プラダー・ウイリー症候群 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

プラダー・ウイリー症候群(ぷらだー・ういりーしょうこうぐん)

執筆者: 永井 敏郎

概要

 PWSは、1956年内分泌科医のプラダーと神経科医のウイリーが報告した奇形症候群で、内分泌学的異常としては肥満、糖尿病、低身長、性腺機能不全など、神経学的異常としては発達遅滞、筋緊張低下、特異な性格障害・行動異常などを特徴とする。発生頻度は、人種差はなく10,000から15,000人に一人と言われている。

臨床症状

 症状は多岐にわたり、かつ年齢に応じて変化する。

 新生児期は、筋緊張低下、色素低下、外性器低形成を3大特徴とする。筋緊張低下が顕著で哺乳障害のため経管栄養となる事が多い。色素低下の顕著な患者では頭髪は金髪様となり白皮症と誤診される場合もある。外性器低形成は、男児では停留精巣が90%以上に認められ外性器低形成の診断は容易であるが女児では、陰唇あるいは陰核の低形成は見逃されやすい。

 3~4歳頃から過食傾向が始まり、幼児期には肥満、低身長が目立ってくる。学童期には、学業成績が低下し、性格的にはやや頑固となってくる。思春期頃には、二次性徴発来不全、肥満、低身長、頑固な性格からパニック障害を示す人がいる。思春期以降、肥満、糖尿病、性格障害・行動異常などが問題となる。とりわけ、行動異常では、万引き、嘘を言う、などの反社会的行動が目立ち、社会の中で上手くやっていけない場合がある。

 このように症状は多彩であるが、その病因は間脳の異常に集約される。間脳には、種々の中枢が存在し、食欲中枢(過食、肥満の原因)、呼吸中枢(中枢性無呼吸や昼間の過度の睡眠の原因)、体温中枢(冬場の低体温、夏場の高体温)、情緒の中枢(性格障害との関連)、性の中枢(二次性徴発来不全の一因)、など間脳の異常に起因した多彩な症状の説明が可能であう。

治療

 治療方針の公式ガイドラインは提示されるに至っていないが、現在まで治療方針の原則は世界的にほぼ確立してきている。

 治療原則は、以下の5つの治療法を原則としている。
(1)食事療法、(2)運動療法、(3)成長ホルモン補充療法、(4)性ホルモン補充療法、(5)性格障害・異常行動に対する対応、である。

 現在まで(1)から(4)までの治療法は世界的にほぼ統一されて来ているが、(5)の性格障害・異常行動に対する対応策に関しては、まだ解決すべき問題点が山積している。

 本症は、病因が染色体異常のため根本的治療法はない。かつ、症状が多岐に及ぶため多種の分野の専門家(小児科医、内分泌科医、遺伝科医、精神科医、臨床心理士、栄養士、教職員、理学療法士など)の協力による包括医療の重要性が強調されている。治療の実際は上記の5つの治療原則に沿って述べる。

食事療法

 食事療法は、本症では終生誰かが管理する必要のある一番大切で基本的治療法である。食事制限は2歳頃までは健常児と同じ、3~4歳頃から身長1cmあたり10 Kcalを目安に摂取カロリーの制限を行う必要がる。成人PWS患者の最終身長が約150 cmあたりのため、成人での摂取カロリーは1500 kcalが目安となる。

 大切な事は、彼らの手の届く所に安易に食べ物を放置しない事である。また、彼らは、摂取カロリーが多くなくても肥満になり易い傾向があることを周囲が良く認知し(体脂肪の動員が下手で、基礎代謝率も低い)、彼らの肥満に対して偏見を持たないようすることが不可欠である。

運動療法

 運動療法は、彼らの体重維持に予想以上に貢献する。彼らが、捻挫などで通常の運動が不可能な時、驚くほど短期間に体重が増加する事は良く経験される事実である。彼らは、元来筋緊張低下があり運動は不得意であるが、現在まで多くの患者が水泳を取り入れることで運動療法が比較的成功している。脂肪の多い彼らの体組成は、水泳には向いていると考えられる。運動を強要するのではなく、一緒に運動に付き合うことも大切である。

成長ホルモン補充療法

 成長ホルモン補充療法は、現在世界的に実践されている治療法であり、本治療法がPWS患者の自然歴を大きく改善させてきている。成長ホルモンによる、身長促進、体組成改善、筋力向上などは、すでに周知のこととなっている。今や世界中の関心は、成長ホルモン療法が直接あるいは間接的に知能や性格に及ぼす可能性に注目してきているが、それらの客観的評価は未だ難しい。

 成長ホルモン治療に伴って危惧されてきている問題点は3つである。糖質代謝、呼吸障害、側弯症の3点に集約される。糖質代謝では、本症への成長ホルモン認可以前から成長ホルモンが糖尿病誘発する可能性が危惧されたが、実際は成長ホルモン治療で筋肉量増加、活動性向上のためインスリン感受性が改善しむしろ血糖が低下するといったデータのみが報告されており、現在、基本的食事療法が良好維持されている条件下では糖尿病誘発可能性はないと考えられている。

 呼吸障害に関しては、成長ホルモンは間脳にある呼吸中枢には好影響(中枢の酸素や二酸化炭素濃度への感受性を改善する)が、閉塞性障害を悪化する恐れがあることが報告されている。すなわち、成長ホルモンは、水分貯留傾向やリンパ組織の増大を惹起し、上気道の狭窄症状を起こす可能性が危惧されている。その為、成長ホルモン開始所期、とりわけ使用開始4ヵ月位は、呼吸症状に注意し、狭窄症状出現あるいは増悪時は、成長ホルモンの中止あるいは減量が推奨される4)。

 側弯症に関する報告はまだ少ないが、本治療法により側弯症の頻度増加、あるいは、増悪が危惧されている。われわれが行った72名の患者を対象にした検討では、成長ホルモン療法は、側弯症の頻度を増加させないと言う結果であったが、今後の検討が必要である。そのため、成長ホルモン開始前からの側弯症の継続的検査が不可欠である。

性ホルモン補充療法

 性ホルモン補充療法は、本症患者全員が持っている性腺機能不全に対する治療であるが、現実的には種々の理由で実施されていないのが実際である。特に男性では、男性ホルモン補充が、患者の攻撃性を増加する、行動異常を増悪する事が、危惧され未だ世界中が躊躇している。しかし、この様な危惧を指示する報告はなく、学問的根拠はない。われわれの経験では、患者を十分選択し、信頼関係を確立した後での治療では、過激製の増悪はなく、むしろパニック障害の減少を認めている。本治療の目的は二次性徴発来不全に対するのみではなく、骨密度改善、さらには彼らの精神的効果が大きいと考えられる。男性ではエナルモン125~250 mg/dose/月、 女性ではカウフマン療法を行っている。

性格障害・異常行動

 性格障害・異常行動は、患者本人あるいは家族が一番悩まされる事象である。性格は、年齢を経るに従い、可愛いから、しつこい、頑固、パニック、暴力、へとエスカレートすることがありその原因がgeneticのものか、環境要因が加味したものかの結論すらでていないが、多くの患者で酷似した性格傾向を示すことは、geneticな背景を示唆している。欧米では、積極的に精神科から向精神薬の投与が行われているが、まだまだ推奨可能な処方はない。現在SSRI(選択的セロトニン再吸収阻害剤)が比較的広く使用されており、一部の患者で効果を発揮している。

予後

 患者の生命予後は不明である。死亡原因は、3歳までの乳幼児では、ウイルス感染時の突然死が多い。成人では、肥満、糖尿病に伴う合併症(蜂窩織炎、肺栓塞、腎不全、心不全、など)などで死亡する。そのため、肥満、糖尿病に罹患しなければ生命予後は比較的良いかもしれない。国内では、少なくとも2名が55歳以上で存命である。

最近の動向

 2002年から開始された成長ホルモン治療は、全患者の約半数に適応されるのみである。これは、その適応基準が低身長(健常児の-2SD以下)となっているためで身長が比較的大きい患者はその適応から外れる。しかし、本症患者で一番期待される成長ホルモンの効果は、体組成改善であり、この効果により将来の脳・心臓血管系のアクシゼントを予防する事にある。そのため、本症の支援グループ(竹の子の会)を中心に体組成改善目的での治療認可を求める動きがある。

病因と病態生理

 PWSの臨床が、過去10以上にわたり大きく進歩した要因の一つは、本症が従来のメンデル遺伝の法則に従わない新しい疾患のため、世界中の研究者、臨床家の関心を集め続けた事である。すなわち、PWSは従来の優性遺伝、劣性遺伝の法則に従うのでなく、父親由来の染色体15q11-13領域の遺伝子が欠失する事で発症する。従来のメンデル遺伝には、異常を起こす遺伝子の由来が父親、母親ということは全く云々されなかった。片一方のアリルの異常で発症するのが優性遺伝、両側アリルの異常で発症するのが劣性遺伝という原則だけである。すなわち、本症の病因理解には、由来する遺伝子の働きが、父親か母親かによりその遺伝子の働きが変わってしますというインプリンテイング遺伝子(ゲノムへさらに情報の刷り込み現象が起こっている;ゲノム刷り込み現象)の関与が初めて見出された疾患である。

 まとめると、染色体15q11-13領域に存在する遺伝子群は、その由来が父親か母親かにより働きがことなっているため、同じ遺伝子異常であっても、父親由来の遺伝子群の欠失ではPWS、母親由来の欠失ではAngelman症候群という全く異なる疾患となる。この父親由来の遺伝子欠如は、3つの病因で惹起される。

 病因は、欠失、片親性ダイソミー、刷り込みセンター異常(imprinting center異常;IC異常)の3種類であり、それぞれの頻度は、約70%、25%、数%といわれている。欠失は、父親由来の染色体15q11-13の欠失、片親性ダイソミーは、染色体15番が双方共に母親由来の染色体となり父親由来の染色体が欠如するためPWSとなる。このダイソミーの発症機序は、本来15番染色体はトリソミー(母由来は減数分裂の不分離で2本、父由来が1本)であったが、トリソミーレスキューで父親由来の染色体は脱落したと考えられている。

 また、逆にモノソミーレスキューの可能性もある。IC異常は、染色体由来により刷り込みを帰る中枢の異常で、父由来の遺伝子を間違って母由来としてしまう異常である。この頻度は、数%と低いが次子における再発率が最大50%になるため遺伝相談上重要である(ICの異常が本人での突然変異であれば再発率はゼロに近い。しかし、父親での母親由来の染色体でのIC異常であれば父親では無症状であるが、父親から子供に伝えられる染色体上ではIC異常のため発症する。この再発率は最大50%となる)。

診断方法

 診断のための検査の進め方は、本邦では、まず染色体G分染法で染色体異常のスクリーニングを実施する(PWSと決め込まない)。これで異常が検出されないが臨床上PWSが否定されない例では染色体検査と分子生物学的手技を組み合わせたFISH法でPWS検査用のプローブを用いた検査を行う。この検査法は、あくまで欠失に由来したPWSのみの確定診断のため全PWS患者の約70%で診断を可能にするのみである。FISH法でもPWSは否定されたが、臨床症状からまだPWSが疑われる時は、メチレーション試験で、刷り込みパターンの検査を行うことで、病因の如何(欠失、片親性ダイソミー、IC異常)を問わずPWSか否かの決着が99%つく(100%でないのは、極まれに複雑な染色体構造異常に起因する例がありメチレーション試験でも見逃される可能性がある)。

 メチレーション試験は、染色体15q11-13部分の刷り込みパターン〔メチル化パターン〕を検索する手技であり、3種類の病因如何に関わらずこの検索部位の刷り込みパターンは、PWS患者では母親パターンのみである。このメチレーション試験では、PWSの確定診断は可能であるが、その病因に関しては不明である。欠失は先ほどのFISH法で否定されていると、残る病因は、片親性ダイソミーあるいはIC異常である。この鑑別は遺伝相談上大切であるが、特別な施設で研究目的で実施されているにとどまっている。

 これらの検査の実施時期が、早期診断の決め手になっている。現在日本は、世界中での診断時期が一番早い国の一つであり、多くが新生児期、あるいは少なくとも1歳以前に診断されている。診断時期は、片親性ダイソミーでは欠失型に比較して遅れる傾向がある。これは、両タイプの臨床症状の差異に起因すると思われる。片親性ダイソミータイプは欠失型に比較して、症状がやや軽度であり、とりわけ診断の大きな手がかりになる色素低下が見られない特徴があるため、PWSを真っ先に疑われない場合がある。

 検査提出のタイミングは、新生児期に、筋緊張低下、色素低下、外性器低形成を認めれば少なくともFISH検査までは実施すべきである。この時期を逸すると、次は、3~4歳頃に異常な過食傾向、肥満が出現し、発達遅滞が認められるようになれば、検査を実施しておく事が推奨される。年長になると、過食、肥満、低身長、外性器低形成は勿論であるが、特徴的性格障害も診断の大きな手がかりになる。

(MyMedより)推薦図書

1) 長谷川知子 編集:プラダー・ウィリー症候群 先天性疾患による発達障害のことがわかる本 (健康ライブラリースペシャル),講談社 2009

2) 藤枝憲二 著:Prader‐Willi症候群―臨床からケアまで,診断と治療社 2002

3) 山城雄一郎:新小児科学 (Qシリーズ),日本医事新報社 2005
 
 

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