下垂体腺腫 - MyMed 医療電子教科書

MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。

MyMed


このページを印刷
最終更新日:2010.11.29

下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)

pituitary adenoma

執筆者: 松野 彰

概要

 下垂体はヒトの体にとって大切なホルモンの中枢です。脳にぶら下がる形をしており(下垂体の名称の由来)、直径1cmほどの小さな臓器です(図1)。小さな臓器であっても多くの大切なホルモンをつくっています。以下に代表的なものをあげます。

  図1

 乳汁分泌刺激ホルモン(プロラクチン、PRLと略します)、成長ホルモン(GHと略します)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTHと略します)、甲状腺刺激ホルモン(TSHと略します)、性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン(FSHと略します)と黄体形成ホルモン(LHと略します))、抗利尿ホルモン (ADHと略します)。下垂体ホルモンは、一般に上位中枢である視床下部ホルモンのコントロールを受けます。また作用する標的器官からのフィードバックも受けます。これらのホルモンの基準値と関連する視床下部ホルモン、関連する疾患の一覧を表に示します。

  関連する疾患一覧


 このようなホルモンの中枢である下垂体に発生する腫瘍の代表的なものが、下垂体腺腫です。

 下垂体腺腫は日本の脳腫瘍全国統計によると、成人20-50歳に好発し、全脳腫瘍の約15%を占めています。

病因

 下垂体腺腫は、一般に遺伝性疾患ではなく、良性腫瘍です。その原因は特殊な疾患に伴うものを除くと特定されていません。

 特殊な疾患に伴うものの代表的なものは、多発性内分泌腺腫症(MENと略します)1型です。これは副甲状腺、膵臓、下垂体に腫瘍を生じる症候群で、この原因遺伝子は第11番染色体(11q13という部位)に存在することが明らかになっています。

病態生理

 下垂体腺腫がある特定のホルモンを産生する細胞から発生すると、ホルモン過剰による症状を示します。この場合は腺腫が小さくても症状を出します。これについては次の項で述べます。下垂体腫瘍は一般に良性腫瘍ですので、ゆっくりと大きくなりますが、腫瘍が大きくなると、すぐ近くにある視神経を圧迫し、視神経障害(視力視野障害)をおこします。



臨床症状

視力視野障害


 腫瘍による視神経の圧迫によって生じます。まず視野障害(両耳側半盲)(図2)から始まり、視力が低下し、放置するとついには失明に至ります。


図2 視野障害


産生ホルモン過剰による症状


a) 乳汁分泌刺激ホルモン(プロラクチン、PRL)の過剰による症状:プロラクチン産生腫瘍、全下垂体腫瘍の約30%を占めていると言われるが、実際にはもっと多いと考えられます。

 プロラクチンは本来、女性が授乳するときに産生分泌されるホルモンです。しかし、下垂体にプロラクチン産生腫瘍ができますと、女性では月経不順、無月経、乳汁漏出がおこります。女性では腫瘍が小さな段階でこのような自覚症状があらわれますので、早期に発見されることが多いです。しかし男性では性欲低下を感じることがありますが、自覚症状に乏しいため一般に腫瘍が大きくなるまで気づかれないことがあります。

b) 成長ホルモン(GH)の過剰による症状:成長ホルモン産生腫瘍、全下垂体腫瘍の約20%を占めています。

 成長ホルモンは体の成長に必要なホルモンです。特に成長期には大切です。しかし、この成長ホルモンが過剰になると不都合が生じてきます。成長期に成長ホルモンが過剰になると異常に身長が伸び巨人症となります。成人になってから成長ホルモンが過剰になると、骨は伸長しませんので、骨及び皮下組織が肥大し、その結果、先端巨大症(アクロメガリー)となります。指輪がはまらなくなる、靴が入らなくなる、顔貌が変化する(眉部の突出、下顎の突出、鼻が大きくなるなど)の変化がおこります。糖尿病や高血圧、心肥大もおこしてきます。放置すると大腸癌が発生しやすくなります。未治療の場合、正常人に比し 5-10年短命となるといわれています(Clayton: J Endocrinol 155, S23, 1997)。糖尿病、高血圧、心疾患、悪性腫瘍のため正常人に比し死亡率は2-3倍になるといわれています。表2に先端巨大症の診断基準を示します。


表2 先端巨人症の判断基準


c) 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の過剰による症状:副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍、全下垂体腫瘍の数%を占めています。

 副腎皮質刺激ホルモンは副腎よりのコルチゾールというホルモンの分泌を刺激します。このホルモンがないと血圧が下がる、意識消失をきたすなど、いわゆるショック症状をおこし、生命にかかわります。しかし、この副腎皮質刺激ホルモンが過剰になると逆にクッシング病という病気になります。中心性肥満、糖尿病、骨粗鬆症、高血圧などの症状をだしてきます。

d) 甲状腺刺激ホルモン(TSH)の過剰による症状:甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生腫瘍

 甲状腺刺激ホルモンは甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの分泌を刺激します。甲状腺刺激ホルモン産生腫瘍は稀なものですが、この腫瘍ができると、甲状腺腫大、甲状腺機能亢進症をおこします。

臨床的非機能性腫瘍


 全下垂体腫瘍の約30%を占めています。ホルモン産生過剰による症状をきたさない腫瘍で、実際の頻度としてはこれが最も多く、視神経障害(視力低下、視野障害)を示します。

図2 視野障害
表2 先端巨人症の判断基準

検査成績

 各ホルモン産生腫瘍では、産生されるホルモンが高値を示します。以下に具体的に説明いたします。

プロラクチン産生腫瘍


 血清プロラクチン値高値、負荷試験ではブロモクリプチン(パーロデル)負荷が重要で、これによりプロラクチン値が低下するのを確認します。

成長ホルモン産生腫瘍


 血清成長ホルモン高値、インスリン様成長因子1型(IGF-1)が高値です。IGF-1はGHの作用を受けて、主として肝臓で作られ、骨などの成長を促します。75g経口糖負荷試験(75gOGTT)でGHが1ng/ml以下に抑制されないことが診断に必要です。表3のように正常人では、経口糖負荷試験(75gOGTT)でGHが1ng/ml以下に抑制されます。甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)や性腺刺激ホルモン放出ホルモン (GnRH, LHRH)でGHが奇異性に上昇することもあります。治療を考えるにあたり、オクトレオチドやパーロデル負荷試験が重要で、これによりGHが低下するかどうかを確認します。


表 健常人における経口糖負荷試験のGH底値


副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍


 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)および副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が高値です。前夜にデキサメサゾン(デカドロン)を内服し翌日早朝にコルチゾールを測定するデキサメサゾン抑制試験を行います。1mgのデキサメサゾンで翌朝のコルチゾール値が抑制(5microg/dl以下になる) されず、8mgのデキサメサゾンで翌朝のコルチゾール値が抑制されるのが通常です。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生腫瘍


 甲状腺ホルモンが高値を示します。TSHは基準値内であることも多く、少なくとも測定可能であることが、原発性甲状腺機能亢進症(バゼドウ氏病)との鑑別のうえで重要です。治療を考えるにあたり、オクトレオチド負荷試験が重要で、これによりTSHが低下するかどうかを確認します。

表 健常人における経口糖負荷試験のGH底値

診断・鑑別診断

 内分泌学的には上記の診断方法を行います。腫瘍が存在することは、MRIで下垂体を詳細に検討する必要があります。T1強調画像で造影剤を用いると、下垂体腫瘍は、正常下垂体より造影効果の低い像として描出されます。


造影MRI画像診断上の注意点

 腫瘍の局在がはっきりしないときには、海綿静脈洞からのホルモンのサンプリングを行うこともあります。

画像診断における鑑別診断


 鑑別診断には、その他の下垂体疾患(ラトケ嚢胞、下垂体炎など)、頭蓋咽頭腫、鞍結節部髄膜腫、鞍上部胚細胞腫などがあります。

内分泌学的鑑別診断


 成長ホルモン産生腺腫:比較的稀ですが、異所性GHRH, GH産生腫瘍で、GH分泌過剰症状を示すことがあります。肺カルチノイド腫瘍や膵内分泌腫瘍がその代表です。

 プロラクチン産生腺腫:高プロラクチン血症の原因はさまざまであり、プロラクチン産生腺腫以外によるものが多いのが実情です。一般にプロラクチン産生腺腫以外による高プロラクチン血症ではプロラクチン値は100ng/ml以下のことが多いです。たとえば、原発性甲状腺機能低下症、薬物(H2 ブロッカーなど)、妊娠、女性ホルモンなどによるものがあげられます。表4にこれらによる高プロラクチン血症の程度と高プロラクチン血症をきたす薬物を示しました。


表4
高PRL血症をきたし得る薬剤
乳汁漏出無月経婦人における各種原因疾患別の血中プロラクチン値の分布



 甲状腺刺激ホルモン産生腺腫:先に述べたように、原発性甲状腺機能亢進症との鑑別が重要です。

 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫:クッシング徴候を示す、副腎腫瘍、異所性ACTH産生腫瘍による副腎過形成との鑑別が重要です。表5にデキサメサゾン抑制試験をもとにした、クッシング症候群の鑑別診断を呈示しました。


表5 クッシング症候群の鑑別診断

治療

手術


 プロラクチン産生下垂体腺腫を除く、ホルモン産生下垂体腫瘍、および、症候性ないしは増大傾向を示す臨床的非機能性腺腫がその適応となります。一般には経鼻的下垂体腫瘍摘出術が行われます。到達経路として、上口唇下粘膜を切開して鼻腔内に到達する方法(図4参照してください)と、直接鼻腔を経由する方法があります。また、手術手段として、手術用顕微鏡を用いる方法と内視鏡を用いる方法があり、両者の併用も行われます。



薬物治療


 プロラクチン産生下垂体腺腫:ドーパミンアゴニストとよばれる薬剤(ブロモクリプチン(パーロデル)、カベルゴリン(カバサール))が有効で、約90%の症例で、血清プロラクチン値の低下と腫瘍の縮小がみられます。カベルゴリン(カバサール)は通常は週一回の内服でよく、プロラクチン産生腫瘍ではドーパミンアゴニストによる薬物治療が第1選択となります。

 成長ホルモン産生腺腫:手術でGH, IGF-1の正常化がえられなかった際に、オクトレオチド(サンドスタチン)の注射による治療が行われます。近年オクトレオチドの徐放薬が発売され、4週間に一回の注射で治療が可能となりました。

 甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生腫瘍:同様に手術でTSH、甲状腺機能の正常化がえられなかった際に、オクトレオチド(サンドスタチン)の注射による治療が行われます。

放射線治療


 ガンマナイフ治療:手術や薬物療法でも効果が不十分であるときに行われます。

予後

 良性腫瘍ですのでゆっくりと大きくなるのが普通です。腺腫を放置すると、さまざまな内分泌症状や視力視野障害をきたしてきますので、治療ないしは厳重な経過観察が必要です。

最近の動向

 下垂体腺腫の治療後のホルモン補充療法が最近注目されてきています。特に最近では成人成長ホルモン欠損症が話題になっています。この病態では、内臓脂肪蓄積型肥満、高脂血症、骨粗鬆症、筋肉量減少、気力意欲低下などがみられ、重症の場合には補充療法を行う必要があります。

執筆者による主な図書

1) 松野彰 執筆:脳腫瘍 治療法ガイドライン[総論],標準医療情報センター

2) 松野彰 執筆:脳腫瘍 治療法ガイドライン[各論],標準医療情報センター

3) 松野彰、浅野修一郎 執筆:脳腫瘍 治療法ガイドライン[術中モニタリング・術中ナビゲーション],標準医療情報センター

4) 松野彰 執筆:下垂体腫瘍に対する新しい薬物療法「Annual Review 神経2006 159-165」,中外医学社

5) 松野彰 執筆:下垂体腺腫の病態・治療と最近の動向「BRAIN and NERVE 2009 61: 957-962」 ,医学書院

執筆者による推薦図書

1) 寺本明、長村義之 編:下垂体腫瘍のすべて,医学書院

2) 千原和夫、寺本明、藤枝憲二 監修:成人GH分泌不全症の臨床,メディカルビュー社

3) 松谷雅生、藤巻高光 監修:脳・神経・脊髄イラストレイテッド―病態生理とアセスメント ,学研メディカル秀潤社

4) 井出冬章 著、松野彰・河合塾KALS 監修:医学部編入への生命科学演習,講談社サイエンティフィック

5) 松野彰 執筆:下垂体細胞の分化と下垂体腺腫の成因・病態「帝京医学雑誌 2009 32:109-117」,帝京大学

(MyMedより)その他推薦図書

1) 近藤保彦・菊水健史・山田一夫・小川園子・富原一哉 編集:脳とホルモンの行動学―行動神経内分泌学への招待,西村書店 2010

2) 富田豊・正門由久・高橋修 編集:臨床検査技師に必要な生理検査機能の常識 実例から学ぶとっさの判断,丸善 2009
 

免責事項

情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ この記事に関するご意見をお聞かせください。


このページを印刷

診療科別


※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
  なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。

メールアドレス: メールアドレス(確認用):
医療関係者の方はご選択ください: