肺嚢胞性疾患 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.12

肺嚢胞性疾患(はいのうほうせいしっかん)

執筆者: 黒田 達夫

概要

 一般に肺嚢胞性疾患とは、肺に気道以外に嚢胞腔が非可逆的に存在するものをさす。したがって嚢状気管支拡張症や可逆性の空洞、pneumatoceleなどは通常含めないが、肺嚢胞性疾患の病因、起源は極めて多彩で、成人領域、小児領域とも分類や概念は混乱している。小児外科領域で取り扱う肺嚢胞性疾患は先天性のものが多く、狭義には気管支性肺嚢胞、肺葉内肺分画症、先天性嚢胞性腺腫様奇形(congenital cystic adenomatoid malformation; CCAM)やブラ、ブレブなどの胸膜直下の気腫性嚢胞が含まれる。一方で気管支閉鎖などの気管支病変も肺内の嚢胞や肺葉性肺気腫を呈し、臨床的にはこれら気管支疾患も肺嚢胞症として扱われる場合が多い。嚢胞性肺疾患をさらに広く捉え、前腸由来の消化管と気管系の交通を伴った嚢胞性病変(Bromcho-pulmonary foregut malformation: BPFM)なども含めて、気道系疾患全体を共通の概念でまとめようとする考え方も提唱されている。

病因

 肺嚢胞性疾患の病因は大きく先天性と後天性に分けられ、さらにその中で各々の疾患について病因論が推定されている。例えば肺葉内肺分画症は正常の気道・肺循環系以外の別系統の肺組織が肺葉内に存在する疾患で、分画肺部分では気管支のドレナージ先が無い上に周囲の正常肺との側副路から空気が流入して嚢胞が形成される。肺分画症の病因は先天性に副肺芽から分画肺が形成され、この課程で大循環系からの血行を分画肺に引き込んで太い弾性動脈の異常流入血管が形成されると説明される。またCCAMは、胎生期の肺組織の分化・成熟がglandular stageで停止したために、腺腫様の壁をもった嚢胞が形成されたものと説明される。一方でこれらの病因論には異論もある。

 気管支に閉塞機転が起これば、中枢気道にしても末梢気道にしてもその遠位に分泌物や空気の貯留を起こして嚢胞を形成しうる。そこで肺の形成過程で気管支の閉塞機転の起こる時期と閉鎖のレベルにより先天性肺嚢胞性疾患の病因を一元的に説明しようとする考え方もある。Stockerは1977年に嚢胞の大きさによりCCAMを三型に分類した。その後1994年にはこの概念を病変の気道レベルと関連させて拡大し、Congenital Pulmonary Airway Malformation(CPAM)としてさらに広い範囲の肺嚢胞性疾患を包括して五型に分けた新分類を発表している。この新しい概念は注目を集めているが、完全なコンセンサスは得られていない。一方で気管支の閉塞機転に関しては感染など後天性の機序も考えられ、嚢胞性肺疾患の病因論をますます複雑にしている。

病態生理

 肺嚢胞性疾患の主な病態は、嚢胞の増大に伴うものと、嚢胞性病変の感染に起因するものにまとめられる。

 嚢胞への流入気管支にチェックバルブ機構が働き、嚢胞内に空気が捕捉されるため嚢胞が増大する。巨大化した嚢胞は正常肺を圧排し、重篤な呼吸機能障害を呈する。出生直後に肺呼吸開始とともにチェックバルブ機構が働いて嚢胞が巨大化し、重篤な呼吸障害を呈することもある。

 近年、出生前の胎児肺嚢胞性病変の病態が注目を集めている。胎児肺嚢胞性疾患は妊娠中期以降増大し、在胎25-30週以降には縮小に転じる傾向が見られる。一部のCCAM症例などでは胎児肺の嚢胞性病変が進行性に増大した結果、胸腔内圧上昇から胎児循環の還流障害、さらには胎児水腫を呈して子宮内死亡の転帰をとる。



 一方、嚢胞性肺疾患では気道を介した肺の感染が反復し、感染・炎症の波及により周囲の正常肺にも不可逆性の変化を残す。肺は生後4歳頃まで急速に発育し、8歳ころに完成するとされるが、感染・炎症による不可逆性変化が病変部以外の正常肺葉に及んだ場合、これらの肺葉の発育も障害される。

臨床症状

 上述の病態に基づいて、臨床症状は嚢胞の感染に起因する症状と嚢胞の正常肺実質圧迫による呼吸障害が中心となるが、無症状でたまたま撮影された胸部X線写真上の異常陰影を指摘されて発見されることも少なくない。嚢胞の感染、炎症およびその波及や反復による症状としては咳嗽、喀痰、発熱などが多く、胸痛や喀血も見られる。反復する肺炎などの肺感染症状は、正常気道系と嚢胞性病変の交通があるCCAMでは比較的早期に1歳前後から現れることが多いが、肺分画症や先天性気管支閉鎖症に伴う肺嚢胞性疾患では、3-4歳前後と、気道と嚢胞の側副交通ができる、より高い年齢で感染が初発する傾向がみられる。

 呼吸障害の症状としては息切れや頻呼吸、陥没呼吸などが見られ、嚢胞の急激な増大により重篤な呼吸障害を呈して高い緊急性を要する場合もある。出生前診断例では嚢胞性病変が大きい場合、胎児水腫、子宮内胎児死亡の原因となり、子宮内死亡を免れても生直後に重篤な呼吸不全症状を呈し蘇生困難な場合もある。

検査成績

 主な検査は以下のようである。

胸部単純X腺検査

 胸部単純X線写真は嚢胞の局在や周囲の浸潤影など基本的な情報を提供する。



胸部CT検査(単純、造影)

 胸部CT検査は解像度が高く、単純X線写真では分からないような肺病変も描出され、病変の範囲、分葉不全の有無など、より詳細な情報が得られる。



 さらに造影CT検査では肺分画症の異常血管の同定もできる。

気管支内視鏡検査

 気管支の分岐異常や中枢レベルの閉鎖を直接的に観察できる。

気管支造影検査

血管造影検査(肺動脈造影、大動脈造影)

 病変の局在のさらに詳細な評価には、気管支造影や肺動脈造影、大動脈造影が行われる。気管支や肺動脈の圧排や走行から病変のより詳細な局在が評価可能である。さらに気管支造影と肺動脈造影の所見を総合することにより亜区域枝レベルの気管支閉鎖症の診断が可能である。すなわち病変部に向かう肺動脈が描出されながらこれに伴走する気管支が描出されなければ、そのレベルにおける気管支閉鎖が示唆される。

 肺分画症の異常血管は胸部もしくは腹部大動脈より直接分枝して分画肺に入る。腹部大動脈の主要分枝から太い異常動脈が出ることもある。これらの異常血管は、大動脈造影や肺動脈造影の大動脈相で詳細に描出される。



 一方で気管支動脈や肋間動脈などから病変部に向かう細い血管の増生所見は、同部における強い感染・炎症の既往とそれによる癒着を示唆する。

出生前検査

 近年、胎児超音波検査、胎児MRIにより肺嚢胞性疾患が出生前に診断される頻度が増している。胎児肺のCCAM病変の評価法として、超音波計測値から病変を楕円球として体積を求め、頭囲との比を体積率として計算することが行われる(CVR: CCAM Volume Ratio)。超音波検査と胎児MRIではCCAMとそれ以外の嚢胞性肺疾患との完全な鑑別は不可能であるが、自験例も含めて多くの報告では疾患の種類によらず胎生25-30週を越えると嚢胞性病変の体積率は1.0未満へ低下する症例が多い。一方、この値が1.6−2.0を越えて高値で推移した場合、子宮内胎児死亡や生直後の重篤な呼吸障害を呈する症例が多い。

治療

 肺嚢胞性疾患の外科治療は罹患肺葉の切除が基本である。幼児期早期までに罹患肺葉を切除した場合、残存肺に炎症の波及がなければ代償性に発育して予想排気量の80-90%以上の回復が期待できるとされる。

 CCAMの罹患範囲は原則的に一肺葉性とされるが、稀に複数肺葉や両側肺に嚢胞性病変が見られる場合がある。このような場合は、最も病変の強い一肺葉のみを切除して経過を見る選択肢もある。片肺全摘では術後の呼吸予備機能が顕著に低下するのみならず、肺の無くなった胸腔の虚脱から縦隔が捻転しつつ偏移し、椎体に圧迫されて残存肺の主気管支の狭窄を来す。特に右肺全摘後症候群は有名である。

 病変が限局する場合、区域切除が選択されることもある。しかしながら小児の肺嚢胞性疾患では病変の波及が区域を越える場合が多いこと、区域切除は葉切除に比較して術後の合併症が多いこと、上述の様に残存肺葉の代償性発育が期待できることから、一般的に区域切除の適応は限られる。その他、場合によって嚢胞の開窓と流入気管支結紮も選択肢となり得る。

 出生前診断された胎児肺嚢胞性疾患では、妊娠経過中に胎児水腫など全身的徴候がみられた場合、超音波ガイドに嚢胞を穿刺・吸引して嚢胞の縮小を図る。穿刺・吸引の効果が一時的な場合には、さらに嚢胞と羊水腔の間にシャントを留置する。

予後

 上記の様に周産期では、増大した胎児肺嚢胞性病変は子宮内胎児死亡や蘇生困難な生直後の重篤な呼吸不全を引き起こす場合がある。

 出生後、呼吸状態が安定しており待期的に手術を行い得る症例に関しては、生命予後は良好である。一方、より高い年齢においても嚢胞の進行性増大を呈する症例では致命的呼吸不全に陥る危険があり注意を要する。

最近の動向

 肺嚢胞性疾患の概念、分類が未だ未確立で混乱していることは冒頭に述べた。近年、成人、小児それぞれの領域で、肺嚢胞性疾患の概念と分類の確立に向けた作業が進められている。

 小児の肺嚢胞性疾患の臨床における近年のトピッックスとしては小児鏡腔鏡手術の普及と、出生前診断・治療が挙げられる。特に胎児水腫を起こすような巨大な嚢胞に対する羊膜腔胸腔シャントの留置は、本邦でも症例数が増加し、良好な成績が得られている。出生前診断技術の向上や、胎児肺の病態に関する治験の蓄積とともに、今後、さらに発展が期待される分野である。

参考文献

「小児外科」36巻5号(2004年)特集:小児呼吸器外科の新たな展開(東京医学社(バックナンバーあり))

(MyMedより)推薦図書

1) 日本気胸・嚢胞性肺疾患学会 編:気胸・嚢胞性肺疾患規約・用語・ガイドライン 2009年版,金原出版 2009

2) 岡田正 監修、伊藤泰雄・福澤正洋・高松英夫 編集:標準小児外科学 (STANDARD TEXTBOOK) ,医学書院 2007

3) 岡田正 著:系統小児外科学,永井書店 2005

4) 山高篤行・下高原昭廣 編集:小児外科看護の知識と実際 (臨床ナースのためのBasic&Standard),メディカ出版 2010
 

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