消化管重複症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.02

消化管重複症(しょうかかんじゅうふくしょう)

Duplication of alimentary tract

執筆者: 渡井 有

概要

 消化管重複症(Duplication of the alimentary tract)は、それまでenterogenic cyst,giant diverticula ,ileum duplex,inclusion cystなどと報告されていたものを、Ladd&Grossが1940年に疾患群として提唱したもので、『発達した平滑筋を含む壁によって消化管粘膜が覆われている腸管様構造のもので、正常腸管に近接して存在し、正常腸管と血管支配を共有している物を消化管重複症と呼ぶ』とした。

 しかしその定義も拡大解釈されるようになり、近年では嚢胞内圧の上昇による圧迫壊死から内膜を欠く症例や後腹膜、腸骨窩に孤立して存在する症例、上部食道と同じ横紋筋で覆われている症例なども消化管重複症として報告されている。

 本邦では1923年に田村が初めて消化管重複症を報告して以来、1977年に長峰らが180例を1986年に韮沢らが360例を集計している。

 消化管重複症は舌根部から肛門まで全消化管に発生しうる疾患で、出血や腸閉塞で発症するものもあるがほとんどは無症候性である。回腸末端・回盲部を含む小腸が約半数を占める。多くは2才までに診断されるが近年では胎児超音波検査でも発見される症例が多くなった。

消化管重複症の発生部位と頻度(719例からの集計)

Oral 1%  ( 7 )

Esophagus  17% (119)

Thoraco-abdominal   3%  ( 22 )

Stomach 8%  ( 56)

病因

 成因は再疎通障害説、部分双胎説、脊索発生障害説など諸説あるが、本症の発生を充分に説明しうる物はない。消化管重複症の発生率は4500出生に1例と言われており、合併疾患としては30-50%に脊椎奇形・spinal cord ,genitourinary tractの奇形が合併するという報告もある。

 脊椎奇形の合併を説明しうる説としてはVeenklassの脊索発生障害説があげられる。この説は胎生初期に脊索(notocord)のentodermからの分離が不完全であるとentodermが憩室状原腸aechentermから引き出され、ついには嚢胞状の重複症が形成されるに至る。この嚢胞は脊椎に連絡しており、脊椎の奇形を生ずるというものである。この説は後縦隔に生じた例では頭側が脊椎に連なり尾側は横隔膜を通過して十二指腸・空腸に連なる症例の発生を裏付けるものである。 その他Bremerの再疎通障害説やRavitchの部分的双胎説などが有力であるが、いずれも腸管重複症の発生を一元的に説明するには十分とはいえない。

 脊椎奇形と消化管重複症を合併する症例はとくに「split notochord syndrome」と呼称されており、neuro-enteric canal の閉鎖障害に起因するとされるため、楔状椎、脊椎前裂、椎体癒合などの脊椎奇形をともなうことがある。泌尿生殖奇形も合併する。

 発生時期に関しては、重複腸管壁内に壁内神経組織(intramural ganglia)が認められることから、そのmigrationが完了する胎生12週以前と考える。

臨床症状

 一般的には、消化管重複症の形状は球状(spherical)のものが大部分であるが、大腸においては球状なものと管状(tubular)なものとがほぼ半数ずつとなる。球状の病変は漿膜・筋層が正常腸管と共有されていることが多く、このために球状消化管重複症内貯留液により腫大した嚢腫状の腫瘤が直接近接する正常腸管内容を圧迫し、狭窄や閉塞を来したり、内腔への突出腫瘤が先進部となって重積したり、腫瘤を中心に捻転をおこし新生児・乳児の消化管閉塞の原因となることが多い。丸地らは球状型は消化管重複症と隣接腸管との交通が管状型に比べて少ないため症状がより早期に発現しやすくそのため小児例には球状が多いとされている。正常腸管との交通の有無で交通型、非交通型に分けられている。消化管重複症粘膜が胃粘膜などの酸分泌の粘膜を含んでいると胃酸によって潰瘍が生じ、消化管内出血や腸穿孔をきたし腹痛・嘔吐・下痢などが見られる。下部結腸の重複病変は便秘・下痢・直腸脱を惹起する。

 腸重積症、腸捻転症などがかければその多くは無症状で経過することが多い。腫瘤の触知率は40-50%とされている。腫瘤が巨大なものでは隣接臓器の圧迫が起こり、胸部食道では気管が圧迫され呼吸障害を起こすことがある。大きい物は圧迫症状にて小さい物は重積の先進部となったり閉塞の原因となる。

 異所性の組織(胃粘膜・膵組織)は消化管重複症全体のうち30%にみられ時折出血や潰瘍による穿孔を起こす。

治療

 治療は消化管重複症の外科的切除である。一般に消化管重複症は正常腸管と共通の血管支配を受けているので、消化管重複症のみの摘出は困難で、正常腸管を含めての消化管重複症切除・端々吻合が原則とされる。一方大腸では小腸の消化管重複症に比べて正常腸管との癒合が比較的疎であり正常腸管を温存したままの消化管重複症切除が可能であったり自動縫合器を用いて正常腸管との隔壁を切除する術式も選択されている。長い管状の消化管重複症では切除不能な場合には粘膜抜去が施行されることもある。

Duplicationの悪性化について


 1975年にOrr & Edwards は2例の大腸の消化管重複症の腺癌を報告し『大腸の消化管重複症の上皮はmalignant potentialtyを持って考えるべき』とのべている。1981年にHickey &Corson が横行結腸の消化管重複症に発生した扁平上皮癌の一例を報告し、1985年にはRatanarapee & Lohsiriwatは直腸に発生した消化管重複症の腺癌の報告と7例の直腸消化管重複症腺癌の集計をしている。本邦でも隅越らや大桶らの7例の直腸消化管重複症に発生した腺癌の報告がある。

 Gibsonらは成人22例中6例に悪性化を認めたと報告しており、早期治療の必要性が勘案される。

 消化管重複症の腫瘍化に関する報告はまれで本邦では10数例のみである。(島田守:2003) 癌発生率が正常結腸に比して有意に高いという報告もなく、今後検討の必要があるものと考えられる。

Duplication悪性化の報告例


1978 井上雅勝 胆嚢欠損を伴った重複十二指腸早期癌の1例

1981 隅越幸男ら 痔ろう癌

1987 大桶博美ら 直腸重複腸管に発生した腺癌の一治験例

1997 水本正剛ら 上行結腸重複腸管から発生した後腹膜粘液癌の1治験例

1995 木村聖路ら 重複腸管から発生した腹膜偽粘液腫の1例

2002 松下啓二ら S状結腸重複症に発生した結腸癌の1例

2003 島田守ら 空腸重複腸管内に腺癌の発生した1例

2004 関克典ら 回腸重複腸管から発生した腹膜偽粘液腫の1例

予後

 合併奇形の伴わない症例の予後は良好である。

horacoabdominal duplications


 発生部位別にみた脊椎奇形の合併は胸腔内発生例に多く見られており、腹部発生例では稀であるとされている。

gatric duplications


志村の症例から

 胃消化管重複症は全消化管重複症の4-9%にすぎず、2:1で女児の報告が多く1才になるまでに50%が診断されるが、成人から新生児までの報告がある。35%に異所性膵、2つの腫瘤、脊椎疾患をともなうという。通常胃消化管重複症はcysticまたtubular構造を呈しており、12cm以下の大きさで、正常胃粘膜との交通はないとされている。根本らは胃消化管重複症の術前診断は困難であるが、超音波による所見に消化管造影を併用することで診断率が向上すると述べている。また胃消化管重複症の超音波所見の特徴として、胃の大弯側に嚢胞状にできることが多く、超音波検査でechogenic inner rimが同定できれば術前の診断は可能であるいう。繰り返し膵炎を小豆蒄症例や、腹痛に高アミラーゼ血症をみとめ異所性の膵粘膜をともなった胃消化管重複症の報告もある。消化管重複症内に高アミラーゼを示す液体をみとめることもある。胃消化管重複症は、時に穿孔や瘻孔により急変することがあると報告されており、死亡率は3%といわれる。

duodenal duplications


 本症は全腸管重複症の4.7-7%と報告されており、野口らは本症の報告例を集計している。成人は25例(男性9例、女性16例)、小児は21例であったとしている。発症部位は十二指腸第一部、第二部の内側に多く、全てが単発であった。本症では球状の消化管重複症が圧倒的に多い。十二指腸壁との位置関係では内腔型、壁内型、壁外型、膵内型に分類される。13%に異所性の胃粘膜を有し、本症で膵管や胆管との交通を有する場合、膵炎や胆管炎として発症することもある。重複十二指腸の術前診断は困難で、本邦例のいずれも胃透視による十二指腸の異常は認められてはいるが確信はされておらず、全例のうち2例に胆道との交通が認められており、術前の胆道造影も重要であると思われる。

 胎生期の前腸上皮は呼吸器系で明らかなように線毛上皮に分化しうる。しかも、胎生期の前腸は一時期線毛円柱上皮で覆われており、食道・胃・十二指腸・肝・胆・膵は呼吸器系とともに前腸由来の臓器であることから、食道重複症・十二指腸重複症では線毛円柱上皮からかるものも報告されている。この領域の疾患群は、欧米ではbronchogenic cyst、esophageal cyst,enteric cystをまとめて前腸嚢胞(forgut cyst)として総称している。

small bowel duplications


 球状が多いが管状の場合には数センチのものから腸管全体に及ぶものまである。筋層は正常腸管と共有する場合と独立して存在する場合がある。

 一般に消化管重複症は腸間膜側に存在し、血流は共有することが多い。もっとも多いのは回腸遠位側に発生するものである。

 異所性の胃粘膜は管状の80%に見られるが球状では20%にすぎない。

colonic duplications


 Kottra and Dodds分類がある。

 結腸の消化管重複症においては異所性胃粘膜の報告はなされていない。全結腸型は2000年の段階で11例であった。

anal duplications


 肛門のみに消化管が重複する肛門管重複症は非常に少なく、文献上検索した限りでは10数例に過ぎない。性別では1例が男児でそれ以外は全て女児であった。瘻孔の盲端はいずれも肛門の6時方向で歯状線の外側にあり、肛門管に沿って長さ3-30mmで盲端となっていた。病理組織学的には、内腔は扁平上皮または移行上皮で覆われており、痔瘻と異なり炎症性細胞の浸潤を認めないことが多い。肛門管重複症は、会陰部で盲端となっているため炎症をくり返して膿瘍を形成しやすいと予想されるが、膿瘍形成の合併症は報告されていない。しかし、便秘や肛門痛を訴える症例もあるため排便時になんらかの影響をあたえている可能性もある。

 また消化管重複症から悪性化した報告があるため、肛門管重複症に関しても手術適応があると考えられている。治療としては1)経会陰式摘出術2)仙骨後正中切開式摘出術3)内瘻形成術がある。これらの術式は瘻孔造影の所見によって選択すべきである。肛門管重複症の先端部分で嚢胞を形成している場合または直腸に達する場合には仙骨後正中切開式摘出術が勧められる。しかし、肛門管に沿って認める重複症では会陰式摘出術が比較的容易に全摘でき望ましい術式と言える。

文責 亀田総合病院 小児外科 渡井 有

診断

 発症時の75%以上が2才以下であるがその部位によって発症形式は様々で形態・大きさ・場所・消化管重複症の含む粘膜の種類で異なるため、特異的な症状はなく術前確定診断は困難で、術前診断は11.2%であったと星らは報告している。

 有用な検査としては単純X線撮影、超音波検査、CT、MRI,消化管造影、99mTcO4シンチが行われる。

単純X線撮影は腫瘤影の描出の他、脊椎異常の合併の有無確認のために必要である。

 超音波検査、CT,MRIは嚢腫の確認の他に隣接臓器との位置関係把握に有用である。消化管造影は重複腸管による圧迫所見、および交通性重複腸管においては重複腸管が描出され、確定診断が可能な場合がある。そして10-20%が異所性の胃粘膜を有するため99mTcO4シンチが行われる。

 術前診断はいまだ困難であるが超音波診断の技術向上のため出生前診断例も報告されるようになってきた。

 消化管重複症の特有な超音波所見として嚢胞壁が高エコーの粘膜層とその外側の低エコーの筋層の二層に描出されること、及び嚢胞内部のdebrisや隔壁の存在が報告されている。また腸管重複症に特徴的な所見として嚢胞の蠕動や消化管重複症は正常腸管と同様の壁構造を有していることから、本症に特有な所見として消化管重複症の壁が2層あるいは5層に描出されるつまり1層ではなく筋層を伴う嚢胞像(赤塚ら1998)の特徴も指摘されている。また腸管に近接する嚢胞像を描出し嚢胞内には出血を伴う高エコー像が見られることがある。(町田) 胎児の腸管重複症として漆原らは、軸捻転を合併した症例を経験しており、妊娠36週に腸管拡張と羊水過多を認めたと報告している。

 新生児における腸閉塞症の原因として腸管重複症の占める割合は1%以下と稀である。

 鑑別疾患として小児期では腸重積症や腸回転異常症よる軸捻転症、腸間膜裂孔による内ヘルニアなどがあり、また新生児であれば先天性小腸閉鎖・狭窄症なども考慮にいれて検査をすすめる必要がある。また腸重積像がなく腸管の狭窄が認められ、超音波検査やCTにて嚢胞像が確認されれば腸間膜嚢腫、リンパ管腫も鑑別診断に入る。

(MyMedより)推薦図書

1) 千葉敏雄 著:胎児外科,日本評論社 2007

2) 岡田 正 著:系統小児外科学,永井書店 2005

 

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