小腸癌 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.01

小腸癌(しょうちょうがん)

執筆者: 赤須 孝之

概要

 本項では十二指腸を除く小腸癌について述べる.

 小腸癌は,小腸の上皮性悪性腫瘍であり(表1)[1],まれな疾患である.小腸の上皮性悪性腫瘍としては,他にはカルチノイド等がある.[1]

 病理組織学的には,小腸癌は腺癌,粘液癌,印環細胞癌,小細胞癌,扁平上皮癌,腺扁平上皮癌,髄様癌,未分化癌に分類される(WHO分類,表1).[1] 病期分類としてはTNM分類がある(表2).[2]

 米国のSEERプログラムのデータ[3]によると,小腸癌の年間発生率は3.7/1,000,000であった.発症年齢の中央値は67歳であった.小腸癌は十二指腸に最も多く,空腸と回腸には少ない.

 本邦の八尾ら[4]の報告では,1995-1999年に報告された本邦原発性小腸(空腸・回腸)腫瘍481例のうち,小腸癌の割合は 32.6%,悪性リンパ腫が30.4%,平滑筋肉腫29.1%,神経原性腫瘍1.7%,カルチノイド1.7%,Kaposi肉腫0.2%,他4.4%であった.小腸癌の発症年齢のピークは40-79歳にかけてみられ,男女比は1.2:1であった.

 これまでは,小腸の内視鏡検査が難しかったため,診断が難しく,進行した状態で発見されることが多かった.近年,カプセル内視鏡[5,6]やダブルバルーン内視鏡[7]の開発により,診断が容易になりつつある.治療法は結腸癌に類似する.

病因

 クローン病やセリアック病などの慢性炎症は小腸癌の原因となる可能性がある.[1,8] クローン病では,一般人に比べ小腸癌の危険が86倍あるとする報告がある.[1] 遺伝性非ポリポーシス性大腸癌,家族性大腸腺腫症,Peutz-Jeghers症候群,若年性ポリポーシスは小腸癌を伴うことがある.[1,8] 回腸瘻,回腸導管,メッケル憩室,二重腸管などからの発生も報告されている.[1] 喫煙,飲酒は危険因子とされる.[1]

病態生理

 小腸癌においても,結腸癌と同様に,腺腫が前癌病変と考えられている.癌と同様に腺腫も十二指腸に最も多く,空腸と回腸には少ない.十二指腸の腺癌では,80%に腺腫の遺残が認められるとの報告がある.[1] また,クローン病やセリアック病などの慢性炎症が発生原因となる可能性がある.[1,8] 遺伝性非ポリポーシス性大腸癌,家族性大腸腺腫症,Peutz-Jeghers症候群,若年性ポリポーシスでは小腸癌が発生しやすい.[1,8] 回腸瘻,回腸導管,メッケル憩室,二重腸管などからの発生も報告されている.[1]

 小腸癌の肉眼形態はポリープ状,隆起型,浸潤型,狭窄型を呈する.症状に乏しいため進行した状態で発見されることが多い.したがって,腫瘍径は大きく,全周性で狭窄し,漿膜浸潤が認められることが多い.[1]

 小腸癌の進展は結腸癌のそれと同様である.すなわち,浸潤性に局所進展するとともにリンパ節転移や血行性転移,腹膜播種を起こす(表1).組織学的には,結腸癌と同様の組織像を呈するが,結腸癌よりも低分化腺癌の率が高い.[1]

臨床症状

 八尾ら[4]の本邦空腸・回腸癌156例の報告では,臨床所見の出現頻度は,腹痛(43%),腸閉塞(41%),嘔吐(33%),貧血(16%),出血(9%),腹部膨満(8%),腸重積(7%),体重減少(5%),腫瘤触知(5%),下痢(4%),穿孔(3%),検診陽性(5%)であった.これら以外では,狭窄による嘔気,腹鳴などがあげられる.

検査成績

 臨床所見から小腸癌が疑われる場合には,まず小腸造影検査を行うべきである.これにより病変の部位および形態の診断が可能である.その結果,腫瘍が疑われる場合には,可能であれば内視鏡検査を行い,さらに,可能であれば生検を行い,病理組織診断で診断を確定する.生検が不可能であれば,内視鏡所見から,また,内視鏡が不可能であれば,小腸造影所見から診断を行い,治療方針を決定する.確定診断がなされなくても,腫瘍による症状があり,外科的切除等の手術の必要があれば,試験開腹の適応である.

一般検査


 出血があれば,便潜血検査陽性,血液中のヘモグロビン値の低下等の所見が認められる.ある程度進んだ腫瘍であれば,血清CEA値,CA19-9値等の上昇が認められることがある.これらはいずれも非特異的所見である.


放射線診断

腹部単純X線検査


 小腸の通過障害が強ければ,腹部単純X線検査では,小腸や胃の拡張像,二ボー形成,大腸ガス像の消失等が認められる.本検査では通過障害の有無と,おおよその部位の診断が可能である.


小腸造影検査


 小腸造影検査は比較的簡便で有用な検査である.これは,十二指腸または上部空腸までバルーンカテーテルを挿入し,小腸内にバリウムを注入して,小腸の造影を行う検査である.空気も注入して,二重造影とすると,より詳細な病変の観察が可能である.通過障害がなければ,バリウムを用いるが,通過障害がある場合には,ガストログラフィンの充盈像を撮影する.

本検査では,小腸病変の存在部位と形態の診断が可能である.二重造影像が得られれば,かなり細かい肉眼形態の観察が可能である.確定診断は難しいが,形態の特徴からある程度診断を絞り込むことができる.肉眼形態を反映して,ポリープ状,隆起型,浸潤型,狭窄型等を示す.


Computed Tomography (CT)


 CTはX線を用いて体の断層像を得る簡便な検査である.本検査では,比較的大きな腫瘍の存在部位や形態,進展度(周囲浸潤やリンパ節転移,遠隔転移の有無と程度)の診断が可能である.

 最近普及しつつあるmultidetector-row CT(MDCT)[9]も簡便な検査で,より小さな病変の描出が可能であり,より精細な存在部位や形態診断,より正確な進展度診断が可能である.MDCTを用いると腸管の3次元立体構築も可能である.


Magnetic Resonance Imaging (MRI)


 MRIは核磁気共鳴現象を用いて体の断層像を得る検査である.本検査は大きな腫瘍の周囲浸潤や肝転移の評価等に有用である.


内視鏡検査


 内視鏡検査は消化管疾患の診断には欠かせないものである.それは病変の詳細な観察を可能とし,生検による病理組織診断を可能とするからである.しかし,小腸はちょうど消化管の中央に位置し,内視鏡の挿入が困難であることから,小腸内視鏡検査はながらくごく限られた施設以外ではほとんど用いられなかった.

 しかし,近年,カプセル内視鏡(capsule endoscopy)[5,6]およびダブルバルーン内視鏡(double-baloon enteroscopy)[7]が開発され,小腸の内視鏡検査も比較的簡便になりつつある.

 カプセル内視鏡は経口的に飲み込むカプセル状の内視鏡である.[5,6] 大きさは11 x 26 mmのカプセル状をしている.1秒間に2回の発光と写真撮影を行い,カプセルに内蔵された発信機から腰に装着した受信機に画像データを送信し蓄積する.蓄積された画像データは検査終了後にワークステーションに転送され,モニター上で読影することができるようになる.

 患者は8-12時間絶食した後に,水とともにカプセル内視鏡を飲み込む.検査開始2時間後には飲水が可能となり,4時間後には軽食も摂ることができる.検査中には移動,仕事も可能であり,外来での検査が可能である.本検査は容易で患者の負担もほとんどなく,比較的良好な全小腸の画像をえることができるが,生検することはできない.

 ダブルバルーン内視鏡は,内視鏡先端のバルーンとオーバーチューブ先端のバルーンを交互に拡張・収縮させ,一方の先端を固定し他方を進ませるという方法で挿入するものである.[7]経口的および経肛門的の両方向から内視鏡を挿入することで,高率に全小腸の観察が可能となる.本検査では病変の内視鏡観察のみならず,生検や内視鏡治療も可能である.

 いずれの方法も理論的には全小腸の観察が可能であり,有用性が期待されている.小腸癌の肉眼形態を反映して,ポリープ状,隆起型,浸潤型,狭窄型等の結腸癌類似の内視鏡所見を観察することができる.また,生検病理組織診断を行えば,確定診断を下すことができる.

 かつては,小腸に挿入可能な内視鏡として,プッシュ式内視鏡(push enteroscopy),逆行式回腸鏡(retrograde ileoscopy),ゾンデ式内視鏡(sonde enteroscopy)等が用いられてきた.[5] いずれも小腸病変の内視鏡観察が可能で,前二者は生検も可能である.しかし,特殊な技術を要する検査法であり,専門施設のみで行われる.プッシュ式は順行性に十二指腸から空腸内に押し込んでいく方式である.回腸以遠の観察は不可能である.逆行式は大腸内視鏡を利用して回腸末端から逆行性に回腸内に挿入するものである.空腸の観察はできない.ゾンデ式は腸蠕動に乗せて送り込む方法で,時間がかかる.それぞれの特徴を考慮して診断に利用すべきであるが,より簡便なカプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡に取って代わられつつある.

診断・鑑別診断

 小腸癌の直接的証明は内視鏡下の生検と病理組織診断によってなされる.しかし,小腸造影,MDCT,内視鏡所見のみからもある程度の診断の絞込みは可能である.

 鑑別診断としては,他の小腸腫瘍および炎症性疾患等との鑑別が必要である.

治療

 小腸癌の確定診断がついていなくても,出血,腸閉塞,腫瘤触知等の腫瘍が原因と推測される症状があり,外科的切除等の手術の必要があれば,試験開腹の適応である.

 小腸癌の治療の基本は外科的切除である.治癒切除可能であれば,進行度に応じて,癌から5-10 cm離して腸管を切離し,小腸部分切除を行い,領域リンパ節を可及的広範囲に郭清する.領域リンパ節以外の転移に対する外科的切除の効果は確立していない.治癒切除が不可能な場合には,姑息的切除,バイパス手術,人工肛門造設術等を考慮する.

 治癒切除後の補助化学療法については確立していない.癌遺残症例に対する化学療法,化学放射線療法,放射線療法についても確立していない.

予後

 米国のSEERプログラムのデータ[3]によると,小腸腺癌および粘液癌の5年生存率はそれぞれ28%と22%であった.限局した小腸腺癌であれば5年生存率は63%であった.

 スウェーデンの大規模研究の報告[1]では,空腸・回腸の腺癌の5年生存率は46%であった.治癒切除例の5年生存率は,リンパ節転移陰性ならば63%,陽性ならば52%であった.

 Talamontiら[10]の報告では,小腸腺癌の5年生存率は,stage I/II,III,IVで,それぞれ48%,28%,6%であった.




表1 原発性小腸腫瘍のWHO分類(Hamiltonらの2000年の分類より引用)[1]




表2 小腸癌のTNM分類(2002年版)[2]

文献

[1] Wright NH, Pennazio M, Howe JR, Sobin LH, Rossini FP, Carr NJ, Shepherd NA, Talbot I. Carcinoma of the small intestine. In: Hamilton SR, Aaltonen LA, editors. World Health Organization classification of tumours: pathology and genetics of tumours of the digestive system. Lyon: IARC Press, 2000:70-74.

[2] Small intestine. In: Sobin LH, Wittekind Ch, editors. TNM classification of malignant tumours. New York: Wiley Press, 2002:69-71.

[3] Chow JS, Chen CC, Ahsan H, Neugut AI. A population-based study of the incidence of malignant small bowel tumours: SEER, 1973-1990. Int J Epidemiol 1996;25:722-8.

[4] 八尾恒良,八尾建史,真武弘明,他.小腸腫瘍:最近5年間(1995~1999)の本邦報告例の集計.胃と腸 2001;36:871-81.

[5] Pennazio M. Small-bowel endoscopy. Endoscopy 2004;36:32-41.

[6] カプセル内視鏡診療ガイド,カプセル内視鏡研究会編集,寺野彰監修,南江堂,東京,2006.

[7] ダブルバルーン内視鏡 理論と実際,山本博徳,喜多宏人編集,菅野健太郎監修,南江堂,東京,2005.

[8] Delaunoit T, Neczyporenko F, Limburg PJ, Erlichman C. Pathogenesis and risk factors of small bowel adenocarcinoma: a colorectal cancer sibling? Am J Gastroenterol 2005;100:703-10.

[9] Horton KM, Fishman EK. Multidetector-row computed tomography and 3-dimensional computed tomography imaging of small bowel neoplasms: current concept in diagnosis. J Comput Assist Tomogr 2004;28:106-16.

[10] Talamonti MS, Goetz LH, Rao S, Joehl RJ. Primary cancers of the small bowel: analysis of prognostic factors and results of surgical management. Arch Surg 2002;137:564-70.

(MyMedより)推薦図書

1) 中川恵一 著:がんのひみつ,朝日出版社 2008

2) 上野玲 著:ルポ がんの時代、心のケア,岩波書店 2010

3) 斎藤恵子 著・日本炎症性腸疾患協会・福島恒男 編集:クローン病 患者が本当にききたいこと―140のQ&A付・診療医リスト、安心レシピ,弘文堂 2008
 

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