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最終更新日:2010.08.27

薬物中毒(やくぶつちゅうどく)

執筆者: 梅原 実 大村 在幸

概要

定義

 中毒とは、化学物質などの吸入、経口的な摂取、皮膚・眼などに接触することにより体内に吸収され、有害な作用を身体に及ぼすことをいう。

背景

 小児科領域の中毒は、年齢別に以下のような背景がある。

生後5ヶ月から幼児

1)異物の誤飲によるもの。生後5ヶ月になると手に触れたものは何でも口に持っていくようになるので、口の中に入るものは子どもから遠ざけるといった予防策が重要である。
2)異食症によるもの。1歳から5歳までの幼児で両親の愛情不足など心理的な問題がある場合や精神発達遅滞の児でみられる。

学童期 

 6歳以上になると誤飲による中毒はほとんどみられなくなるため、1)被虐待児症候群、2)子どもを代理にしたミュンヒハウゼン症候群などを考慮し、疑わしい場合はまず入院させ児童相談所への通報を含め社会的な対応を行う。

小学生高学年から思春期 

 この年齢になると、1)自殺企図、2)薬物乱用による中毒がみられる。身体的な治療とともに精神科医による治療や臨床心理士によるカウンセリングが必要である。

病因

 中毒症の病因となる原因物質は様々である。原因物質が分かっている場合、その物質がどのような症状を引き起こすか、どのように対応するか情報を収集する。インターネット、電話、書籍により情報を収集することができる。

インターネットによる検索

1)日本中毒情報センター
2)日本中毒学会
3)TOXNET


電話による問い合わせ

1)中毒110番(一般者用:無料):大阪072-727-2499(365日、24時間)、つくば029-852-9999(365日、9時~21時)。

2)中毒110番(医療機関専用:1件につき2000円):大阪072-726-9923(365日、24時間)、つくば029-851-9999(365日、9時~21時)。
3)たばこ専用電話(テープによる一般市民向け情報提供:無料):072-726-9922(365日、24時間)。

書籍

1)新・絵で見る中毒110番-家庭に一冊おたすけ本-.内藤裕史ほか著:健康同人社(東京)1992。

2)急性中毒処置の手引-必須272種の化学製品と自然毒情報-.鵜飼卓監修、日本中毒センター編集:じほう(東京)1999。

3)中毒症のすべて-いざという時に役立つ、的確な治療のために-.黒川顕編集、永井書店(大阪)2006。

病態生理

 ほとんどの中毒が消化管から吸収された後、血流に乗り肝臓などで代謝され標的臓器で症状を発現する。したがって、治療は
1)消化管からの吸収をなるべく防ぐ、
2)血流に乗った物質を排除する、
3)標的臓器で症状を発現しないように解毒薬・拮抗剤を投与する、
4)標的臓器の症状に対する対症療法や支持療法を行う、
ということになる。それぞれの治療の方法については、7章の治療の項目で述べる。標的臓器での症状発現の病理・薬理についてはそれぞれの薬毒物で異なり、2章で挙げた書籍などで調べることができる。

臨床症状

 薬毒物を摂取した場合たとえ症状がなくても、出現する可能性がある症状と薬毒物の半減期などについて、2章で挙げた方法で調べ注意深く観察する。

自覚症状

 自覚症状として重要なのは自律神経系の異常による症状で、1)副交感神経系の亢進による症状(嘔気・嘔吐、下痢、流涙、流涎)、2)交感神経系の亢進による症状(興奮)、3)副交感神経系の抑制による症状(口渇、尿閉)、などが挙げられる。これらの症状は中毒起因物質が不明な時の診断に役立つ。

他覚症状

 他覚症状の評価はまず、
1)気道、
2)呼吸、
3)循環(ショック・不整脈・高血圧の有無)、
4)神経機能(意識・瞳孔の評価、痙攣の有無)、
5)露出(体温、皮膚、発汗の有無)、
といった救急診療で行われている生理学的徴候(バイタルサイン)を重視する観察方法で行う。それぞれの項目の評価と対応については、7章の治療の項目で述べる。

検査成績

 中毒の基本は全身評価であるので一般的な検査はすべて行う。胸部・腹部レントゲン、心電図、血液検査、尿検査に加え、精神・神経に異常がある場合は頭部CTを行う。

胸部レントゲン

 誤嚥性肺炎、肺水腫、心不全の有無を評価する。治療による合併症の評価のために、胃洗浄や活性炭投与をする前に必ず1枚撮影することが望ましい。

腹部レントゲン

 イレウスの有無やレントゲンに写る鋭利な物体などが胃内にないかどうか確認し、胃洗浄や活性炭投与ができるか評価する。鉄剤などはレントゲンに写ることがある。胃洗浄や活性炭投与を行う前に、誤嚥を避けるため胃管の先端の位置を確認することが望ましい。

心電図

 QT延長の有無を価する。

血液ガス分析

 二酸化炭素の上昇を認めれば補助換気を考慮し、乳酸値の上昇を認めれば循環不全の評価を迅速に行う。CO-HbとMet-Hbが測定できる場合は一酸化炭素中毒やメトヘモグロビン血症の診断と重症度の評価に役立つ。サリチル酸、イソニアジド、メタノール、トルエンなど代謝性アシドーシスが認められる中毒もある。

血液・尿検査

 肝・腎機能を評価することは重要で、薬毒物による肝・腎障害の有無を確認する。肝・腎機能低下を認める場合は、薬毒物の代謝・排泄が遅延する可能性があり注意が必要である。また、横紋筋融解症が発症していないかどうか、CK、AST、ALT、LDH、アルドラーゼをチェックする。尿検査ではミオグロビン尿かどうか確認する。尿潜血反応が陽性で尿検鏡で赤血球が認められなければミオグロビン尿である。

頭部CT

 意識障害や痙攣を認める場合は、転倒などにより頭部外傷を合併している場合や、痙攣により脳浮腫が認められることがある。

診断・鑑別診断

実用的分析方法

 中毒起因物質が不明の場合、または摂取したと思われる薬毒物の情報と臨床症状が違う場合など、原因となる物質を同定する必要が生じることがある。日本中毒学会によって「分析が有用な中毒起因物質15品目」が提唱され、実用的分析方法について提示された。この分析機器を配備されていない施設では、Triageなどの簡易分析が有用であるが、この結果を確定診断とするのは危険である。

分析依頼

 他施設に分析を依頼するには、1)日本中毒センターの賛助会員向けホームページから分析施設の連絡先の情報を得る、2)広島大学医学部法医学教室の運営する中毒ネットワークを利用し分析専門家に依頼することができる。

試料の採取・保存

 起因物質分析のための試料として、胃内容物・血液・尿を採取・保存する。胃内容はできれば全量採取し、固形と液体とに分けて保存することが望ましい。血液は原則としてヘパリン採取とし、凍結する場合は遠心分離し血漿と血球に分けて保存することが望ましい。尿は時間毎に小分けに容器に入れ、できれば全量保存する。

治療

 日本中毒学会が推奨する標準治療を参考に、小児の特性をふまえ中毒治療について述べる。中毒治療の内容は以下の通りである。
 
1)消化管からの吸収を防ぐ(消化管除染)。 
2)血液中の中毒物質を排除する(血液浄化法、強制利尿)。 
3)標的臓器で症状を発現しないように拮抗薬を投与する。 
4)標的臓器の症状に対する対症療法や支持療法を行う。

 それぞれの治療方法について、適応・禁忌・合併症などを含め説明する。

消化管除染

 消化管除染の方法には、1)催吐(トコンシロップ)、2)胃洗浄、3)活性炭、4)緩下剤(活性炭と併用)、5)腸洗浄、がある。除染率は胃洗浄+活性炭が最もよい。催吐単独と胃洗浄単独では除染率がほとんど同じであるが、活性炭単独より劣る。腸洗浄の除染率については不明である。基本的には致死量でない中毒や摂取量が比較的少ない場合は活性炭投与が第一選択と考えられる。以下にそれぞれの方法について述べる。

催吐(トコンシロップ)

 トコンシロップは嘔吐発現率が高く、乳幼児の誤飲に用いられることがあるが、これは1)乳幼児は誤飲したものが比較的大きい場合それを吸引するのに充分な太さの胃管の挿入が困難であったり、2)胃洗浄の乳幼児へ及ぼす負担が大きいなどの理由からである。しかし嘔吐が発現しなかった場合、胃洗浄などの追加の処置が必要であったり、摂取後1時間以上経過して胃洗浄が有効でなくなることがある。また、活性炭やN-アセチルシステインなどの解毒剤の投与が必要な場合は嘔気が収まるまで投与できない。

【適応】

 他の消化管除染ができない、あるいは適切ではない状況で、中毒量と思われる量の薬毒物を摂取し、摂取後1時間以内で、誤嚥の危険がない場合。

【禁忌】

1)6ヶ月未満の乳児(安全性が確立されていない)

2)昏睡・痙攣・咽頭反射がない、あるいはトコンシロップ服用時症状がなくても嘔吐時に痙攣や意識消失の症状が出現すると予想される場合

3)腐食性物質、揮発性物質、鋭利なもの、炭化水素の誤飲

4)嘔吐により胃や食道の出血が予測されるような出血経傾向などの重篤な基礎疾患を有する場合

5)嘔吐により徐脈になる可能性がある薬物(カルシウム拮抗薬、βブロッカー、ジギタリス、クロニジン)の摂取時や循環器疾患を有する場合

6)活性炭の反復投与が必要な持続性製剤の誤飲

7)制吐薬を服用している場合

8)たばこの浸出液誤飲時

【方法】

1)生後6ヶ月以上1歳未満:1回8ml投与、嘔吐がない場合の再投与はできない。

2)1歳以上12歳未満:1回12ml投与、30分以内に嘔吐がなければ同量を再投与。

3)12歳以上:1回15ml投与、30分以内に嘔吐がなければ同量を再投与。

【合併症】

 下痢、経眠、嘔気の遷延などあるが、どれも軽度である。

胃洗浄

 ときに合併症を起こし危篤な場合があるため、適応を選ぶことが重要である。方法では、誤嚥の防止と胃管挿入時の食道・胃の損傷防止に細心の注意をはらう。

【適応】

1)大量の薬毒物あるいは毒性の高い物質を経口的に摂取していて、胃内に多く残留していると推定できる場合。

2)基本的に摂取後1時間以内に胃洗浄を行うが、サリチル酸や抗コリン薬など腸管蠕動を抑制する薬毒物や、胃内で塊になりやすいものなど胃内容物の停滞が考えられる場合は、数時間を経過していても胃洗浄で回収できる可能性がある。

3)活性炭投与が不適当な中毒症例(活性炭に吸着されない毒物、きわめて大量の服毒、麻痺性イレウス例など)は胃洗浄の最もよい適応である。

【禁忌】

1)意識状態の低下、痙攣があるときは誤嚥を防止するために必ず挿管する。

2)石油製品、有機溶剤、また、強酸や強アルカリなどの腐食性毒物を摂取したとき。

3)鋭利な物体を同時に飲みこんでいる場合や激しい嘔吐が先行している場合は食道・胃の損傷の危険がある。

4)胃の生検や手術を受けた直後、出血性素因、食道静脈瘤、血小板減少症がある場合は大量出血の可能性がある。

5)胃切除後。

【方法】

1)準備するもの

I 胃管:乳幼児では16~28Fr、思春期には34~36Frの先端の丸くて腰があり、側孔が多数開いた胃管を用意する。14Fr以下の経鼻胃管は、内径が小さいため毒物の粒子や錠剤が通過しないだけでなく、激しい鼻出血をきたすことがあるので避ける。

II 洗浄液:乳幼児には水道水を使うと低Na血症の危険があるため、生理食塩水が望ましい。思春期には水道水でもよい。洗浄液は38度前後に温めておく。

2)実施の前に

I 気道の吸引装置を用意し、咽頭反射のない意識障害患者には、あらかじめ気管挿管を行う。心電図モニターやパルスオキシメーターを装着しモニターする。

II 体位は左側臥位、頭側を15°程度まで低くし、両下肢は屈曲位にする。これは、幽門側を高くすることで、胃内容の流出を妨いで洗浄の効率を高め、嘔吐した場合の誤嚥を防ぎやすい。また、下肢を屈曲位にすることで腹壁の緊張が低い状態に保たれる。

3)実施方法

I 胃管の挿入:挿入経路は、経口が好ましい。洗浄液を注入する前に、吸引して胃内容をできるだけ排出しておく。胃内容は摂取された毒物の診断に役立つので、性状をよく観察しその一部を保管する。

II 洗浄液の注入、排液:1回ごとの注入量は10~20ml/kg、上限は200~300mlとし、急速には注入しない。洗浄の排液が透明になるまで繰り返す。

【合併症】

 誤嚥性肺炎、喉頭痙攣、低酸素血症、頻脈、食道や胃の出血・穿孔、体液電解質異常などが知られている。その他に自律神経反射による徐脈、不整脈、低血圧や冷たい洗浄液による低体温などがある。

活性炭

 活性炭投与が臨床的転帰を改善するという大規模な臨床対照研究はないが、活性炭の吸着効果は動物実験とボランティアによる研究などで証明されている。活性炭の吸着能力は消化管内に食物や牛乳・エタノールが存在すると低下する。活性炭には、すでに血中に吸収されている薬毒物の排泄促進効果(腸管透析)があり、活性炭の繰り返し投与が有効なことがある。禁忌例および活性炭に吸着しない物質以外のすべての中毒で活性炭投与を行う。

【適応】

 服用から1時間以内の大量服毒や毒性の高い物質の摂取では胃洗浄と活性炭投与を行い、それ以外では活性炭単独投与を早期に行う。繰り返し投与が有効な薬物として、  テオフィリン、三環系抗うつ薬、フェノチアジン系薬、フェノバルビタール、オピオイド、カルシウム拮抗薬、抗コリン薬などが適応である。また、臨床的には証明されていないが繰り返し投与により排泄が増強されると考えられる薬物として、  バルプロ酸、カルバマゼピン、フェニトイン、ジギトキシン、サイクロスポリン、フェニルブタゾン、ナドロール、サリチル酸などが挙げられる。

【禁忌】

1)腸管閉塞、消化管穿孔は絶対的禁忌である。また、腸管運動を抑制する薬物の服用や麻痺性イレウスによる腸蠕動の低下時は相対的禁忌である。

2)活性炭に吸着しない薬毒物として、強酸、強アルカリ、エタノール、エチレングリコール、鉄、硫酸鉄、リチウム、ヒ素、カリウム、ヨウ素、ホウ酸、フッ化物、臭化物などが知られている。

【方法】

1)準備するもの

I 活性炭は飛散しやすく衣服などに付着すると落とすのが困難なため、予防衣を着る。

II 溶解液として生理食塩液、思春期では水道水でよい。経口で飲ませる時は飲みやすいようにフレーバーやソフトドリンクなどと一緒に投与することもできる。

III 胃洗浄後はそのまま挿入されている胃管からも投与できる。そうでない場合は太めの胃管(経鼻胃管18Fr程度)を用意する。

2)投与量と溶解法

I 活性炭1g/kg 、最大50gを10~20ml/kgの生理食塩液または水道水に溶解する。

II 1時間以内に嘔吐したら、半量を投与する。

III 繰り返し投与法を行う場合は、半量を2~6時間ごとに1~2日間投与する。

3)実施方法

I 意識が清明なときには、溶解した活性炭をコップに入れ、座位で服用させる。

II 意識障害がある、服用が困難なときには、経口または経鼻胃管を通して胃内に注入する。このとき、胃内容物をできるだけ吸引したのちに活性炭を投与する。

III 意識障害や咽頭反射が消失しているときには、誤嚥防止が重要であり、気道確保のため活性炭投与前に気管挿管を行う。

4)緩下剤の併用

I 薬毒物と結合した活性炭を短時間で体外に排出するため併用する。

II 活性炭の繰り返し投与法は、初回投与時は緩下剤を併用し、2回目以降は原則として併用しない。

【合併症】

 活性炭の誤嚥には細心の注意をはらう。嘔吐、便秘、消化管の閉塞などの消化器の合併症がある。また、活性炭の繰り返し投与では、治療のための薬物(抗痙攣薬など)も体内から除去され、治療薬の血中濃度が低下するので注意する。

緩下剤

【適応】

 緩下剤を単独で使用しても効果は低く、薬毒物と結合した活性炭を短時間で体外に排出するため併用する。

【禁忌】

 麻痺性イレウス、腸管閉塞、腐食性物質の服用、重症の電解質異常。Mg、Naなどを含有しているため、心機能、腎機能低下時には慎重に投与する。

【方法】

 ソルビトールが用いられることが多い。塩類下剤も使用されている。

1)ソルビトール:D-ソルビトール液または粉末製剤を水に溶解して35%程度の溶液(D-ソルビトール液を約2倍希釈)として使用する。投与量は0.5~1g/kg、思春期で1~2g/kg。

2)塩類下剤:硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸マグネシウム、酸化マグネシウムがある。クエン酸マグネシウム(マグコロール、マグコロールP散剤)は思春期で27~34gを1回に投与する。硫酸マグネシウムは250mg/kg、最大15gを使用する。

【合併症】

 体液・電解質・酸塩基の異常に注意する。Mg含有緩下剤の合併症として高Mg血症があるが、症状として血圧低下、悪心・嘔吐、筋麻痺がみられ、最重症症例では呼吸抑制、意識障害、低体温、心停止にいたる。 ソルビトールは、悪心・嘔吐、腹痛を伴うことがある。



腸洗浄

 比較的新しい方法であるため、有効性や合併症などの検証が充分でなく、中毒の治療として保健適応も認められていない。しかし、症例によっては他の消化管除染より理論的には効果が期待できる場合もがある。

【適応】

 重篤な中毒症状を起こす可能性がある場合で、以下の条件を満たすもの。

1)活性炭など吸着剤の効果が少ない。例:鉄、ヒ素、鉛などの金属類。

2)吸収が比較的遅いもの。例:徐放剤、腸溶剤、麻薬のボディーパッカー。

 また、治療法が確立されていない致死性中毒に対しても腸洗浄を考慮する。
 
3)パラコート中毒など。

【禁忌】 腸閉塞、消化管出血・穿孔、難治性持続性嘔吐、ショックなど。

【方法】

1)ニフレックTMをバルーン付十二指腸チューブ(胃内に胃洗浄で取りきれない錠剤などがある場合は胃管)より注入する。

2)ニフレックTMは38度前後に温め、 6歳以下:500ml/hr、学童:1000ml/hr、12歳以上:1500ml/hr の速度で投与する。

3)透明な水様便が排泄されるまで投与する。また、鉄剤などX線不透過のものであればX線像で消失するまで投与する。

【合併症】

 嘔吐による誤嚥には細心の注意が必要である。また、腸洗浄施行中、体温と電解質のモニターをする。自律神経反射により循環異常が現れることがあるので注意する。

血液中の中毒物質を排除する(血液浄化法、強制利尿)

 体内の中毒物質を血液を浄化することで体外に排泄させる血液浄化法や、利尿を促し排泄を促進させる強制利尿といった治療法があり、これらについて述べる。

血液浄化法

 中毒治療では、全身状態が不良でかつ消化管除染ができない場合、あるいは消化管除染が不十分であったり効果が望めない場合に血液浄化法を考慮する。中毒物質を排泄させる目的で施行される血液浄化法には血液透析(HD)と直接血液灌流(DHP)があり、中毒物質の除去率は低いが全身状態の管理目的に施行される持続的血液濾過透析(CHDF)がある。

1)血液透析

 除去できるのは低分子で水溶性が高く、蛋白結合率が低い物質である。活性炭に吸着されないアルコール類(エタノール、エチレングリコール)、臭化物、リチウムの除去を期待できる。

2)直接血液灌流

 血液を活性炭吸着カラムに灌流し、血液中の中毒物質を吸着させる方法である。活性炭に吸着されない物質以外は、中毒物質の水溶性の程度や蛋白結合率に左右されず除去できる。このカラムは最低でも70mlの容量を有するため乳幼児では施行が難しい。

3)持続的血液濾過透析

 血液透析よりも大きな分子の除去が可能であるが、除去効率が低く中毒物質の排泄効果は期待できない。血液透析や直接血流灌流施行後のリバウンドを軽減したり、全身管理を目的として施行する。

強制利尿

 中毒の治療として広く実施されてきたが、有効性が期待できる物質はごく僅かである。有効性が期待できるのは、バルビツレート中毒とサリチル酸中毒で、尿をアルカリ化すると排泄効率が上がる。禁忌は心不全と腎機能障害で、強制利尿施行中も心不全の出現や電解質異常に注意する。

【方法】

1)脱水による循環不全がある場合は、生食などにより10~20ml/kg急速輸液を循環が安定するまで施行し、その後高張液10ml/kg/hr+7%重炭酸ナトリウム5~10ml/kg/hrで開始する。

2)尿pH7.5以上、尿量3~6ml/kg/hrを目標とする。

3)充分な利尿が得られない時はマンニトール0.5~1.0g/kgを一時間かけて投与するか、フロセミド0.1~1.0mg/kg投与する。

拮抗薬、解毒薬

 拮抗薬や解毒薬が存在する中毒起因物質はごく一部である。以下に中毒起因物質に対する拮抗薬と解毒薬の使用方法を示す。

アセトアミノフェン中毒⇒N-アセチルシステイン

 原液又は希釈した液をアセチルシステインとして初回140mg/kg、その4時間後から70mg/kgを4時間ごとに17回、計18回経口(胃管)投与する。投与後1時間以内に嘔吐した場合は再度同量を投与。過量摂取後、8時間以内に投与、24時間までは効果発現。

有機リン・カーバメイト剤中毒⇒PAM、硫酸アトロピン

 PAM(解毒薬)は25~50mg/kg(最大1g)を生食に溶解し30分かけて投与する。筋肉の症状の改善がみられたら25mg/kg/hr(最大500mg/hr)持続投与する。

 硫酸アトロピン(拮抗薬)は0.05mg/kg静注し、重症例では0.02~0.08mg/kg/hrの持続投与を考慮する。

青酸(化合物)中毒⇒亜硝酸アミル、(亜硝酸ナトリウム、)チオ硫酸ナトリウム

 亜硝酸アミル吸入液を吸入させる。(次に亜硝酸ナトリウム(市販されていない)10mg/kgを5~10分で静注する。)これにより人為的にメトヘモグロビンを産生させ、この時に遊離したシアンと結合させるためにチオ硫酸ナトリウム30~50mg/kgを投与し腎より排泄させる。

クマリン系殺鼠剤中毒⇒ビタミンK

 プロトロンビン値を参考に投与する。

鉛中毒⇒エデト酸ナトリウム

 15~25mg/kg静注(5%ブドウ糖に溶解)を約1時間かけて1日2回、5日間連用後2日間休薬する。

鉛・水銀・銅・中毒⇒D -ペニシラミン、ジメルカプロール(BAL)

 D-ペニシラミン(キレート剤)は100mg/kg/日(最大1g)分3~4経口投与を3~10日を目安に行う。尿中の重金属量の値をみて投与の継続を考慮。腎機能障害やペニシリンアレルギーがあるときは使用を避ける。

 バル(キレート剤)は1回2.5mg/kgを初日は6時間ごと、2日目以降は1日1回筋注する。重症の場合は1回2.5mg/kgを4時間ごと2日間、3日目には6時間ごと投与し、4日目以降回復まで12時間ごとに筋注する。副作用として小児では高熱がよく見られる。

鉄中毒⇒デフェロキサミン

 デフェロキサミン(キレート剤)はヘモクロマトーシスに適応があり、1日最大80mg/kgを点滴静注することができる。血清鉄が90μmol/l以上の鉄中毒のときは投与を考慮する。

対症療法、支持療法

 ここでは、救急診療で行われている生理学的徴候(バイタルサイン)を重視する観察方法に準じて、1)気道、2)呼吸、3)循環(ショック・不整脈・高血圧の有無)、4)神経機能(意識・瞳孔の評価、痙攣の有無)、5)露出(体温、皮膚、発汗の有無)のそれぞれの項目について、その評価と対応、そして症状と関連する中毒について述べる。

気道

 以下の3つの危険因子のうち1つでも存在すれば、気道確保が必要である。I 舌根沈下、上気道浮腫などの閉塞原因、II 嘔吐から誤嚥の危険性、III 陽圧換気の必要性。急性中毒では誤嚥の危険性が相対的に高いため、気管挿管の決断が遅れると致死的になることがあり、早めの対応が望ましい。以下に該当すれば原則として気管挿管に踏み切るべきである。

1)意識障害(だいたいJCS 30以上)によって舌根沈下や吐物の誤嚥の危険が大きい、あるいは、そうなることが予想される時(危険因子のIとII)、またそのような患者に胃洗浄を行う場合。

2)腐食性毒物によって上気道に狭窄・閉鎖があるとき(危険因子I)。

3)化学性肺炎を惹起しやすい毒物(有機溶剤、酸、アルカリなど)を摂取した症例に胃洗浄を行うとき(危険因子II)。

4)痙攣や強いせん妄に対して強力な鎮静を行うとき(危険因子IとIII)。
 
 気管挿管の手技自体が嘔吐を誘発するので細心の注意をはらう。以下に注意点を挙げる。

1)挿管困難がないかどうか評価し挿管ができると判断した場合は鎮静薬・筋弛緩薬を用いるほうが嘔吐を誘発しにくい。

2)鎮静薬・筋弛緩薬を投与する前に自発呼吸を活かし十分酸素化する。鎮静薬・筋弛緩薬を投与してから挿管完了まで自発呼吸が消失してもマスク換気をしない。マスク換気で胃内へ空気が入ると嘔吐を誘発する。

3)挿管時、輪状軟骨を圧迫し食道を閉鎖、胃からの吐物の逆流を防ぐ。

4)挿管チューブはなるべくカフ付を使い、気管内への吐物の流入を防ぐ。

呼吸

 薬毒物の直接作用による呼吸障害には、呼吸器官(気道・肺)を傷害するものと呼吸運動を阻害するものがある。以下に具体的な毒物を示す。

1)呼吸器官を障害する薬毒物

a) 局所的暴露

I 組織障害性のガスや微粒子の吸入:塩素ガス、塩化水素ガス、アンモニア、亜硫酸ガス、硫化水素、ホスゲン、窒素酸化物、酸化エチレンなど。

II 腐食性毒物の接触(誤飲・誤嚥):酸、アルカリ、有機溶剤など。

b) 全身的暴露:パラコート

2)呼吸運動を阻害する薬毒物

a) 呼吸中枢の抑制:バルビツレート、モルフィンなど。

b) 末梢神経・呼吸筋の麻痺:ふぐ毒、有機リンなど。 呼吸運動を阻害する薬毒物は人工呼吸管理が必要である。また、パラコート中毒は酸素投与によって肺の器質的病変が進行するため低酸素血症のときは最低限の濃度で酸素を投与する。

循環(ショック・不整脈・高血圧の有無)

 急性中毒で生じる循環障害は、1)不整脈、2)ショック、3)異常高血圧に大別される。それぞれの対応と中毒に特異的な治療について述べる。

1)不整脈

a) 徐脈

 一般的な徐脈に対する治療で対応する。すなわち硫酸アトロピンの静脈注射、経皮的あるいは経静脈的心臓ペーシングである。危篤なショックを合併する時にはドパミン、エピネフリンの持続投与を行う。ただし、イソプロテレノールは抹消血管拡張による低血圧や心室性不整脈の危険があるので、大量のβ遮断薬中毒に限って使用する。

 特異的な治療として、β遮断薬に対するグルカゴン投与(生食で溶解、0.05~0.15mg/kg静注し効果があれば持続で0.1mg/kg/hrで投与)、三環系抗うつ薬などの膜安定化作用薬に対する炭酸水素ナトリウム(pH7.5前後を目標に投与)、カルシウムチャンネルブロッカーに対する塩化カルシウム(10~20mg/kg投与後持続で20mg/kg/hrで投与)などがある。

b) 頻脈

 中毒で起こる洞性頻脈には高体温・ショック・組織低酸素など二次的に生じることがある。毒薬物で生じている場合には、交感神経系刺激薬に対してプロプラノロール、中枢神経系興奮作用薬に対してベンゾジアゼピン系薬物の投与を考慮する。

c) 心室性不整脈

 交感神経系刺激薬による心室頻拍はリドカインが有効なことが多い。フッ化物や芳香族炭化水素溶剤にはプロプラノロールの投与が適応となる。三環系抗うつ薬による心室頻拍にプロカインアミドやジソピラミドなどのI a群の抗不整脈薬は禁忌である。膜安定化作用薬によるQTc延長に引き続くtorsades de pointesに対しては、血液ガス分析でpH7.50~7.55を目標に炭酸水素ナトリウムを投与する。低酸素血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症が増悪因子となるので補正が必要である。硫酸マグネシウムを投与する場合は低血圧の出現に注意する。Torsades de pointesに対する電気的徐細動は無効のことが多く、可能であれば電気的オーバードライブペーシングを行う。

2)ショック

 ショックに対しては、まず循環血液量を回復するために生食や細胞外液の急速輸液を行う。適切な輸液によってもショックから離脱できなければ心エコーを行い適切なカテコラミン投与を開始する。特異的な治療として、β遮断薬に対するグルカゴン投与、三環系抗うつ薬などの膜安定化作用薬に対する炭酸水素ナトリウム、カルシウムチャンネルブロッカーに対する塩化カルシウムなどがある。

3)異常高血圧

 中枢神経系興奮作用のある薬毒物による異常高血圧に対しては、まずベンゾジアゼピン系薬物による鎮静が適応である。鎮静のみでは十分に降圧できない場合にはニトログリセリンもしくはニトロプルシッドを使用する。また、ニカルジピンの持続投与も有効である。

 急性中毒による異常高血圧に対し、プロプラノールの単独使用は禁忌である。プロプラノールがβ2受容体を遮断するとα刺激作用が増悪して高血圧が悪化する危険があるからである。フェニルプロパノルアミンなどによるα刺激作用で生じる異常高血圧に対してはフェントラミンが適応となる。

神経機能(意識・瞳孔の評価、痙攣の有無)

 意識障害の評価は通常の方法で行う。気道の確保と誤嚥の防止が重要である。瞳孔の評価は、薬物によって散瞳あるいは縮瞳するものがあり中毒起因物質が分からない場合は診断に役立つ。薬物中毒による痙攣発作は意識障害を伴う全身性の強直・間代性痙攣が多い。痙攣重積発作は緊急に治療が必要であり、30~60分以内に発作のコントロールをすることが重要である。治療薬は通常用いられる抗痙攣薬を用いるが、中毒物質によっては特異的拮抗薬が必要となる。痙攣と紛らわしい不随運動があり、それらの病態に適した治療が必要である。

1)抗痙攣薬の投与気道・呼吸・循環に注意しながら抗痙攣薬を投与する。

 a) ジアゼパム0.2~0.5mg/kg静注、痙攣が持続する場合は、

 b) ミダゾラム0.2mg/kg静注後、0.2~0.3mg/kg/hrで持続投与。さらに痙攣が持続すれば、

 c) ペントバルビタール12mg/kgを0.2~0.4mg/kg/minで静注後0.25~2.0mg/kg/hrで持続投与する。さらに必要なら、

 d) フェニトイン15~20mg/kgを15~20分で静注する。ただし、テオフィリン中毒と三環系抗うつ薬中毒では使用を避ける。

2)解毒薬の投与解毒薬の存在する中毒では、上記の処置に加えて解毒薬を投与する。

 a) イソニアジド中毒:ピリドキシン(ビタミンB6)を70mg/kg、最大5gまで投与。

 b) 銀杏中毒:ピリドキシン(ビタミンB6)2mg/kgを静注。

 c) 有機リン、カーバメイト中毒:PAM20~40mg/kgを5~10分かけて投与後、5~10mg/kg/hrで持続静注する。

3)不随意運動の治療

 a) ジストニア:不随意で持続的な筋収縮により、異常な姿勢を生じるもの。抗コリン作動薬に対してはジフェンヒドラミンを用いる。

 b) ジスキネジア:通常パーキンソン病などの薬物治療中に出現する不随意運動で、ねじれ・回転様の動きを伴う。ジアゼパムやミダゾラムを用いる。

 c) 筋固縮:筋緊張の亢進が関節可動域全体に認められる。ジアゼパムやミダゾラムを用いる。悪性高熱症にはダントロレン、悪性症候群にはブロモクリプチンを用いる。

4)痙攣に伴う合併症

 a) 横紋筋融解症:急性腎不全に注意する。

 b) 脳浮腫:グリセオール、マンニトール投与。

露出(体温、皮膚、発汗の有無)

1)高体温 高体温の患者は体温調節のため普通は大量の発汗があるが、抗コリン薬によるものや脱水があれば皮膚は乾燥している。交感神経系興奮薬(アンフェタミンやコカイン)による場合、皮膚は蒼白で湿っぽく、振戦や痙攣を伴っている。

I セロトニン症候群:中枢神経系のセロトニン値を上昇させる物質で発生するセロトニン受容体刺激の過剰状態によりもたらされる症候群で、自律神経系(発汗など)、神経運動系(ミオクローヌスなど)、精神系(認知行動など)に異常をきたす急性病態である。セロトニン値を変化させる物質(SSRI、MAO inhibitor、環系抗うつ薬、合成麻薬など)を併用していると発症しやすいといわれている。

II 神経遮断性悪性症候群:向精神薬(クロルプロマジン、ハロペリドールなど)服用患者に発生する、筋硬直、発汗、過高熱、血中CPK上昇を主徴とした症候群であり、ドパミン(D2)受容体遮断薬は特に神経遮断性悪性症候群を引き起こしやすい。

III 悪性高熱症:ある主の麻酔剤(エンフルレン、ハロセン、イソフルレン、サクシニルコリンなど)に対する遺伝性症候群で、広範な筋肉収縮により過剰な熱産生がおこり、急性の乳酸アシドーシスが薬剤投与から数分~数時間で発症する。Duchenne型筋ジストロフィーなどの筋・神経疾患では悪性高熱症を発症しやすい。また乳児突然死症候群の原因となることもある。

A) 筋肉活動亢進の抑制

 a) 痙攣に対してはジアゼパム等により止痙する。

 b) 神経遮断性悪性症候群ではブロモクリプチンを経口(胃管)投与する。

 c) 筋硬直や活動亢進が持続する場合は非脱分極性筋弛緩薬を静注し人工呼吸器管理する。

 d) 悪性高熱症の場合はダントロレン1~5mg/kgを静注し、必要なら総量10mg/kgまで3~5分ごとに繰り返す。筋硬直を伴う他の高体温(悪性症候群、熱中症、アンフェタミン中毒など)にもダントロレンが有効という報告がある。

B) 冷却(深部体温が41℃未満の場合は38℃に低下させる)

 a) 常温の水を浸したスポンジあるいはスプレー、扇風機などを用いて体表から冷却する。

 b) 冷却毛布や氷をいれた生食による胃洗浄や膀胱洗浄を行う。

 c) 必要な場合は体外循環回路を用いた冷却を施行する。

 d)相対的な低体温に注意する。解熱剤は多くの場合無効である。

C) 全身管理(深部体温が41℃以上の場合は全身管理が必要となる)

 a) 十分な酸素投与。

 b) 低血糖の補正、糖質カロリーの補給。

 c) 生食の補液、CVPをモニターし尿量1~2ml/kg/hrを目標にする。

 d) 高カリウム血症・低カルシウム血症などの電解質の補正。

 e) DIC、横紋筋融解症、ミオグロビン尿性腎不全、肝不全に注意する。

 f) ベンゾジアゼピン静注でも制御できない筋硬直にはダントロレン1mg/kgを静注する。

2)低体温 臨床症状は低体温の程度により様々である。治療の基本は対症療法と臓器機能補助であり、加温が中心となる。

I 軽症から中等症では体表から加温するだけで充分である。

II 低血糖あるいは麻薬中毒では、ビタミンB1欠乏症を伴うこともあり、ブドウ糖・ナロキソン・サイアミン(ビタミンB1)投与を行う。

III 重症低体温症で、体表から加温に反応しない場合や心機能が不安定な場合では積極的に深部から加温しなければならない。方法として、 a)加温・加湿した酸素投与、b)加温した液体による胃洗浄、c)加温した透析液を用いた腹膜灌流、d)体外循環回路を用いた加温などがある。

IV 薬物中毒による低体温の復温は1時間に1℃以下でゆっくりと行う。

V 低体温では、薬物代謝障害も同時に起こっており、復温後に薬物の副作用が現れることがある。

VI 低体温による低カリウム血症は、補正すると復温後に薬物の副作用が現れることがある。

予後

 予後は中毒起因物質の種類と量、摂取から治療までの時間、中毒症例の基礎疾患の有無、中毒治療の合併症などにより様々である。小児の誤飲による中毒は、たばこや医薬品、家庭用品など中毒起因物質となりうるものの種類は多いが、大量摂取することは少なく重症化することはまれである。しかし、自殺企図による中毒は、複数の薬毒物を多量に摂取することがあるので重症化することがある。

最近の動向

 乳幼児の誤飲による中毒の治療に関して、1)米国小児科学会の推奨する家庭での治療、2)中毒の治療を決定する上で参考になる報告やエビデンス、について述べる。

急性中毒に関する米国小児科学会の動向

 米国では乳幼児が誤飲すると、保護者は中毒センターや医療機関に電話し、処置について指示を受ける。中毒センターは長い間、必要があれば家庭で市販の吐根シロップを服用し嘔吐を促すように指示していた。しかし、現在米国小児科学会は吐根シロップの服用を奨励していない。その理由として、I 吐根シロップを服用した後医療機関を受診した時、嘔気のため活性炭やN-アセチルシステインの投与が遅れたり、投与しても吐いてしまう1-2)、II 中毒センターが吐根シロップを服用するように指示するような物質を誤飲した場合、結局その後医療機関を受診し診察する必要があり、家庭で吐根シロップを服用させても医療機関受診の機会を減らせることができず、また経過の改善につながらない3)、などが挙げられている。

 米国では、吐根シロップより除染率が高い活性炭1)を家庭で服用することは妥当かどうかを検討した論文がみられる4)。家庭での活性炭の服用に関する検討では、80%以上の症例で安全に充分量の活性炭を投与できた5)。また、医療機関を受診し誤飲後1時間以内に活性炭を投与できたのは33%であったのに対し、家庭で誤飲後1時間以内に活性炭を投与できたのは95%であった5)。しかし、米国小児科学会はまだ家庭で活性炭を服用することをまだ推奨はしていない。

中毒の治療を決定する上で参考になる報告やエビデンス

 活性炭投与後の嘔吐についての検討では嘔吐の危険因子として、I 活性炭服用前に嘔吐している症例、II 胃管を挿入された症例、が挙げられている6)。活性炭による誤嚥性肺炎が報告されているが、これらの症例には、I 意識状態の低下、II 摂取した薬毒物による突然の痙攣が認められ、III 気管挿管されずに胃管が挿入されていた9-12)。

 活性炭投与と併用する緩下剤の検討では、クエン酸マグネシウムなど他の緩下剤と比べソルビトールの方が、I 最初の排便までの時間が短い、II 排便量が多い、といった点で優れていたが、他の緩下剤よりソルビトールの方が嘔吐の発現が多かった7)。しかし、活性炭単独投与群と活性炭+ソルビトール投与群の比較では嘔吐の発現に両者で差はなかった5)。ソルビトール併用について臨床的には転帰の改善を示した報告はなく8)、ソルビトール投与による合併症の危険が高い場合には投与する必要はないかもしれない。

 活性炭に吸着されない鉄剤の大量摂取に対し、2歳や3歳の小児でも安全に腸洗浄できたという報告がある13-14)。

参考文献

9章で引用した参考文献。

1) Krenzelok EP, McGuigan M, Lheureux P. AACT/EAPCCT position statement: ipecac syrup. J Toxicol Clin Toxicol. 1997; 35: 699-709.

2) Manoguerra AS, Krenzelok EP, McGuigan M, Lheureux P. AACT/EAPCCT position paper: ipecac syrup. J Toxicol Clin Toxicol. 2004; 42: 133-43.

3) G.R.Bond. Home syrup of ipecac use does not reduce emergency department use or impreove outcome. Pediatrics. 2003; 112: 1061-64.

4) American Academy of Pediatrics, Committee on Injury, Violence, and Poison Prevention. Poison Treatment in the Home. Pediatrics. 2003; 112: 1182-85.

5) Henry A. Spiller, George C. Rodgers, Jr. Evaluation of administration of Activated Charcoal in the home. Pediatrics. 2001; 108: e100.

6) Kevin C. Osterhoudt, Dennin Durbin, Elizabeth R. Alpern, Fred M. Henretig. Risk factors for emesis after therapeutic use of activated charcoal in acutely poisoned children. 2004; 113: 806-810.

7) Laura Phillips James, Michele H. Nichols, William D. King. A comparison of cathartics in pediatric ingestions. 1995; 96:235-238.

8) American Academy of Clinical Toxicology, European Association of Poisons Centres and Clinical Toxicologists. Position statement: cathartics. J Toxicol Clin Toxicol. 1997; 35: 743-752.

9) Elliot CG, Colby TV, Kelly TM, Hicks HG. Charcoal lung. Bronchiolitis obliterans after aspiration of activated charcoal. Chest. 1989; 96: 672-674.

10) Menzies DG, Busuttil A, Prescott LF. Fetal pulmonary aspiration of oral activated charcoal. BMJ 1988; 297: 459-460.

11) Justiniani FR, Hippalgaonkar R, Martinez LO. Charcoal containing empyema complicating treatment of overdose. Chest. 1985; 87: 404-405.

12) Harsch HH. Aspiration of activated charcoal. N Engl J Med. 1986; 314:318.

13) Tenenbein M. Whole bowel irrigation in iron poisoning. J Pediatr 1987; 111:142-145.

14) Kaczorowski JM, Wax PM. Five days of whole-bowel irrigation in a case of pediatric iron ingestion. Ann Emerg Med.1996; 27: 258-263.

(Mymedより)推薦図書

1) 上條吉人 著、相馬一亥 監修:イラスト&チャートでみる急性中毒診療ハンドブック,医学書院 2005

2) 日本総合病院精神医学会治療戦略検討委員会 編集:急性薬物中毒の指針―日本総合病院精神医学会治療指針〈4〉 (日本総合病院精神医学会治療指針 4),星和書店 2008

3) 林寛之 著:Dr.林の当直裏御法度―ER問題解決の極上Tips70,三輪書店 2006
 

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