下肢静脈瘤 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.10.21

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)

varicose veins

執筆者: 新本 春夫

概要

 静脈瘤とは静脈が拡張,蛇行している状態で,静脈血の還流障害をきたした形態的,機能的障害である.静脈瘤は下肢に好発し,その成因、病態により治療法が異なるが,患者の愁訴に対して的確に対処する必要がある.

病因

1)一次性(原発性)静脈瘤

 原因は不明であるが,静脈弁機能不全による表在静脈の拡張蛇行である.深部静脈は開存しており,大,小伏在静脈の深部静脈への流入部弁不全により生じることが多いが,穿通枝の機能不全を合併することもある.誘因としては加齢,女性,肥満,妊娠,立位作業,ホルモンなどが挙げられ,静脈壁,静脈弁の遺伝的脆弱性も指摘されている.

2)二次性静脈瘤

 静脈弁を破壊させる原因,とくに血栓症による静脈血の還流障害があり,側副血行として表在静脈が拡張蛇行したもの.

3)動静脈瘻による静脈瘤

 原発性静脈瘤が下肢内側に好発するのと対照的に下肢外側に多く認められる.幼時からあるいは若年者にみられることが多く,随伴症状(患肢の肥大,血管母斑,動静脈瘻)があればKlippel-Trenaunay-Weber症候群を疑う.

病態生理

 下肢の主な静脈には,脚の筋肉の間を走り,下肢静脈血の80~90%が流れる深部静脈と皮下を走る表在静脈がある.表在静脈にはソケイ部で深部静脈へ合流する大伏在静脈と膝裏で深部静脈へ合流する小伏在静脈がある.またところどころに表在静脈と深部静脈を連絡する穿通枝がある.下肢の血液の流れは重力に逆らって下から上へ流れなければならないが,この一方通行の流れを維持するために静脈の内部には多くの弁があり,逆流を防ぐ役割をしている.深部静脈は筋膜や筋肉に囲まれているため,拡張することや弁が壊れることは比較的少ないが,表在静脈は周囲に皮下脂肪などの柔らかい組織しかないため弁が壊れやすく,いったん弁の機能が損なわれると,立位または座位の際に静脈内の血液は重力に従って脚の末梢の方向に逆流してしまう.これを静脈のうっ滞といい,表在静脈には高い圧がかかり,徐々に拡張することで静脈瘤となる.また,老廃物を多く含んだ静脈血が滞ることで下肢の倦怠感や鈍痛,浮腫,色素沈着などさまざまな症状を併発するようになる.

臨床症状

 表在静脈の拡張,屈曲,蛇行があり,長時間歩行,立位,下垂で増強する.血栓性静脈炎を併発することもある.また下肢の鈍重感,易疲労感,熱感,緊満感,浮腫,夜間の筋肉痙攀がみられる.進行すると出血や色素沈着,さらには湿疹,皮膚炎や難治性皮膚潰瘍を形成するようになる(下肢うっ滞症候群:lower limb stasis syndrome).また静脈瘤内の血栓が肺動脈の塞栓源となることもある(肺動脈血栓塞栓症).

検査成績


診断・鑑別診断

問診および視診,触診により,診断は容易であるが, ①深部静脈の開存の有無 ②大,小伏在静脈の弁不全の有無やその範囲 ③不全穿通枝の有無とその部位等を把握することが治療にあたっては重要である.
  
1)理学的検査

①Trendelenburg テスト 大,小伏在静脈および穿通枝の弁機能を検査する.
②Perthes テスト 深部静脈の開存と穿通枝の弁機能を検査する.
③retrograde leg milking test  不全穿通枝の局在を診断する.

2)超音波ドップラー法(ドップラー聴診器)

 深部静脈の血流や大小伏在静脈の逆流の有無をドップラー音で確認する.Valsalva 法や下腿ミルキング法などにより逆行性血流を生じさせるが,0.5秒以上遷延する場合に逆流ありと診断する.穿通枝では不全を示す逆流波形を得るのに熟練を要する.

3)超音波断層(デュプレックススキャン)法

 7.5または10MHzのプローベを用いて静脈瘤の走行や分枝,穿通枝の局在診断だけでなく,color flow duplex scan法を併用することで表在静脈のみならず,穿通枝不全の有無や深部静脈の状況も詳細に検索できる.

4)上行性下肢静脈造影

 深部静脈の開存を確認するとともに穿通枝不全の有無と部位をみるために行われ,静脈瘤の分布についても情報を提供する.最近では他の非侵襲的検査の診断能の向上により,原発性静脈瘤においては原則的に行わないとする報告もみられる.しかし皮膚硬化や潰瘍などを合併している例や,二次性静脈瘤や血管形成異常が疑われる例には有効である.

5)下行性下肢静脈造影

 大腿静脈系の形態学的変化と弁機能が評価できる.Kistnerらにより本法による深部静脈弁不全の重症度分類が示されているが,中枢側の弁機能が正常の場合,末梢側の弁不全が見逃される可能性があることや生理的な弁逆流が描出されるなどの問題が報告されている.

6)造影CT

 肺動脈から膝窩静脈までの深部静脈,とくにソケイ部より中枢の深部静脈の状況を検索でき,二次性静脈瘤の診断に有用である.

7)脈波法

 駆血操作や体位変換,運動負荷などに伴う患肢の容積変化を測定することで,静脈還流機能を非侵襲的に評価する.空気容積脈波法が用いられることが多い.測定方法として,静脈圧迫法により深部静脈の還流障害の有無を検出し,筋ポンプ脈波法により下腿筋ポンプによる静脈還流機能を評価,定量することが可能である. 
以上の症状,診断,検査によって下肢静脈瘤を系統的に分類する方法としてCEAP分類がある.CEAP分類は1955年に発表された下肢慢性静脈疾患の分類で,臨床症状や病因,解剖,病態生理に基づく分類が組み合わされて表現される.

治療

1)圧迫療法

 表在静脈の屈曲蛇行のみで日常生活に支障を訴えない場合や手術を希望しない場合は,下肢のうっ血を軽減するように生活指導すると同時に,弾性ストッキングを着用させる.しかし対症療法に過ぎないこと,長期間常に着用しなければならない煩雑さから患者にとって苦痛となることが多い.また,下肢にうっ滞症状に類似した不定愁訴がある場合,ストッキングの着用にて症状の推移をみることで,下肢症状が静脈瘤由来かどうかを見極めることができるので診断的治療としての意義もある.

2)外科療法

 目的は逆流の抑止と静脈瘤の消失であり,最も根本的治療としては高位結紮と静脈抜去(ストリッピング:stripping)および穿通枝の結紮等の手術療法である.最近ではさまざまな低侵襲治療が適用されてきている.

高位結紮およびストリッピング手術適応
①大小伏在静脈のほぼ全長にわたるもの
②表在性静脈炎の反復するもの
③下肢欝血にともなう愁訴の強いもの
④下腿欝滞症候群を合併しているもの
⑤美容上の愁訴の強いもの静脈炎,湿疹,潰瘍を合併する場合は,まず保存療法で軽快させたのちに手術を行う.

禁忌
①全身に重篤な合併症を有する場合
②深部静脈閉塞
③動脈血行障害のある患肢
④経口避妊薬服用例
⑤重篤な皮膚感染症の存在
⑥出血傾向妊娠中の静脈瘤は産後に軽快または消失することが多いので保存療法で経過観察とする.

a.高位結紮

 大,小伏在静脈が深部静脈へ合流する部分で結紮切離する.大小伏在静脈に合流する全ての分枝を残さず結紮切離することが再発予防につながる.

b.ストリッピング

 原則として高位結紮術を併施して,ストリッピングワイヤを用いて静脈瘤を抜去するが,下腿において大小伏在静脈に伴走する伏在神経や腓腹神経の損傷を防ぐ目的で,従来の全長ストリッピングではなく,ドプラ法やデュプレックススキャン法による術前の逆流範囲の検索に基づいて静脈瘤の切除を行う選択的ストリッピングを行なうことが標準となりつつある.また同様の理由で,最近では静脈瘤を内翻させながら抜去する方法が普及しつつある.腰椎麻酔や硬膜外麻酔または全身麻酔で行われることが多いが,最近では希釈した局所麻酔薬を血管周囲に浸潤させるTLA(Tumelucent local anesthesia)麻酔を用い,日帰りストリッピングを行う施設もある. 

c.不全穿通枝の処理

 術前に局在診断を行った不全穿通枝を筋膜レベルで結紮,切離する.皮膚変化が強い場合には,内視鏡的に筋膜下にアプローチし,不全穿通枝を切離することもある.

3)血管内治療法

 長期成績は不明であるが,ストリッピング治療に比し,低侵襲であることで欧米では急速に普及しつつある,ラジオ波やエンドレーザー法(半導体レーザー,ヤグレーザー)にて静脈瘤壁に熱変化を加えることで内腔を癒着閉塞させる.本邦では保険診療が認められておらず,自費診療となる.
 
4)硬化療法

 手術適応とならないものや術後の遺残静脈瘤,皮下細小静脈の拡張などが本法の適応となる.またストリッピング手術との併用により手術創の減少と手術の簡略化が可能である.現在,硬化剤としてはポリドカノール(商品名ポリドカスクレロール)が保険適応となっている.静脈内に空気や炭酸ガスまたは生食を注入し,内腔から血液を追い出した後,硬化剤を注入し,圧迫することで静脈内腔を癒着閉塞させる.最近では硬化剤をあらかじめ空気や炭酸ガスと混和、泡状化したものを注入する方法も行われている.合併症は重篤なものはないが,色素沈着,血栓性静脈炎,水疱形成,皮膚壊死などが報告されている.手技が容易かつ効果的で,外来での治療が可能な方法であるが,長期成績については一定の見解が得られていない.

予後

 下肢については静脈血の適切な逆流阻止がおこなれないと徐々に形態的には瘤の増大をきたし,血行動態的には先述したようにうっ血に伴う諸症状(下肢うっ滞症候群)が出現するようになる.全身的には予後は良好で,肺動脈血栓塞栓症の合併頻度は一般的には高くない.

最近の動向


参考文献

1) 名川弘一ほか編:手術別冊 最新 アッペ・ヘモ・ヘルニア・下肢バリックスの手術 改訂第2版,金原出版,pp285-347,2005
 
2) 新本春夫:Ⅷ.血管領域 4.下肢静脈 手術局所解剖アトラス 手術 5月臨時増刊号 Vol.62,No.6,金原出版,pp889-896,2008

執筆者による主な図書

1) 新本春夫 著:血小板生物学,メディカルレビュー社

2) 新本春夫 著:Knack & Pitfalls 一般外科医のための血管外科の要点と盲点,文光堂

3) 新本春夫 著:心血管病学,朝倉書店

4) 新本春夫 著:血栓症ナビゲーター,メディカルレビュー社

5) 新本春夫 著:心臓血管外科テキスト,中外医学社

6) 新本春夫 著:最新医学別冊 新しい診断と治療のABC60,最新医学社

7) 新本春夫 著:EVTテクニック,中外医学社

(MyMedより)推薦図書

1) 肺血栓塞栓症 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会 著:肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン,メディカルフロントインターナショナルリミテッド 2004

2) 日本整形外科学会静脈血栓塞栓症予防ガイドライン,南江堂 2008

3) 小林 隆夫 編集:静脈血栓塞栓症ガイドブック,中外医学社 2006

4) 平井正文・折井正博・岩井武尚 編集:最新テクニック下肢静脈瘤の診療,中山書店 2008

5) 岩井武尚 著:こうして治す 下肢静脈瘤,保健同人社 2008

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: