慢性腎不全 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.26

慢性腎不全(まんせいじんふぜん)

Chronic Renal Failure

執筆者: 星井 桜子

概要

 腎不全とはなんらかの原因で、腎臓の機能単位(糸球体と尿細管よりなり、ネフロンと呼ぶ)が減少し、腎機能が低下した状態をいう。慢性腎不全は急性腎不全と異なり、非可逆的に進行する。透析や腎移植を必要とする場合を末期腎不全と呼ぶ。 腎機能は糸球体濾過値(1分間に糸球体で濾過される量、GFR)で表現され、成人の標準体格(体表面積1.73m²)換算される。成人ではGFR>90ml/分を正常範囲、GFR<15-10ml/分で透析や腎移植が必要となる。小児では出生時のGFR約20ml/分と低く、少しずつ増加し2歳ころに成人レベルに達する。 小児期の腎不全は子どもにも、家族にもたいへん大きな重荷となる。治療の目標は心身両面での適切な成長発達で、できる限り普通の子どもの生活に近づけることである。そのために、チーム医療により、腎疾患の治療期や腎不全の保存期(末期腎不全に至る前)から将来を見据えて治療方針をたてるとともに、子どもと家族両方へのサポートが必須である。

病因

 小児では先天性・遺伝性疾患が半数以上(約55%)を占め、後天性疾患は30%である。先天性・遺伝性疾患としては、腎低形成・異形成が最も多く(全体の約1/3を占める)、後天性疾患としては、難治性腎炎の代表格である巣状糸球体硬化症が最も多い(全体の約17%)。その他の先天性・遺伝性疾患としては、閉塞性腎症、逆流性腎症、先天性ネフローゼ症候群、アルポート症候群、若年性ネフロン癆など、後天性疾患としては、IgA腎症や紫斑病性腎炎などの慢性腎炎があげられ、それぞれ数%を占める。

病態生理

 腎臓にいったん一定の障害がおきると、原因がすでに除去されても、病気の活動性が低下していても,腎障害は非可逆的に進行する。組織学的には糸球体硬化病変がみられる。ネフロン数が減少した状態では、原疾患の侵襲を免れたほぼ正常のネフロン(残存ネフロン)に機能的、構造的な適応現象が起き、一つのネフロン当たりのGFRを増加させることにより、腎全体のGFRを維持しようとする。しかし、そのこと自体が残存ネフロンに負担をかけることになり、糸球体硬化に陥り、さらに腎機能が悪化する。

臨床症状

 腎臓は老廃物の排泄以外にも、体液量,電解質,酸塩基平衡など内部環境の恒常性(ホメオスターシス)の維持、エリスロポエチンやレニンの産生,ビタミンD活性化などの内分泌器官としての役割をもつ。そのため、腎機能低下により全身的に多彩な症候を呈する。


Seldinによる病期分類


 臨床症状の出現時期の推定には、Seldinによる腎不全病期分類が有用である。代償性腎不全期と非代償性腎不全期が保存期腎不全に相当する。

(1)腎予備能低下期

 GFRは80-50 ml/分で残存ネフロンは正常の50-25%と推定される。これは単腎に相当し,残存ネフロンGFRは正常の1.4—1.6倍となり腎機能を代償する。ほぼ無症状である。

(2)代償性腎不全期

 GFR50-30ml/分で残存ネフロンは正常30%以下となり,症状は少ないが,尿濃縮の障害による多尿や血清クレアチニン上昇,軽度の貧血などが認められるようになる。感染や脱水などの増悪因子が加わると容易に非代償期に移行する。

(3)非代償性腎不全期

 GFR30ml/分以下で残存ネフロンは15%以下となる。アシドーシス,貧血,骨障害,高血圧,成長障害などの様々な症状が現れる。

(4)尿毒症(末期腎不全)期

 GFR20ml/分以下で残存ネフロンは2%程度で、透析や腎移植を必要とするようになる。

病態生理からみた臨床症候


(1)体液バランスの異常

 バランスとは生体恒常性の維持のため、in(摂取量)とout(喪失量)が一致することである。腎不全早期には、尿濃縮力が低下し多尿となり、尿量は2L前後となる。尿量は多いので問題はないと誤解されることがある。尿希釈力は腎不全末期まで保たれるが,残存ネフロンが著明に減少すると,腎全体からの総水分排泄量は減少する。このため,過剰な水分摂取があると体内の水分過剰状態がおきる。

(2)ナトリウム(Na)バランスの異常

 ナトリウムバランスは腎不全末期まで保持される。腎機能低下にともない、糸球体から濾過されるナトリウム量は減少するが,尿細管ではナトリウムの再吸収が抑制される。ナトリウム排泄率(計算式は )は正常では1% 程度であるが、腎不全末期では30%にも増加する。しかし,腎全体からみると負荷されたナトリウムを十分排泄する能力は低下するため、ナトリウム過剰傾向がおこる。体内に蓄積したナトリウムは体液浸透圧を上昇させ,口渇中枢を刺激して飲水量を増加させる。同時に抗利尿ホルモン分泌の増加をもたらし、水の再吸収を促進させ,血清ナトリウム濃度と体液浸透圧は正常域内に維持される。そのため、ナトリウム貯留は血清ナトリウムの上昇ではなく、体液量の増加(浮腫,高血圧)として現れる。一方,GFR低下に見合わないナトリウム喪失傾向を示すこともある。とくに乳児では、通常のミルク摂取で低ナトリウム血症をきたしやすく,ナトリウム含有量の多い特殊ミルクを必要とする。

(3)カリウム(K)バランスの異常

 摂取されたカリウムはほぼ90%が腎臓から排泄される。急性腎不全と異なり、慢性腎不全では急速な高カリウム血症は少ない。これは尿中,便中へのカリウム排泄の増加という代償機構による。便中カリウム排泄は健常人では摂取量の10-20%であるが末期腎不全では40-50%に達する。高カリウム血症が生じるのはGFR 10ml/min以下で、主に(4)で述べる代謝性アシドーシス(酸血症)のために、細胞内から細胞外へカリウムの移動のために起きる。

(4)酸塩基平衡バランスの異常

 生体内で産生される酸は非常に多量であるが,揮発性酸として炭酸に変換された後,H2CO3→H2O+CO2の反応より、二酸化炭素が肺から呼吸により排泄され,酸の体内蓄積は起こらない。一方,蛋白質や有機物質の代謝により,リン酸,硫酸などの約1mEq/kg/日の不揮発性酸(固定酸)が産生され,酸塩基平衡に影響を与える。固定酸はリン酸などの滴定酸およびアンモニウムイオン(NH4+)の形で排泄される。酸排泄に伴い、主に近位尿細管から重炭酸イオン(HCO3-)が再吸収され、重炭酸イオンレベルが維持される。

 慢性腎不全のアシドーシスの主因はアンモニウムイオン排泄低下である。アンモニウムイオン排泄にはかなりの予備能があり、約10倍まで増加しうる。アシドーシスの進行は比較的緩徐で、血清重炭酸イオンは12-18mEq/L程度に維持される。これは呼吸性の代償,骨による緩衝作用が働くためであるが,このことが腎不全の骨病変(腎性骨症)の原因の一つでとなる。

(5)カルシウム(Ca)・リン(P)のバランスの異常

 血清カルシウムの主な調節因子は副甲状腺ホルモン(PTH)と活性型ビタミンD(1,25(OH)2D3)である。副甲状腺ホルモンは骨からカルシウムを動員し,腎ではカルシウムの再吸収を促進するが,リンの再吸収は抑制する。これらの作用により、血清カルシウムは上昇,血清リンは低下の方向に動く。副甲状腺ホルモンはさらに近位尿細管での活性型ビタミンD産生を促進する。活性型ビタミンDは腸管からのカルシウム・リンの吸収促進し,さらに、副甲状腺ホルモンの骨や腎への作用を促進する。一方で,副甲状腺ホルモン分泌は血清カルシウムと活性型ビタミンDにより調節される。このように活性型ビタミンD,副甲状腺ホルモン,カルシウム,リンは相互に複雑な調節作用を持つ。

 腎不全の代表的な骨病変は線維性骨炎であるが、その主因は二次性副甲状腺機能亢進症である。腎機能が低下すると、ビタミンD活性化障害により活性型ビタミンDは低下する。そのため、腸管からのカルシウムの吸収は低下し、低カルシウム血症をきたす。この低カルシウム血症を介して副甲状腺ホルモン分泌が促進される。副甲状腺ホルモンは活性型ビタミンD産生を促進し、血清カルシウムを正常化する。しかし,さらに腎機能が低下すると活性型ビタミンDはさらに低下し,結局、副甲状腺ホルモンは上昇したままとなり,副甲状腺機能の亢進,副甲状腺の腫大・増殖が起きる。

検査成績

(1)血清クレアチニン(Cr)とBUN

 クレアチニンは腎機能の最も簡単な指標であるが,広範囲なネフロン減少があっても正常値よりのわずかな上昇に留まる。クレアチニンは筋肉量に比例し小児では低く、異常値を見逃されることがある。また,測定法により差がある。各年齢の正常値の把握が必要である。上村らによれば、1歳以上12歳未満の児では、正常クレアチニン予測値(酵素法)(mg/dl)=身長(m)×0.3と推定される。BUNは腎機能以外の因子の影響を受けやすく,高蛋白食,異化亢進,脱水などで上昇,肝疾患や体液増加で低下する。

(2)クレアチニンクリアランス(CCr)

 GFRは正確にはイヌリンクリアランスにより測定するが,臨床的には簡便なクレアチニンクリアランスで代用する。しかし、尿量の正確な採取が必須であり、小児では困難なことも多い。また、クレアチニンの尿細管分泌が腎機能低下に伴い増加するため、腎機能低下が進行しても過少に評価される。

(3)推定GFRの求め方

 小児では正確な尿採取が困難なので,以下のSchwaltzの式で推定される。推定GFR(ml/min/1.73m2)=k×身長(cm)÷血清クレアチニン(mg/dl)。血清クレアチニン値はJaffe法を用い,Jaffe法のクレアチニン値=酵素法のクレアチニン値+0.2。

 k値は1歳以下(低出生体重児)0.33,1歳以下(正常出生体重児)0.45,2〜13歳0.55,13〜21歳女0.55,13〜21歳男0.70である。

治療

腎不全の進行抑制


 活性炭(クレメジン)やACE阻害薬,蛋白制限食などが試みられる。活性炭は消化管の尿毒性物質を吸着して排泄するもので、腎不全の比較的早期から投与する。ACE阻害薬は腎保護に繋がるとされ、小児の経験は少ないが、効果が認められる可能性がある。成人では広く行われる蛋白制限食は、小児とくに乳児では成長発達面で問題がある。年長児でも心理的問題,蛋白制限による熱量摂取低下などに注意が必要で,一般的に小児では継続困難であるので、行わない。ほぼ年齢相当の熱量摂取とともに蛋白過剰摂取にならないように栄養指導を行う。


末期腎不全治療の導入基準


 Ccr<10mL/min/1.73m2をめやすとするが、数値よりも臨床症状で検討する。小児期は成長発育を最大限に引き出すことが目標となる。十分な栄養を与えても成長障害がある場合,体液過剰による高血圧や心拡大,血清カリウム,アシドーシスがコントロールできない場合は適応である。また,先天性ネフローゼ症候群や巣状糸球体硬化症では早期の透析導入により難治性の浮腫のコントロールが可能となる。


合併症の病態と治療


(1) 成長障害腎不全による成長障害は成長ホルモン(GH)・インスリン様成長因子 (IGF) -1系の異常,栄養状態,貧血、骨障害,性ホルモン,蛋白質アミノ酸代謝異常,酸塩基平衡など多くの因子が関与している。なかでも成長ホルモン系の異常と乳児期の栄養状態がとくに重要である。リコンビナントヒト成長ホルモン投与は腎不全の小児の標準的治療である。乳児期のエネルギー摂取量は成長と密接な関係があるが,食欲不振から食事摂取が十分でないことが多い。積極的に鼻腔チューブ栄養を行い、適切なエネルギー確保を図る。ときに胃ろうも必要となる。

(2)腎性骨症(ROD)

 組織学的に線維性骨炎,骨軟化症,無形成骨症,混在型に分類される。線維性骨炎は二次性副甲状腺機能亢進症により起き、レントゲン写真では手骨の骨膜下吸収像が特徴的である。骨軟化症はビタミンD活性化障害により、類骨の石灰化障害がおき、レントゲン写真では骨端部のくる病性変化を認める。

(3)腎性貧血

 エリスロポエチン(EPO)欠乏が主因である。リコンビナントヒトエリスロポエチン投与でほとんどの症例で改善が見られ,抵抗性の原因は鉄欠乏が多い。

(4)心血管系合併症

 小児の腹膜透析患者の主な死亡原因は感染症と心血管系合併症である。1990年以降は感染症が減少し,相対的に心血管系合併症が多くなっている。心血管系合併症の予防には、適切な体液管理が最も重要である。長期の体内水分過剰(溢水)による高血圧は、心筋症を引き起こす可能性がある。とくに乳幼児は体重当りの必要熱量,水分摂取量が多く,容易に体液過剰に陥る。一方,食欲の変化や透析による除水などで低血圧やショックにいたることがある。小児では各年齢で正常血圧が異なる。年齢相当の正常血圧を維持するように体重管理する。毎日の状態にあわせた透析処方の変更や適切な栄養指導が必要である。


末期腎不全の治療


 小児末期腎不全患者の最善の治療は腎移植である。北アメリカの膨大な小児腎不全患者統計であるNAPRTCS1) によると、小児腎移植の25%は透析を経ない腎移植である。わが国でも2003年には15歳未満の透析を経ない腎移植は全腎移植の約16%を占め、さらに増加しつつある。一方、わが国の小児の透析での生存率は腎移植と同様にほぼ良好であり、腎移植までのつなぎの治療としての小児の透析は許容される。

(1)腹膜透析2)

 胃瘻、尿管瘻、人工肛門、腹筋欠損などがあっても可能で、腹膜炎のリスクも増加しない。しかし、腹壁欠損、広範囲の腹部手術や癒着などで腹腔内が狭い場合や、腹膜機能低下がある場合には困難である。家族の治療への意欲や理解が得られない時も適応ではない。

 乳児は血液透析アクセスの維持が困難であり、家族と一緒の生活が重要で、腹膜透析が最も適する。就学年齢の児では、学校生活を普通にできることが重要である。わが国では小児の約2/3で夜間のサイクラーによる自動腹膜透析(APD)が選択されており、学校通学はもちろん、クラブ活動、修学旅行なども可能である。

(2)腎移植

 比較的ハイリスクと考えられる低体重(低年齢)、血管異常、重篤な下部尿路障害、ABO血液型不適合移植、悪性腫瘍、再発性腎炎、重度知的障害などでも、移植技術の進歩とともにほぼ可能となってきた。小児腎移植の経験豊富な施設では体重8Kgでも可能とされるが、腎不全児は年齢相当より低体重の児が多いので2歳以上で行われることが多い。

予後

予後3)

 腎移植や透析技術の進歩により小児末期腎不全患者の生命予後は大きく改善された。小児の末期腎不全治療の選択は腎移植がベストであるが,日本では献腎(死体腎)移植の普及は諸外国に比べ大幅に遅れている。そのため,ほとんどが両親からの生体腎移植であり,近親にドナー候補のない場合は長期透析とならざるをえない。予後やQOLに大きく影響する心血管合併症や腎性骨症などの合併症,成長障害などの問題点は透析や腎移植の時期から出現するのではなく,すでに腎不全保存期,さらに腎疾患治療の時期の管理に端を発することが多い。このため,腎疾患発症から予後に関して長期の展望をもち,病態にあわせた適切な予防・治療が必要である。

 
表1. 小児の高血圧の判定(年齢による血圧の上限値)

文献

1) NAPRTCS
http://www.spitfire.emmes.com/study/ped/index.htm/

2) 小児PD研究会
http://www.linkclub.or.jp/~pedpdjpn/

3) 星井桜子:わが国の小児における透析治療の選択。腎と透析62,1055-1059,2007

(MyMedより)推薦図書

1) 五十嵐隆 著:小児腎疾患の臨床,診断と治療社 2010

2) 山城雄一郎:新小児科学 第2版,日本医事新報社; 改訂版 2005

3) 湯村和子, 新田孝作, 土谷健 編集:腎不全・透析患者指導ガイド,日本医事新報社 第2版 2009
 

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