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acute appendicitis
別名: 虫垂炎 | もうちょう
執筆者: 岡田 真樹
発生頻度は1000人に1~1.5人といわれている。すべての年齢層に起こりうるが、10歳代にもっとも多く、10歳未満および50歳以上では穿孔や膿瘍を形成する割合が高い。
虫垂の閉塞により虫垂内圧が上昇し、腸内細菌の増殖や血行障害による虫垂粘膜防御機構の破綻のために、腸内細菌などが虫垂壁内に進入し感染を起こすことが病因である。虫垂の閉塞はリンパ組織の過形成、糞石、異物、まれには腫瘍が原因となる。ウイルス感染などにより虫垂の閉塞なしに発症することもある。
組織学的には粘膜層の軽度な炎症を示すものから、虫垂壁全層の壊死を呈するものまである。これら炎症の程度、範囲から本邦では、1)カタル性虫垂炎 2)蜂窩織炎性虫垂炎(化膿性虫垂炎) 3)壊疽性虫垂炎 4)穿孔性虫垂炎と分類することが多い。多くの虫垂炎はカタル性から始まり、炎症が進むにつれて蜂窩織炎性、壊疽性、そして穿孔性へと進展すると考えられるが、カタル性と壊疽性では病因、病態が本質的に異なるという考え方もある。欧米では1) acute focal appendicitis 2) acute suppurative appendicitis 3) gangrenous (phlegmonous) appendicitis 4) perforative appendicitisと分類されることが多い。
まず心窩部痛から始まりその後に右下腹部痛となるのが典型的であるが、このような典型的な症状を示すことは決して多くない。多くの場合で食思不振、嘔気嘔吐など症状を伴う。下痢も認められるが必発ではない。発熱は37~38℃のことが多い。39℃以上の場合は穿孔性腹膜炎や膿瘍形成を考える必要がある。初期から高熱を伴う場合は急性虫垂炎の可能性は少ない。
右下腹部に限局した圧痛は診断上重要な所見である。圧痛点としては、McBurney点(臍と上前腸骨棘を結んだ線の外側1/3の点)とLanz点(左右の上前腸骨棘を結んだ線の右側1/3の点)が有名であるが、Rappの圧痛域に限局した圧痛点があれば急性虫垂炎を疑う。
急性虫垂炎の診断に役立つ症候として、左側臥位でMcBurney点を圧迫すると圧痛がより著明になるRosenstein症候、仰臥位で左下腹部を尾側から頭側に圧迫すると右下腹部痛が増強するRovsing症候、右股関節を進展させると痛みが増強する腸腰筋症候(Psoas症候)(虫垂が後腹膜に存在する場合に陽性となることが多い)がある。
虫垂の炎症が壁側腹膜に及んだ場合に現れる腹膜刺激症状として、腹部をそっと圧迫していくと無意識に腹筋が緊張する筋性防御、腹部をそっと圧迫した後に圧迫した指を急に放すと疼痛が出現するBlumberg症候(反跳痛)が重要である。しかし腹膜刺激症状の有無は急性虫垂炎の診断としてより、手術適応を判断する際に重要である。所見がとりにくい小児の場合には、爪先立ちから急に踵を落とさせると右下腹部痛が生じる踵おろし検査を行うか、右足でけんけん跳びをさせてみる。痛みで跳べない場合は腹膜刺激症状ありと判断する。ただし、これらの腹膜刺激症状は急性虫垂炎に特異的なものではないことを理解しておかなければならない。
10000 – 18000 /µlの白血球増多を認めることが多いが、白血球増多を認めないこともあり、白血球増多の有無で診断および手術適応を決定することはできない。血清CRP値の上昇は炎症の有無および程度を判断する上で重要であるが、初期には増加しない。腹部単純X線で急性虫垂炎に特異的な所見はないが、しばしば右下腹部に腸管麻痺像である軽度拡張した小腸ガス像を認める。
腹部超音波検査では、肥厚した虫垂壁や嚢胞状に腫大した虫垂が描出される。また虫垂内部に糞石が認められたり、虫垂周囲の膿瘍や腹水、腸管の麻痺像が描出されることもある。腹部CT検査でも腫大した虫垂や糞石、随伴する膿瘍、腹水が描出される。
典型的な症状と身体所見を示す場合には診断は容易であるが、しばしば診断に難渋することが多い。右下腹部の自発痛に加えて限局した圧痛は虫垂炎を強く疑う所見である。自発痛がなく圧痛のみの場合には少なくとも手術を要する虫垂炎は考えにくい。また右下腹部全体に限局しない圧痛を認める場合は、腹膜炎を合併した場合を除き虫垂炎は考えにくい。後腹膜に虫垂が存在する場合にはMcBurney点やLanz点などに圧痛を認めないことがあるので注意が必要である。
問診で重要な点は食思不振、嘔気嘔吐などの症状の有無である。これらの症状を伴わない場合には虫垂炎は考えにくい。発症からの経過も重要な点である。たとえば1週間前からの右下腹部痛を訴える場合には急性虫垂炎ではないことが多い。反対に発症間もない時期に虫垂炎と診断することは困難な場合が多い。このような場合には慎重に経過を観察しなければならない。
小児の急性虫垂炎には注意が必要である。患児の訴えがはっきりせず診断が遅れることがありまた進行も早い。高齢者の急性虫垂炎にも注意が必要である。高齢者では炎症が中等度以上でも症状、身体所見が軽微であることがある。このため炎症が進行してから診断されることが多く、術後合併症を起こしやすい。
妊娠中の急性虫垂炎の罹患率は非妊娠時に比べて低いが、妊娠中に発症する急性腹症の中でもっとも頻度が高い。穿孔すると早産や胎児死亡のリスクが上昇するので、穿孔前に診断し手術を行う必要がある。妊娠4か月以降では子宮の増大に伴い虫垂が上方外側に変位するといわれるが、最圧痛点や腹部超音波検査で描出した虫垂の部位で皮膚切開する。
結腸憩室炎、右側結腸癌、骨盤内炎症性疾患(PID)、卵巣出血、卵巣嚢腫茎捻転、子宮外妊娠、腸間膜リンパ節炎、Meckel憩室炎、急性胆嚢炎、胃十二指腸潰瘍穿孔、右尿路結石症
症状が軽微なカタル性虫垂炎の場合には、絶食と抗菌薬投与による保存的治療を行っても良い。しかし症状の改善がない、あるいは増悪する場合には躊躇せず手術を行う必要がある。決して手術のタイミングを逸し穿孔させてはならない。
通常開腹術としては、交差切開法と傍腹直筋切開法があるが、圧痛の最強点に皮膚切開を置くべきである。虫垂切除法には常行性虫垂切除術と逆行性虫垂切除術がある。いずれの場合でも、虫垂根部の炎症が高度で巾着縫合ができない場合には、Z縫合や漿膜筋層縫合で断端を埋没させる。それも困難な場合には無理に埋没させる必要はなく断端近傍にドレーンを挿入しておく。あるいは盲腸壁を切開して切除し縫合閉鎖する。虫垂切除後にはダグラス窩に貯留した浸出液をガーゼや吸引を用いてドレナージしておく。腹腔内洗浄は高度な腹膜炎の場合を除いて原則行わない。ドレーンの挿入は膿瘍形成例や高度な腹膜炎の場合を除いて原則行わない。創縁の保護にはサイズの小さなwound protectorを用い、皮膚の閉創前には皮下脂肪織を洗浄し、創感染を予防する。
腹腔鏡下虫垂切除術では、虫垂間膜を超音波凝固切開装置などで切離し、虫垂根部はEndoloopやEndostaplerで処理する。通常、根部断端は埋没しない。切除した虫垂はTrocarから直接にあるいはバッグに入れて取り出す。腹腔鏡下虫垂切除術の利点はその診断的意義にあり、虫垂炎疑診例や他の疾患が除外できないような場合にはより有用である。
1) 岡田真樹 著:腸間膜、虫垂.新臨床外科学第4版:587-596, 2006,東京、医学書院
1) 坂井建雄 監修:徹底図解 手術と解剖のしくみ―盲腸の切除術から最先端の内視鏡手術まで,新星出版社 2008
2) 下間正隆 著:カラーイラストでみる外科手術の基本―ILLUSTRATED BASIC SURGERY,照林社 2004
3) 弓削孟文 著:手術室の中へ ―麻酔科医からのレポート (集英社新書) ,集英社 2000
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