慢性心不全 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.25

慢性心不全(まんせいしんふぜん)

執筆者: 松崎 益徳

概要

 慢性心不全は高血圧、虚血性心疾患、心筋症などの様々な循環器疾患の臨床経過の果てに心機能低下を生じ、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を拍出できず、肺または体静脈系にうっ血をきたし生活機能に障害を生じた病態である。心臓に虚血、圧負荷や容量負荷などの種々の病的ストレスが加わり心機能が低下すると、当初は心拍数の増加、心収縮性の増大、血管収縮などの機能的変化に加えて、心肥大・拡大といった形態的変化により血行動態は代償される。しかしながら、このような状態が長期に持続すると心機能は非代償的に悪化の一途をたどり患者の生命予後は極めて不良となる。

 慢性心不全では交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に代表される神経内分泌系因子、さらには酸化ストレスや炎症性サイトカインも著しく増加し、その病態を悪化させていることが判明している。また慢性心不全の病態と予後を規定する臨床的因子として、1)心機能低下、2)運動耐容能の低下、3)致死的不整脈の発生・突然死、があげられ、これらの因子は種々の割合で重なり合いながら進行性に病態の悪化を招く。

病因

 心臓は全身の血液循環を維持するための臓器である。左心系(左心房・左心室)ならびに右心系(右心房・右心室)から構成され、右心系は、肺循環、左心系は体循環を灌流するポンプとして働く。ポンプとして働く仕掛けは、心臓特有の筋肉細胞によって構成された各心房、心室が協調的に収縮・拡張を繰り返す。筋肉の動きは、周期的な電気信号がペースメーカー細胞からおこり、心臓全体に電気が伝わることによって制御されている(心電図として記録される)。何らかの疾患によって心臓機能障害(器質的心疾患)が起こり、全身の酸素需要を満たすだけの心拍出量を保てなくなったとき、心不全が起こる。
 

病態生理

 心不全を引き起こす基礎疾患は弁膜症に代表される機械的障害、虚血性心疾患に代表される心臓の血流障害、拡張型心筋症に代表される心筋障害、心臓のリズム障害に基づく心ポンプ障害に大別される。図1



 収縮機能低下の機序としては、収縮単位の減少、虚血によるエネルギー代謝障害、細胞内Ca2+調節異常、興奮収縮連関に関与する遺伝子の突然変異などがあげられる。一方、収縮性の低下がみられないタイプの心不全(拡張不全)は,心不全の原因の30~40%を占め、高血圧、糖尿病を合併した高齢女性に多い。また、貧血,脚気,甲状腺中毒,妊娠,重症ページェット病,動静脈瘻などの疾患では、高心拍出量心不全を生じることがある。

臨床症状

 慢性心不全の症状としては、息切れや呼吸困難が主体となる。初期は仕事中や坂道を上ったときなどに軽度の息切れを自覚するのみであることも多いが、進行すると安静時にも息切れが生じるようになり、さらに肺うっ血がひどくなると夜間就寝後に咳や息切れがひどくなり発作性夜間呼吸困難も認めるようになる。さらに重症化すると呼吸困難のため横になれず座ったままの姿勢をとる、いわゆる起坐呼吸を呈する。その他には、全身倦怠感、頭痛などの神経症状、動悸、食思不振など、非特異的なものも多く、高齢者では呼吸困難、息切れなどの自覚症状がはっきりせず、原因不明の精神状態の異常として発症することもある。

 身体所見としては、四肢冷感(いつも手足が冷たい感じ)、夜間尿や乏尿、を認める。夜間頻尿は心不全の初期において、日中活動時に減少していた腎血流量が、夜間安静にすると増加するために生じる。収縮期血圧と拡張期血圧の差である脈圧の低下も参考になる。心臓由来の浮腫は呼吸困難などに伴うことが多く、下腿の前頸骨部を指で押さえて離すと、皮膚がもとに戻らず指圧痕が残る状態で自覚される場合が多い。浮腫は夕方に増加し朝に減少し、通常体重が2~3kg増加する。浮腫に伴い、内頸静脈や外頸静脈が腫れる静脈怒張がみられることも多い。心不全の重症度診断にはNYHA(ニューヨーク心臓病協会)分類(図2)が使用されることが多い。

検査成績

 慢性心不全患者における心機能不全の状態把握、原因疾患の診断、予後の評価、および治療方針の確立を目的として種々の臨床検査が実施される。図3に左心不全の診断指針を示す。



① 血液検査

 血液検査で最近心不全重症度をもっともよく反映する指標として有用なのが、血中BNPやBNPの前駆体であるNT-pro BNPである。血中BNPが200pg/mLを超える症例は、難治性であり、入院治療を決定する根拠となるケースが多い。ただし、BNP測定にも限界があり、HCMや高血圧性心疾患、一過性心房細動、腎機能低下などでは心機能を反映する以上に高値を示すことが多い。一方、末期心不全で残存心筋細胞がほとんど無く線維化が強い例ではBNPはさほど高値を示さないこともあり、心機能評価を総合的な判断をすることが重要である。特殊な検査としては血中ノルエピネフリン、バソプレッシン、TNF-α、インターロイキン6、ANPなどの測定がされることもある。

  貧血(Hb10g/dL以下)は心不全を悪化させる。動脈血ガス分析では呼吸状態や肺うっ血の程度を反映し、低酸素血症、アシドーシス、それに伴う低CO2血症がみられるが、心不全が極度に重症化するとCO2の蓄積もおこる。

② 胸部X線像、心電図

 慢性心不全患者の典型的な胸部X線写真を示す(図4)



 患者は拡張型心筋症により慢性心不全を発症した症例である。心陰影の拡大は、すべてにみられるわけではないが、収縮不全、心筋のリモデリングを伴った症例ではみられることが多い。左房圧が上昇している症例では肺血管陰影が増強し肺うっ血像がみられる。また、右心不全をきたしていると胸水貯留がみられることがある。 心電図では特異的な変化はないが、慢性心不全をきたす原因疾患の推定に必要不可欠である。

③ 心エコー

 心不全の診断には心エコーでの心収縮性、拡張性の評価が必須であり、非侵襲性、簡便性から心エコーは第1選択である。ただし、心房細動を伴っている場合は拡張不全の診断は困難で、病歴、基礎疾患、過去の肺水腫の既往などから総合的な判断を要する。洞調律時の心エコー・ドプラー法による拡張不全の診断基準を図5に示す。



 M モード法あるいは断層法による左室容積計測から1回拍出量(SV)、心拍出量(CO)、左室駆出率(LVEF)が測定可能である。ただし、LVEF は前負荷・後負荷の影響を受けやすく、僧帽弁逆流が存在する場合にはLVEF を過大評価する可能性があり注意が必要である。左室内径短縮率(% FS)、平均左室円周方向心筋線維短縮速度(meanVcf)、収縮期壁厚増加率(% WT)などを用いる場合もある。局所壁運動異常が存在する虚血性心疾患などにおいては これらの指標の適用に限界がある。一方、虚血に基づくと考えられる局所壁運動異常の検出が可能であることも重要であり、その他の原因疾患の診断についても心不全患者のスクリーニングとして有用である。さらにドブタミン負荷心エコーは虚血の検出や心筋viability(気絶心筋、冬眠心筋)の評価にも有用である。

④ CT、MRI

 形態診断に有用である。また、心拍出量、左室駆出率、局所壁運動評価も可能であるが、ルーチン検査としての適用には限界がある。

⑤ 核医学

 形態診断や左室機能評価が可能である。さらに、心筋虚血の検出(SPECT)や心筋代謝の評価、心筋viability の評価(PET)、心筋交感神経障害の評価が可能である。しかしコストや設備上の問題でルーチン検査としての適用には限界がある。 

⑥ 心臓カテーテル法

 心内圧、心拍出量、心室容積、駆出率などの測定により心機能を評価できる。肺動脈楔入圧と心係数からForrester subset(図6)を判定したり、肺血管抵抗、 末梢血管抵抗を算出することにより治療方針の決定にも有用である。ただし、患者の同意がえられない場合や出血傾向、重篤な臓器障害、腎不全、造影剤アレルギー、高齢者あるいは非協力的な患者の場合には適応が制限される。 



 Swan-Gantzカテーテルから得られるForrester subsetにもとづく病態の分類は、治療方針の決定に大変有用である。

Ⅰ型:

 心機能の低下は軽度で、強心薬、利尿薬は必要ない。場合に応じてACE阻害薬、β遮断薬などが使用される。
 

Ⅱ型:

 前負荷がかかっているがFrank-Starlingの代償機序により心拍出量が比較的保たれている状態で肺うっ血に対し、利尿薬、静脈系血管拡張薬が使われる。

Ⅲ型:

心筋収縮力の低下によって循環血液量の低下をともなっている状態で心拍出量を維持するために、強心薬、補液を行う。

Ⅳ型:

 左室充満圧が上昇しているにも関わらずFrank-Starling代償機序が破綻して有効な心拍出量が確保出来ない状態である。もっとも重症で予後が悪く、強心薬、血管拡張薬利尿薬が併用され、それでも全身の循環が保てない場合には心肺補助循環装置(PCPS、IABP)の使用を考慮する。

⑦ その他

 心不全の重症度を、定量的に表す検査方法として呼気ガス分析による嫌気性代謝閾値や最大酸素摂取量の測定や、近年ではその簡便な方法として6分間歩行テスト、Specific Activity Scale(生活活動能力の問診票)が、運動耐用能の把握に使われる。

治療

 心不全治療はアメリカ心臓病協会・アメリカ心臓病学会(AHA/ACC)の指針ではステージ別治療戦略が用いられる(図7)



 従来、心不全の重症度診断にはNYHA分類が使用されてきたが、心不全の重症度を必ずしも反映しないことがあるため、2001年からNYHA分類に変わる重症度診断としてステージ分類が提唱されている。日本循環器病心不全治療ガイドライン2005年改訂版においては、使用上の簡便性から、治療方針決定は現在もNYHA分類に基づいて行われている。

① 薬物療法

 慢性心不全の薬物療法はステージ分類、NYHA分類に従って処方する(図8)。



 これらは数々の大規模臨床試験の結果得られたものであり、最近では心不全患者の予後改善には、心臓のみならず腎臓などの他臓器保護まで考慮に入れた薬物投与方法が重要になってきている。以下個々の薬物の処方例を示す。

a)ジギタリス剤

 ジゴキシン 0. 25mg/日 年齢、性別、体重、腎機能を考慮したアルゴリズムを用い、投与量を決定する。

b)利尿薬

 フロセミド 20~80mg/日
 スピロノラクトン 初期投与量 25mg/日、維持量25~50mg/日

 スピロノラクトンは利尿効果よりも、フロセミド使用時の血清カリウム保持効果や最近ではアルドステロンの作用を阻害することによる心不全悪化防止効果の方が大きいと考えられている。

c)ACE阻害薬

 エナラプリル 初期投与量 2.5mg/日、維持量 5~10mg/日
 リシノプリル 初期投与量 2.5mg/日、維持量 5~10mg/日
 カプトプリル 初期投与量 37.5mg/日、維持量 37.5~75mg/日

d)アンギオテンシン受容体拮抗薬

 カンデサルタン 初期投与量 4mg/日、維持量 4~12mg/日
 ロサルタン 初期投与量 12.5mg/日、維持量 12.5~50mg/日
 バルサルタン 初期投与量 20mg/日、維持量 40~80mg/日

e)β遮断薬

 カルベジロール 初期投与量 1.25mg/日、維持量 2.5~10mg/日
 メトプロロール 初期投与量 12.5mg/日、維持量 60~120mg/日
 ビソプロロール 初期投与量 1.25mg/日、維持量 5~10mg/日

 気管支喘息の既往があるときは、β2受容体遮断により悪化することがあり、慎重に投与する。投与後も呼吸器症状が出現することがあるので、定期的に聴診、SaO2をチェックする。もっともβ1受容体選択性が高いのはメインテートなので、呼吸器疾患があるときは考慮する。

f)抗不整脈薬

 アミオダロン 200-400mg/日、維持量 100-200mg/日

 アンカロンは過去の臨床試験のメタ解析では心臓突然死を予防することが報告されていたが、最近のいくつかの臨床試験では必ずしも一致した見解が得られていない。内服により重篤かつ特異的な副作用(間質性肺炎、甲状腺機能低下症)がおこることが知られており、定期的な甲状腺機能、肺機能、血中KL-6、眼科受診などが必要である。

g)血管拡張薬

 アムロジピン 初期投与量 2.5mg/日、維持量 2.5~10mg/日

 カルシウム拮抗薬は一般に心不全を悪化させることが臨床試験の結果から知られている。非虚血性心不全においてアムロジピン、フェロジピンは少なくとも予後を悪化させないことが知られており、高血圧合併例には望ましい。

h)経口強心薬

 中等症から重症の心不全で、少量のカルシウムセンシタイザーを使用した場合に有効であったとの報告がある(EPOCH study)。

 ピモベンダン 初期投与量 1.25mg/日、維持量 2.5mg/日
 

薬物療法の留意事項

 腎機能障害合併例ではACE阻害薬とアンギオテンシン拮抗薬、抗アルドステロン薬の併用は血清カリウムの上昇を招くことがあり、注意が必要である。また、透析合併例では一部の透析膜(デキストラン硫酸セルロース、トリプトファン固定化ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートを使った吸着器、AN69膜)がACE阻害薬との併用でアナフィラキシー様ショックを惹起することが報告されており(原因については詳しくは解明されていない)、禁忌とされている。

② 非薬物療法


a)ペースメーカー

 洞不全や房室ブロックによる徐脈のため心不全となっているものは、一時的あるいは恒久的ペースメーカー植え込みにより症状が回復する。さらに近年では、標準的薬物治療に対して抵抗性(中等度または重症の心不全でNYHA クラスIII度ないしはIV度、QRS 幅が130msec 以上、左室駆出率が35% 以下でasynchronyが強い)の心不全患者に対し、両室ペーシング(心臓再同期療法)が行われることがある。

b)サウナ療法

 風呂の水圧は心臓に負担をかけるため、一般的に心疾患では入浴には注意が必要である。水圧のかからないサウナは、全身の血管が拡張して血管抵抗が下がり、心臓からの拍出量が増加する。具体的には60度で15分間過ごし、サウナ後は毛布で保温しつつ30分間横になってリラックスする。発汗で失われた水分は補給するが、医師の監視が必要である。

c)手術療法

 虚血が原因の心不全では、バイパス手術を含めた血行再建が有効である。拡張した左心室の一部を切除し容積を縮小し機能回復を図る左室容積縮小術が行われることがあり、臨床的効果の評価が行われているところである。また、僧帽弁閉鎖不全症はしばしば心不全治療を困難にするため、僧帽弁形成術が行われることもある。
 
最後に、以上のいずれにても心不全が治療困難な場合に残った手段として心臓移植がある。しかし、日本での実施数はまだまだ少なく、年齢制限や患者・家族の理解と協力、移植後の免疫抑制療法など適応には熟考が必要である。

③ 日常生活における管理


a) 体重:

 心不全の増悪によって短期間に体重が増加することがあり、重症化の判断に重要なので体重は毎日測定する。日の単位で体重が2kg増加するときは要注意。また、高齢者では下肢の浮腫に気づきにくいので、介護者によるモニタリングが有効である。

b) 入浴:

 入浴はかならずしも禁忌ではなく、温度41℃、半坐位入浴が望ましい。低温サウナ(60℃)も心不全治療に有効であるという報告がみられるが医師の監視が必要である。

c) アルコール、喫煙:

 原則禁忌。特にアルコール性心筋症ではアルコールの摂取は病態を著しく悪化させる。

d) 食事における塩分制限:

 食事における塩分制限は重要で、1日7g、重症例は1日5gにおさえる。軽症の心不全では水分制限は不要であるが、重症心不全では希釈性低Na血症をきたすことがあり、そのときは水分制限が必要である。

e) 旅行:

 飛行機旅行、高地、あるいは高温多湿な地域への旅行には注意を要する。NYHAⅢ度以上の重症心不全には、飛行機旅行は勧められない。

f) 社会活動:

 慢性心不全の予後は心理的状態でも大きく影響を受けることが知られている。患者が社会的に隔離されないように注意が必要である。活動能力に応じた仕事は続けるべきである。

g) ワクチン接種:

 インフルエンザ感染は病態を著しく悪化させることが懸念されるので、異常なアレルギー反応が起こらない限りワクチン接種が望ましい。

h) 運動:

 NYHAⅡ度までであればウォーキングやサイクリングなどの好気的な運動が望ましい。30分程度の運動を週3-5回行う。運動強度は危険な不整脈や心不全の増悪が起こらないことを確認した後に担当医に決めてもらう。

i) 性交渉:

 禁忌ではないが、マスター負荷試験でシングル程度の運動強度で過度の息切れ、疲労感なしに行うことが出来れば、可能と考える。

j) 避妊:

 NYHAⅡ度からⅣ度の慢性心不全を有する妊婦では死亡率、罹病率が高く、正常の妊娠・分娩は困難である。軽症の心不全でも、妊娠が生命予後を悪化させることを説明する。

予後

 海外の代表的コホート研究であるフラミンガム研究においては、心不全発症からの5年間の死亡率は1950-1969年では男性で70%, 女性で57%と非常に高率であった。これが1990-1999年になると男性で59%, 女性で45%と若干の改善を認めるもののやはりまだ高い。オルムシュタッド研究においても1991-1995年の5年生存率は男性58%, 女性52%であり、1996-2000年では男性50%, 女性46%であった。また7601名の慢性心不全患者を無作為に割り付けアンジオテンシン受容体拮抗薬(カンデサルタン)の効果を37.7ヶ月フォローしたCHARM overall(1999-2001年)においても、プラセボ群の1年間の死亡率は8.7%と高く、カンデサルタン投与群で6.3%と減少を認めるものの、なお高率である。このように、慢性心不全患者の予後は極めて不良である。

  一方、日本の臨床試験(EOCH研究2002, ARCH-J研究2003, MUCHA研究2004)では、1年間の死亡率は0.7-1.7%前後と欧米に比べ約1/5から1/10程度であり、欧米に比し極めて低い。ただしこれらのデータは平均年齢が60歳代前半であり、近年増えている高齢者の心不全が含まれておらず。我が国の現状を正確に反映しているとは言い難い。最近、慢性心不全で外来通院中の2685名の患者の予後を検討したJCARE-general研究が報告された (患者登録2004年)。この研究は、患者の平均年齢が74歳と高く、比較的日本の現状に即した調査と言えるが、結果は424~431日の観察期間で6.3%の患者が死亡し、そのうち36%が心疾患によるものであった。以上より、総じて日本の慢性心不全患者の予後は欧米よりもよいと考えられる。現在、日本においてb遮断薬の慢性心不全患者に対する長期予後効果を検討する大規模臨床試験(J-CHF:収縮不全を対象; J-DHF:拡張不全を対象)が進行中である。

最近の動向

 新しい薬物療法として期待されているのはバソプレッシンのV2受容体拮抗薬であるトルバプタンで現在第3相試験に入っている。また、カルシウム感受性増強薬レボシメンダン、neutral endopeptidase(NEP)阻害薬であるオマパトリラートなどもそれぞれ臨床試験が進んでいる。

 一方、再生医療としては現在欧米で臨床応用が進んでいるのが自己骨格筋芽細胞の移植である。不整脈を誘発する可能性があるなどの問題点も指摘されているが、心筋のリモデリング予防効果は認められるとの結果も出ている。我が国でも大阪大学で同様の治療が進行中である。心臓幹細胞についても研究が進行中だが、いまだ臨床応用までは至っていない。

 遺伝子治療については様々な遺伝子が介入の対象になっているが、欧米ではすでにAAVを用いて心筋筋小胞体のカルシウムポンプ(SERCA2a)を遺伝子導入する治療が(MYDICAR)が進行中である。未だに基礎実験の段階を出ないが、miRNAに対する介入も大きな期待が持たれている。

参考文献

1) 岡本 洋、「心不全」 薬局57 増刊号525-538, 2006

2) 慢性心不全治療ガイドライン(2005年度改訂版)循環器病の診断と治療に関するガイドライン 日本循環器学会合同研究班報告

3) Braunwald E:Heart Failure Braunwald’s Heart Disease:A Text book of Cardiovascular Medicine 7th ed, WB Sanders Company, Philadelphia, p457, 2005

4) Hunt SA et al, ACC/AHA Guideline Update for Diagnosis and Management of Chronic Heart Failure in the Adult. Circulation 112(12):e154-235, 2005

5) Levy D, Kenchaiah S, Larson MG, Benjamin EJ, Kupka MJ, Ho KK, Murabito JM, Vasan. RS.Long-term trends in the incidence of and survival with heart failure. N Engl J Med. 2002;347(18):1397-402.

6) Roger VL, Weston SA, Redfield MM, Hellermann-Homan JP, Killian J, Yawn BP, Jacobsen SJ. Trends in heart failure incidence and survival in a community-based population. JAMA. 2004;292(3):344-50.

7) Pfeffer MA, Swedberg K, Granger CB, Held P, McMurray JJ, Michelson EL, Olofsson B, Ostergren J, Yusuf S, Pocock S; CHARM Investigators and Committees. Effects of candesartan on mortality and morbidity in patients with chronic heart failure: the CHARM-Overall programme. Lancet. 2003;362(9386):759-66.

8) Tsutsui H, Tsuchihashi-Makaya M, Kinugawa S, Goto D, Takeshita A; JCARE-GENERAL Investigators. Characteristics and outcomes of patients with heart failure in general practices and hospitals. Circ J. 2007;71(4):449-54.

(MyMedより)推薦図書

1) 筒井裕之 編さん:心不全 (患者抄録で究める循環器病シリーズ 3),羊土社 2010

2) 水野杏一・安武正弘・平山悦之 編集:循環器内科学 (医学スーパーラーニングシリーズ),シュプリンガー・ジャパン株式会社 (2010

3) ジョン クレランド 著、John Cleland 原著、横松孝史・寺町朋子 翻訳:よくわかる心不全―お医者に行く前にまず読む本 (わが家のお医者さんシリーズ) ,一灯舎 2009
 

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