるようになってきている。II型網膜症は重症化しやすく、管理には最大限の注意を払う必要がある。十分な網膜凝固を行っても予後不良のことがあり、最近になり早期硝子体手術が提唱されている。出生時体重、血管の成育程度、酸素投与、全身合併症など、重症化しやすい要因をもつ症例は注意を要するが、どのような症例がII型網膜症となりやすいのか不明な点が多い。

執筆者による推薦図書

1) 東範行・平岡美依奈 著:未熟児網膜症眼底アトラス,エルゼビアジャパン 2009

2) 植村恭夫 監訳,東範行 訳:未熟児網膜症 臨床家のためのガイド(Retinopathy of Prematurity A clinician’s guide),医学書院

(MyMedより)その他推薦図書

1) 小口芳久 編集:小児眼科のABC―最新の診断・治療的アプローチ,日本医事新報社; 第2版 2003

2) 小川明浩 著:視力3cm―それでも僕は東大に,グラフ社 2007

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