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acute scrotum
執筆者: 渡辺 稔彦
急性陰嚢症(acute scrotum)とは、陰嚢の急激な有痛性腫脹をきたす疾患の総称である。緊急手術が必要な疾患が含まれるので、速やかな診断が欠かせない。主な疾患は、精巣捻転・精巣付属器捻転・精巣上体炎であるが、鼡径ヘルニア嵌頓・陰嚢部外傷・シェーンライン・ヘノッホ紫斑病、特発性陰嚢浮腫・精巣腫瘍・精巣水瘤なども含まれる。小児の急性陰嚢症の鑑別は成人よりもはるかに難しい。特に年少児では典型的な症状に乏しく、診断に苦慮することが少なくない。最も重要な疾患である、精巣捻転が最後まで否定できないときには、ためらわずに手術に踏み切るべきである。
精巣捻転は、精索の急激なねじれにより精巣・精巣上体の血流が障害された状態で、放置すれば精巣壊死をきたすため、緊急に外科的な捻転の解除が必要である。最も重要な急性陰嚢症であり、小児の泌尿器救急疾患としても症例数が最も多い。すべての年齢層に発症しうるが、新生児・乳児期と思春期前後に二峰性の発症ピークがあり、12~18歳の思春期が全体の2/3を占める。左側に発生しやすく、捻転方向は内旋が多く、捻転度は90°~1080°まで幅があるが、180°~360°が多い。
年齢的に新生児と思春期に高い発生率を示すことから、血性テストステロン値との関連や外傷との関連も指摘されている。解剖学的な異常により発症するともいわれており、鞘膜が精索の高い位置まで覆っている(bell-clapper変形)ため、陰嚢への固定が妨げられ捻転しやすくなる。その他、精索の過長・精巣上体の付着異常・精巣の横位なども捻転の原因になる。病型として、鞘膜外捻転と鞘膜内捻転の2種類があり、新生児・乳児では前者が多く、思春期ではほとんどが後者である。新生児では、70%はすでに出生前に発症しており、残り30%が分娩を契機とした出生時、あるいは出生後に発症したと推測されており、出生前に発症した精巣捻転は萎縮性精巣の原因と考えられている。
新生児では、疼痛や不機嫌などの症状はほとんどなく大多数は偶然発見される。乳児になると、陰嚢部痛、腹痛、嘔吐、不機嫌などの症状が出現することが多いが、全く無症状のこともある。消化器症状が中心で、胃腸炎などと診断されることがあり、注意が必要である。思春期になると、陰嚢から下腹部にかけての疼痛で夜間それも明け方に発症しやすく、突然始まる激痛のことが多いが、徐々に始まることもある。しばしば、悪心・嘔吐を伴う。過去に陰嚢部痛を繰り返しているときには、精巣捻転が自然解除していた可能性がある(間欠性精巣捻転)。
新生児では、陰嚢は暗赤色に腫脹することが多いが、一側の陰嚢全体が浮腫状であったり、ほぼ正常のこともある。精巣は均一に硬く腫大するが、極端に大きくない。対側の精巣と比べると位置がやや高く、圧痛は明らかではない。精巣腫瘍との鑑別が必要である。乳児期では、陰嚢所見は思春期のそれとほぼ同じになるが、発症から時間が経過した症例は所見が乏しくなる。鼡径部の疼痛と腫脹があるときには、停留精巣の捻転の可能性がある。思春期では、陰嚢は暗赤色に腫脹し、圧痛が強いため触診が難しいが、硬く腫大し正常の2~3倍になり、位置はやや挙上する。
内部エコーは不均一であり、カラードプラー法では血流は消失する。
99mTc-pertechnetateを用いた精巣シンチグラフィーでは精巣へのRI集積が欠如する。
診断がつき次第、緊急手術を行う。精巣が温存できるか否かは時間との勝負で決まるため、いたずらに検査に時間をかけることは避け、その疑いがわずかでも否定できなければ手術に踏み切ったほうが良いことが多い。一般に発症後6~8時間以内に捻転を解除すれば、精巣機能の回復が望めると考えられているが、温存可能時間は捻転度に左右され、また個人差も大きく12~24時間でも回復した報告もある。激痛や陰嚢の高度腫脹のため実施が困難であるが、可能であれば手術を待つ間に局所麻酔を行い、精巣を180°外旋し、更に180°かそれ以上外旋してみる。効果がなければ同じ要領で内旋してみる。成功すると疼痛は劇的に改善する。手術は、年少児では鼡径部切開で年長児では陰嚢切開で行うのが一般的であるが、精巣腫瘍が否定できないときは鼡径部切開がよい。精巣を露出して捻転を解除し、温生食ガーゼに包んでしばらく色調を観察し、血流再開の有無を確認する。壊死精巣であった場合は精巣を摘出することとなるが、それにかかわらず反対側精巣にも患側と同様の解剖学的異常を指摘する意見が多く、同時に対側精巣に対しても固定を行う方が安全と言われている。思春期以降の発症では、精巣を温存しても結局萎縮に陥ることがあり、このような精巣は長期間放置せずに、対側精巣への悪影響を考慮して摘出すべきである。一方、新生児に対しては緊急手術の意義については、意見が分かれており、すでに発症から長期間経過している出生前捻転例が多く、手術を加えても機能回復は望めない。また、思春期例と異なり、放置しても対側精巣に障害を来たさないと考えられており、摘出の意義については意見が分かれている。
精巣上体に発生する浮腫・腫脹・炎症性細胞浸潤のため、急性陰嚢症として鑑別すべき疾患のひとつである。小児では乳幼児期と思春期頃に発症しやすい。
淋菌・クラミジアトラコマチス・大腸菌・肺炎桿菌・結核菌などを起因菌とした血行性、尿路・精路逆向性に発症する。誘引として、尿路感染症や前立腺炎、尿道炎、前立腺腫大があるが、小児では基礎疾患として、尿管異所開口、尿道狭窄、前立腺小室嚢胞などといわれている。臨床症状に応じて、急性型と慢性型に分けられる。
急性精巣上体炎の症状は、発熱・疼痛・腫脹であり、多くは急激に発症し、患側の陰嚢部が発赤・腫脹し、陰嚢ヒダが消失、自発痛を認める。排尿時痛や膿尿などの尿路感染症所見を認めることがあるが、頻度は高くない。徐々に増強する疼痛で、歩行時に激しく痛み、触診上圧痛が著しい。精巣上体は腫大して著明な圧痛があるが、精巣に炎症がおよぶことはまれで精巣に腫脹・圧痛を認めない。急性精巣上体炎では高熱を来たすことが多いが、慢性精巣上体炎では、全身症状は乏しく、体動時痛、患部の圧痛程度であるが、限局した硬結を触れる。
白血球増多・血沈亢進・CRP上昇、時に白血球尿や尿中細菌培養が陽性である事がある。超音波ドプラーでは、精巣血流は増加する。
局所の安静と抗菌剤の投与である。精巣上体への移行が良好なものは、テトラサイクリン・アミノグリコシド・ニューキノロンなどで、セフェム系、ペニシリン系のものは移行はあまり良くない。有効薬剤を投与すれば、数日で解熱し経過は良いが、この時期に安静を守らなかったり、選択した薬剤が不適当であると、慢性精巣上体炎に移行したり、精巣上体部の精子通過障害をもたらすことがあるといわれている。治癒後は基礎疾患の有無を調べるために、排尿時膀胱平等造影などを行う。
慢性精巣上体炎では、細菌性炎症よりも炎症性瘢痕化が病態の中心であり抗菌薬の効果は今ひとつで、消炎鎮痛剤などの投与の方が有効であることがある。精巣捻転、精巣付属器捻転などとの鑑別が困難なときには、緊急手術を考慮すべきである。また全身状態が不良であるホストでは、敗血症に移行することがあり、精巣上体摘出を考慮することもある。
胎生期のミュラー管とウォルフ管の遺残組織である精巣垂と精巣上体垂が捻転を起こすことがあり、総称して精巣付属器捻転と呼ぶ。
まれな疾患でなく、急性陰嚢症の約1/3を占め、精巣垂捻転のほうがはるかに多い。好発年齢は思春期前(6~12歳)である。思春期に多く見られることから、この頃に分泌が増加するエストロゲンが垂上皮と間質の発育を促進し、捻転を生じやすくするか、あるいは強い精巣挙筋反射が引き金になると考えられている。
陰嚢部に限局した痛みで始まり、徐々に陰嚢の発赤・腫脹を来たす。時に鼡径部痛や下腹部痛を伴うこともある。捻転した付属器は精巣上部に圧痛のある小豆大の硬結として触れ、これが陰嚢を通じて、暗青色にみえることがある(blue dot sign)。
超音波検査では、精巣や精巣上体に接して、hypoechoic massが描出される。精巣血流は正常であることが多い。検尿所見も正常であることが多い。
診断が確定したら経過観察のみでよく、1~2週間で無症状になるが、精巣捻転の疑いが少しでもあれば、緊急手術に踏み切る。疼痛が1ヶ月以上も遷延する場合には、捻転垂を切除するほうが良い。
1) 市川光太郎 著・編集:小児科疾患アルゴリズム,中山書店 2009
2) 泊慶明 著:日々是よろずER診療―時間外診療に潜む「地雷」回避術,三輪書店 2008
3) David C. Howlett・Brian Ayers 著、北垣一 翻訳:ポケットブック 画像診断入門,オーム社 2005
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