胃カルチノイド - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.01

胃カルチノイド(いかるちのいど)

Carcinoid tumor of the stomach

執筆者: 阪 眞

概要

 カルチノイドは、内胚葉系のセロトニンやヒスタミンといったアミン・ペプタイドホルモンを産生する内分泌細胞に由来する腫瘍群である。高異型度の内分泌細胞癌を含む腫瘍群と解釈された時期もあったが、概念の変遷を経て現在では、低異型度の内分泌細胞腫瘍に対してのみカルチノイドという名称が用いられている。カルチノイドは本邦の剖検例の約0.1%に見られ、うち約70%が消化器系カルチノイドである。このうち直腸がもっとも多く、胃はこれに次ぐ。胃腫瘍のうちでは、0.4%がカルチノイドと報告されている。年間数百例の胃癌手術を行う専門病院においても、胃カルチノイドが手術されるのは、数年に一例程度であり、外科的には非常に稀な疾患である。

病因

 胃カルチノイドの多くは胃体部に広く分布しているECL(enterochromaffin-like)細胞由来と考えられている。ECL細胞は幽門前庭部のG細胞から分泌されるガストリンの刺激を受け、ヒスタミンを分泌し壁細胞の酸分泌を促す働きをしている。胃カルチノイドでは、高ガストリン血症がECL細胞の腫瘍化に関与していると考えられており、他臓器のカルチノイドとは異なる。血清中のガストリンは種々の胃疾患や制酸薬の使用により上昇するが、胃カルチノイドの発生に関与していると考えられているのは萎縮性胃炎と多発性内分泌腺腫症(multiple endocrine neoplasia-type 1; MEN-1)に合併するZollinger-Ellison症候群(Z-E症候群)である。萎縮性胃炎は自己免疫異常によるA型胃炎とHelicobacter pylori感染によるB型胃炎に大別される。特にA型胃炎では抗壁細胞抗体により壁細胞が破壊され高度に胃酸分泌が低下するため、ネガティブフィードバックにより著名な高ガストリン血症を呈する。ガストリン刺激により胃底腺粘膜内に内分泌細胞の過形成が生じ、さらに内分泌細胞微小胞巣を経てカルチノイドが形成されると推測されている。 MEN-1は副甲状腺、膵臓、下垂体に多発性内分泌腫瘍が発生する常染色体優性遺伝性疾患である。 現在、胃カルチノイドは、高ガストリン血症の基礎疾患により以下の3群に分類されている。Type I: A型胃炎に伴うもの、Type II: Z-E 症候群に伴うもの、Type III: ガストリンとは無関係のもの。これらの頻度は、TypeIが35%程度、TypeIIIが50%程度と報告されている。萎縮性胃炎に伴うType I と散発性のType IIIが大部分を占め、Z-E症候群にともなうType IIはその基礎疾患自体が稀なため、極めて少数であると思われる。  

臨床症状

 腹痛、消化管出血、体重減少などが報告されているが、本疾患に特異的なものはない。最近は、健診などの胃透視や胃内視鏡で発見される無症状の小病変が多い。

検査成績

 A型胃炎に併発するI型胃カルチノイドでは、血清ガストリンが高値を示す。

診断・鑑別診断

 肉眼型は通常1cm以下の小ポリープあるいは粘膜下腫瘍様隆起で、中央に小陥凹を有することが多い。ときに2cmを超えるまで発育し限局潰瘍型を呈することもある(図1)。
図1.内視鏡所見
 I型II型の胃カルチノイドは胃底腺領域に好発するのに対して、III型は前庭部にも発生し単発例が多い。 超音波内視鏡(EUS)では、第2層から第3層内の低エコー性腫瘤として認識される。第4層の固有筋層と連続することが多いGISTとは明らかに異なる。 組織学的には、通常の癌に比べ核異型の乏しい小型の均一な細胞から構成され、細胞質は神経内分泌顆粒を含有するために弱好酸性・微細顆粒状である。構造的には索状、リボン状、充実結節状、ロゼット様、偽ロゼット様、腺房状、時に腺管状の配列・構造をとる(図2)。
図2.組織像
 間質は毛細血管に富み、粘膜筋板由来の筋線維増生を伴うこともある。粘膜深部にある内分泌細胞由来であるため、容易に粘膜下層へ充実性の浸潤をする。 カルチノイドは、内分泌細胞癌(燕麦(小)細胞癌、大細胞癌、神経内分泌癌)とともに、gut endocrinomaの概念に含まれる。最近では、カルチノイドと内分泌細胞癌は連続した病変ではないと考えられている。岩淵らは、内分泌細胞癌とカルチノイドとの共存が極めてまれであること、内分泌細胞癌と高-中分化型腺癌の併存が高率に見られることなどから、内分泌細胞癌の発生は、カルチノイドからの移行ではなく、腺癌内の腫瘍性内分泌細胞からである可能性が高いとしている。  

治療

 胃癌と同様で、治療の原則は完全切除である。Type別の治療指針が提唱されており、高ガストリン血症を背景としたType I, IIの場合、腫瘍径1cmあるいは個数3~5個以下であれば内視鏡的治療、それ以上であれば前庭部切除と局所切除、散発性のType IIIに対してはリンパ節郭清を含めたen blocな胃切除を推奨している(図3)。



 最近では、予後良好なType Iに対しては、無治療で経過観察されることもある。 胃カルチノイドの治療を考える場合、胃癌治療と同様にリンパ節転移の有無が問題となる。指針では腫瘍径1cm以下では内視鏡治療とされているが、この大きさでも約7%の頻度でリンパ節転移がみられる。患者には事前に、再発のリスクについての十分なインフォームド・コンセントがなされるべきであり、慎重なフォローアップを要する。腫瘍径が1cm以上、深達度sm以深では30%以上の高い確率でリンパ節に転移する。したがって、腫瘍径1cm以上あるいはsm浸潤が疑われる腫瘍では、リンパ節郭清を伴う胃切除が必要である。その際、胃底腺領域が好発部位であること、前庭部切除によるガストリン減量の治療効果が報告されていること、本邦では2群リンパ節郭清が安全に行われていることなどから、2群リンパ節郭清を伴う胃亜全摘が選択される。 切除不能な場合、標準治療といえる化学療法のレジメンはない。

予後

 I型カルチノイドは肝やリンパ節への転移率が低く、腫瘍関連死亡はほとんどなく予後良好である。一方でIII型カルチノイドは、これに比べ予後不良とされる。

参考文献

1) Soga J: Carcinoid tumors: A statistical analysis of a Japanese series of 3,126 reported and 1,180 autopsy cases. Acta Medica et Biologica 42: 87-102, 1994

2) Rindi G, et al: Three subtypes of gastric argyrophil carcinoids and the gastric neuroendocrine carcinoma: A clinicopathologic study. Gastroenterology 104: 994-1006, 1993.

3) 岩下明徳、ほか: 胃カルチノイドの臨床病理学的検索―特にType I (A型胃炎に合併)とType III (sporadic)のリンパ節転移率について―.胃と腸 35(11): 1365-1380, 2000.

4) Gilligan CJ, et al: Gastric carcinoid tumors: The biology and therapy of an enigmatic and controversial lesion. Am J Gastroenterol 90: 338-352, 1995

(MyMedより)その他推薦図書

1) 関東腹腔鏡下胃切除研究会 著:腹腔鏡下胃切除術―一目でわかる術野展開とテクニック,医学書院 2010

2) 篠原尚・牧野尚彦・水野惠文 著:イラストレイテッド外科手術―膜の解剖からみた術式のポイント,医学書院 2010

3) スタンダード胃内視鏡検査,医学書院 2009
 

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