Hirschsprung病 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.15

Hirschsprung病(ひるしゅすぷるんぐびょう)

Hirschsprung's disease

別名: ヒルシュスプルング病

執筆者: 楠 正人 井上 幹大

概要

 Hirschsprung病は1888年にHarold Hirschsprungにより2例の巨大結腸を呈した重症の慢性便秘症の剖検例が報告されたことに由来する。しかし,下部腸管の壁内神経節細胞が先天的に欠如している事が原因であるということが示されるまでには長い年月を要し,1940年代の後半に本症の本態がようやく明らかとなった。その後は様々な根治術式が開発・改良され,生命予後や排便機能は劇的に改善してきた。

 本症の発生頻度は約5000人に1人で,他の消化管奇形と異なり低出生体重児が5%と少ないのが特徴である。また、男女比は3:1と男児に多いが,病変範囲は長くなるほどほど女児の占める割合が高くなる。病変範囲は80%がS状結腸以下の短節無神経節症で、S状結腸を超える長節無神経節症が20%であり、うち全結腸無神経節症が約5%で回腸末端部から30cmを超える広域無神経節症が約3.5%を占める。

 本症の70%は孤立例だが、 12%に染色体異常を合併し、うち90%以上はダウン症である。また、18%に他の奇形を合併し、心奇形や消化管奇形、口唇・口蓋裂、多・合指症などを認める。合併奇形は無神経節腸管の長い例や家族内発症例に多く見られる。

病因

 Hirschsprung病は下部消化管の粘膜下神経叢(Meissner神経叢)および筋間神経叢(Auerbach神経叢)における神経節細胞の先天的欠損が原因であり、欠損部の下縁は内肛門括約筋である。無神経節腸管は肛門から連続性に口側へ及び、その病因については岡本らのcranio- caudal migration theoryにより理解されている。

 すなわち、消化管の壁内神経は迷走神経堤細胞由来で胎生5~12週に口側腸管から肛門側へ延長していき直腸に到達するが、その過程が何らかの原因により阻害されることにより、それ以下の範囲に無神経節腸管が生じる。延長過程の障害が起きる原因については未だに不明である。

 本症にはまた遺伝的因子も関わっているとされており、特に病変範囲の長い症例において家族内発生率が高い。原因遺伝子としてはRET遺伝子やエンドセリンレセプター(EDNRB)遺伝子などが報告されているが、RET遺伝子は長節症例に、EDNRB遺伝子は短節症例に関与しているとされているが、一般には単一遺伝子のみの異常によって発症するものではなく多因子遺伝によるものと考えられている。

病態生理

 正常腸管壁内にはMeissner神経叢およびAuerbach神経叢が網目状に発達し、興奮神経と抑制神経支配を受けることにより腸管運動を調節しているが、Hirschsprung病ではこれらの神経叢が認められないため、腸蠕動欠如と肛門内括約筋のachalasiaから通過障害を来す。正常神経節を認める範囲は便やガスが通過・貯留して拡大部となり、神経節細胞の減少し口径が狭くなっていく移行部(transition zone)を経て蠕動が欠如した狭小な無神経節腸管に至る。

臨床症状

 病変の長さにより臨床症状の程度に差があるが、通常は新生児期に胎便排泄遅延や腹部膨満、嘔吐などの腸閉塞症状を呈する。

 胎便は正常新生児では生後24時間以内に排泄が認められるが、本症では大部分の症例で排泄が遅延する。便やガスが十分に排出できないため腹部の膨満や哺乳不良を認めるようになり、嘔吐も次第に胆汁性となる。腸管内容の欝滞から腸炎を起こすこともあり、bacterial translocationにより敗血症に至って致死的となる場合もあるため、直ちに絶食とし、輸液、洗腸、抗生剤投与等の治療を開始する必要がある。約 5%に消化管穿孔がみられ、穿孔部位としては盲腸や虫垂が多い。新生児期に原因不明の結腸穿孔をみた際には本症も考慮する。

 無神経節腸管が非常に短い症例では、難治性の便秘症として管理され乳幼児期以降、場合によって成人になってから来院、診断されることもある。

検査成績

腹部単純X線検査


 腹部全体に腸管ガスの増加、拡張を認めるが、直腸は拡がらずガスが貯留しないため骨盤内のガスは欠如する。


注腸造影検査


 病変部が狭小腸管として描出、移行部を経て口側の正常腸管が拡張部として描出される。この口径の変化(caliber change)が本症に特徴的な所見である。

 検査時の注意点は、便やガスが貯留した状態での造影が必要なため検査前に直腸指診や浣腸を行わないことと、狭小部を拡げないようにバルーンを使用せず、細いカテーテルで圧をかけないようにゆっくりと造影剤を注入することである。


直腸肛門内圧検査


 正常例においては、直腸が伸展されると内肛門括約筋が弛緩して肛門管内圧が低下する。これは直腸肛門反射と呼ばれ、壁内神経を介して伝達される局所反射である。Hirschsprung病ではこの反射が欠如しており、人為的にこの反射を起こさせるため加圧用バルーンを直腸内で拡張し、肛門管に内圧測定用センサーを留置して内圧の変化を測定し反射の有無を確認する。この際、直腸内は浣腸にて空虚にし、安静が保てない場合には鎮静剤の使用も考慮する必要がある。

 反射陽性の基準は、
(1)直腸加圧から1~3秒遅れて肛門管圧が低下し、その後緩やかに静止圧に戻ること、
(2)加圧時間の長さに関係なく同じ波形となること、
(3)同一検査において3回以上連続して圧下降が認められること、
以上の項目を満たすこととされている。

 正常新生児でも生後12日以下では反射を認めないことがあり、未熟児や敗血症、甲状腺機能低下症でも反射が出現しない場合がある。逆に本症でも全結腸型などでは反射を認めることもある。


直腸粘膜の組織化学的アセチルコリンエステラーゼ(Ach-E)検査


 無神経節腸管では正常神経叢が欠如する代わりに外来神経線維が増生する。外来神経線維は接続すべき壁内神経節細胞が欠如しているため、本来は入り込まない固有筋層、粘膜下層、粘膜固有層まで無秩序に伸展していく。本検査はこれらの線維が強いAch-E活性を示すことを利用しており信頼度は高い。

 通常、無麻酔下にて経肛門的に歯状線より1~2cm口側の粘膜固有層及び粘膜下層を採取し、Ach-E染色により陽性線維増生の有無を調べる。また Meissner神経叢の神経節細胞についても評価可能である。新生児期にはAch-E陽性線維の増生が著明でない例があるため、その場合には生後1ヶ月以降に再検を行う。

治療

 本症と診断されれば外科的治療が必要となる。

 通常、根治術は生後3ヶ月以降、体重5~6kgを目安に行われるが、最近ではより早期に行われる場合もあり、短節例では新生児期に根治術を行う施設もある。また腹腔鏡を利用した手術も行われるようになってきている。根治術まで浣腸等にて保存的に排便管理が可能な場合には一期的に根治術を行うが、保存的治療無効例や腸炎発症例では拡張している正常腸管に人工肛門を造設する必要がある。

 Hirschsprung病の排便障害には神経節細胞の欠如による無蠕動と肛門内括約筋のachalasiaが関与しているため、根治術では神経節細胞の存在する正常腸管のpull-throughし、内括約筋を部分的に切開あるいは切除により緊張を低下させることが必要となる。

 代表的な術式としてSwenson法、Duhamel法、Soave法が挙げられるが、それぞれの欠点を補う様々な変法が開発され、各施設で習熟した術式は異なるもののいずれの術式も良好な術後排便機能が期待できる。全結腸あるいは広域無神経節症では水分吸収も考慮したMartin法やKimura法などが行われる。

予後

 病変が全結腸以上に及ぶ症例を除くと死亡率は2%程度であり、術後排便機能に関してはいずれの術式を行っても、習熟すれば約80%に正常な排便機能が期待できることから予後は良好といえる。

 しかし、広範囲無神経節症においては排便管理や栄養管理に難渋し、腸炎による敗血症から死に至る例もあることから満足できる成績とは言い難い。

(MyMedより)推薦図書

1) 岡田正 著:系統小児外科学,永井書店 2005

2) 甲田英一 ・伊川廣道・山下直哉・他 著、中島康雄・前川和彦 監修:臨床研修医のための画像医学教室―小児科領域,医療科学社 2009

3) 河原 克雅・佐々木 克典 著、坂井 建雄・河原 克雅 編集:カラー図解人体の正常構造と機能 (3) 消化管,日本医事新報社 2000

4) 伊藤美智子:ストーマケア (Nursing mook―Advanced nursing practice (15)),学研 2003
 
5) 池田由紀江 監修、菅野敦・橋本創一・玉井邦夫 編集:ダウン症ハンドブック,日本文化科学社 (2005
 

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