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Inferior vena cava embolism
下大静脈の塞栓症は稀な疾患で,塞栓源として下肢深部静脈血栓症,腫瘍塞栓(腎細胞癌,肝細胞癌など)があげられる.下肢の深部静脈血栓症の場合,ほとんどの場合下大静脈は通り越し,肺動脈塞栓症を引き起こす頻度が高く,下大静脈のみに塞栓症を引き起こすことはまれである.本症は①血流の停滞・鬱滞,②血管内皮の損傷, ③血液凝固能の亢進のいずれか単独もしくは組み合わせにより,まず主に主に下肢の深部静脈に静脈血栓症を形成,その後体動などにより流血中に静脈血栓をおしだし,血栓が下大静脈,肺動脈を閉塞し発症する1).腫瘍による塞栓は腎細胞癌,肝細胞癌などが血管内に進行し,血流にのり下大静脈,肺動脈の塞栓症を引き起こす.これらも肺動脈塞栓症を引き起こす頻度が高く下大静脈のみに塞栓症を起こすことは稀である.
下肢深部静脈血栓症の危険因子としてアンチトロンビンⅢ欠損症,プロテインS欠損症,プロテインC欠損症,高ホモシステイン血症などの先天的な凝固系異常,手術,外傷・骨折,悪性腫瘍(occult cancer),高齢,肥満,妊娠・出産,長期臥床,長距離旅行,抗リン脂質症候群,脱水,多血症,下肢静脈瘤,経口避妊薬などの後天的なものがあげられる2).前述したようにこれらの原因によって形成された深部静脈血栓や腫瘍が下大静脈を閉塞し発症する.
塞栓が下大静脈に起こった場合,下肢静脈還流障害による腹壁静脈の怒張,下肢の浮腫や変色が起こることが多い.塞栓が肺動脈に起こった場合,呼吸苦,胸痛が起こり,重症の場合ショック症状を呈する.
画像検査として超音波,造影CT,血管造影にて静脈内血栓が描出される.肺動脈塞栓症を併発している場合は心エコーにて右室負荷の所見を認めることが多く,肺血流シンチにて欠損像を認める.血液生化学検査にてDダイマー,FDPの上昇を認める.肺動脈塞栓症を併発している場合はBNPの上昇やトロポニンTの上昇を認める場合がある3).
下大静脈,肺動脈内の血栓の溶解と除去が治療の基本である.禁忌でない限り,全例に抗凝固療法を行ったうえで,重症度や出血のリスクを考慮して,さらに血栓溶解療法,カテーテル治療,外科的血栓摘除術などを選択する.同時に塞栓源検索を行い,塞栓源が残存している場合には下大静脈フィルターを留置し再発予防を講じることも大切である4).また,塞栓源が腫瘍の場合は腫瘍に対する治療(化学療法,外科的摘除)が必要である.
・抗凝固療法
急性期にはヘパリンの投与,慢性期にはワーファリンの経口投与が行われる.ヘパリンはAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が1.5~2.5倍になるように投与量を調節する.ワーファリンは欧米ではPT-INR(プロトロンビン時間-国際標準化比)を2.0~3.0にコントロールする.本邦ではエビデンスがないものの1.5~2.5にコントロールされることが多い4).
・ 血栓溶解療法,カテーテル線溶療法
肺動脈塞栓症に対しウロキナーゼや組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)による血栓溶解療法が行われており高い治療効果が示されている.ただし出血性合併症の危険性も無視できず,適応を十分に見極めたうえで注意して使用する必要がある4).カテーテルを用いて局所に投与する方法も行われている.下大静脈以下に血栓が存在する場合は下記に述べる下大静脈フィルターと併用して治療する.
・ 下大静脈フィルター
主として急性肺塞栓症と深部静脈血栓症を有する症例に用いられる.一時留置型と永久型がある.短期的には肺動脈塞栓症を予防するが,長期的には抗凝固療法のみの場合に比し,下大静脈血栓塞栓症や下肢深部静脈血栓形成などの合併症が高頻度となる可能性があり,永久的下大静脈フィルターの挿入にあたっては適応を厳密に守るべきである5).
・ 外科的治療
下大静脈のみに血栓が存在する場合は,重症のうっ血を認める症例に対しては外科的摘除を必要とすることがあるが,それ以外で外科的摘除を必要とすることは稀である.急性に両側肺動脈が血栓により閉塞し,循環虚脱に陥っている場合,迅速な外科的血栓摘除術が必要となる.その際,下大静脈にも血栓が存在している場合下大静脈の血栓も除去する6).
・ 経皮的心肺補助装置(PCPS)
重篤な肺動脈塞栓症を起こし循環虚脱に陥っている場合に使用する.
1) 宮原嘉之.肺血栓塞栓症 (2)病因・リスク因子.血栓と循環14:101-103,2006
2) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2002-2003年度合同研究班報告):肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン. Circ J 68(suppl ⅳ): 1079-1152, 2004
3) 小野文明,中西宣文.肺血栓塞栓症 4)画像診断 a)肺血栓塞栓症の診断アルゴリズム.血栓と循環14:112-115,2006
4) 山田典一,中野 赳.肺血栓塞栓症 5)治療 a)治療戦略.血栓と循環14:121-125,2006
5) 尾林 徹,丹波明博.肺血栓塞栓症 5)治療 b)下大静脈フィルター.血栓と循環14:126-131,2006
6) 山下 満.肺血栓塞栓症 5)治療 c)外科的治療.血栓と循環14:132-137,2006
1) 新本春夫 著:血小板生物学,メディカルレビュー社
2) 新本春夫 著:Knack & Pitfalls 一般外科医のための血管外科の要点と盲点,文光堂
3) 新本春夫 著:心血管病学,朝倉書店
4) 新本春夫 著:血栓症ナビゲーター,メディカルレビュー社
5) 新本春夫 著:心臓血管外科テキスト,中外医学社
6) 新本春夫 著:最新医学別冊 新しい診断と治療のABC60,最新医学社
7) 新本春夫 著:EVTテクニック,中外医学社
1) 肺血栓塞栓症 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会 著:肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン,メディカルフロントインターナショナルリミテッド 2004
2) 日本整形外科学会静脈血栓塞栓症予防ガイドライン,南江堂 2008
3) 小林 隆夫 編集:静脈血栓塞栓症ガイドブック,中外医学社 2006
4) 平井正文・折井正博・岩井武尚 編集:最新テクニック下肢静脈瘤の診療,中山書店 2008
5) 岩井武尚 著:こうして治す 下肢静脈瘤,保健同人社 2008
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