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最終更新日:2010.02.10

思春期早発症(ししゅんきそうはつしょう)

precocious puberty

執筆者: 立花克彦

概要

 何らかの原因により、思春期にみられる身体的変化(二次性徴)が異常に早期にみられる疾患。視床下部―下垂体―性腺系に本来ならば思春期年齢になって認められる成熟が早期に起こっている場合を、真性(中枢性)思春期早発症、それ以外(中枢の成熟を伴わない場合)を偽性思春期早発症と分類する。

臨床症状

[臨床症状及び検査]

 臨床症状は二次性徴の早発である。早期の二次性徴の発現は、患児家族に、心理社会的問題を引き起こすことがあり、粗暴な行動やマスターベーションなど、行動上の問題点を引き起こすこともある。

 過剰な性ホルモンは、身長増加を促進するため、患児は一般に高身長であるが、骨の成熟が促進し、早期に骨の成熟が完了し成長が終了するため、結果的に低身長の成人となる可能性が高い。

 検査としては、血中性ホルモンが思春期レベルを示す。ゴナドトロピンは真性思春期早発症およびゴナドトロピン産生腫瘍では、思春期レベルあるいはそれ以上である。必要な場合にはGnRHテストを行って下垂体からのゴナドトロピン分泌状態を検討する。

 骨成熟の判定のための骨年齢の測定(手根骨レントゲン撮影)や、中枢神経系の器質的疾患の診断のために、CTスキャンやMRIなどが行われる。

診断・鑑別診断

診断


 厚生省研究班により「中枢性思春期早発症診断の手引き」が示されている。思春期早発症の主要症状は二次性徴の早発であり、「手引き」の主症候を満たす場合、その二次性徴はきわめて早発であると考えられ、これに1歳加えた基準を満たす場合、早発傾向があると考えられる。二種以上の二次性徴が早発していれば、思春期早発症であることは確実といえる。1種のみの場合には、後に述べる部分的性早熟との鑑別が問題になるため、副症候以下の基準を設けてある。いずれにせよ、注意深い観察が必要であるため、多くの例は少なくとも要観察となるようになっている。

 二次性徴のうち女児の乳房発育は、家族によって気づかれる事が多いが、陰毛や腋毛、男児の陰嚢、睾丸の発育を始めとする二次性徴は気づかれていないことも多く、主訴に無い場合にも注意深く観察することが重要である。

鑑別診断


 二次性徴の早発を主訴に来院する小児の多くは、乳房発育を認める2~3歳以下の女児であり、その大多数は治療を要さない早熟乳房症である。注意深く診察しても他の二次性徴を認めず、骨成熟の進行や身長増加の促進を認めない。真性思春期早発症では乳輪の色素沈着を認めることが多いのに対して、本症では通常認めない。膣スメアではエストロゲン効果を認めることが多いが、血中エストラジオール高値を認めることは希である。ゴナドトロピンは正常(低値)である。乳房は自然退縮するか、あるいはそれ以上の進行を認めないことが多いが、消長をくり返す例もある。治療は行わないが、真性思春期早発症の初期である場合や、くり返すうちに真性思春期早発症を続発する場合もあり、注意して長期的に経過を観察する必要がある。

治療

[治療の適応]

 思春期早発症の臨床的問題点は、1)生命にかかわるような原因疾患が存在する可能性があること、2)年齢不相応に早期の二次性徴の進行による社会的・心理的問題、3)骨成熟の促進による成人身長の低下、の3点があげられる。従って、原因となる疾患の検索を急ぐ必要があることは言うまでもない。そして、偽性思春期早発症や脳腫瘍などによる真性思春期早発症と診断された場合、原因疾患の治療が優先される。視床下部過誤腫の場合は圧迫症状が明らかな場合や増大傾向がある場合を除いて、一般に外科的切除は行わず経過を観察する。

 特発性真性思春期早発症や、原因疾患の治療によっても思春期早発が改善しない場合、性腺抑制療法を考慮する。性腺抑制療法の目的は、1)二次性徴の抑制もしくは進行の停止、2)行動上の問題点(粗暴な行動やマスターベーションなど)の改善、3)身長増加・骨成熟の抑制による成人身長の改善、にある。従って、「診断の手引き」によって確実例と診断されても、二次性徴の早発が社会的・心理的に問題となってはおらず、身長に関しては、既に成人身長に達して、成長が終了してしまっている場合や、既にある程度の身長があり、成人身長が極端には低くならないと予想されるような例では必ずしも治療は必要ではない。反対に、たとえ、「診断の手引き」には当てはまらなくとも、二次性徴の出現・進行が社会的・心理的に問題となっている場合や、年齢的には二次性徴の発現が正常範囲であっても、未熟児で出生していたり、成長ホルモン分泌不全症の治療中で、未だ身長が低く、身長からみれば二次性徴の発現が早く、成人身長も非常に低くなると予想される様な場合(相対的思春期早発、低身長思春期発来)には、性腺抑制を考慮しなければならないこともある。二次性徴は正常児にも認められる現象で、現象自体が異常なことではなく、正常異常の境界は必ずしも明確ではない。「診断の手引き」は厳密な意味での思春期早発を定義するもので、治療適応基準ではない。

 身長増加のスパートが認められてから成人身長までの伸びは、健常女児では平均25cmである。2歳で発症した特発性思春期早発症ではその後無治療の場合の獲得身長は約50cm、4歳発症では40cm、7歳発症では30cmであるといわれる。すなわち7歳で平均くらいの身長(120cm)の女児が思春期早発症を発症した場合、無治療でも成人身長は150cm前後と期待でき、必ず治療が必要とは言えない。さらに、7歳で発症したときの身長が120cm以上であればさらに成人身長は高くなることが期待される。一方、二次性徴の発現、身長のスパートの開始が8歳以後であっても、その時の身長が120cm以下であれば、成人身長は150cm以下になる可能性が高く、治療についての検討も必要となる。特に家族的に低身長の場合にはさらに低身長になる可能性もある。

 しかし、思春期はいずれ発来するものであり、それを抑制することは後にも述べるように様々な問題の原因となる可能性がある。従って、性腺抑制療法の開始当たっては、治療によるメリットとともに様々なデメリット(の可能性)を考慮し、慎重に決定する必要がある。特に、「相対的思春期早発」における成人身長の改善のみをめざした性腺抑制療法は、特に成長ホルモンを併用しない場合や、併用しても女児の場合では有効性が明らかではないことも多く、治療適応をむやみに拡大すべきではない。この分野に精通した医師によってのみ慎重に行われるべきであり、特に「相対的思春期早発」についてはいまだ研究的治療である。

治療の実際


 下垂体からのゴナドトロピン分泌には、脈動的なGnRH刺激が必要であり、持続的にGnRHを投与すると逆にゴナドトロピン分泌は抑制される。この現象を利用して、作用が強力かつ持続的な合成GnRHアナログ投与による性腺抑制が行われる。現在、市販されているGnRHアナログ製剤には、酢酸ブセレリン(点鼻薬300μg/回を3~6回/日、鼻腔内噴霧)、酢酸リュープロレリン(徐放性注射薬30~90μg/kgを4週に1回皮下注)がある。どちらの剤型を用いるかは症例毎に選択する。点鼻薬は簡便であるが、頻回の投与は予想以上に煩雑であり、コンプライアンスが低下しやすい。また、鼻汁の多いときや手技の問題で、投与が不確実になる可能性もある。徐放性注射薬はGnRHアナログをマイクロカプセルに封入したものである。懸濁液を皮下に注射するとマイクロカプセルからアナログが徐々に放出される。注射は医師によって行われるので確実であるが、受診間隔が4週を大幅に越えないようにしなければならない。また、注射部位の痛みは比較的強いようであり、発赤腫脹などをきたす例もある。

 治療開始後は身長増加や二次性徴の状態について観察する。多くの場合、二次性徴は退行しないまでも進行が停止する。効果が不十分の場合、投与量の増量や剤型の変更を行う。GnRHアナログの投与によって、ゴナドトロピンの基礎値、GnRHテストにおけるゴナドトロピンの反応はほぼ完全に抑制され、性ホルモン値も前思春期レベルに低下する。酢酸リュープロレリンの徐放性注射薬の場合、30μg/kgで開始する。多くの例でこの量でGnRHテストでのゴナドトロピンの反応はほぼ完全に抑制されるが、一部抑制の不十分な例がある。この場合、通常60,90μg/kgと増量する。

成人身長に対する治療効果


 GnRHアナログの成人身長に対する効果については期待できるとする報告が多い。治療により性ホルモンが低下すると性ホルモンによって促進されていた身長の伸びは消失するため、身長増加速度は低下する。理論的には経過中の身長年齢の伸びが骨年齢の伸びを上回れば、成人身長はそのぶん改善したと考えられ、これを根拠に成人身長改善に有効としている報告も多い。しかし、骨年齢は半定量的であり、また骨年齢によって、たとえば骨年齢が4、5歳の時と10歳の時を比べると、骨年齢の1歳の伸びの重みに違いがあるため、この判断には限界がある(骨年齢4、5歳での1歳の増加は、性ホルモンが本来低い状態での1年間の骨の成熟であり、骨年齢が10歳での1歳の増加は、性ホルモンが存在する状態での1年間の骨の成熟である)。また、予測成人身長の改善をもって有効とする報告もあるが、思春期早発症の患児においてこれらの予測が当てはまるかどうかについては問題がある。やはり、成人身長の改善に効果があるかどうかは無治療の場合と実際の成人身長を比較するのが最良であると思われ、最近このような報告が現れ始めている。この検討方法による報告でも、成人身長はGnRHアナログ治療によって改善するとしている報告が多いようである。(厳密に言えば、無治療対照群をおいた検討ではない点に問題は残るが、事実上このような検討は不可能である。)しかし、その効果を治療開始年齢あるいは発症年齢で分けて検討すると、発症年齢の低い群では確かにその有効性は高いが、境界年齢で発症したような例では必ずしも成人身長の改善の程度は大きくないようである。発症年齢が低い例ではその二次性徴出現の心理社会的問題から治療適応になることが多く、成人身長の改善のみが治療目的ではない。しかし、境界年齢で発症の症例では治療目標がもっぱら成人身長の改善であることも多く、このような場合果たして期待通りの効果が得られるかどうかには疑問が残る。

 また、本症には二次性徴の出現以降急速に進行する古典的な症例ばかりではなく、比較的緩徐に進行するslowly progressive typeと呼ぶべき症例があることが知られ、このような場合、無治療でも成人身長はあまり低くはならないとされる。

 GnRHアナログの場合、成人身長は投与量と反比例するという報告があり、成人身長の改善のためには最低必要量を投与すべきとされるが、実際に最低必要量を見つけるのは容易ではない。

 GnRHアナログ投与により身長増加速度は低下するが、骨成熟を抑制することで、身長増加をより長い期間持続させて成人身長を高くしようというのが性腺抑制による成人身長改善の作戦である。しかし、時に治療開始後、身長増加が極端に低下してしまう症例がある。低年齢の典型的な思春期早発症の例ではこのようなことはまれであるが、ボーダーラインの症例や「相対的思春期早発」で多い印象がある。また、低年齢で治療を開始した場合にも、本来の思春期年齢にさしかかると成長速度が低下してくる傾向がある。

 以上述べたように、性腺抑制は、特にボーダーラインの年齢の患児では、ただ行えばよいと言うものではない。本症の診療の経験の豊かな医師が、患児・保護者と十分に話し合った上で、治療の適応を決定すべきである。

治療の中止(終了)


 二次性徴の抑制が目的の治療については、年齢的に、また患児の成長に伴って、二次性徴が出現しても社会的・心理的に問題とならなくなったと判断されれば治療を中止できる。

 成人身長の改善が目的の治療については、成人身長がほぼ正常範囲内あるいは許容範囲内に到達できると判断されれば治療を中止するが、成人身長の予測を正確に行うことは困難であり、この判断に明確な基準はない。治療を中止して、ゴナドトロピン、性ホルモンの分泌が亢進すると、思春期の成長のスパートが出現すると期待しがちであるが、実際にはあまり明らかな伸びをみないうちに骨成熟が進行し、成人身長に達して身長が停止することが多い。これは、性腺抑制療法中であってもある程度は骨成熟が進行してしまうことによる。従って、そのまますぐに成長が止まってしまっても、患児や家族に受け入れ可能な身長に達してから治療を終わることが多い。低年齢から治療を開始した症例では、まだ背の伸びがみられるうちに中止を考慮しなくてはならないことも多いが、後に述べる治療の問題点をよく説明した上で、患児や家族の希望も十分考慮して中止時期を決定する。

 成人身長の改善を目的に性腺抑制を行う場合、特に「相対的思春期早発」を中心に、先に述べたように、成人身長として満足できる身長に達する前に身長増加が極端に低下してくる症例を経験する。このような場合、治療をとことん継続し、わずかづつでも身長が伸びるのを期待する方がよいのか、治療を中止して、たとえ短期間でもスパートを期待した方がよいのか判断は難しい。今後の経験の集積が必要であるが、個々の症例にとってはやり直しのきかない選択であり、患児・家族と十分に話し合って決定する。GnRHアナログは成長ホルモン分泌をも抑制するとの報告もあり、そのための身長増加速度の低下である可能性もある。成長ホルモン療法を受けている患児(特に男児)では、成長速度が維持されることが多いこともこのことと矛盾しない。

 成人身長は治療終了時の暦年齢や骨年齢に反比例するとする報告が多い。したがってあまり長く治療を続けるより早めに終了するのがよさそうである。では、どのくらい早めがよいかとなるとその答えは明確ではない。これまでの報告では骨年齢12歳前後、暦年齢11歳前後までに中止するのがよさそうであるが、いずれの報告も根拠がやや不十分と思われる。

GnRHアナログ療法の問題点


 GnRHアナログはその性質上、投与開始初期に一過性にゴナドトロピン分泌を刺激する。この間、性ホルモンの分泌が亢進し、一時的な二次性徴の進行を認めることがある。女児では一過性に分泌が刺激された女性ホルモンが抑制される際、消退出血を認めることが多いので、この点について患児・保護者に説明しておくことが重要である。

 女児では、この一過性のゴナドトロピン分泌亢進により、卵巣嚢胞が増大することもあるので注意する。

 コンプライアンスが不良な場合や、投与が不確実な場合、徐放性注射薬の投与間隔が長くなってしまった場合など、ゴナドトロピン分泌が刺激され症状をかえって悪化させる可能性がある。特に点鼻薬の場合など、コンプライアンスの確認が重要である。

 GnRHアナログの中止後は、性腺機能は速やかに回復するとされている。しかし、本剤は比較的最近開発された薬剤であり、長期の使用経験はまだ多くはなく、今後の経験の集積が必要である。

 男児でいったん発育した睾丸が、ゴナドトロピンの抑制で縮小した場合、後に再度ゴナドトロピン刺激を受けても、形態的・機能的(特に造精能)に正常に成熟するかどうかにも多少の不安は残る。GnRHアナログ投与がラットの性腺に変性をきたした報告もある。

 GnRHアナログ投与によってアナフィラキシーを起こした報告や、IgE抗体が産生されたとする報告もあり、特に徐放性製剤では問題となる可能性がある。GnRH機能をブロックするような抗体が産生されれば、性腺機能低下を発症する可能性がある。

 最近の研究では、前思春期においても、振幅は小さいものの、ゴナドトロピンの脈動的分泌があるという。この生理的意義は不明であるが、GnRHアナログ投与中はゴナドトロピンはおそらくほぼ完全に抑制され、この様な脈動的分泌は消滅していると思われる。このことが、将来の性的発育、成熟にどのような影響を及ぼすかについても今後さらに観察を深める必要がある。

 思春期年齢は、骨塩量が飛躍的に増加する時期であり、この時期に十分な骨塩を獲得できないことは、後の骨粗鬆症のリスクファクターとなることが話題となっている。この思春期の骨塩量の増加には性ホルモンが関与していることが知られているが、性腺抑制によって、十分な骨塩が蓄積できなくなる可能性もある。思春期早発症の患児においては、暦年齢で比較すると、骨塩量の高い症例が多い。これらの例では、性腺抑制療法中は、骨塩量の増加は不十分であるが、成人での性腺抑制療法中のように低下することはないようである。性腺抑制療法中止後については、まだあまり報告がないが、成人身長の改善を目指して、かなり年齢が高くなるまで性腺抑制を続けた場合には、その後の骨塩量の増加は著明ではない印象がある。この点も今後の検討課題である。

 明らかに早発した二次性徴を抑制することの目的は、心理的・社会的問題の改善・予防にあることはすでに述べたが、成人身長の改善が目的の場合、正常の思春期年齢になっても(越えても)まだ、性腺抑制を続けなければならない場合がある。この場合、この人為的な思春期遅発症の心理的・社会的問題についても考慮する必要がある。特に、「相対的思春期早発」では成人身長改善のために、年齢的には正常の思春期を人為的に異常にするわけであるのでなおさらである。性腺抑制療法は通常、十分な判断力のまだ備わっていない小児に、保護者との相談で開始することが多く、そして本人の判断能力が徐々に育っていく時期を経てなお継続する場合がある。この様な場合、本人の保護者への依存性が高まりすぎないように、本人の自覚の成長を援助すると共に、本人の意向も十分に取り入れて治療の継続についてくり返しくり返し判断を重ねる必要がある。

健常児での二次性徴

 思春期年齢となると、視床下部からのGnRH(ゴナドトロピン分泌刺激ホルモン)の脈動的分泌が始まり、その刺激により下垂体からのゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン:卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体化ホルモン(LH))の分泌、さらには性腺からの性ホルモンの分泌が高まり、その結果、身体的な変化が生ずる。これを二次性徴という。

 男児では、思春期年齢になると睾丸容量の増大が認められるが、これに先立って陰嚢の発赤を認めることが多く、その後の二次性徴の進展を予測させる。睾丸容量は触診で判断するが、Praderの睾丸容量測定器(orchidometer)を用いると判断が容易である。これは1mlから25mlまでのさまざまな容量の楕円球の睾丸模型であり、触診した睾丸の大きさとこれとを比較して容量を判定するものである。Praderの睾丸容量測定器は3mlまでと4ml以上とで色が変えてあり、4ml以上は思春期、3ml以下は前思春期とされる。しかし容量にかかわりなく、幼児期以後ほぼ一定の容量である前思春期の睾丸の大きさから増大が始まれば、それは思春期が始まったと判断すべきであろう。わが国の小児での検討では、3ml(およそアーモンド大)以上であれば思春期変化ありとしてよいと思われる。日本人男児で睾丸容量の増大が始まる平均的年齢は、約11歳である。

 睾丸容量の増大が見られるのと相前後して身長の増加のスパートが徐々に認められるようになり、やがて陰茎の発育、陰毛・腋毛の出現を認め、ひげが濃くなる。このころ身長増加のスパートはピークとなり(平均は約満13歳)、やがてそのスピードは徐々に低下し、変声を認め、成人身長に達し二次性徴は完成する。

 女児では卵巣の増大は理学的診察では知りえないので、乳房の発育が最初に認められる二次性徴であることが多い。最近の日本人女児の乳房発育開始年齢の平均は9.74歳と報告されている。男児ほど明確ではない場合もあるが、女児でもこの頃から身長増加のスパートが認められる。やがて陰毛・腋毛の出現を認め、身長のスパートのピークを認め(平均は約満11歳)、初経(平均的には12.5歳ごろ)を迎えるとこの頃には身長増加のスピードも低下してきており、やがて成人身長に達して二次性徴が完成する。

 思春期年齢(近く)になり、いったん乳房発育が開始した後、そのまま進行せず1年以上とどまったり、前思春期の状態に戻ることも10%程度に見られる。このいわば「予行演習」のような乳房発育は触診でも乳腺をしっかり触れ、まぎれもない乳房発育であることが多い。このような児では遠からず本格的な二次性徴の進行を見ることが多いが、このような一過性の二次性徴の「予行演習」があることも念頭におく必要がある。

二次性徴の早発

 前項で健常児での平均的な二次性徴出現年齢についてのべたが、二次性徴の出現の年齢には個人差も大きい。いわゆる、「おませ」「おくて」である。おのおのの二次性徴の出現年齢を統計的に見ると、多くの小児で、平均の前後2年の、4年間の間に認められる。従って、平均より2~3年以上早ければ、その二次性徴は早発と言うことになる。
 
 厚生労働省研究班による「中枢性思春期早発症の診断の手引き」では、主症候として、早発を定義しており、男児では、 (1)9歳未満での睾丸・陰茎・陰嚢などの明らかな発育開始、(2)10歳未満での陰毛の発生、(3)11歳未満での腋毛・ひげの発生や声変わり、女児では、(1)7歳6ヶ月未満での乳房発育、(2)8歳未満での陰毛発生、または小陰唇色素沈着などの外陰部成熟、腋毛発生、(3)10歳6ヶ月未満での性器出血、をあきらかな早発と定義し、この2項目以上を満たせば、思春期早発症と診断できるとしている。

 ここでは、二次性徴の出現時期の異常を疑うための基本的な注意点を述べる。

 新生児期には男女を問わず、母体の女性ホルモンの影響で乳房が腫脹し乳腺を触れることはよく経験され、乳汁分泌を認めることもある。これはその後自然に消退することが多く、これは生理的な現象といえる。

 女児で乳幼児期に乳房腫脹を認めることはまれではない。これには真性の、すなわち中枢の成熟を伴う思春期早発症と一時的な卵巣からの女性ホルモン分泌による、原則として治療の必要のない早熟乳房症があり、ほとんどは後者である。この両者の鑑別には各種の血液(ホルモン)検査や経過観察が必要であるが、真性思春期早発では注意深く観察するとほかの二次性徴(恥毛、陰唇の色素沈着など)を認めることが多く、また乳輪の色素沈着を認めることも多いようである。

 触診で乳腺を触れるとき、弾性硬に触れるときは血中女性ホルモンは思春期レベルであることが多い。これに対し一過性の女性ホルモン過剰分泌により腫脹し、その後女性ホルモンの低下(正常化)によって消退したような乳腺組織は非常に柔らかいことが多い。また、女性ホルモンの影響による乳房腫脹ではなく、単にぽっちゃりしているためだけの乳房の場合は、一般に乳腺を触知しない。

 正常の二次性徴出現の下限年齢付近での二次性徴出現が異常であるかどうかの判断は必ずしも容易ではない。すなわち7歳ごろに乳房が腫脹してきた場合である。このような場合にも中枢神経系の器質的疾患の可能性を考慮することは重要である。しかし、多くの場合は器質的な病変は存在せず、その場合病的な二次性徴早発であるかどうかの判断よりも、治療が必要であるかどうかの判断が重要となる(治療の項、参照)。またもともと身長の高い児では二次性徴も早いことが多い。ただし、病的な思春期早発が原因となって高身長となっている場合もあるので注意を要する。総合的な判断が求められる。

 女児の乳房発育は先にも述べたように、一時的な場合もあるので注意を要する。思春期早発症など病的な場合には、多くは急速に進行する。また、女児の乳幼児期に発症する思春期早発症では、最初の症状が性器出血であるなど出現順序の異常を認めることもある。女性ホルモンの過剰分泌が顕著で二次性徴が急速に進行するためであろう。

 男児では二次性徴の早発は家族にも気が付かれにくく、また気が付かれても異常と思われにくいためか、二次性徴の早発を主訴に来院する例は少なく、来院した場合はかなり進行していることが多い。

思春期早発症の原因、分類

 思春期早発症は先に述べたように、真性思春期早発症と偽性思春期早発症とに大別される。

真性思春期早発症(GnRH依存性思春期早発症)


 思春期の発来する機序についてはまだよく解明されていない。視床下部からのGnRH(ゴナドトロピン分泌刺激ホルモン)の分泌に対して抑制的に作用する機構(ゴナドスタット)が中枢神経内に存在することが想定されている。思春期年齢になると、ゴナドスタットの性ホルモンによるフィードバックに対する感受性閾値の低下により、抑制が弱まることが引き金になるのではないかとされている。レプチン欠損症、レプチン受容体欠損症の女児で二次性徴の出現が認められなかったことから思春期発来へのレプチンの関与が想定されている。真性思春期早発症では、正常思春期にみられるような視床下部からのGnRHの脈動的分泌、それに刺激された下垂体からのゴナドトロピン分泌亢進が起こるが、何らかの原因によってこのゴナドスタットによる抑制が解除されて、あるいは抑制にうち勝って視床下部―下垂体―性腺系が成熟していると考えられる。器質性の場合は、視床下部に対する抑制の伝達経路に何らかの障害が起こるのではないかと考えられ、脳腫瘍や各種の中枢神経疾患(髄膜炎、脳内出血など)の既往がある場合に認められる。視床下部過誤腫も器質性の真性思春期早発症の原因となるが、精神発達遅滞や笑い発作などを伴うこともある。家族性に視床下部過誤腫を認めるPallister-Hall症候群が知られている。

 これらの原因となる疾患が明らかでない場合、特発性(原因不明)と分類される。また外因性のホルモン投与や後に述べる偽性思春期早発症が長く無治療であったり、治療が不充分で、中枢神経が過剰の性ホルモンに長くさらされると、視床下部―下垂体―性腺系が成熟して真性思春期早発症を来すことがある。これは、多くはもともとのホルモン過剰状態が、適切な治療などによって改善し、性ホルモンレベルが低下した際に明らかとなるが、治療前からすでにゴナドトロピン分泌亢進が明らかな場合もある。単純男性化型副腎皮質過形成症の場合に、この続発性真性思春期早発がよく認められる。

 真性思春期早発症は女児に多く、男女比は1:1.5~5以上とされる。女児では特発性の占める割合が高く(70~90%)、男児では器質性の頻度が高い(50~95%)。

偽性思春期早発症(GnRH非依存性思春期早発症)


 間脳―下垂体―性腺系の成熟を伴わずに性ホルモンの分泌が亢進し、二次性徴が発現する病態であり、分泌が亢進する性ホルモンによっては同性化のほか異性化を示すものもある。ゴナドトロピン産生腫瘍以外では、血中ゴナドトロピンの分泌亢進は認められない。前思春期年齢では思春期早発症として発症する。

 偽性思春期早発症の原因としてもっとも多いのは、先天性副腎皮質過形成であり、過剰な副腎性男性ホルモンにより男児では同性化思春期早発、女児では異性化思春期早発(男性化)を示す。

 hCG産生腫瘍では、hCGのLH作用のため、男児ではテストステロン産生が増加し、二次性徴が出現するが、女児では、hCGのFSH作用が弱いためエストロゲン産生が増加せず、思春期早発をみることはまれである。頭蓋内hCG産生腫瘍の場合には、中枢性病変として真性性思春期早発症の原因ともなりうる。縦隔内の胚細胞腫はKlinefelter症候群に多くみられる。同症候群に思春期早発をみた場合は本症を疑う。

 原発性甲状腺機能低下症で、適切な治療が行われていない場合に、思春期早発を示すことがある。TSHの過剰分泌に伴って、ゴナドトロピンもともに分泌されるためと説明されている(オーバーラップ説)。高プロラクチンの関与も示唆されている。また、重度の甲状腺機能低下症の治療後に思春期早発を認めることも多い。

  卵巣原発のエストロゲン過剰の原因としては、機能性卵巣嚢胞とまれに卵巣腫瘍がある。機能性卵巣嚢胞は自然消失する事が多いが、繰り返し出現することもある。巨大で、捻転の危険性がある場合や悪性の可能性が高い場合以外は外科的治療の対象ではないと思われる。

 McCune Albright症候群はカフェオレ斑、線維性骨異形成、思春期早発を主徴とする。細胞内情報伝達に関与するGs蛋白の遺伝子変異により、Adenylcyclase-cAMP系が持続的に活性化された状態になることによって発症することが明らかとなった。症状の多様性から、この変異は個体発生の初期に起こり、個体の中でこの変異を持つ細胞が、モザイク状に存在すると考えられる。卵巣でこの変異があると思春期早発となり、その他の内分泌器官として、甲状腺、副腎、下垂体、副甲状腺の機能亢進が知られている。

 家族性男性思春期早発症(familial male-limited precocious puberty: FMPP)は、男児にのみ家族性(常染色体性優性遺伝)に発症する思春期早発症である。LH受容体の点突然変異が原因であることが明らかにされた。変異受容体はLHとの結合とは無関係に持続的にGs蛋白を活性化するため、過剰のテストステロンが分泌される。

(MyMedより)推薦図書

1) 坂爪 一幸 著, 早稲田大学教育総合研究所:「食」と発達、そして健康を考える―母親の栄養と赤ちゃんの発達と成長後の健康, 学文社 2009

2) 藤井 勝紀 著:発育・発達への科学的アプローチ,三恵社 2007

3) 馬場直子 著:こどもの皮疹診療アップデイト (CBRアップデイト・シリーズ 2) ,シービーアール; 初版版 2009

4) 市川 光太郎 (著, 編集):小児科疾患アルゴリズム,中山書店 2009

5) 山城 雄一郎:新小児科学 (Qシリーズ),日本医事新報社 改訂第2版版 2005

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