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Acute hepatic failure
執筆者: 秦 堅佐工
肝不全とは肝臓の主要な構成細胞である肝細胞の機能異常が進行し、肝機能が失調した状態を指す。各種の疾患により肝機能が停止した状態であり、様々な異常がみられる症候群といえる。 肝臓は体内で最大の代謝器官であるとともに、細網内皮系の中心的存在として免疫学的にも重要な機能を果たしており、生命維持になくてはならない臓器である。したがって肝不全はほかの臓器へ多大な影響を及ぼし、多臓器不全から死に至る重篤な病態である。
肝不全には急性型と慢性型があり、それぞれ急性肝不全、慢性肝不全と呼ぶ。急性肝不全の多くは 劇症肝炎が占め、慢性肝不全は肝硬変の進行とともに発症することが多い。以下、劇症肝炎を中心に話を進める。
病因はウイルス肝炎、薬剤性肝炎、自己免疫性肝炎などの劇症化が多いが、わが国では9割以上がウイルス肝炎に起因する。特に小児期劇症肝炎はB型肝炎が大部分であり、その他の肝炎ウイルスは少ない。Wilson病、Reye症候群、代謝性疾患なども肝不全をきたす重要な疾患であるが、劇症肝炎とは異なる病態なので注意が必要である。劇症肝炎については診断基準が示されている。
1) 肝細胞の広範な壊死
2) 肝の解毒代謝機能の高度な障害
3) アンモニアや芳香族アミンなどの毒性物質の蓄積
4) 多彩な精神神経症状の出現
急性肝炎の場合は、他覚的には黄疸、褐色尿、灰白色便、眼球結膜黄染、肝腫大などを認め、自覚症状は全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛などであるが、劇症化すると、進行性の高度黄疸を来し、肝腫大が一転急速に縮小する。また浮腫、腹水、消化管出血、その他の出血傾向、肝性口臭、意識レベルの低下、肝性脳症、羽ばたき振戦などがみられる。肝性昏睡の昏睡度分類が示されている。
1) ALT・AST:急激に上昇した後、急速に下降する。一見改善したように見えるが、残存する肝細胞が減少したことを意味し、予後不良の指標となる。
2) プロトロンビン時間・ヘパプラスチンテスト:血液凝固因子のうち第VIII 因子以外は肝臓で合成されており、半減期も数時間と短いため、肝予備能の最も鋭敏な指標となる。PT値が40%以下では劇症化が予想され厳重な管理が必要である。
3) 血清アンモニアの上昇、分枝鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸(Fisher比)の低下、低血糖なども急性肝不全を疑わせる重要な徴候である。
4) 肝生検:診断上必要になることがあるが、出血傾向が強い場合はあきらめざるを得ないこともある。
5) 腹部CT:肝腫大、肝萎縮の程度を測定する。
6) 腹部超音波検査:同上
7) 頭部CT:脳浮腫の判定を行う。
急性肝不全は劇症肝炎に準じて救命のための治療を開始する。原因疾患の治療をそれぞれ並行して行うことが重要である。治療の原則は、毒性物質の除去、生体に必要な物質の補充、合併症の予防と対策である。特殊療法については項目のみ提示する。
1)血漿交換
新鮮凍結血漿1回100-150ml/kg
2)交換輸血(体重10kg未満)
ヘパリン加新鮮血1回150-200ml/kg
3)持続的血液濾過透析
置換液量 成人10-30l/12-24時間(参考)
4)出血・DIC対策
a. ケーツー1回1mg/kg(最高10mg/日)静注
ヘパプラスチンテスト40%以上を目的に
b. エフオーワイ1-2ml/kg/時 持続点滴
c. 新鮮凍結血漿1回10ml/kg 追加投与
併用療法として
d. ヘパリン1日200-400単位/kg 持続点滴のもとにアンスロビンP1日30単位/kg 点滴静注
5)中心静脈栄養管理
a. アミノレバン10-20ml/kg点滴静注1日1−2回
b. ブドウ糖液中心に総合ビタミン剤、ケーツーNを加え、尿量1mg/kg/時以上を保つ。
6)脳浮腫対策
a. マンニットール1回0.5-1g/kg点滴静注1日4−6回
b. グリセオール1回5-10ml/kg点滴静注1日3−4回
7)消化管出血対策
ガスター1回0.8-1mg/kg静注1日2回
8)高アンモニア血症対策
a. ラクツロース1日0.5-2ml/kg分3経口
b. カナマイシン1日50-100mg/kg分4経口
9)感染症対策
予防が第一。イソジンガーグル、ファンギゾンシロップによる口腔内、消化管の殺菌。広域抗生剤の選択、γグロブリン投与を行う。
10)特殊療法
インターフェロンやラミブジンによる抗ウイルス療法、ステロイドホルモンやシクロスポリンによる免疫抑制療法、肝再生促進のためのグルカゴン・インスリン療法、細胞膜保護作用を期待するプロスタグランディン療法などがある。
劇症肝炎は、発病後10日以内に脳症が出現する急性型と、それ以降に出現する亜急性型に分類される。小児における劇症肝炎の救命率は急性型約30−50%、亜急性型約10−30%である。
劇症肝炎を含め急性肝不全は予後不良であるため、肝移植が積極的にすすめられている。わが国では脳死移植が普及しないため、親族からの生体肝移植が多くの症例で実施されている。
1) A型肝炎
2) B型肝炎
3) E型肝炎
4) その他のウイルス肝炎(EBウイルス、サイトメガロウイルス)
5) 薬剤性肝炎
6) 自己免疫性肝炎
7) ウイルソン病
8) 各種の代謝疾患
肝炎ウイルスマーカー、各種ウイルス抗体価、薬剤の投与歴に関する問診、リンパ球刺激試験、各種自己抗体、セルロプラスミン、血清・尿中銅の測定などを行う。
秦堅佐工:急性肝不全,小児疾患診療マニュアル(五十嵐隆 編集)pp264-266 2005 中外医学社
1) 笠原群生 著:こどもの肝移植―『いのち』を救うタイミング,診断と治療社 2007
2) 中島 俊彰 著:新版 C型肝炎 B型肝炎 (よくわかる最新医学),主婦の友社; 新版版 2007
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