顎変形症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.12

顎変形症(がくへんけいしょう)

執筆者: 齋藤 力

概要

 先天的に、あるいは顎骨の発育に伴って顎骨の大きさや形、位置などに異常を認め、顎顔面の形態的異常と咬合の異常をきたしたものを「顎変形症」という。顎変形症には下顎前突症、下顎後退症、上顎前突症、上顎後退症、顔面非対称、開咬症、長顔症、短顔症、咬筋肥大症などがあり、これらが複合しているものもある。顎変形や咬合異常に伴い、咀嚼機能の低下や発音ならびに心理面への影響を認めることがある。  

病因

 先天的な病因としては、クルゾン症候群、アペール症候群、鎖骨頭蓋異形成症、ダウン症候群などの疾患に伴うものや胎児期の環境要因の影響(放射線被爆、過度の温度変化、低酸素、機械的刺激、化学物質、薬剤)、感染症(風疹、梅毒など)の生物学的要因の影響が挙げられ、遺伝と環境要因の相互作用によって発症する多因子遺伝説も唱えられている。
後天的な病因としては、疾病、栄養不良、代謝障害、行動および口腔機能パターンの異常(指しゃぶり、弄舌癖、口呼吸など)、外傷(顎骨骨折など)が挙げられ、成長を阻害するような誘発要因の加わった時期によって、顎変形症の発現の程度も異なってくる。

臨床症状

1) 上顎前突症 maxillary protrusion

 上顎前歯の下顎前歯に対する水平的被蓋距離(Overjet)が著しく大きい。上唇部の突出感が強く、鼻尖とトガイを結ぶ線(esthetic line)より前方に上唇が突出している。

2) 下顎前突症 mandibular protrusion

 下顎前歯が上顎前歯を被蓋し、反対咬合を呈している。オトガイ部と下唇の突出感が強く、側貌は三日月型顔貌(dish face)を呈し、面長な感じとなる。gonial angle, mandibular plane angleの開大、下顔面高の増大、下顎前歯歯軸の傾斜などが種々に複合して認められる。

3) 開咬症 open bite 中心咬合位で上下の歯の間に空隙の認められる状態を呈している。gonial angle, mandibular plane

 angleの開大が認められる。全部性開咬:最後臼歯のみ咬合前歯部開咬:臼歯部のみ咬合 (Overbiteがマイナス) 側方開咬:片側歯群の咬合  

4) 上顎後退症 maxillary retrusion

 上顎の遠心位と中顔面の陥凹を呈する。相対的に下顎が前突するので三日月型顔貌(dish face)を呈する。本症の大部分は小上顎症maxillary micrognathiaである。

5) 下顎後退症 mandibular retrusion

 下顎の遠心咬合と下顎とオトガイの後退位を呈している。側貌は鳥貌(bird face)を呈し、下唇も上唇に対して後方位となる。

6) 顎顔面の非対称 facial asymmetry

 左右の顎骨の成長にアンバランスが生じて顎顔面の左右非対称を呈する。

治療

 通常の歯科矯正治療のみでは良好な咬合や顔貌を獲得することが難しい重度の顎変形症では、手術によって顎骨の位置を移動して正常な咬合と顔貌を獲得する外科的矯正治療が行われる。外科的矯正治療の目的は、顎骨を移動させて良好な咬合にすることにより咬む能力や発音を改善し、顔貌形態も改善することにある。また、心理的にも精神的にも良い影響が期待できる。

 手術時期は体の成長が止まる時期(男性では17~19歳、女性では16~18歳)以降で、このような手術を「顎矯正手術」という。表1に外科的矯正治療のフローチャートを示す。まず患者の主訴、咬合状態、顔貌、顎の形態や機能などをエックス線写真、口腔内写真、顔写真、CT画像や歯列模型などを用いて診査、分析し、治療計画を立案するが、外科的矯正治療では口腔外科医、歯科矯正医ならびに関連各診療科の専門医が共通理解をもち、チームアプローチによって治療を進めていくことが重要である。また治療全体の内容や起こりうる合併症等を十分に患者に理解させ、治療に対する全面的な協力を得ることが重要である。まず術前矯正治療を開始する。

 通常の矯正治療が現在の顎の位置のままで咬合を改善するのに対して、術前矯正治療の特徴は顎を予定の位置に移動したときに良好な咬合が得られるように歯を並びかえる。顎矯正手術には様々な術式があり、原則として口の中から行う。

 代表的な術式としては、上顎に対する「LeFortⅠ型骨切り術」や「上顎前方歯槽骨切り術」、下顎に対する「下顎枝矢状分割法」や「下顎枝垂直骨切り術」、「下顎前方歯槽骨切り術」、「オトガイ形成術」などがある

臨床診断 表1. 
表1



1) LeFortⅠ型骨切り術上顎(上あご)の歯肉に切開を加えて上顎骨を広く露出させ、上顎骨を水平に骨切りして自由に助くようにします。あらかじめ手術前に予定していた位置に上顎骨を移動しチタン製ミニプレートまたは吸収性ミニプレート4枚で頭蓋骨に固定します。咬合に問題がないことを確認してから、創を縫合閉鎖して手術を終了します。この手術は単独で行われることは少なく、下顎の手術と組み合わせて行う場合がほとんどです。
  
図1


2) 下顎枝矢状分割法下顎臼歯部外側の歯肉に切開を加え、下顎骨後方部を露出させて、下顎骨の歯がついている部分(下顎骨体部)と関節のついている部分を切離します。これを左右で行うと、下顎骨体部は自由に動かせるようになります。予定の咬合の位置で、関節のついている骨と、歯のついている骨とをチタン製ミニプレートまたは吸収性ミニプレートで固定します。顎関節の動きや咬合に問題がないことを確認してから、創を縫合して手術を終了します。  
図2


3) 下顎枝垂直骨切り術下顎臼歯部外側の歯肉に切開を加え、下顎骨後方部を露出させて下顎骨後方部分を垂直方向に切離します。予定の咬み合わせの位置で、後方の切離した骨が干渉しないように骨を削り、創を縫合して手術を終了します。この手術は下顎枝矢状分割法では知覚紳経に障害が出る可能性が高場合、あるいは顎関節に症状のある場合に行います。この手術の場合は下願枝矢状分割法に比べて、顎間固定期間がやや長くなります。  
図3


4) 前歯部歯槽骨切り術臼歯のかみ合わせには問題がないのに、前歯だけが前方へ突出している上顎前突症、開咬症や下顎前突症に対して行います。顎骨(あごの骨)前後的位置関係はそのままに、出ている部分の歯と骨をブロックとして骨切りして正常な咬合関係の得られる位置でチタン製ミニプレートを用いて固定します。   
図4


5) オトガイ形成術オトガイ部(あごの先端部)が長い場合、後退している場合、非対称の場合などに行います。下前歯部の歯肉を切開し、下顎骨の前方部を露出させ、オトガイの先端部を切離して目的の方向へ移動し、チタンのミニプレートとネジ、または吸収性ミニプレートとネジで固定します。この手術は他の骨切り術と同時に行うこともありますが、術後6か月ないし1年後の骨切りに使用したミニプレート除去手術時と同時に行うことが一般的です。
図5


6) 上下顎移動術 上顎と下顎を同時に移動する手術で、上記の手術を組み合わせて行います。
図6

最近の動向

 特定非営利活動法人日本顎変形症学会会員が所属する医療機関を対象として顎変形症の外科的矯正治療に関する調査を行ったところ、顎矯正手術を施行した92施設から回答では2006年4月から2007年3月までに施行された顎矯正手術は2926例で、その内訳は、下顎枝矢状分割法が2069例71%、Le Fort I型骨切り術が787例27%、下顎枝垂直骨切り術が370例13%、歯槽骨切り術が191例7%、オトガイ形成術が318例11%、骨延長法が77例2.6%、その他が77例2.6%であった。また診断の内訳は、下顎前突症が68%、下顎後退症が8%、上顎前突症が8%、上顎後退症が11%、開咬症が3.3%、非対称症例が9.5%%、睡眠時無呼吸症候群が0.6%、その他1.3%であった。近年、顎変形症に対する外科的矯正治療の社会的認知とともに治療の対象となる症例が増えている。    

(MyMedより)推薦図書

1) 日本臨床矯正歯科医会神奈川支部 著:矯正歯科―歯並びと咬み合わせの最新治療 (専門のお医者さんが語るQ&A),健同人社 2002

2) 鈴木設矢 著:抜かない歯医者さんの矯正の話―2000の症例から語る,弘文堂 2001

3) 鈴木純二 監修:子どものための矯正歯科―早期治療が賢い選択,医療企画 2007
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

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